106 バトル・オブ・AKB 10
白魔法で時間に干渉する。
肉体を巻き戻すよりも高等だが未来を見るよりは不可能ではない。
だが、完全なる時間停止は無理だ。完全なる時間停止とはつまり『なにもなしていない』ということであり、その場所でなにをしようが、全ては『無為』となる。
だから行うのは停止ではなく、遅緩だ。
最大限に時間を遅く。だが思考は加速させる。
さて、どう対処するか?
眼前で膨張を開始した爆発は人間なんぞ影も残さずに消滅させるほどの熱量を帯びている。
こんなものを好き勝手に膨らませたら東京壊滅は必至だ。
それじゃあ生き残っても悪名を残すのみだ。
冗談じゃない。
謎の声は俺を殺したいようだが、俺に殺されるつもりはない。
そして殺される気がないなら、この爆発にはなかったことになってもらわなければな。
「とはいえ、普通の結界での封じ込めは無理だな」
だとすれば吸収……エネルギーを吸い取るしかないが、封月織羽の肉体でこの熱量を吸い切るのは無理だ。魔力に変換する前に燃え尽きてしまう。
そのときには逆に爆発が俺の魔力を吸い込んで被害はさらに膨れ上がることになる。
そういえば、『神体なき身の君』とか言っていたな?
神体とはつまりイングのことだろう。
俺の異世界の関係者か?
俺の召喚に関わった女神イブラエルとは声が違ったが……まっ、他に神がいないというわけもないか。地球にだって大量に神はいるみたいだしな。
こっちの神様にはまだ会ったことはないが。
とまれ、いまはこのふくれっ面の駄々っ子の相手をしないとな。
「俺一人じゃ無理なら、エネルギーを逃がす別の器がいるな」
うーん、なにかいい策はないものか。
「あっ」
そうか、これがあるか。
思いついて、俺はアイテムボックスからとあるものを出した。
そいつの名前は『太祖の血塊珠』
黄金のランダムボックスで手に入れたものだ。
吸血鬼の王の力を凝縮した珠だっけか?
まぁ、要は血の塊だ。
ならば、こいつを触媒にあいつを召喚させる。
前とは違う状態に。
より力強く。
「出でよ……魔王フェブリヤーナ」
俺のアイテムボックスの中にあった魔王の魂が太祖の血塊珠と連結する。
瞬間、血の塊は解けて大量の血液となり、一つの形を取り、そして受肉する。
ほどなくしてそこには白磁の裸体を晒した美少女が立っていた。
「むっ、質量が足りなかったか?」
俺が出会った時はナイスバディの美女だったんだけどな。
状況を理解した美少女は即座に遅緩した世界に自分を合わせた。
「……ここは?」
「よう久しぶり?」
「誰だ? いや……貴様……イングか?」
「そうそう。いまは封月織羽という名前だ」
「貴様に魂を縛られていたはずだが、まさか自我を解放させるとはな」
「とはいえ、もう敵対する理由はないと思うが?」
「……ふん。しょせん、妾の一族も矜持も、あの忌々しい魔神王に与えられた仮初のもの。たしかに、敵対する意味はもうないな」
「そうそう」
「とはいえ、魂の奴隷となさしめておいて、友好的になれるとでも思っているのか?」
「だめか?」
「だめじゃな」
「約束が違うぞ」
「あの約束はそなたが男だった時のものだ。イチモツもないそなたなどに魅力はない」
「そこはそれ、やってみなけりゃわからない」
「ふん。……それで、これはどういう状況だ?」
「手伝ってくれる気になったか?」
「ろくでもない状況だということぐらい、とっくにわかっておるわ」
そう言って、全裸の金髪美少女は紅い目を外に向けた。
「時間の遅緩した空間で、爆発中のエネルギー体か。自爆か?」
「そうそう」
「逃げればよかろう」
「あっちの異世界でなら、俺も嬉々としてそうしてたんだけどな」
「守るものがあるとそうはいかないか?」
「そういうこと」
「ふむ」
「そういうわけで、頼むよヤーナちゃん」
「なんじゃその呼び方は?」
「愛称。仲良くしようぜって意味で」
「……条件がある」
「なんだ?」
「妾を自由にせよ」
「了解」
「それから衣食住の世話もじゃ」
「オーケーオーケー。お任せあれ魔王様。こっちの世界で良ければいくらでも。ただ、法律があるからな?」
「ふん。そんなことを理解できぬほど愚かに見えるか?」
「見えませーん」
「ならばよい」
「では」
「やるか」
【吸気吸精・饕餮】
【エナジードレイン】
俺とフェブリヤーナが同時にエネルギー吸引の魔法を行う。
同じく吸収したエネルギーを即座に消費するために別の魔法も編む。
【不観鏡】
【リフレクトミラーズ】
反射魔法を展開させる。別に魔法だけを反射せるものではない。指向性のあるエネルギーの行く先を込めた魔力に応じて捻じ曲げるというものだ。
「どこへ向ける?」
「もちろん空だ」
爆発のエネルギーを奪い、そのエネルギーで膨張の向きを歪ませる。
じりじりと体が焼けていく。
吸引の熱に体が耐えきれていない。
時間流が変速した状態だと、白魔法での回復は不可能。かといって仙法での回復促進が間に合うわけもなく、俺はただ焼けていくしかない。
「そなた、焼けておるぞ」
「知ってる」
「くくく、そなたの焦っておる顔などそう見れるものではないな」
「人間らしくなったかい?」
「そうともいうかもしれんな。ほれ、気合を入れろ。もう少しじゃ」
「わかっているよ」
俺とフェブリヤーナの魔法は完成し、血を焼く巨大な爆発は空に放たれる光条へと変化し、秋葉原の空を駆けあがった。
そしてそれはアキバドルアーガの最後を報せる光ともなった。
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