105 バトル・オブ・AKB 09


 シヴァ、阿修羅、百手巨人……腕が多い神話上の生き物は多いが、それはやはり手数の多さがそのまま強さであるということがわかっているからだろう。

 仏像や彫刻の場合は一つの姿で様々な面や権能を現すための表現技法ということもあるかもしれないが。

 ともあれ、攻撃回数の増加というのは厄介だ。


「デカい速い手数が多い」


 無数の剣や槍が嵐のように間合いの内部で破壊を撒く。

 距離を取れば複数の矢が飛び、魔法の炎が雪崩のように呑み込もうとして来る。

【大食い紳士】と【大食い婦人】を召喚し、炎を呑み込ませる。

 無数の矢は【念動】で捕獲してそのまま叩き返す。


「まったく、楽しい相手だね」


 返した矢は奴の間合いに入るや破壊される。

【戦闘気功・覇龍】で強化した身体能力をひっさげて奴の間合いに飛び込む。

 前後左右から刃が襲って来る。少しでも触れたら切れる以前に衝撃波で粉みじんにされそうだ。

 そんな可能性で背骨を引き締めてさらに深く入り込む。

【合気・夜嬢公主】も乗せてバシアギガの【闘神の気鎧】の奪取にも挑戦中。いまのところ可能性は五分五分ってところか。


【神槍一閃】


 巨大な魔力の槍は出現と同時に結果を生み出すのだが、バシアギガも簡単な相手ではない。俺の魔力の起こりを察知して現象を予測し、出現前に霧散させた。


「やる」


 放散する魔力の光を踏み台にして、さらに深く入り込む。

 そして放つは拳の一打だ。


「ゴッ!」


 顎先に喰らったバシアギガが目をひん剥いて仰け反る。

 残念、倒れなかった。

 天空コロッセオと化したこの場で、観客席に当たる場所に手を付いたバシアギガにさらなる追い打ちをかける。


「おおらおらおらおらおらおらおらおら!」


 俺の連打を受けてもバシアギガは倒れる寸前で耐える。

 硬い!

 顎先は弱点じゃないのか。脳震盪を起こす様子もなく俺を睨む。

 その内、俺の腕の方に限界が来た。

 両腕同時にいい音をさせて骨が砕ける。

 即座に白魔法で回復させて休憩させていた村雨改の一閃を放とうとしたが、そのわずかな時間にバシアギガは体勢を立て直す。

 巨岩が飛んできたかのような頭突きを結界で受け止める。

 ボールみたいに景気よく吹き飛ばされて、俺は結界ごと地面にめり込んだ。


「はっ、やってくれるなっ!!」


 ちょっとカチンと来たぞ!


「織羽!」


 と、そこで霧からの声が飛んできた。


「だめよ」


 俺がやろうとしたことを視たんだろう。制止の意味がすぐに理解できた。

 危ない危ない。

 あっちと同じ結果になるところだった。

 落ち着け、あいつは魔神王ほどじゃない。

 だが、踏みつけは我慢できない。

 俺が地面から出てくる隙をついて立ち上がり、足の裏を近づけてくる。


「誰を足蹴にするつもりだ! ああ!?」


 村雨改の居合で放った斬撃が奴の足先を切り飛ばす。


「くせぇ足を押し付けようとしてんじゃねぇよ!!」


【昇仙・覇気・天活雷武・九天応元雷声普化天尊】


 雷気を纏って吠える。

 咆哮と共に放った雷光はバランスを崩したバシアギガの胸を貫き、今度は奴を転倒させた。

 観客席を背中で崩し、半ば以上が空中にはみ出す。


「おらっ、落ちろ!」


 追い打ちに雷を纏った貫手を振り下ろす。

 喉笛を突き潰されたバシアギガは苦鳴を上げることさえもできずにコロッセオから落ちる。

 内部で荒れ狂う雷撃のために体を満足に動かすこともできなくなったバシアギガに抵抗の術はなく、そのまま地面にまで落下することとなった。

 長い落下に付き合うつもりはない。いいところで貫手を外すつもりだった。


 そうはさせないよ。


「あん?」


 君はここで死ぬんだ。


 空間から染みるように耳に言葉が届く。

 その瞬間、雷撃に神経を弄られてなす術のなかったバシアギガが身を起こし、体を丸めた。


 ゴガガガギガゴゴゴゴゴ!!


 骨の砕ける音でさえも地鳴りのようだ。

 そしてその音でわかるように、この動きに巨人の意思は介在していない。関節の限界を無視して巨人は俺を巻き込んで丸まり、ただの肉塊になろうとしている。

 咄嗟に張った結界の向こうではまだ粉砕骨折楽団の不愉快な演奏が続いている。


 さようなら。

 神体なき身の君ではこれになす術はないよ。


 演出だ。

 その言葉と共に砕けて刃と化した肋骨が胸を裂き、心臓を押し出す。

 その心臓はなぜか高重層魔法陣によって構成されていて、いま、バシアギガを構成する全因子を魔力へと収束させ、超高密度に圧縮し、超膨大なる熱量へと変化した。

 つまりどうなったかというと……すげぇ爆発が起きた。


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