104 バトル・オブ・AKB 08


 アキバドルアーガに入っておよそ二日。

 俺たちは八十階に到達した。

 より正確に言えば七十九階をクリアして、八十階へと至る扉の前にいる。


「なぁ、これボス部屋だと思う?」


 一際豪華な扉を前にして、亮平に尋ねる。


「ここまで思わせぶりにして違ったら、このダンジョンの造り主は相当おちゃめな性格だね」

「ラスボスならいいんだけどな」

「そうだね。さすがに、そろそろ強行軍にも限界が来てる」


 と、亮平が視線を向ける先にはクラン員がいる。

 休憩を言い渡しているが、戦闘員は全員が座り込んでいる。後方支援の連中が疲労回復の魔法やアイテムを配っているが、回復は微妙だろう。

 平気な顔して立っているのは俺と亮平、それから霧だけだ。

 うん、霧もかなり丈夫になったな。


「肉体よりも精神の疲労が大きいね。織羽ちゃん、解決策ある?」

「あるが……後遺症が出ても困るからやめとこ」

「後遺症?」

「元気が出るお注射~」

「それはまずい。本当に持ってるの?」

「異世界版だからこっちの法律には引っかからないさ」

「……とはいえ、このままだと近い将来に異世界産の薬も法律で分けられるね」

「まっ、それは仕方ないんじゃね? 問題とすべきはもっと別の所だと思うが……」


 それについてはいま考えても仕方がない。


「それより、この後どうするか、だろ?」

「ラスボスなら問題ないんだけどね」

「だな」


 霧を見ても彼女は沈黙を保っている。

 見えているのか、見えていてあえて黙っているのか。

 俺がネタバレを求めていないのがわかるんだろうな。


「俺一人でクリアしていいんならこのまま突き進むんだが、それだとクランのイベントにならないし……」


 とはいえ少々の休憩ではこいつらの精神的疲労は癒えないだろう。


「強行軍はね、一度緊張が切れると立ち直りが難しいんだ。ここがラスボスじゃないなら撤退も視野に入れとかないと」

「……とはいえ、それで他にクリアの栄誉を奪われるのは業腹だな」


 なんて考えて全滅したのがナムコス、か。

 俺はまだ大丈夫だが、クラン員の被害が甚大になる可能性はある。

 さてさて?


「うーーーーん…………よし!」


 決めた。


「六時間の休憩。がっつり休んでこの扉を抜ける。ボス戦ならみんなで頑張る。さらに先がありそうなら……」

「ありそうなら?」

「俺だけで行く」

「おいおい……」

「イベントも大事だが、最優先は今回の事態を収束させることだ。美味しいところを他に取られるわけにもいかないだろ?」

「まぁ、そうだね」

「クラン員の引率は亮平の方が得意なんだから、任せる」

「ふぅ……仕方ないか」

「そういうことだ」

「任された」

「霧は……」

「私はついていくわよ」

「了解」


 そんなわけで、六時間がっつり休憩した。

 休憩時のガードは俺の軍団に任せたので全員で仲良く休憩だ。

 ビューティースライムベッドを出して濃密な睡眠をお約束。他の連中にも提供しようとしたが断られた。

 なぜだ?

 さすがにこの場でパンツ一丁にはならなかったが、疲労と美容に効果があるっていうのに。

 四時間で睡眠をやめて食事。

 ここに来る前に大量に買い込んだジャンクフードをアイテムボックスから放出して全員に提供。

 腹ごなしに軽く運動して準備は万端。


「さて、行くか?」


 ここまで来て否やと叫ぶ奴はいない。

 取り戻した活力を振り絞って覚悟を決めて扉を開く。


「まっ、ここで肩透かしはしないか」


 扉の向こうには広大な空間があった。

 その空間に満ちる、騎士、ワイト魔法使い、地竜に飛竜……このダンジョンに出現した全てのモンスターが隊伍を組んで待ち構えている。

 そして……


「あいつがボスだな」


 一番奥にある巨大な玉座に座す巨人。

 緑色の肌に黄金の鎧をまとう巨人だ。塔のような王冠が巨体をさらに高くしている。


『バシアギガ』

 #####世界の巨人の王。暴虐と知を極めた神理へ至る最後の番人。


 神理と来たか。


「亮平、雑魚は任せた」

「勝てるのかい?」

「まっ、なんとかなるんじゃないかな?」


 一味も二味も違う気配を放つ巨人の王に亮平さえも体を固くしている。


「霧も亮平たちのサポを頼む。気を付けるが、被害がどう飛ぶか読み切れないかもしれないからな」

「わかったわ」

「なら、行こうか」


 村雨改を軽く叩いて鼓舞し、俺は前に出る。


【紫電乱槍】


 魔法剣技を放つ。

 雷交じりの無数の突きがこちらに向かってきたモンスター軍の中央を切り裂いて直進する。

 軌道は途中で跳ねて、玉座に座したままの巨人の王の顔を狙う。


「っ!」


 バシアギガは表情を険しくさせて、手にした剣でそれらを払った。

 その時には、俺は奴の鼻先。


「は~い。死ね」


 あいさつ代わりの首狩りの一閃は、残念ながら通じなかった。

 村雨改から放たれた氷炎の嵐は玉座しか破壊できなかった。

 本体は?

 上だ。


「デカいわりに速いな」


 山が崩れたかのような振り下ろしの一撃を宙を滑って躱す。


「カァ!」


 バシアギガが叫ぶ。

 それに呼応するかのように、空間を覆っていた壁と屋根が吹き飛んだ。

 現れたのは本物の空気、空、雲。

 地上の光景だ。


『み、皆さま、御覧になられているでしょうか! ただいまアキバドルアーガと呼ばれていた塔の頂上が爆発し、内部が露わになりました!!』


 鋭くした聴覚がヘリの騒音に混じるアナウンサーの声を拾う。


「うわーお、全国デビューだ」


『塔の頂上はまるで古代コロッセオのような状態です! その中にはなんと巨人! そしてモンスター!! 立ち向かっているのは情報にあった異世界帰還者のグループでしょうか⁉』


「派手なのがお好みかい?」


 自分の力をこの世界の人間に知らしめようってか?

 俺の問いに巨人の王はにやりと笑った。

 その体には黄金の気がまとわれる。

 それは複数の腕を生やしているかのようだ。

 そして、実際にその通りだと言わんばかりに、複数の杖や剣、槍をその手に構える。

【念動】……とはちょっと違うか。


『闘神の気鎧』

 荒ぶる神へと至る気功の極致。


 ふうん。

 攻撃回数増加ってことだな。


「そうかい? それなら知らしめてやろうか」


 俺もまた答えてやる。


「お前の前に誰がいるのかをな」


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