103 バトル・オブ・AKB 07 クラン員視点


 最初にアキバドルアーガで遭遇した時にはなんだこいつとしか思わなかった。

 刀を振り回している戦闘狂。

 強いのは確かだけど、亮平さんには及ばない。

 なぜなら、あいつの居合抜きを亮平さんは簡単にかわしていたから。

 クラン員である高任巻次にはそうとしか見えなかった。

 骨の竜は一緒にいた白人女が召喚したのだろうと。

 瑞原霧のことも知っている。

 非戦闘員である占い師を戦場に連れてくるふざけた奴……巻次の印象はそれだった。

 巻次はあくまでも同じ異世界で戦い、圧倒的実力を見せてくれた亮平を支持してこのクランに参加することを決めていた。

 他の連中だってみんなそうだ。

 姿を見せないマスターのことなんてお飾りの出資者ぐらいにしか思っていなかったはずだ。


 だけど、これはどういうことだ?

 包囲網が瓦解しようとしていたその時に空から鋼鉄の竜と一緒に落ちて来た。

 空を飛び回っている騎士みたいなのを支配している?

 鋼鉄の竜は他にもいる?

 それだけですでに既存の召喚士クラスの範疇を数も質も超えている。

 そして戦場全体に結界を張っている?

 クラン員全員を転移で運ぶ?

 巻次の常識が仕事をしてくれない。

 さらに今度は戦場だ。


「じゃっ、俺たちが一番手な」


 そう言って瑞原霧と一緒に先頭に立つ。

 他のメンバーを補助に付けようかという亮平の助言を断った上でだ。

 瑞原霧も嫌がる様子を見せない。

 異世界での彼女を知っている巻次からしたら信じられないことだった。

 そして、その次に見た光景も信じられない。

 マスター……封月織羽がべらぼうに強いのはまぁいい。

 いや、よくないかもしれないけど、まぁいい。常識外れに強いのはいいことだ。

 だが、もう一つの意外が巻次には衝撃だった。


「…………」


 瑞原霧は静かに立っている。

 静かに立ち、迫って来るモンスターを見ているだけなのに次々と燃えたり切り裂かれたりしている。

 彼女自身はただ立っているだけだ。


「え? どういうことだ?」


 隣にいる同じパーティの魔法使いが唸った。

 こいつも巻次と同じ異世界経験者だ。


「なんだ?」

「いま、二人を【鑑定】したんだが、マスターは弾かれた」

「え?」

「まぁ、それは想定内なんだけど、瑞原さんだ」

「どうだった?」

「魔眼導師レベル150って出た」

「はぁ⁉」


 その内容に驚いたのは巻次だけではない。

 周りで聞き耳を立てていた全員が驚いた。


「は? おかしいだろ? 彼女は占い師だろ? 非戦闘職のはずだぞ」


 魔眼導師は知っている。

 特殊能力を持つ『魔眼』で様々なことを行う特殊職だ。

 しかもレベル150?

 100を超えたら英雄級と呼ばれていたんだぞ。

 なのに150?

 なにがどうなってるんだ?

 なにがどうしたらそんなことになるんだ?


「わけがわからねぇ」


 こちらに戻ってから割と積極的にダンジョンに潜って来た巻次だがレベルアップの速度は異世界にいた時よりも遅くなっている。

 それは巻次だけじゃなく、他の異世界帰還者も同じようだ。

 なのにどうして雑魚兵士たちと同じ20台くらいだった占い師が魔眼導師レベル150になんて化けるんだ?


「知りたい?」


 亮平たちと交代して戻って来た霧がそんなことを言う。

 どうも聞かれていたようだ。


「お、おう」

「マスターにお願いして鍛えてもらえたら、上がるかもね」

「なっ⁉」

「俺の特訓は地獄だぞ~」

「あら? そうだったかしら?」

「霧はうまくいった方だけどな。うまくいかないとけっこうしんどいらしいぞ、あれ。手応えがないからな」

「ああ……なるほど」

「特訓? ダンジョンを攻略していたんじゃないか?」

「ダンジョン? ああ……」


 巻次の質問に霧は淡く笑った。

 冷たいその笑い方がゾクっとしてなにか危ないものが目覚めそうになった。


「そんなものは仕上げでしかないわね」

「そ、そうなのか」

「そんなことより、十秒後にそこの角からモンスターが来るわ。あなたたちの出番よ」

「なにっ⁉」

「うあ、ほんとに来た!」

「ほれほれ、気張れよ」

「おおっ!」


 マスターに声をかけられ、俺たちは迫って来るモンスターに対応する。

 もっと強くなれるのかもしれないのか。

 なんか、このクランに入ってよかったかも。


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