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「さて、では僕の目的を話そうか……と言いたいのだけど」


 トレーニング後の合流を約束して昼食はホーリーの部屋で食べることになった。

 で、招待されて向かったわけだけれど。

 なぜかホーリーの表情が硬い。

 まぁ、理由はわかる。

 俺の後ろに霧とエロ爺、それから護衛の鷹島がいるからだ。

 廊下ではアーロンとブーメランが静かに睨み合っている。


「どうしてミスター・封月までいらっしゃるのかな?」

「ほっほっ、心配せんでも自分の分は別で注文しておるよ」

「昼食代を心配するほどケチではありませんよ。そうではなく、招待しておりませんが? と言いたいのですよ」

「ははは、ミスター・ギルバーランド……可愛い孫娘とアメリカ男を二人きりにするほど、儂は愚かではないよ?」

「……あなたの孫娘さんが僕にどうこうできるような弱いお嬢さんですか? それに僕だって同伴者がいるんですから」


 言葉通りホーリーの後ろには秘書めいた金髪美人が立っている。


「儂の孫娘の可愛さの前ではそんな女……」

「はい爺さんストップ」

「むう」


 勝手に喧嘩を投げ売りしないでもらいたい。美人秘書の冷たい目が怖いから。ゾクゾクするから。


「まっ、話次第では爺さんも味方に付くと考えたら、美味しい交渉の席なんじゃないの?」

「……しかたがない」


 渋々という感じの爺さんを座らせ昼食兼打ち合わせが始まる。

 爺さんたちは松花堂弁当でホーリーたちはサンドイッチ。

 そして俺には極厚ステーキ。

 俺の食事を見ていたホーリーは好みを把握しているようだった。

 偉いぞよ。


「さて、では僕の狙いをお教えしましょうか」

「そんなにもったいぶることでもなかろうよ」


 やさぐれたエロ爺がそんなことを言う。


「おや、ミスター・封月はおわかりでしたか?」

「なんだよ、爺さんわかってたら教えろよな」

「儂に喋る機会を与えんまま別に話題に移っておったろうが」

「そうだっけ?」

「そうじゃ?」


 だとしたら変にもったいぶるから話す機会を逸しただけではなかろうか?


「では、ご老体の推理をお聞かせいただこうか?」

「ふふん」


 この二人、妙に敵対心バリバリで鬱陶しい。


「黄金のランダムボックス。じゃろ?」

「む……」

「ふひひひひ、当たりじゃ」


 黄金のランダムボックス?

 確かにそんなものがあったな。

 なんだったか……名前の通り箱だった。小さな宝箱だ。

 説明は……。


「確率で中身が変わるんだったか?」

「そうじゃ」

「そんなもんがなんでいるんだ?」


 興味もわかなかったからたいしても調べてもいなかったな。

 ガチャはソシャゲだけで十分です。

 黄金のランダムボックスについては美人秘書のペギーが説明してくれた。

 青水晶と同じぐらいにダンジョンを問わずに出てくるドロップアイテムなのだが、そのドロップ率はかなりの低確率なのでこうしてクラウン・オブ・マレッサのオークションに登場することになる。

 ただ、ダンジョンに挑戦する世界中の異世界帰還者に手に入れる機会があるので、ここで出品される頻度はそれなりに高い。

 そして中身が安定しないことから落札価格はだいたい五千万円~一億円の間で決まるのが定番なのだそうだ。

 それぐらいで値段が決まるということは、ハズレが出てきたときの売値がそれぐらいだっていうことだよな。

 ある程度成功しているダンジョン挑戦者なら自分で開けてしまいそうだな。


「僕だって普段なら運任せなことはしたくない。でも、今回はその中身が必要なんだ」

「中身?」

「ああ……黄金のランダムボックスの中身はいま現在、かなり解明されてきている」


 ハズレとされているのが異世界宝石の詰め合わせ。これがだいたい二千~五千万円分。断じてハズレではないとLなら力説しそうだな。

 その他は特殊能力のある装飾品や武器や防具などが羅列される。

 その性能はどれもが一億越えの逸品だ。

 この辺が当たり。

 で、大当たりになると五億円から上の品が出てくる。

 いままでで最高は百三十億円だったそうだ。


「で、ホーリーが欲しいのは?」

「聖者セットだ」


 難しい顔でホーリーが言う。

 へぇ、セットか。

 つまり、俺が持ってる赤の籠手みたいに揃えで装備すると特殊効果が発生するタイプってことか。


「セットねぇ」


 セット装備の効果はわからないが、手に入れるのがすげぇ面倒そうなのは理解できた。

 だって、くじそのものがレアだってことだろ。ソシャゲのガチャみたいに「出るまで回せば百パーセントだ!」みたいなことをやるにはどれだけの時間とお金がいるのやら。


「異世界帰還者になってまでガチャに狂うか」

「その言い方はやめてくれないかな。それにスマホゲームのガチャに狂っているのは日本人だけだよ」

「いま、俺の目の前にそいつらが束になっても叶わないぐらいに課金してる奴がいるけどな」


 ガチャ一回で最低五千万。十連したら五億だぞ?

 換金できるだけマシとは言え溶けていく金額は一発で破産者続出レベルだぞ。


「セットってことはいくつあるんだ?」

「五つだ。法冠、法衣、杖、指輪、靴」

「難易度高いなぁ」

「大丈夫だ。これでも四つはすでに手に入れてある。後は杖だけなんだ」

「へぇ、そりゃ運がいい」

「集め始めてから五年経っているけどね」

「…………」


 うわぁ、気が長いな。


「儂らの滞在中に出品される黄金のランダムボックスは五つか。全部手に入れるのは難しくなかろうが、一人でかき集めていると嫌がらせで吊り上げをする者もいるじゃろうな」

「そうですね」

「ふうむ」


 エロ爺は顎を撫でてしばらく考えるとにやりと笑った。

 なにかまとまったらしい。


「では、儂らも落札を手伝おう。で、じゃ……」


 と、エロ爺とホーリーの間で交渉が始まった。

 ……で、どういう内容になったかというと。


・黄金のランダムボックスの落札資金はそれぞれで持つ。

・ランダムボックスを開けるのは落札者。

・中身の所有権は落札者。

・目的の物が出た時にはホーリーが優先交渉権を持つ。


 ということになった。

 まっ、普通かな。

 今回の黄金のランダムボックスを全部手に入れても目的の物が手に入るかどうかはわからない。

 だが、確率を上げるためには出品されている五つ全てを手に入れておくしかない。


「ねぇ……」


 そんな感じで話し合いが終わって部屋を出たところでずっと黙っていた霧が声をかけて来た。


「もしかしたら、なんとかなるかもしれないわよ」



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