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「なんとかなるって?」
霧がそう言うってことは黄金のランダムボックスのことだろう。
そして彼女がそう言うってことはもちろん占い師の能力に関係すると見た。
「そうなんだけどね」
と俺の推測に霧が苦笑する。
「となると、手に入るってことか?」
「そう……なんだけど」
「なんだけど?」
「確定している感じではないのよ。まだまだ分岐があるみたいで」
「ふうん」
「……やり方があるみたいなんだけどもうちょっと何かが足りないのよ」
「なら、やることは決まったな」
「なに?」
「レベル上げだ!」
安易な考えかもしれないが、そもそも霧たち異世界帰還者は謎システムで成長を補助されている。
なら、いまできないことはレベルを上げればできるようになると考えて間違いない。
あらゆる問題はレベルを上げて何とかしろってな。
「でも、ダンジョンってどこにあるの?」
「ふふふ。俺が霧たちにをダンジョンに行かせた時に見せたのがなにか、忘れたか?」
「え? ああ……もしかして転移?」
「そう」
「この距離でも問題ないの?」
「問題なし」
一度行ったことがある場所なら地球上なら問題なく転移できる。
「でも、どこのダンジョンに行くの?」
「レベルを上げるなら強いところがいいよな。で、俺たちは特に探す必要もなく強いのがいそうなダンジョンを知っている」
などとドヤってみたのだが霧はよくわかっていないようだ。
「まっ、いけばわかるさ。というわけで爺さん、ちょっと出てくる」
「むっ、ちゃんと帰って来られるのかの?」
話を聞いていたエロ爺はそのことだけが心配なようだ。
「オークションがある夕食までには帰って来るよ」
「わかった」
というわけで一度自室に戻って部屋に魔道具のポータルストーンを置いておく。船は移動しているからな。記憶だけで飛ぼうとしたら違う座標ってこともありえる。
そういう危険を排除するための魔道具がこのポータルストーンだ。
「じゃっ、行くぞ」
「ねぇ、どこに行くの?」
「東京だ」
そんなわけで転移。
透明化の魔法をかけて行ったから誰にも注目はされていない。
転移した先は東京にある冒険者ギルドの前だ。
前にエロ爺に連れられてここのレストランでワイバーンのぼんじり食べたな。
だが、今回はこのビルに用はない。
「さ、次は目指せ秋葉原だ」
そう言って、俺はその場でタクシーを拾った。
日本で現在最難関のダンジョンだと言われているのは秋葉原にあるアキバドルアーガだと聞いた。
冒険者ギルドアプリでアキバドルアーガの場所はすぐに分かった。タクシーの運転手に住所を告げて辿り着いた先は駅前から少し離れたところにあるビルだった。
特に解体工事の遮音布とかで偽装はしていない。
中に入ろうとする入り口を守る警備員にアプリの提示を求められ、それを済ますと受付に行くように指示された。
「では右手にある通路を進んでください。途中に更衣室がありますので準備はそちらでお願いします」
受付のお姉さんの説明を受けて更衣室で着替える。ダンジハール宮殿舞台のときと同じ格好だ。装備の新調はしてなかったから仕方がない。
その代わり、腰には村雨改を差しておく。
「お前の初陣も兼ねてみようか」
(最善を尽くします)
案内に従って進むとお決まりのダンジョン入り口……ゲートがある。他の異世界帰還者たちに並んでゲートをくぐると広い空間に出る。
岩壁に囲まれた逃げ場のない空間……その中央には周囲を圧する巨大な塔が存在している。
これが現在、日本で確認されている最難関のダンジョン、アキバドルアーガだ。
さて、少し前にアキバドルアーガのことは調べておいた。
現在判明している階層は四十五階まで。その名前の大本となった往年の名作ゲームのような謎解きの要素はなく、広大な迷路と行く手を阻むモンスターによって構成されている。
モンスターは最初の階層から強く、そしてドロップ品として出現したり定期的に迷路の各地に配置される宝箱は罠の頻度は高いが、当たれば高値で売却が可能な物が手に入ることが多いのでダンジョンに挑戦するような層の異世界帰還者たちには目指すべき場所となっているのだそうだ。
「最初から強いって話だが、レベルを上げるならこんなところじゃダメだろうな」
というわけで、さっさと上がれるだけ上がってしまおう。
「ヘイ、カモン」
そんな感じで召喚されたものが塔のロビーに出現して周囲がざわめく。
「……もしかして、これに乗っていくの」
「イエス」
「……一応聞くけど、これはなに?」
「戦車かな」
ヒュドラの骨をメインで組み上げた戦車だ。
その名も【魔骨戦車】
ヒュドラを使っているからもちろん多頭で、近づいてきた敵を噛み砕いたり、遠くの敵にはブレスを放ったりする。
骨には最近話題にした混合魔銀ミスリルアマルガムでコーティングして色々細工しているから、ドラゴンゾンビ系統特有の腐食ブレスだけじゃなくレーザーブレスだって吐ける。
そして背中にはちゃんと搭乗席もあるのだ。
「さあ、どうぞお姫様」
「ゴールがどこにあるのかわかってるの?」
「大丈夫、右手法を使えば最終的にはゴールするから」
引っかけがあったりするかもしれないけど、そのときにはまた別の方法もあるし。
「というわけでゴー」
キシャアア!
【魔骨戦車】は甲高い吠え声をあげて進み始めた。
襲いかかってくるモンスターは各種スライム、ナイトドールという名前の騎士型ゴーレム、ウィザードワイトというアンデッド系がほとんどだ。
階層がある程度上がると、それらのバージョンアップ版が襲いかかってくる。
とはいえ、いまのところ敵ではない。
ダンジョン攻略から二時間……俺たちは十階層に到達した。
ほぼ【魔骨戦車】任せである。
ヒュドラの首は九つあり、唯一の死角である腹の下以外はカバーできている。
たまに集団が近づいてきたときに霧のもう一つのクラス、魔眼導師の力である魔眼で攻撃している。
その程度だ。
敵が落とした青水晶やドロップ品、宝箱は全部アイテムボックスに収納している。チェックはまた後だ。
「ねぇ、一つ言っていい?」
「うん、どした?」
「すごい勢いでレベルが上がってるんだけど」
「マジか?」
「ええ」
「ふはっ!」
なんだそれ。笑える。
「ええ……ほとんど戦っていないのに、どうして!?」
「ああ、なんとなく予想は付く」
「どういうこと!?」
「霧たちが手に入れている経験値がなにかって話さ」
俺とは違う異世界から戻った者たちには謎のレベルシステムとそれを支援する『####支援システム』というものがある。
これは戦闘を繰り返すことでレベルアップするというシステムなのだが、どの程度の戦闘をすればいいのかという指標は目に見える場所には存在しない。
だが、存在するはずなので暫定的に経験値としておく。RPGの基本だよな。
で、その経験値とはなんなのか?
それは彼らの戦いを観察していればすぐに分かる。
魔力だ。
倒した相手から魔力を奪い、それがある程度蓄積するとレベルアップするのだが、そのとき、蓄積されていた魔力が『####支援システム』によって能力増強に使用されているのだ。
普通の異世界帰還者ならば外部魔力を取得する方法は敵を倒したとき以外にはほとんどないのだが、霧は違う。
【瞑想】によって意識的に外部の魔力を取得している。
そのほとんどは俺の魔力みたいだが、それは関係ない。
要は自分以外の魔力を手に入れればいいのだ。
ただ、【瞑想】だけでレベルアップをしなかったのは、そのトリガーが戦闘による奪取となっているからかもしれない。
「ていうわけで、いままでの努力が実っているだけだから気にするな」
「そうかもしれないけど……この急激な感覚の変化は気持ち悪いわ」
「強くなってるんだから我慢我慢、だな」
「うう」
そんなわけで夕食時まで【魔骨戦車】に乗ったままひたすらダンジョンを突き進んだのだった。
出番のなかった村雨改が拗ねてしまったが、後日に期待だ。
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