65
さて俺たちは再び部屋に戻った。
いまさらだが籠城戦だよな、これは。
「次はどうしようかな?」
「なんでそんなに楽しそうなんだか。わからねぇ」
「人生は楽しまなきゃ損だぞ」
うじうじと悩む自分に捕まるぐらいなら全力でキャッキャッするべきだよな。
言いつつ、俺は空中にいくつものモニターを展開する。魔法で作ったホロモニターだな。
「これは?」
「外に放った目の配置が終わったからな。監視カメラ的な奴」
「そんなことができるのか?」
「おうさ。迎撃システムも作ったぞ」
「え?」
もちろん、目というのはいつものアイズキャリオンスライムたちだ。
そして、迎撃システムというのは。
「ほれ、これが敵だな」
目はホテルを包囲している車を捕らえている。
その周りでうごうごしているのが敵だな。全員が突入前のSWATみたいに装備を固めている。
「よし、こっからはステルスキルなゲームにしよう。崇、ガイルはどれだ?」
「ええと……こいつだ」
モニターを見回した崇が一人を指さす。前に【鑑定】した奴と同じのを指したな。
小太りだが目つきが鋭い。南米の独裁者とか麻薬王とかにいそうだな(偏見)
「なら、そいつは後回しで……隣のこいつを」
と、モニターでそいつをクリックする。
ほぼ同時だ。
無音でそいつの胸に穴が開き、膝から崩れ落ちる。
モニターの向こうで連中が慌てだす。
「あっはっはっは……慌てとる慌てとる」
体を低くして周辺を探っている。
そんな簡単にみつかるものか。
「……なにをしたんですか?」
「無人兵器みたいなものを設置して狙撃したのさ」
ざっくりとそう説明する。
「向こうにもう攻撃手段がないならこっからは一方的だな」
とりあえず逃走手段を潰すために車を破壊。
さて、追い詰められた鼠はどう動くかな?
†††††
正体不明の攻撃を受けた。
「ええい! どこからだ!?」
ガイルの叫びに答えられる者はいない。
誰にもわからないのだ。
最初に攻撃受けた者の方角を見ても何もなく、そちらに集中していると別の方向から攻撃を受けた。
しかしそちらを見てもなにもない。
いや、ここは街中だ。なにもないわけではない。
だが、全周囲に兵を配置する余裕などどこにあった?
そして、そんなことができるなら、どうして最初の奇襲を受け止めた?
ならば答えは異世界帰還者の特殊能力しかない。
「あのガキめ!」
通信機越しに聞こえてきたのは日本人の少女だった。傲慢な物言いだったがガイルが聞き間違えるはずもない。
彼は日本に来ると小遣いを求める迂闊な女子高生を買っては痛めつけることを楽しみにしていた。
どうしてそうなるのかは自分でもわからない。だが、自身の加虐性が発揮されるのは女性でも少女でも高校生でもなく、日本の女子高生だけだった。
異世界へと招かれたのも女子高生を買っていた時だった。
どことも知れない森の中に現れた時、ガイルは少女を犯しながらその首を絞めていた。
いつもなら最後まではしない。
だが、自分が別の場所にいるという混乱の前に、ガイルはここなら最後までできるという確信を得て、それを行った。裏社会を生きて来た彼は本能的に殺せる場所と殺せない場所を判断できた。
だから殺した。日本は人を殺すと片づけるのが面倒だ。だからなかなかできなくて鬱憤が溜まっていたが、それでも定期的に日本人少女の首を絞めたくなって日本に来る。
絶頂に腰を震わせながら少女の命を領の手で握り潰す。
その瞬間から、ガイルにとって異世界は最高の場所となった。
あのガキにもも同じことをしてやる。
そうでなくてはこの怒りが収まるものか!
「ここにいてもホテルに突入して連中を確保するぞ」
「しかし」
ガイルの決定に部下たちは難色を示す。
「それ以外に道はあるか?」
「…………」
「作戦はある。他の階にいる一般人を人質にするぞ。連中はしょせん平和ボケした日本人だ。人質は効く」
「わかりました」
彼らはしょせん、裏社会の人間に使われる者たちだ。人質作戦が卑怯だという考えは誰も持ち合わせていなかった。
「行くぞ! 日本人に俺たちの恐ろしさを思い知らせてやれ!」
ガイルは荒事に慣れているという優位性を利用して異世界でリーダーとなり、覇王というクラスを得た。そのクラスの特徴は攻勢にあるときの味方に対するカリスマ性と能力補助だ。
ゆえにいまのような防御一辺倒にあるときは弱い。
この状況を打破するためにも、なんとしてもこちら側が攻めている状況にしなければならない。
だからこそ、ホテル突撃という選択を採った。
自ら採ったつもりだ。
だが、実際のところ、ガイルには突撃以外の選択肢はなかった。逃走のための車を先んじて潰されたのだ。ここにいる間は異世界帰還者が張った認識阻害系の結界があるので問題ないが逃げようとすれば完全武装の自分たちを隠すことはできない。
彼らはホテルを占拠して敵が持っている車を奪うか五井華崇を確保して彼のアイテムボックスに装備を全て収容させる以外に道はなかった。
そうするしかできないように、封月織羽によって意図的に追い詰められた。
こうして彼らは死地へと向かう。
ホテルへの突入はあっさりと成功した。ロビーにはホテルマンはおらず、彼らはそのまま非常階段から駆け上がり、手近な客室へと飛び込んだ。
「この階の連中を全員確保しろ」
交渉に使う人間は一人でも多ければいい。使い潰せる駒が増える。
「動くな!」
自身も兵を率い、一つの部屋へ押し入る。
だが、それこそが罠であったのだと気付くのはすぐだ。
部屋へと飛び込んだガイルたちは閃光をその身に浴びた。
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