17
連中の計画はこうだ。
所有している黒のミニバンで移動中の俺を掻っ攫い、そのまま連中が悪いことをする用に所有している廃墟に連れ込む。
そして後は好き放題。犯して殴って犯して殴ってエロ漫画みたいな落書きして煙草で焼き印付けてそれからまた犯して……以下死ぬまでエンドレス。
死んだ後はその廃墟に埋めて知らんぷり。
すでに何回か同じことをやっているようだ。
霧たちの話から異世界でも同じことを繰り返していたようだし、こっちに戻ってきてそれを繰り返すことにも抵抗はないようだ。
……あっちで手に入れた力がそのまま残ってるってわかれば、それはやるだろうな。
で、なんでそんなことを俺がわかっているって?
あんな危なそうな奴を煽っておいてそのまま無視なんてするわけないだろ。怒りで顔が真っ赤になっている間に死角から超ミニなキャリオンスライムを放って引っ付けさせといたんだよ。
というわけで、我慢のできない彼らは今夜にも仕掛けてくるというのでこちらも罠を用意しておくことにする。
代行運転を頼んだアヤを見送ると、バイクで帰る公英とも別れて俺と霧はアプリで呼んだタクシーに乗り込んだ。
例のミニバンがタクシーを尾行していることを確認して、俺が先にテキトーな場所で降りる。
村上辰はすでに連中の遊び場に移動しているが、寄生させていた超ミニ・キャリオンスライムはあの場にいた全員に拡散済みなので行動を把握できている。
ミニバンがタクシーの方を追った場合のことも考えていたが、その心配はいらなかった。
タクシーが見えなくなったところで急発進して真横に止めたかと思うとすでに開けていた後部座席の男が俺を車へと引きずり込む。
即座に口を押えられたため叫ぶこともできないまま、俺は車に乗せられ連れ去られてしまう。
まっ、計画通り。
「へへ……やっべ、美人じゃん」
「JK来た!」
「なんだよ貧乳かよ」
「なんで、貧乳は至高だろ!?」
そんなアホなやり取りをしているが、もちろん好きに触られるなんて気持ち悪い状況を耐える理由もない。
いま、そいつらが攫ったと思い込んでいるのはスケルトンとキャリオンスライムで作った影武者だ。タクシーを降りた後で幻影魔法を利用してすり替わったのだ。
本物の俺はこの間のライダースーツと骸骨ヘルメット姿でミニバンの屋根の上にいる。
本当は骸骨バイクで後ろを追いかけたかったんだがさすがに高速移動する物を隠蔽し続けるのは難しいからな。
着替えたのはいつだよって話だが、それは白魔法と召喚魔法の空間操作系技術による応用で開発した【一括装備】の魔法だ。
「さて、どうするかな~?」
この後はどうやって弄んでやろうか?
どうやらあいつらは車の中では俺をどうこうする気はないようで、後ろ手に結束バンドをしてからは逃げないように監視だけをしている。
「う~ん」
しかし……ついこの前、いじめっ子どもに連れていかれてエロ動画撮られそうになったばかりだというのに今度は連れ去られて輪姦されそうになっている。
この体は天然で不幸なのだろうか?
能力値の運力の数値はどういうことなのかと考えたところで使い道を思いついた。
「つまり、これは運がいいと考えるべきなんだな」
異世界から帰って来た悪党なんて利用するだけ利用するに限る。
つまり、この現代社会が異世界帰還者の犯罪者をどう扱うのか。それを確かめるための人身御供になってもらうとしよう。
「その前に、あっちの方でも使い潰してやろう」
個人としてはあまり目立ちたくなかったが、とはいえ例の青い宝石とかこちらの世界に現れるダンジョンとか……現代の冒険者ギルドというシステムにばれないように調べたかったんだよな。
そのための盾になってもらうとしよう。
使い道が決まればこちらの気分も上がる。
ミニバンは人気の少ない廃墟の中へと入っていった。
そこは山沿いにある元温泉宿だった。温泉宿と言っても和風な旅館ではなく鉄筋のホテルを備えた健康ランドのような感じだった。
なぜ知っているかと言うと俺が小学生の頃までは普通に営業していて、行ったことがあるからだ。
遠くから来た親戚をそこのホテルに泊めて親族で宴会なんかをしたこともある。
ただ、源泉に問題が出たのか湯を引き上げるパイプだったのかは不明……というかそこまで調べていないが、湯に浸かった客が病院送りになったり死亡したりで営業停止になり、そのまま廃業してしまった。
立ち入り禁止のチェーンは緩んでいて地面を擦っている。ミニバンはそれを踏み越えて立体駐車場に入り、影武者の俺を囲んで宿へと向かう。
俺は幻影魔法で姿を隠し、仙法で気配を消してその後ろについていく。
立体駐車場からの連絡通路を抜けて辿り着く宿のロビーには懐かしさよりも切なさの方が強かった。経年で積み重なった汚れやこういう連中が荒らした跡のせいだ。
村上辰は宴会場にいた。
二十畳はある大宴会場だけはそれなりに掃除されているようだが、こいつらの掃除なんてゴミを端に寄せる程度のことだ。煙草とアルコールと食いカスが腐った淀んだ臭いに埃っぽさが混ざっていて、どうしてこいつらはこんな場所で平気なのか不思議で仕方ない。
「よう? いらっしゃい」
上座に立て膝で座った村上辰が影武者の俺にニヤニヤとした笑いを投げかけてきた。
取り巻きはミニバンで捕まえに来た三人以外には六人。村上辰を入れて計十人か。
「ずいぶんすんなりやって来たじゃないか? 強気なのは口だけか?」
「…………」
影武者な俺はなにも答えない。
返事させるのは簡単だが言葉が思いつかないな。
「この卑怯者!」とか「こんなことして恥ずかしくないの!?」とか「けだものめ!」とか……出てくることは出てくるんだけど、まず女っぽい台詞を喋りたくないというか、相手の嗜虐心を誘ってどうするんだとか……もしも誘うんだとしたらどこまで許してやるんだ、とか考えているとなにもできなくなる。
正直、ここに運ばれるまでの間の接触でさえ、影武者とはいえ気持ち悪かったのに、そこからさらに何かされるとか考えるなんて……。
「おい。なんか喋れや」
と、考えていると村上辰は立ち上がって近づき、影武者の頬を張った。しかもかなり強かったために影武者はふっとんで畳を転がってしまった。
「タッくんやりすぎwww」
「顔腫れてるとやる気なくすんですけどwww」
取り巻きどもがゲラゲラ笑う。
むかっ。
いやいや、まだ我慢だ。とりあえず全員の【鑑定】を済ませてから……。あのクラスとかレベルとかの謎を調べたいし……。
「まずはぶっこまれないと言うこと聞かないか? あんっ!」
言いながら村上辰は体が浮くぐらいの勢いで腹を蹴り、苦しむ格好をする影武者に馬乗りになった。
「うわ、もう始めるんすか?www」
「タッくん辛抱できなさすぎwww」
「あ、尻の一番はゲットねwww」
「出たwww」
「ばっか出すのはこれからよwww」
あっ、もう無理。
影武者とはいえ、俺の姿をどうかされるのはやっぱり我慢ならん。
封月織羽は、もう俺なのだ。
俺はパチンと指を鳴らした。
それが合図だ。
「っ!」
その瞬間、影武者がキャリオンスライムの姿に戻り、さらに無数の槍状突起を伸ばして周囲にいた取り巻きどもに襲い掛かる。
「なっ、なんだ!?」
「バケモン?」
「ぐえっ」
「こんなんっ! ぎゃっ!」
全員が無様に串刺しになる。何人かはがんばって避けようとしたようだが、一回避けられた程度で諦めるような根性のない攻撃はしない。追撃機能もあるのだ。
「なんだこりゃあっ!」
だが、さすがは大将というべきか、村上辰だけはキャリオンスライムの攻撃を避けきり、宴会場の端っこにまで跳んでいた。
「まっ、それぐらいはやってくれないとな」
俺は姿を現すと辰は殺気を飛ばしてくる。
「てめぇ……なんだその姿?」
「正義のヒロインだ。お前らみたいなクズを倒すんだから、それらしい格好ぐらいはしないとな」
「はっ! 言ってくれるじゃねぇか」
「ああ、言ったさ。ほら、異世界帰りの実力を見せてみろ」
「……てめぇはばらばらにする」
「できるものならな」
「おうっ!」
叫んだ辰の手に巨大な戦斧が現れた。
当たり前のようにアイテムボックス持ちだな。異世界帰還者の特典かなにかなんだろうか?
俺は習得するのにけっこう修行させられたんだけどな。
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