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さらっと【鑑定】
ネーム:村上辰
レベル:60
クラス:猛将
猛将?
喧嘩が強そうなでかい図体に金色の頭。
わかりやすいヤンキーな男は、なかなか強そうなレベルとクラスを所持している。
「誰?」
「異世界で同じ勢力にいた奴」
「仲間ってことか?」
「一応、昔は」
隣のアヤが嫌悪剥き出しの顔で教えてくれた。
「お、知らない顔がいるな。おい、こいつらの仲間になるのか?」
「まぁな」
「へっ。そいつは失敗だな」
「なんで?」
俺が聞くと辰は侮蔑の視線を三人に向けた。
「瑞原や柴門は、たしかにあっちじゃ役に立ったぜ。だけどいまはどうだ? 肝心のダンジョンじゃ役に立たない占い師に、新しい手ゴマを増やせない召喚士だ。で、残ったそいつはクラスアップもできなかった歩兵野郎だ。行き詰まるのが目に見えてら」
「なんだと!」
「座れ!」
「ぐっ!」
立ち上がりかけた公英だったが、辰にそう怒鳴られた途端、動きが止まり震えながら座った。
まるで逆らうことが許されないように。
「へっ」
それを見て、辰が『理解したか?』と俺を見る。
「将軍クラスの俺に歩兵野郎が逆らえるわけないだろ?」
「ううっ」
「なっ? そういうわけだ。そんな奴らにくっつくのは時間の無駄だぜ」
「ふうん」
「で、だ。うちにきたらどうだ? お前なら厚遇してやるぜ」
鼻の穴を大きく膨らませてそんなことを言う。
うおおう……背筋がぞっとした。
これはあれか? 欲情されてるってことか?
なかなかキモイな。
爺の視線も色々やばかったが、こいつのはもっとダイレクトにキモイ。
そもそも、三人のクラスとやらを馬鹿にする割に俺の能力のことを気にしていない。となれば俺を引き抜くのは嫌がらせか、俺をヤり捨てるのが目的ってことだ。
どっちもごめんだ。
「お断りだな」
「あん?」
俺の返答で辰が殺気だった。
「どういうことだ?」
「嫌がらせに利用されるのも、お前の粗珍を拝むのもどっちもお断りだって意味だ」
「てめぇ!」
「そこまでよ!」
霧が叫ぶとテーブルにあった店員呼び出しのボタンに指を当てる。
「ギルド内での諍いは禁止。知っているでしょう?」
「……ちっ」
「あなたのスキル《上官権限》はわたしには効かない。この指は止められないわよ」
「けっ。どうせその女も負け犬だ。勝手にしろ!」
辰は顔を真っ赤にしてそう叫ぶと乱暴にドアを閉めて去っていった。
「なんなんだ、あいつ?」
しかもまたクラスアップとかいう新しい用語を置いていくし。
「ほんとうに嫌味を言うためだけにここに来たのか? 暇なのか?」
「お前、すげぇな!」
ああいう連中の考えていることはわからないと首を傾げていると公英が興奮した様子で叫んだ。
「あの村上にあそこまで言える奴なんてそうはいないぜ!」
「そうか?」
「そうね。ちょっとすっきりしたわ」
と、アヤからも高評価を頂いた。
だけど俺はすっきりしない。
そりゃ、一般人がヤンキーにあんな口の利き方してたら身の危険が半端ないことになると思うが、俺たちはもう一般人よりは戦う術を身に着けているのだから言われっぱなしでいることはないと思うんだがな。
帰還者同士なら精神的な力関係も結局同じになるってことか?
「あいつは向こうの世界にいた時でもあんな感じでさ、嫌な奴だったんだよ」
「そうそう。山賊まがいのことばっかりやってて、最後の最後まで自分たちを高く買ってくれるところに売り込もうって魂胆だったんだけど、ぎりぎりでこっちの陣営に滑り込んできて。あ~もうっ! あっちで好き放題やってたくせになんで戻ってきたのかしら! もうビール頼んじゃう!」
「アヤさん、車は!?」
「代行頼むから大丈夫!」
アヤがビールを飲んではっちゃけ、それからは三人が体験した異世界話に終始した。
なんだかんだと彼女たちもストレスをため込んでいたようだ。
とはいえ、苦労を語り合える仲間がいるというのは少し羨ましかったりもする。
俺も、いまでも師匠たちと連絡は取れるがどっちかと言うと彼女たちは俺に苦労を与えていた方だからな。
†††††
「お、タッくん。ちぃぃっす」
「あれ? どうしたんすか、タッくん?」
「……んでもねぇよ」
織羽たちから少し離れたところにある広めの個室に村上辰と彼の異世界時代からの仲間たちがいた。
今この瞬間、瑞原霧、柴門アヤ、佐伯公英たちによって散々に語られているが、彼らは覇を競い合うことを強制された世界で山賊的なことを繰り返してきた一団だ。
つまり、略奪と殺戮だ。
ある種の人は大義名分があれば物を奪い人を殺すことができる。
彼らはまさしくそうだった。
ただ力を振り回せば統一ができると思って好き放題に暴れた彼らだが、それで統一ができるほどに甘くはなく、しかし村上辰を首領とした彼らは戦闘力だけは際立って優れていたため、最後までどこにも滅ぼされることも降伏を強いられることもなかった。
やがて彼らも多少は学習をし、自分たちのやりようでは勝ちきれないことに気付き、ならば勝ちそうな勢力に自分たちを高く売り込もうと考えるようになった。
彼らが勝利する寸前で叛逆すればいいのだと。
その目論見は三国鼎立した時点での神の宣言によって不可能となった。
だが、彼らの読みは辺り、瑞原霧たちもいたその勢力は統一を為した。
そこで統一勢力の支配層として好き勝手生きる道もあったのだが、村上辰はそうしなかった。自分たちが裏切りを画策していたように、統一後に不穏勢力の排除を画策していたのだ。村上辰はそれを本能的に察知し、仲間たちと共に元の世界に戻ることを願った。
そして彼らは持ち帰ったその能力で好き勝手しようと思っていたのだが、より安全に自身の暴力性を金に換えられる場所に出会った。
それがダンジョンだ。
彼らは嫌われ者だ。
だが、その暴力性をいかんなく発揮してきた結果、瑞原霧たちのいた世界では戦闘経験数では上位に位置し、クラスアップというほとんどの者が経験していないことを経験している者が何人もいた。
「タッくん、機嫌悪いじゃん?」
「ストレスなんか貯めたって意味ないっすよ。暴れます? 攫います?」
「金ならいっぱいあるんだから風俗行きましょうよ」
「いやいや、やっぱこういう時にお金使うとかお利口なことありえないっしょ」
「お、いいこと言うねぇ」
「だろう?」
そんな仲間のやり取りに村上辰は笑う。
「…………ああ、そうだな。むかつく女がいるんだよ」
「おっ!」
「美人すか?」
「ああ」
「やった!」
「なら、やることは一つっすね」
「そうだ。攫って輪姦すぞ」
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