使用中

 コンコンとマンションの部屋のお手洗いのドアを叩く。扉の前でしばらく待ってみても返事はない。中の電気も消えている。しかし、開けようとしてもドアは開かない。中に人がいるのだ。


「おーい、入ってますかあ」


 返事はない。ただ、入っているのは知っている。この目で入っていくところを見たからだ。


 いますぐ用を足したいわけでもないし、焦っても仕方がないと思ったので、男はリビングに戻った。


 机の上には食べさしのステーキがあった。見た目は牛のようだ。とっても美味しそうだったので、ナイフで切って一口食べた。なかなかの味だった。


 ポットを見るとお湯が沸いていた。長くなるかもしれなかったので、眠気覚ましにコーヒーを入れた。インスタントの割にはえぐみも少なく、すっきりと飲めた。


 ソファの上にはスマホがあった。暇つぶしにゲームでもするかと思ったが、パスワード入力をミスして凍結してしまった。また五分後に試してみることにした。


 男はすっかりくつろいでいた。まるで、自分の家であるかのように。それにしても、あいつもよくこんなこと考えついたよな、と男は思った。


 考えてみれば確かに、家の中でトイレが一番安全かもしれない。トイレにだけ鍵がついているからだ。


 しかし、スマホを置いて入ってしまったのは痛恨のミスだな。これでは、トイレの中でなす術がない。


 男はただ標的が出てくるのを待っていた。


……………………………………………………………………………………………………

以下作者コメント

持久戦ですね。といってもお手洗いに入っている人に勝ち目は無いような気もします……

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