異世界転生

 土曜日の夜、男は車を走らせていた。長い直線を進み続け、つい考え事をする。


 それにしてもここ最近、異世界転生が流行っている。オーソドックスなのは現実では引きこもりの男が転生した後は勇者になったりするパターンだ。そう考えるとさっきの家族の長男はまさにそんなタイプだったな。部屋はゴミだらけだったし、俺が部屋に入ったときはゲームをやっていた。


 少し不安になってきた。


母親はどうだろうか。彼女は確かOLだったな。平凡なOLが異世界に転生して活躍するみたいな話をネットの広告で見た様な気もする。もしかすると彼女も転生してしまうかも。


 心配の念はさらに大きくなっていく。


父親はどうだろうか。まあまあ良い地位についていたはずだ。となると転生の可能性は低いと思う。私の偏見かもしれないが、異世界転生するのは大抵冴えない人々だと思うからだ。


 そもそも異世界転生とはどの様なシステムなのだろうか、今一度考えてみる。まず輪廻転生とは少し内実が異なるであろう。まあ、本当にそんなものがあるかは確かめようのないところだが。


 たまに例外もいるけれど、私たちは前世の記憶を引き継いでは生まれてくることはできない。そこが異世界転生の大きな違いだろう。大抵の場合異世界に行っても前世の記憶は持ったままだ。そしてすっかり変わった自分に驚くところから物語は始まるのだろう。


 詰まるところ、そこが問題なのだ。もし、死んだ後に人々が行く冥界なるものが存在するとするならば、人々はいったんそこに集まる事だろう。そして、先立っていった家族だの、友人だのと念願の再会を果たすであろう。無論、彼らが先に生まれ変わってなかったらの話だが。そのうちに転生の順番が来て、記憶を抹消され、この世に産み落とされるに違いない。


 つまりだ。異世界転生をするという事は、冥界に行く途中にスカウトされてしまう事にならないだろうか。引き抜かれてしまえば、大切な人の待つ冥界に行けない。そうなれば大切な人との再会の機会を奪われてしまうこととなる。


 男は先ほどの父、母、息子の三人家族のことを思い返していた。


「無事にあの世で再会できていると良いのだが」


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以下作者コメント

あの世で三人が再会できるかどうかを心配するぐらいなら殺すなよ!

って私は言いたいですね。

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