村長様から迫られて
三日後、セブンスに止められながらも朝飯を平らげた俺が、やっぱりその方向で動くつもりで荷物をまとめていると、デーンの子分がドアを叩いて来た。
「すぐさま来いってのか」
「ああそうだ、一人でな、っておい!」
言わなくても行くよと思いながら外に出た俺の手を引きずろうとしてデーンの子分が背中から倒れ込み、頬を膨らませていたセブンスを思いっきり笑顔にしてしまった。
肘をさすりながら草を払い走って行く姿はぶっちゃけ実に面白く、俺だって笑いたいぐらいだった。
「私もいっしょに行きます」
と思いきやすぐに笑いやんだセブンスが俺の手を心配そうに引くせいで、すぐさま俺のテンションは下がる。言うまでもなく、セブンスの手をかわす事は出来なかった。俺がさっきの手をかわした時点でろくなそれでねえのはわかっている、でも逃げるような必要がいったいどこにあるって言うのか。
「おいなんでだよ、俺だけだぜ呼ばれてるの」
「村長さんの狙いは私です」
「ああそうかい、俺が黙って行けばそのどさくさ紛れにセブンスを狙おうって腹か……ずいぶんと執念深いこったね!」
わざとらしく大声を上げてやると、ニツーさんが脇の草むらから飛び出して来た。わざとらしく布切れで汗をぬぐいながら、ものすごい不自然な笑顔を浮かべている。
ったく、ここまで芸術的な図星っぷりを示す事もないだろうによ。
「どうかユーイチ殿、村長様にご面会の方を……」
「ああでもセブンスはこの調子ですからね、彼女の家にほんの少しでも傷つけたら容赦しませんからね!」
「私が守っておきますから、はい……」
自分で言っといてああしまったニツーさんだって普通のオッサンだし、何よりあの村長側の人間だし、あるいはなんかするんじゃねえかとか言う考えに及ばなかった自分に反省し、その上でセブンスが親指と人差し指でVサインっぽいポーズを作っているのを見て胸をなでおろした。
(「もし小指と薬指だったら、本気でぶん殴ってたぜ」)
ヒトカズ大陸じゃ赤ん坊ですらやってるポーズだ、俺も覚えなきゃならねえけど、あのVサインっぽいのはともかく逆のは慣れそうにない。まあ使いたくねえけどな。
とにかくそんなわけで二人連れで村長様のおうちまで出向いたわけだ、この村で一番でけえ建物の。
「この前行ったんでしょ」
「ああな、相変わらず女の匂いがすごいな」
「私と一緒にいる時はそんな事言ってませんね」
「一人じゃねえもんな、三人だもんな……」
三人も抱え込むだなんて、マジハーレムじゃねえかよ。うらやましいって言うか、やっぱここは異世界だったなとか、初めて聞いた時にはいちいち感心したぜ。
そんでドアを開けると、いきなり板が倒れかかって来た。くっだらねえトラップだぜ。
「なんでまたデートコースに俺の家を選ぶかね!」
「デートに見えるのかよ、大事な執事様をセブンスんちに置き去りにしやがって、だいたいお前なんでここにいるんだよ」
「俺は立会人だよ、立会人!」
「とにかく招かれたのは俺らだからな、上がらせてもらうぞ!」
腕組みしていばってるけど、やってる事がガキのいたずらじゃ意味がねえっつーの。まったくしょうもねえなあ。んだよ、デーンったら未練たらしくチラチラ見やがって、オヤジさんも怒鳴れっつーの……!
まあとにかくうちへ上がって見ると、メイドさんがずいぶんと親切そうに手を振ってくれた。まったく親切なこった。
「きれいな家ですね」
「メイドと言いながら掃除しかしてないし」
この世界に香水があるのかどうかわからねえけど、そんないかにもな香水臭さを漂わせながら、いやに愛想よくすり寄って来る。ったく、来客の前で主人置き去りにして客に色目使うだなんてやっていいのか?
まあメイドっつっても実際は男って言うか、ご主人様に気に入られたくてしゃあねえ人間なんだろ。俺だってそれぐらいはわかるよ、この家来るの初めてじゃねえから。
セブンスは中肉中背なのに対しこのメイドは背が高め、あとの二人はふくよかって言うかぽっちゃりって言うか、まあデブじゃねえけどそんな感じ。いわゆる安産型って言うやつだな。
「まあ座りたまえ」
そんなハーレム要員の皆様に導かれてやって来たリビングでは、村長のカスロ様がずいぶんとデカい椅子に座ってた。俺たちはテーブルの向かいのソファーに座らされた。まったく質のいいソファーだ、カスロの肉とどっちがふかふかだろうか。
「ユーイチ君聞いたよ、この村を近々出るんだって」
「俺はやっぱし、仲間に会いたいんですよ。十九人のね」
「そうか、止める事はできない……とは言い切れないからな」
「それでだ、是非とも君に彼女を説得して欲しいんだが」
座りたまえと言う言葉に従って座った途端に、セブンスは俺にしがみ付いて来た。まったく隠そうともしないすがりっぷりで、村長様の笑顔が一気に嘘くさくなってくる。って言うか止められないとは言い切れないとは何なんだよ、止めたくないって素直に言えよ……。本当やらしいオッサンだな。
「これでうまく行くと思います?」
「そこをなんとか。君ならわかるだろ、一人っ子とやらの地位と言う物が」
「ああ、そんな世界ですからね」
俺があきれ顔を作ってもまるで関係ない。言いたい事ばかり言ってる。確かに俺たかがひと月の間に俺は二度も葬式を見て、三度も出産を見た。
「だからな、私はどうしても欲しいのだよ、デーンの弟か妹が」
「私はあなたの妻にはなりません」
「まあ、そういう事なんで、本人の意思を…………ほら彼女たちのように……」
結局はそうなっちまうよな。
聞けばここの三人の女性たちも、みんな契約の上でやって来たらしい。二人の助手だって女はともに未亡人で、メイドの女性は孤児。そんで生活に参っていたとこを村長様が身請けしてるって次第らしい。ああ、素晴らしいこった。
でさ、確かにセブンスも孤児だけどよ、セブンスにもそのルール適用してやれよってなるだろ。俺は完熟茶のカップを持ちながら、カスロ村長の次の言葉を待った。
「私はユーイチさんの妻になります!」
俺が跳ね上げてしまった完熟茶はテーブルに向けてまっすぐに落下し、きれいな水たまりを作った。
あーあ、せっかくメイドさんが入れてくれただろう完熟茶がもったいねえなあ。
もったいねえなあ……?!もったいねえ、な、あ……あ……
「ちょ、ちょ、ちょ……!」
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