ぼっち伝説Ⅲ

 陸上部に入るような人間がどんな奴か。


 1:陸上が楽しい。

 2:運動神経がある。

 3:運動神経を良くしたい。

 4:陸上部に入る動機がある他人がいる。


 まあ、このうちどれかだろう。俺は1と2だ。

 柴原コーチには感謝してるけど、陸上部に入ってから知った人だから4って事はない。



 で、俺のクラスの中で陸上部に入ったのは俺と河野だけ。

 学年全体では6人、高校全体では20人だった。女子は河野を含め6人、1年生は河野だけ。



「おーし今日は終わりだ!」


 体育会系の部活ってやつは、どうしても後輩がいろいろな片付けをする事になる。球技とかと違うからあまり余計な道具はないが、それでも後始末はおおむね後輩の役目だ。


「おいちゃんとやっとけよ!」

「あの、何をすればいいんですか」

「ああそれはこれから…………」


 でも部活動初日、先輩に言われてさっそく片付けに向かおうとすると何にも仕事がなくなっていた。

 何もかもがきちんとしていてまるで部活動をやる前みたいだ。


「あのー先輩……」

「だからさ、口で説明するから、だな…………」


 柴原コーチを含め部員全員目が点になり、結局説明だけで終わった。

 まるで中学時代みたいだ。


 そう、中学の時もだった。


 やっぱり陸上部の部員として俺は3年間務めたけど、ほとんど後輩としてそれっぽい事はしなかった。初めてやったのは6月、あんまり同じことばかり続くんでもういいってみんなさじを投げちまってからだ。言うまでもなく、1~3年全員の共同作業だ。


「ってかさ、上田って本当に練習したのか?」

「失礼な、見てたでしょ!」

「ああ悪い悪いついムキになっちまって、でもマジユニフォームきれいだよな」


 そんで、俺が土ぼこりからぼっちなのもだ。俺の体操服は、本当に汚れない。洗濯代が節約できてよかったとか言う次元できれいで、まるで部活動はおろか体育の授業すら受けていないようにさえ見えて来る。


 そんな俺は、嫌味を込めて「白い流れ星」とか言われてた。ロボットアニメじゃねえんだよとか言われてたけど、嫌いじゃない。せいぜい流れ星の肩書にふさわしいようなりっぱな一流ランナーになってやろうと思って頑張ってるけど、それでも俺の前後を付いてくるような先輩・同級生・後輩には出会えない。

 前を走っている先輩を追いかけると一挙に引き離され、ペースダウンして後ろのランナーと並走しようとすると後ろも下がって行く。そして俺がゴールすると前にいた先輩はめちゃくちゃ疲れたように倒れ込み、オーバーペースになってしまった自分を悔いまくる。


 そんな事が陸上部の練習だけでなく大会でも続き、気が付くと俺は陸上大会でもぼっちになっていた。ついて来られるのは、俺とほぼ同レベルの力の持ち主ぐらいのもんだが、大会にはともかく部活にはほとんどいねえ。


「おかしな話だよな、俺の見たところ普通の走りなんだが、なぜ誰もがペースを乱される?」

「わかんないですよ」

「幼稚園のかけっこの時から好きだったんだろ、運動とか」

「好きこそものの上手なれとか言いますけどね、それでもなかなか一番は取れませんでしたよ、幼稚園の一番が集まってるのが大会ですからね」


 俺はこんなわけのわからない力で勝ちたくないから練習する。どうせ一流のランナーがマイペースで飛ばせば俺は負ける。だから俺は、放課後も練習する。当然の事じゃないか。タイムで言えば俺はザコに近いし、遠藤みたいにレギュラーになんかなれないし。




 幼稚園どころか、小学校時代から俺は校庭で走り回ってた。他に遊んでくれる奴がいなかったからだけどな。

 俺は体育の成績が5だった事は4年生の時しかない。つまり俺自身、そんなに飛びぬけた力なんかなかった。他人を打ちのめすほど強くはなかったはずだ。なのに、遊んでくれる奴はいなかった。



 授業でドッジボールをやった事もある。

「あいうえお順で分けるぞ」

 公平第一と言う事でか、いつもチーム分けはあいうえお順だった。俺はいつものように赤い方をかぶりながら、フィールドに立つ。


 一応狙われているせいか、すぐさま俺にボールが飛んで来る。

 早い。取れない。と思ったが、当たらない。そう、ボールからもぼっちだった。


 ドッジボールの「ドッジ」は避けるって意味だって英和辞典で知ったけど、俺の場合本当にボールが避けまくる。逃げもしないのに、避けまくる。

 ただし、取れない。本当に避けるだけ。逃げまくっている間にぼっちになり、勝手にボールが渡り、そして俺の投げた玉が相手に当たる。それの繰り返し。


 勝利の要だとか言うやつもいたけど、それでも面白くない。俺は公平に、まともにやりたいのに。



 それでも悪い意味で孤立する事はなく、不思議なほどのバランスを保った俺のぼっち生活は続いていた。

 こっちが少しでも寂しかったり辛くなったりして助けを求めれば助けてくれるが、それが終われば即さようなら。逆に俺ができる事は何もない、せいぜいが男のクラスメイトと雑談をするぐらい。

 そんなある意味もらいっぱなしの学校生活、実に図々しく楽々な生活だった。

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