第二の男?
「なんだよおい!」
使えねえ、ああ使えねえ!二度もやってまた負けたと言うのかよ!
「申し訳ございません……」
「頭下げるだけで何が変わるんだよ、おい!!」
「彼はこの村ではもはや最強の剣士です。これを押し留めるのは正直……」
「んだよこの、せっかく俺が自腹を切ってやろうってのに!」
もっともらしい事言っときながらヘラヘラしやがって、ったく……!
「まあまあデーン様、ユーイチ殿を戦いで従えるのはもはや不可能です」
「フン、地位や名誉に転ぶ奴ならば苦労なんかしねえよ、親父の側近にして今の倍の給料をやろうかと言ってたのどこの誰だ」
「しょせん独り身ですからな、この点についてはお詫びするより他ございません」
ニツーもニツーだ、金と地位を与えればなつくとか適当な事を言って、それでものの見事にふられやがって……。
「だいたいなあ、お前のような非モテを拾ってくれたのはどこの誰だ?その男のために戦うのが信義って奴だろ?いい年してさ。それがお前の故郷の流儀かもしれねえけどさ」
親父が言うにはミルミル村の世帯数なんて、ニツーの故郷の二十分の一ぐらいしかねえらしい。でも人口は七分の一に過ぎねえって言う。
ニツーや親父の故郷では、子どもが一人しかいねえ事なんぞぜんぜん珍しくもねえらしい。ゼロってもある話で、ましてや子どもの数が多いからえらいって事もねえ。
でもこのミルミル村は違う。それこそ子どもってのはすぐ死んじまうし、単純に労働力でもあるし、多ければ多いほど安全安心であり、それだけ信用も大きいってこった。それがねえ俺は、まあそういう事だ。
親父が囲ってる女たちだって、三人とも一人娘とか未亡人とかで村の中では邪険にされてたやつらだ。俺のおふくろが三年前に死んじまってから、親父はそんな女を囲いまくってる。いい趣味だぜ、あらゆる意味でよ。
俺が子分にして来た連中もみんな次男坊三男坊、女だとしても数人兄弟の中のおひとりさま。兄貴姉貴に万が一の事あれば、たちまち家を継ぐような身柄だ。俺にはそれがねえ。
そして、セブンスにも。
でも、だからこそ親父に囲われればいい暮らしができるのに、なんで拒むんだろうな。あんなちっぽけな家にこだわりやがって、まったく理解に苦しむ。
ニツーは俺の嫁にすればいいとか言うけど、だとしたってその前にあのユーイチとやらを倒さなきゃあいつは絶対なびかねえ。
だいたい、あいつは見た目からして違う。あんな深夜みてえな黒髪に真っ黒な目、俺はいっぺんたりとも見た事はなかった。まさかそれがあのよくわからねえ力の源の訳もねえだろうけど、とにかくユーイチにあのセブンスは惚れてやがる。あいつを俺が越えねえ事には、セブンスはダメだ。
俺の新しい弟か妹の母親候補が並んで、なんかくっちゃべってる。みんな、その方が健康な子どもが生まれるからって親父みたいに太りやがって。
「少しは親父の手伝いでもしろ!」
「申し訳ございませーん」
きれいに合わせやがって、それで俺のご機嫌取りができると思ってるのかね!ああ、ぶった切ってやりてえ!
「それで、近所の子どもたちに稽古をつけて来たと」
「ああその通りだよ、ったくどいつもこいつも俺よりうまい奴がひとりもいねえからな、あの気取り屋はどうした」
「修行が足りませんでしたと言って帰られました」
んだよ、ただの根性なしかよ……。何が大剣士だか。
サラッと髪なんか流しやがって、その上でいちいちカッコつけた事ばかり言いやがって、あんなちっぽけ……じゃねえな、あんな背丈ばかりでかいユーイチに連敗して、本当ガッカリしたぜ。
「セブンスはこの先どうする気だ?俺や親父の力であの酒場から」
「おやめください、今そんな事をすればすぐばれますぞ、そうなれば彼女はますますユーイチ殿に傾きます」
「わかってるよ、でも俺にはあのユーイチを倒す事は出来ねえ、ったく親父に言って少しやせてくれねえかな、そうすればセブンスも考え直すだろ、なあ」
「二人目を産む方が先でしょう、それもまた役目です」
俺自身分かってるんだよ、こんな田舎の剣技じゃムリだって事を。だからこそもっとすげえ所で修業でもして、その上であのユーイチに一撃食らわしてやりたい。そしてセブンスを俺の物にしたい。
「じゃ、じゃあ、あのセブンスを親父の嫁じゃなくて俺の」
「妻にですか……?」
「違うよ、姉妹にするんだよ!」
「それで、ユーイチ殿に勝てるのですか?」
俺のアイディアに対してニツーの奴ははいともいいえとも言わないような顔をしてる。
急な思い付きだからしゃあねえけど、それでも悪くはないはずだよな?
でもまあ、ユーイチに勝てねえ事には同じなんだけどな……。
「大丈夫だよその辺りは」
「大丈夫とは……」
「親父は書類ばっかり見てるからな、俺は外を見てるんだよ。ニツー、まさかとは思うけどお前」
「なんでしょうか」
「旅の大騎士様がいらっしゃるんだよ、この村に!」
そうだ、俺は稽古をつけてやるついでにおえらいさんとのつながりも見つけてた。ニツーもニツーで鈍いんだからよ、俺なりにいろいろ考えてたわけだ。
その人にやってくださいと頼み込むか、それとも俺自身が稽古をつけてもらって強くなるか。あー、楽しみだぜ。
その、黒目黒髪の男との出会いがよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます