ぼっち伝説Ⅱ
中学の時、英語の10問の小テストがあった。
その時は今のクラスの倍近い人数、四十人近くいた。
そんで結果は、8問正解で8点。まあ、普通よりちといいってレベルだ。
「しかし上田……」
「先生何ですか」
「8点取ったのお前だけだぞ」
だってのに、先生からこう言われた。10点も9点も7点も6点も五人以上いたのに、8点は他にひとりもいなかったらしい。
俺は本当に、いちいちぼっちだった。
「ったく、何なんだろうな……」
テストで何点を取っても、同じ点数の奴がいない。さすがに満点の時は数人ほど並んでたけど、それ以外本当に並ぶことがない。
それは高校でも同じで、一学期の中間テストでも5教科全部誰とも並ばなかった。別の教科ですら、同じ点数がなかった。
スポーツ推薦で大学へ行って箱根駅伝とか言う前に、勉強の実力でも何とかなるとか言われる程度には高い点が取れたつもりだったってのにだ。
「やべえなー、期末こそ勉強しねえとなー」
「お前は野球もいいけど勉強もしろっつーの」
「お互い、学問こそ本分だからな……」
やけにもっともらしくしゃべって来るのは市村正樹だ。俺は舞台俳優になるとか言って演劇部の活動に熱を入れまくってるこの男、ある意味俺の対極みたいな男。
何せ、モテまくる。市村は俺などを通り越して、クラスで、いや一年生で一番モテる。今もまた、女子たちの視線を浴びまくってる。
まあ、それもこれもいちいちカッコいいせいだろうな。授業を受けてても、こうやって立ち話をしてても、飯を食ってても、実にキマってる。これを赤井とかがやると面白いだけなんだけどな。
「しかしさ、お前本当にモテるよな」
「ああそう」
「本業を怠るべからず、これがアスタ・ブラスト・クラスの言葉であります!」
「そうだよね、赤井君の言う通り!」
嫌味にしか聞こえねえはずのため息がまた決まってる。それこそ幾枚単位でラブレターをもらうような奴なのにその事を鼻にかけやしない。本当、羨ましい事だね。赤井のようにアニメのセリフ使いまくってそれはそれでモテてるような奴もいるけど、ぶっちゃけ作為めいているよな。まあいいか悪いかで行けばいい方なんだろうけど。
そんな女子たちの中で、唯一市村にまるでなびかねえのが河野だ。って言うか、あいつはいっつも静かにニコニコしてるか、それとも極端に気合いを入れた顔してるかのどっちかしかねえ。
「河野」
「裕一ったら、浮かない顔しちゃって。昔みたいにさあ」
「あのさ、昔みたいにって何をしろってんだよ」
「うちにお泊りした時におねしょしちゃった時みたいに泣き付いて」
「十年前のことをよくもまあ覚えてるな、っつーか泣き付いたのはお前のお袋だろ」
「まあ私のが結果的に遅れちゃったけどね」
やっぱ俺もぼっちは嫌かなとか思ってると、ほっぺたをご丁寧に小指で突っつこうとしながら昔の思い出をぶつけて来る。その一週間後に幼稚園のお昼寝で寝小便してたのはどこの誰だって言おうとする前に先取りしやがって、ったくいちいちかなわねえ。
で、体育の授業だ。男女そろって校庭、スポーツ校らしい芝生付きの校庭で俺らはいつものように体操を行い、そして整列させられる。
「今日の体育は2キロ走だ。このコースを5周するんだぞ」
先生によりラインが引かれた、1周400メートルのコース。
はっきり言って、普段の部活動の数分の一以下の距離だ。体育にポイントを振ってない赤井とかはため息ついてたけど、ここは俺のステージだって自信があった。
そう、俺の得意舞台だったはずだ。
スタートダッシュと言う名のいつものスタートを決め、あくまでも自分なりの速さで駆け出す。
そしてリードを開いてこのままぶっちぎりと言いたいが、いつもそんな俺に付いてくる奴がいる。
「もう裕一ったら、そんなに飛ばしちゃダメだよ」
「お前こそな、ペース配分ってもんを……」
また河野かよ。
長距離走、って言うか河野も陸上部なんで部活動はいっつもこうなる。柴原先生からもやめろとか言われてるけどな、こいつは一向に耳を貸さない。
「前飛ばすな、飛ばし過ぎてばったり行くぞ!」
「はい」
河野が飛ばして来るもんだからつい俺は負けじと飛ばしちまい、ああいけねえとばかりにペースを落とす。
「ほらまた止まったじゃないか……自分のペースを守れ!」
「はい……」
そして一周もしねえ内に河野はペースダウンして、集団に飲み込まれちまう。
「その悪癖直さねえ限り優勝なんぞできねえぞ」
「…………」
そしてこう注意されて黙っちまう。何度目だよこのパターン。
で、その後はと言うともう予想通りのぶっちぎり。誰も付いて来ねえ。
やっぱり、ぼっち。
そして、ぼっちのままゴールイン。最下位だった赤井とはちょうど半周、つまり200メートル差。
確かにさ、俺の高校生活の目標は10000メートル30分切りだけどよ、今の俺はまだ10000メートル32分ちょうどのランナーだ。そんな奴全国には4ケタは下らんぞ言われている以上、もっとまじめにやらなきゃいけない。
そのためには、ライバルが欲しいんだよ。
ぶっちぎりトップと言えば体はいいけど、体はいいけどな……。
「俺飛ばし過ぎましたか?」
「そんな事はない。しっかりと走っている」
そんで河野は、また2位。いつも俺が1位で、あいつが2位。いつもいつもだ。
俺が手で汗をぬぐっていると、河野は少し恨めしそうな顔をしていた。例によって例のごとく、他に声をかける奴なんかいやしなかった。
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