ぼっち男の魔物殺し

「お友達っていたんですか?」

「ほとんどいねえよ、まあ一緒に過ごしてるからっつったって友達とは限らねえだろ」


 昼間っから家に籠って、セブンス相手に俺は愚痴っている。


 男友達ですら、俺は右手で数え切れる。異性だなんて文字通りのゼロだ。

 嫌われている自覚は少ない。でも同時に、好かれることもない。


「お前さ、学校とか行ったことあるか?」

「何も……でもお父さんお母さんからある程度教えてもらったから」

「俺の世界では学校では何人か集まっていっぺんに授業を受けるんだ。ほらあれ、俺が着てたあれは学校の制服だよ。この世界にもその手のもんはあるんじゃねえか」

「デーンさんとかはあったって言ってますけど、この村では……」



 もうひと月近くこの村で暮らしてるが、そういうたぐいのもんはない。読み書き計算なんてもんは、親から教われば十分なんだろう。それこそマンツーマン教育って奴だ。の割にこんな村のはずれにいるセブンスが良くできてるのは、親御さんの教育の成果なんだろうな。



「そのお友達、みたいな人は何人いますか?」

「十九人だよ、男が九人の女が十人のさ。わからねえけどさ、もし会えるんならば会いたいもんだよ。いや、会いたくねえな。俺がラッキーなだけなのかもしれねえしさ」



 残る十九人がどうしているのか、それより父さん母さんがどうしてるのか、日本はどうなってるのか、そんなこと俺にはわからない。わかるのは、今の俺がとんでもねえチート異能持ちだってことと、セブンスの飯がうまいって事と、この世界が非常に危険って事だけだ。



 このひと月の間、俺は人殺しはまだやってねえ。でも、別の生き物は殺した。



 牛?豚?ニワトリ?いいや、魔物だ。



 いよいよファンタジーだなってことをいかんなく思い知らせに来るその生き物は、この前家畜狙いにずかずかとやって来た。



「あれはなんつー魔物なんですか?」

「ゴブリンだよ、ゴブリン!温和な奴もいるけど凶暴なのもいるからね!」



 ゴブリンとは、もう完璧にファンタジーだぜ。


 その畜産農家のおばさんが言うにはゴブリンは基本草食だが、抵抗する家畜を傷つけたり肥料の草を奪ったりするらしい。ああなるほど、それはそれで害獣だな。



 つー訳で俺は剣を振り回した訳よ、その俺の背丈の半分ぐらいしかねえすばしっこい奴らに向けて。


 したらあっさり斬れたね、本当簡単に。


 そんで血が出て草を真っ赤に濡らしちまってよ、生まれて初めての殺しをしちまった俺は正直びっくりしちまった。


 守り人とか言う名の警備員をやってるくせに、これまでの実戦で殺しをしたことはいっぺんもなかった。

 盗賊が来た事があったけど、そいつらは俺にてこずってる間にデーンたちが来てくれて逃げ帰っただけだった。まあ一撃ぐらい血を出したけど、それが今までで自分が付けた一番でかい傷だった。


「何ひるんでるんだよ!」


 ああそうだいけねえいけねえ、今はゴブリンが先だと思い斬りかかったが、この連中を捉えるのは難しい。あっちへ跳ねたりこっちへ飛んだり、追い付けやしない。一応長距離選手だって自信はあったのによ。


「バーカバーカ、こっちへ来いよ!」


 まあ結局、こんなくだらねえ挑発で連中を引き付け、またチート異能で連中の拳を交わしまくりながら、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるをやってみせた。

 結果的にゴブリンを全滅させられたけど、血は出しちまうし草は荒らしちまうしでやっぱ俺って下手くそなんだなって実感させられただけだった。


 おばさんはよくやったとほめてくれたけど、これで満足するわけには行かねえよなあ。




「やっぱり、向こうの世界が恋しいのですか?」

「ああな。こっちのことが嫌いなわけじゃねえけど、あっちの世界には残して来た事がいろいろある。だからさ、俺は会いたいんだよ。あっちの世界の連中がこっちに来てるかもしれねえし、俺みたいにとんでもねえ力をもらっちまったかどうかわからねえ」

「ユーイチさんのそれって」

「ああ、こっちの世界に来る時にいつの間にか付いてた力だよ。何か努力したわけじゃねえ」


 先天的な才能ってやつを、決して悪く言う気はねえ。


 でもよ、やっぱりチート異能ってチート異能だ。本当に努力して得たそれこそ素晴らしいとか言うつもりもねえけど、やっぱりなんかずるいよな。



「いずれはこの村を」

「ああ、そのつもりだ。この世界にも慣れたしな」


 やっぱ俺は行かなきゃいけねえ。

 俺が、ぼっちである理由を探すためにも。



 そして、この世界から帰るためにも。

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