ぼっち男また絡まれる

 まあいずれにせよこの時の大立ち回りが認められて俺は村の守り人って仕事をもらったわけよ。平たく言えば警備員だな。




 しかしさあ、田舎ってのはどこも変わらないもんだね。もちろん俺の知ってるアスファルトとかはねえけど、それでも畑ばっかりなのは同じだ。

 違うのは、それが米じゃなく麦って事。それから村の隅っこには牛、っぽい生き物を飼ってる牧場があり、その牧場の牛泥棒から守る仕事をやった時もある。


 この村は税金が安いせいかやけにみんなにぎやかだけど、やっぱり農村は農村だね。

 この村の目抜き通りってのはちっぽけな店がずらっと並んでるだけの、まあ商店街みてえなもんだ。普段俺はここで買い物をしたり、運ばれてくる物資を守ったりして過ごしてる。それでセブンスは酒場で酒やちっぽけな飯を渡してる。

 まだ十五だっつーのにそれこそ共働きの所帯主、あとしばらくは親のすねかじりで暮らそうと思ったのに、世の中本当わかりゃしないね。


 まあ今日はどっちでもねえんだけど。



「ようユーイチ」

「ああちーっす」


 そんな俺にしょっちゅう絡んで来るのが、この村での警備員って言う地位をくれたも同然のデーンだ。


 ぼっちの俺には、こういう風に負のコミュニケーションを取ってくる奴さえ珍しい。ましてやセブンスのようなデレデレとも言った方がいいレベルで接してくる奴は希少価値って代物だ。



「あいかわらずずいぶんと馴れ馴れしいな、流れ者の分際で」

「流れ者の分際でとか言うけどさ、あんたはどれだけすごいんだ?」


 そりゃさ、顔は切れ長の目で金髪をサラッと流しちまってさ、そばかすも結構絵になってるし、見てる分にはかっけえよ。そんで剣も使えるし、取り巻きの皆様が出て来るのもお説ごもっともだよ?


「俺がその気になればな、お前ひとりぐらい村から簡単に追い出せるんだぞ?」

「そいつはちとまずいっすねえ」

「わかったら俺の靴でも舐めろ、ほれ」

「だーかーらー、言ってるじゃねえかよ、一本でも獲ったらやってやりますって。ってかお前いくつ?」

「14歳だ!」

「あっそ、そっちこそ礼儀分かってねえんじゃね?俺は15なんだけど」



 でもさ、なんでまた俺に必要以上に絡んで来る訳?そりゃ俺は異世界から来た、っつーか文字通りの流れ者なんだけどよ。別にそれがいったいどんだけ問題があるってんだ?


 年の差うんちゃらかんちゃらの話をする気はねえけどよ、14って年以上にガキっぽいなこいつは。俺の一体何が気に入らねえのか。



「おいおい、カスロ村長のお子様に喧嘩を売るのか?」

「喧嘩なんか売ってねえよ、単に同格だと思ってるだけだ」

「村長の子どもと同格とは、お前何様のつもりだ?」

「ただの警備員様だよ」


 民主主義っつーもんがこの異世界にねえ事はわかってる。

 その上でこちとら、自分の能力相応の所をこれまで見せて来たつもりだった。延々ひと月だぜ、もういい加減あきらめりゃいいのに……。


「って言うか何しにこんな所へ来た、この流れ者」

「それはだな、あのしつこい剣士を追い払った報告を村長にと思ってな」

「親父は暇じゃねえんだよ、この流れ者が」


 ボキャブラリーの少ねえ奴だ。これでもミルミル村の村長の息子様のおかげさまか取り巻き連中がずらっと囲んでるけど、ぶっちゃけ怖くねえ。


「っつーかそういう用件があるんで取り次いでくれる?」

「俺が負けたらやってやるよ、わかるか?この田舎我流剣士が」

「田舎我流って何だよ、ただの事実じゃねえか、まあいいけどよ」


 中学ん時柔道の授業はあったし高校でもあったけど、剣道はなかった。そんな訳で俺の剣の握り方は実にいい加減で、明らかにデーンの方がちゃんとしてる。真似してえぐらいだ。


「ってかオイ、んなとこで刃傷沙汰はまずいだろ」

「だからだ、ほれあれ持って来い」


 デーンの奴はそれならとばかりに、取り巻きに木の棒を二本投げ付けさせる。


 って真後ろからって、明らかに俺狙ってたよな。まあ、当たらねえけど。



「こざかしい真似しやがって!」

「場所変えようぜ」

「ほざけ!」



 商人の皆様の真ん前で、大乱闘開幕。ったく疲れるぜ本当。


 木の棒は剣よりずっと軽いとは言え、こいつの腕前はガチだ。俺の知ってる中じゃ(まあこの村の連中とあの剣士しか知らねえが)あの剣士の次に強い。


 突いたり、叩き下ろしたり、飛び込んで来たり、いちいち早い。


「やめとけ、迷惑だ」

「迷惑はお前だろうが!」




 でも、当たらない。俺でさえ不思議な事に、こいつの攻撃は一発も当たらない。やっぱチート異能ってすげえわ。


 それでだんだんと攻めが雑になって行き、そこを俺が軽く一撃ポコン。



 あーあ、このパターン何度目だよ。



「汚ねえぞ……」

「汚いも何もお前の攻めが雑いのが悪いんだよ」

「くそっ……お前のせいで……!」




 確かに俺自身、チート異能ってのはずるいとか思ってる。でもよ、これもまた実力の一部だしな、俺が得たもんじゃないけど。


「今日もまた勝って、村中からキャーキャー言われるんだろ、ああうらやましい!」

「言われねえよ、俺モテねえもん」

「どこかだよ!デーンさんをこんなにしておいて!」

「事実だよ!!」




 きっぱり言ってやった。


 俺はモテなかった。


 それこそセブンスが、二人目の異性(おふくろ除く)だったからな、あんなに親しくしてくれた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る