ぼっち男のチート異能
高校一年生の二学期、十月十五日、金曜日。
二十人しかいねえクラス、一年五組の教室の授業終了のベルが鳴る。
それで陸上の練習がある訳でもなかったんで俺がとっとと帰宅しようとすると、いきなりものすごく眠くなった。そんでも頑張って首を挙げようとすると、一人をのぞいてみんな同じ風に寝ようとしてた。
そして気が付くと俺は、この村の側で寝てた。
そんで、このセブンスってお嬢さんに出くわしちまったっつー訳よ。
こんなどこの馬の骨かわかりゃしねえ俺に、彼女はいろんな事を聞かせてくれた。
「ここはどこだよ」
「ミルミルと言う村です、ヒトカズ大陸の端っこの……」
「はあ?」
ここが「ヒトカズ大陸」っつーとこで、そんでミルミル村だってとこ。
そんでなんじゃそのヒトカズ大陸っておまぬけにも聞き返しやがった俺に対し、彼女は本当にお優しくしてくれた。
「お腹は空いてませんか?」
「今はな、いずれ空くけど」
「では何かお出ししましょうか」
いいのかよと思いながらも、俺はお言葉に甘える事にした。
何かの肉で作られた、何かのスープみたいな代物を口に運びながら、俺はこの世界についていろいろ質問した。
この大陸は女神様がお作りになったとか、貨幣価値がどうとか、それから村のメンツがどうとかこうとか……そんな俺の質問に対しセブンスは実に懇切丁寧に答えてくれた。
「ついでに聞くけど、そんなキンキラキンの髪の毛に真っ青な目をしてるやつってたくさんいるの?」
「います。むしろそういう頭の方が珍しいぐらいで、ああ少しはいます」
――――ああなるほど。俺はどうやら異世界転移ってのをしちまったらしいなって事に、ようやく気が付いた。
「それでよ、俺に飯を食わしてくれる仕事はないもんかね」
「ではこれを……」
なぜだかとりあえずはそれだなと急に思い立っちまった俺に応えるように、セブンスはこの家のもう一方の部屋から、ふらつきながらなんか長細いもんを持って来た。
「まさかと思うけどそれって」
「ええ、剣です」
剣。非常にわかりやすい剣。いよいよ異世界ファンタジー感丸出しだなと思いながら包みをほどき、そして外へと持ち出した。
鞘から抜こうとしてみるが、これがなかなか抜けない。一応元の世界ではアスリートだったくせに、剣ってのは予想以上に重たい。まあ金属の塊だからな。
とにかくやるっきゃねえとばかりに振り回してみたけど、これがやっぱり重い。
「これすげー剣なのかよ」
「いえ、おじいちゃんの形見ですけど、そうでもなければ取っておくようなこともない普通の剣です……」
そう説明された時にはガチへこみしたね、俺ってこの世界じゃひょろいだけの坊やなのかもしんねえと。
まあそういう訳でまずは木の枝を使って振り回してみたよ、でもそれでさえもなんか大きく持ってかれそうになる。剣道ってのはいいね、前にしか力行かねえもん。
そんなこんなでまあ薪拾いとかはしてたけど後はほぼ木の棒を振って体を慣らすだけの生活だった俺に転機が訪れたのは、この世界に来てから三日前の事だった。
「聞いたんだよ、セブンスの奴が男連れ込んでるって?それお前だろ?」
「まあ、そうなるかな、って言うかあんたら誰?」
俺と同じぐらいの年の金髪野郎三人と、三人より少し背の高い(っつっても中肉中背の俺とそんなに変わらない)おじさん。
先頭に立ってるのがこの一行のリーダー様で、あと二人の坊やは取り巻き。そんで背の高いおじさんがこのリーダーの親父さんの部下だろうな。
「俺はな、このミルミル村の村長カスロの息子のデーンってんだよ。お前は」
「俺は上田裕一だ、ユーイチでいいぞ」
「じゃあユーイチ、一体どこから来たんだ?」
「横浜ってとこだよ」
初対面の相手に嘘を吐けるほど俺は汚くしつけられてるつもりはねえから素直に言ってやったけど、案の定派手に首を傾げやがった。
「なんだかわからねえけどよ、俺に挨拶がないのはどういう事だ?」
「この家の周りでずっと訓練してたからな、ああちょうどいいやそんな仕事ねえか?」
そこまで言った途端に、デーンとやらがいきなり殴りかかって来た。
————当たらない。パンチがギリギリの所で俺をすり抜け、態勢を崩して倒れそうになる。
それと一緒に残る二人もやって来るが、すべて攻撃が間一髪ですり抜ける。
三人そろって一斉に襲い掛かって来るが、手も足も全部空振り。別に無理に避けようとしてねえし、って言うか三方からの攻撃なんて避けようがねえってのに。
不思議だぜ、我ながら本当に不思議だぜ。
「おいニツー……こいつ……」
「デーン様、彼はかなりの手練れです。ああユーイチとか言いましたな、その腕前ならば守り人の仕事がよろしいでしょう」
「言っとくけど俺は剣なんぞ全然持ったことありませんよ」
「正直なのもよろしい事です。では皆様、私はデーン様のお父上になかなか良い男が来たとお伝えしておきますので」
結局まともに避ける気もなかったのに一発も攻撃を受けないまんま、突然の訪問者は去って行った。やれやれと思いながらセブンスの方を見ると、すげえ笑顔をしてた。
「すごいですね!」
「全然すごかねえよ、見ただろ?今の戦い」
「いやいや、あそこまで攻撃されても全然当たらないだなんて!」
「そんな力どこで手に入れたんです!?」
セブンスは陽気にはしゃいでるけど、こりゃやっぱりあれだね。
チート異能だね。
ラノベとかでよく聞くような、チート異能っつーのはあるんだなと思ったよ。このせいで気味悪がられてもしゃあねえと思ったけど、セブンスはキャッキャッとはしゃいでる。うらやましいぐらい純粋だぜ。
でもまあ、この能力を得た事について心当たりはないでもなかった。
何せ、俺はぼっちだったんだから。
二十人もの同級生、いや小学校中学校時代から考えりゃそれこそ何百人単位の同級生がいたはずなのに、ずーっとぼっちだった。
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