ぼっち伝説Ⅰ
親父もお袋も、俺の顔を褒めてくれる。でも、その二人だけ。
一応クラスで一番大会に出るぐらいのレベルでは走れてる。でも、モテない。
成績もそんなに悪くはない。なのに、モテない。
世の中おかしいとか言うけど、俺にもどっか問題があるんだろうな、わかんねえけど。
「市村は本当にモテるよな」
「何を言っているのでありますか上田君、男は一人のために思いを尽くす物です」
「赤井、お前何人に声かけてるんだよ」
「それはもちろん、それはもちろん、神林さんですとも!そして神林さんの大好きな清水さんだけですとも!」
俺に話しかけて来るのは、赤井勇人ぐらいのもんだ。
成績は一流だが運動神経が三流で話の内容の半分がアニメ、四割が勉強って言う見た目なんかまったく気にしてねえ男。
そいつにいつも横にも上にもでかい遠藤幸太郎が絡んで来るけど、それでも残り一割の事を出すと遠藤の矛先は俺の方に向く。
「赤井にすら彼女がいるんだぞ?お前もっと簡単だろ?しかも赤井は二股ムードだしよ」
「二股かよ……かけられる対象になってみたいもんだ」
「お前はもう少しモテろよ……」
赤井と神林が付き合い始めたって聞いた時にどんな顔してたか、俺が知らねえ訳じゃあるまいし。遠藤もお気楽な奴だ。
スクールカーストっつーのがあるらしいけど、それで言っても俺は上位のはずだって遠藤は言う。
確かに1年生にして野球部でレギュラーの遠藤にはかなわねえけど、俺だって陸上部では1年の中では上から二番目、部活をやめる先輩が出る頃にはレギュラー確約とかってお墨付きをもらってるほどだ。
そんで赤井ってのはそのカースト制度じゃ最下位らしいけど、それがもしこのまま神林とくっついてそのついでに赤井の希望通り、弁護士なんて仕事に就けたらどうなる?最下位どころかダントツじゃねえかよ。
「もしかするとお前あれか」
「そっちの属性ではないであります!と言うか遠藤君は」
「ああもういいもういい、バレンタインにチョコもらった事のねえ奴は気楽なもんだねー、ああうらやましいうらやましい」
遠藤が言うように、俺と赤井はバレンタインチョコなんぞ家族以外にもらった事は一度もない。だがこの調子だと、赤井はもらえそうだ。割れ鍋に綴じ蓋とはよく言ったもんだけど。俺にも収まるべき蓋がないもんかね。
昔っから、俺が苦手だったのはグループ授業だ。
「はーい二人組作って~」
幼稚園時代から、その言葉と共に俺以外はほとんどすんなり決まる。余り物同士ともなりゃしない。
俺がすんなり組めるのは、たいてい出席番号順と言う並びで決められた相手だけ。それでも男同士ならまあまあうまく行くけど、女の子相手だとこれがもう全然ダメ。
黙って見ててか、それとも俺に丸投げかのどっちか。
「ちゃんと仲良くしなさい!」
って先生が言いさえもしない。まるで俺がこうなるのは当然ってみたいになってる。
不愉快だとかはならねえ。諦めたからじゃねえぞ、言っとくけど。
「はーいはいはーい、私が一緒に組みまーす!」
「でも河野さんは、ああそれで上田君といっしょに」
そう、毎回毎回河野と一緒だからだ。
河野こと河野速美は俺の二つ隣の家の同い年の女の子で、それこそどっちが先におしめが取れるのかっつー時からの仲良しこよしだった。
河野はいっつも俺に親切丁寧で、幼稚園の時はおままごともかけっこもいっつもあいつと一緒で、小学校の時は無遅刻無欠席を貫き通して俺の面倒を見てた。
そう、俺が風邪ひいてぶっ倒れてても、河野はすっとやって来て看病してくれた。一日診ているだけであっという間に治り、そんであっという間に俺は復帰できた。実に不思議な女の子だ。
「一人っ子っていろいろ大変でしょ」
「一人っ子と思ってませんけどね」
お袋がそう赤井のお袋さんと話してたのを聞いた事もある。何だよそりゃ、もしかして俺は河野の弟なのかよって聞いたら思いっきし派手に首を縦に振りやがんの。
「だって速美ちゃんったら、裕一のこと昔っから弟みたいに思ってたじゃない。昔はおねえちゃんおねえちゃんって」
「河野をそんな風に呼んでた事もあったな」
「もう、他人行儀なんだから」
「俺はもう高校生っだっつーの、とにかく今の俺の夢はマラソンランナー、とりあえず手近の箱根駅伝なんだから」
「だったらなおさら頼らなきゃ、おねえちゃんもけっこう真剣にあなたの夢を後押ししてるっぽいわよ」
お袋もお袋でこの調子。ったくよう、それに何が必要なのか、わかってねえのかね。
確かに支えてくれる奴は必要だよ、柴原先生みたいな。でもよ、同じ軸で戦うライバルってのはもっと必要じゃねえ?
俺には、そんな存在すらいねえんだよ……。
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