133(3,032歳)「決闘の後で」

 決闘会場はカオスな状態だった。

 何しろ30名の男性が気絶してて、そのうち約半数が全裸。

 私の隣では、レヴィアタン氏が大急ぎで【アイテムボックス】から取り出した服を着こんでいる。


 そして私の目の前では、全裸の魔王が私に吊り下げられていて、


 ……ちょろろろろろ……


 恐怖のあまり、粗相してる。

 あはは、可愛いねぇ。無感情な反応ばかりだったけど、恐怖心は4歳児相当ってわけだ。


「最後のはルール違反じゃないですか、レヴィアタンさん?」


「め、面目ありません……」


 レヴィアタン氏からの謝罪。


「ですがその、できれば魔王様を下ろして差し上げてください」


「あ、それもそうですね」


 怯えきっている魔王を下ろし、


「【ホットウォーターシャワー】! からのぉ【ドライ】!」


 魔王キュンの粗相を綺麗にし、【アイテムボックス】から適当な毛布を取り出して着せてあげる。勝負がついた以上、4歳児をイジメるのは私の精神衛生上よろしくない。


「……あ、ありがとう」


「!?」


 魔王が上目遣いにお礼を言ってきた。


「あれ!? 何か口調違くない!?」


「あ、あれはリヴァイアに言われてたんだ。『いげん』を出すようなしゃべりかたをするように、って。でも僕はこれでお前のドレイにされちゃうんだろう? だったらしゃべりかたを変えてても、しかたないから」


「あぁ、なるほど……でもね魔王くん、キミには私の奴隷じゃなくて」


「……え?」


「従魔になってもらいます!!」


「「……なっ!?」」


 ビビる魔王とレヴィアタン氏。


「は、話が違います! 勝利した方が敗北した方を【隷属契約】で縛るというお話では?」


 レヴィアタン氏からの抗議。


「何も違ってませんよ。勝者が得られるものは『敗者を従属させる権利』です」


「――あっ!」


「そもそも事の起こりは魔王様が私の【従魔テイム】に失敗したこと。私が魔王様を【従魔テイム】することができるなら、【魔法決闘契約】書に記載されていることと何も矛盾はありません。まぁ、試すだけ試させてもらいたいですね」


「そ、そんな……」


 呆然とするレヴィアタン氏は放っておき、とはいえ【従魔テイム】失敗の可能性もなくはないので、念のためここに【セーブ】ポイントを置いてから、


「じゃあいくね――【従魔テイム】!」


従魔テイム】の光り輝く首輪が手の中に生成され、それを魔王キュンの首に嵌めようとして、


 ――バチンッ


従魔テイム】の首輪が弾けて消えた!


「あー……」


 ダメだったか。ってことで【ロード】!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 今朝、朝食前の自室が【ロード】される。

 ロンダキルア辺境伯領城塞都市の教会で女神様とお会いするので、12歳相当の肉体に【アンチエイジング】し、【アイテムボックス】で寝巻から適当な女性服――一応領主なので、それなりに立派な仕立てのドレス――に早着替えして、教会へ【瞬間移動】!



    ◇  ◆  ◇  ◆



「あっ、領主様!」


「あらあら、ようこそおいで下さいました」


 教会ってのはめっちゃ朝が早いので、礼拝堂では教会の人たちが忙しそうにお掃除やら祈りの準備やらをしていた。


「どうもでーす」


 領主権限で超テキトーなあいさつを返しながらゼニス様像の前まで行くと、ゼニス様像を掃除していたシスターさんが気を利かせてどいてくれた。

 いつも私の祈りが、長くて数十秒程度だと知ってるからだろうね。逆に、どかなかったからといって怒鳴りつけるような悪徳領主でないことも、みんな知ってくれている。

 ついでに言えば、ことレベリングに関してだけは全く情け容赦ないということも。


 ってことでお祈りお祈り。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「助けて女神様ー!」


「はいはいどうしました?」


 いつもの不思議空間にて。

 相変わらず、私の雑な絡みに優しく応えてくれる優しい女神様。


「魔王と四天王筆頭と、その他大勢に『魔法決闘』で勝ったんですよ!」


「おおッ、それはおめでとうございます! 本当に! これで少なくとも、魔王以下主要魔族を【隷属契約】で縛り、講和・終戦への道が開きますね!」


「はい! でもどうせなら、女神様も仰った通り、魔王を従魔化させたくて」


「確かに。その方が絶対の忠誠を誓わせられます」


「で、【従魔テイム】しようとしたんですけど失敗してしまって」


「ふむ……アリスちゃんの【魔力】と【魔法力】は魔王と同等のカンスト。さらに【闇魔法】は【従魔テイム】で鍛え上げたおかげでレベル11ですよね。イケそうなものですが。あー……でも【従魔テイム】って、相手との信頼関係の上に成り立つ部分が大きい魔法ですからねぇ」


「あー確かに。【従魔テイム】レベルが11になるまでは、私も魔物1体【従魔テイム】するたびにご飯やら武力やら何やらで懐柔してました」


 裁縫蜘蛛のアラクネさんを【従魔テイム】するときなんて、11年近く【裁縫】スキルを養殖してやっと認められたくらいだし。


「でも、いつものように養殖して【従魔テイム】レベルを伸ばせば良いのでは?」


「いやー仰る通りなんですけど、私ってほら、【従魔テイム】したからにはちゃんと面倒見ないと気が済まない派じゃないですか」


「あー……」


「【従魔テイム】レベルを11に上げる時に【従魔テイム】した子たちだけでも、もはや管理するのも限界なんですよ」


「それで、何か裏技がないか聞きに来たと」


「すみません……」


「はぁ~……ま、仕方ありませんね。ひとつ、心当たりがあります」


「さっすが女神様! さすめが!」


「調子良いんですから。魔王に勝ったってことは、魔王に怖い思いをさせたわけでしょう?」


「確かに。恐怖のあまりお漏らししてましたよ」


「お、お漏らし……100年前の勇者たちの死闘と、今回の茶番の温度差に風邪引きそうですよ」


「言っても私だって何度も死にましたし家族や愛する人の死に目もさんざん見てきたんですよ?」


「あ、ごめんなさい……今のは失言でしたね」


「い、いえ、こちらこそごめんなさい。そう言って頂けるほどに、平和裏に事が進んでいるってことですよね!」


「で、何が言いたいかといいますと、それだけ怯えられている現状、魔王がアリスちゃんの従魔に成りたがっていないのでは?」


「あぁ、確かに!」






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追記回数:551,551回  通算年数:3,032年  レベル:5,100


次回、アリス、ショタ魔王を拉致して養育する。

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