122(2,999歳)「7年越しのあの人と再会」

 翌日の昼下がり、私が『アリソン・コンサルティング』社のオフィスでクライアント――とある領地貴族さん――と打合せをしていると、


「アリソンとやらがいるのはここかい!?」


 店の外から、みょ~に聞き覚えのある声が聞こえた。


「って、フォーメ!? アンタ、昨日から連絡が取れないと思ったら、こんなところでいったい何を――はぁ? 『魔法決闘』で負けて奴隷になったぁ!?」


 四天王3番手フォーメさんのことを知っていて、しかも対等な立場で会話できる人らしい……ってことは敵襲だな。


「アリソンとやら、出てきな!」


 ばぁんとオフィスのドアが開かれて、果たして部屋に入ってきたのは――


「あはっ、間諜の女スピオーネさん7年ぶり!」


 思わず笑顔で挨拶してしまった。

 そう、元辺境伯を使って前世の私を謀殺してくれた間諜の女スピオーネ――四天王のひとり、ベルゼネ・ド・ラ・ベルゼビュートだ!


「貴様は!!」


 間諜の女スピオーネの【物理防護結界】が私の周囲を取り囲み、ご丁寧に私の頭部だけ穴が開いており、私の頭部めがけて無詠唱の【オリハルコン・ニードル】がすっ飛んで来た!


 ガィィィィイイイイイイイイイン!!


 間諜の女スピオーネ必殺の攻撃魔法はしかし、眉間に展開させた私の【物理防護結界】に阻まれ、ごとりと地面に落ちた。


「あはは、相変わらずキレッキレですねぇ!」


「なっ……」


 言葉もない様子の間諜の女スピオーネに向かって微笑みかけ、


「果たして今の私なら通用するのか、試したかったんだよねぇ……【首狩りアイテムボックス】!」


 成功した。間諜の女スピオーネの首から上が消えたのを見届けたところで、今朝に【ロード】した。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 魔王国王都、宝石店兼TVゲーム屋兼ITコンサルオフィスの2階、私の寝室のベッドで目覚める。


「うっ……おぇぇえええ……」


 枕代わりのチビの脇腹から急いで頭を起こし、【アイテムボックス】の中に吐いた。


 ……【アイテムボックス】LV99の検証のためとはいえ、私は生まれて初めて、望んで人を殺した。首がなくなった間諜の女スピオーネを見て、『よっしゃ』とか思ってしまった。

 この気持ち悪さ、この吐き気は大切にするとしよう……スキル【おもいだす】よ、しっかり記憶しておいてくれたまへ。


『みんな、しゅ~ご~!』


 従魔の『意思疎通』機能で、デボラさん、サロメさん、クロエちゃん、フォーメさんを呼び出す。


「「「「お呼びですか、マイマスター」」」」


 ものの数秒で4人が現れた。


「今日の昼過ぎから【ロード】してきました」

 

「何かあったので!?」


 4人を代表してフォーメさんが質問してくる。

 4人の中では、フォーメさんが序列1位の扱いらしい。まぁ養殖してないのにMPが4人の中で一番高いらしいので、妥当なのかな。


「ベルゼネ・ド・ラ・ベルゼビュートがやって来ます」


「「「四天王!?」」」


 デボラさん、サロメさん、クロエちゃんがビビる。一方フォーメさんは、『まぁ来るでしょうね』って顔してる。


「13時45分頃に来ますので、フォーメさんはそれとなくベルゼネ・ド・ラ・ベルゼビュートの注意を引いておいてください。私が仕留めます」


「仕留めるって――」


 心配そうなフォーメさんに対し、


「大丈夫、無理やり従魔化させるだけですよ」


「ありがとうございます。しかし思い返せば、7年前にベルゼビュート様が仰っていた『でたらめに強い【時空魔法】と雷魔法使いの幼児』というのは、マスターのことだったのですね」


「あはは、やっぱりそういう報告上がってたのね」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「アリソンとやらがいるのはここかい!?」


 そして13時45分。前回と同様に間諜の女スピオーネがやって来た。


「お客様、少しだけ席を外しますね」


 クライアントに断って、裏口から素早く屋外に出る。

 こういう時、自由気ままに【瞬間移動】できないのが悩ましい。何でも王都中に特殊な【探査】魔法が張り巡らされていて、不正な【瞬間移動】は即刻検知・通報される仕組みらしい。


【飛翔】も同じく。なので【闘気】を乗せた足腰で屋根に飛び乗り、【隠密】マックスでフォーメさんと口論中の間諜の女スピオーネの背後へ着地し、


「【アイテムボックス】!」


 間諜の女スピオーネを生きたまま収納完了。

 フォーメさんが、自分より強い四天王を生きたまま収納したという事実に引きつり笑いをしている。


「じゃ、ちょっと行ってきます!」


 店内に駆け込み、【瞬間移動】!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 いつもの魔の森別荘にて。


 もはや何でもアリな私の【アイテムボックス】LV99を使い、【アイテムボックス】内にいる間諜の女スピオーネのMPがゼロになるまで【吸魔マナ・ドレイン】。

 で、気絶している間諜の女スピオーネを取り出し、首に【従魔テイム】の首輪をつけて、【魔力譲渡マナ・トランスファー】。


「こ、ここは……ヒッ!?」


 目を覚ました間諜の女スピオーネが私を見て悲鳴を上げ、


「!? !? !?」


 恐らく何がしかの魔法で攻撃しようとして、魔法が出ず、それどころか私への害意が抱けないことに絶賛困惑中の模様。


「あなた、もう私の従魔ですよ」


「えええっ!?」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 そこからはフォーメさんの時と同じ。

【ふっかつのじゅもん】にはじまり、あらゆることを伝えた。


「いやぁ、前世で謀殺してくれたことといい、今世で【流星メテオ】を毎月撃ち込んでくれたことといい、あなたにはホントにホンッッッット~にお世話になりましたよ」


「も、申し訳ございません??」


 何と答えていいか分からないながらも、とりあえず謝るベルゼネさん。


「で、確認なんですけど、四天王のうち3人がこっちの陣営についたわけですが、これでもう【流星メテオ】は使えなくなったと考えていいですか?」


「はい」


「――ヨシ!」


 打って出てきた当初の目的である、【流星メテオ】制止には成功した。


「それで……わたくしの仕事は何になるのでしょうか……?」


「もし仮に、魔王陣営への間諜の女スピオーネをやれって言ったら可能ですか?」


「い、いえ……難しいでしょう。【従魔テイム】された者は、程度の差こそあれ主人に心酔します。そういう魔法ですから。そして、魔王様の【従魔テイム】から外れた私は言動の端々から、魔王様に対する従来との態度の違いが表れてしまうでしょう。もし訝しがられ、ステータスを見せるように命じられれば一巻の終わりです」


「なるほどねぇ。じゃ、当面はフォーメさんと一緒にここで周囲警戒兼店員をやっててくださいな」


「ははっ」






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追記回数:26,043回  通算年数:2,999年  レベル:5,100


次回、ついにラスボスお目見え……。

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