123(2,999歳)「魔王に謁見」

 そいつは、翌朝やって来た。


 いつものように魔王国王都のお店兼住宅で朝ご飯を食べ、従業員の皆さんへ新入りのベルゼネさんを紹介し、2階の居住スペースとつながっている中央店舗――TVゲーム屋へ降りて。


「さてさて、今日も一日がんばるぞいっと」


 左隣の『アリソンコンサルティング』オフィスへ行こうとドアを開いたら、






 そいつが、そこにいた。

 魔導車とともに、店のど真ん前に。

 私の自慢の常時【探査】と【闘気】をすり抜けて!






「初めまして、アリソン様」


 執事のような恰好をしたそいつが、深々と頭を下げて口を開いた。


小生しょうせい、魔王様のしもべにして四天王筆頭、リヴァイア・ド・ラ・レヴィアタンと申します。以後お見知りおきを」


「!?」


【思考加速】1000倍! 【闘気】全開! 【未来視】オン!


 全力でTVゲーム屋の最奥まで後ずさり、【アイテムボックス】からエクスカリバーを抜く。

 しばらく相手を注視するが、頭を下げたままで、攻撃行動には移りそうにない。


 まずは【思考加速】を、言葉が聞き取れる50倍にまで落とす。


「これは失礼致しました……息を殺すのは、小生の悪い癖でございますれば」


 頭を下げたまま――つまりこちらを見ないまま、四天王筆頭――リヴァイア・ド・ラ・レヴィアタンが言う。


「ただ、街中での抜刀は逮捕の対象となりますのでお気をつけください。今回のことに関しましては、あくまでアリソン様の住居の中であったこと、及び小生が驚かせてしまった所為せいとして、見なかったことに致しますれば」


 ……大した【探査】能力だ。【闘気】の方かもしれないけど。

【思考加速】オフ。エクスカリバーを収納しながら、


「ご温情、痛み入ります。そして、こちらこそ失礼致しました。これでもわたくし、【探査】魔法には自信があったものでしたから――その自信が今、揺らいでますけれど」


「ご謙遜を。何でも、フォーメ・ド・ラ・バフォメットを『魔法決闘』で負かして奴隷にしたとか。ベルゼネ・ド・ラ・ベルゼビュートが昨日、あなた様の元へ向かって以降、音沙汰がないのですが……もしや彼女もあなたの奴隷に?」


「はい、その通りです。あなたも私に営業停止を命じに来られたのですか? もしそうなら『魔法決闘』で白黒つけさせて頂きますけれど」


「いいえ、違います。我らが主があなた様にお会いになりたがっておられまして」


「我らが、主――魔王様?」


「はい」


「ええと……着ていく服がなくて――」


「今お召しになっているもので結構ですとも」


 マジか。デキるOL風のパンツスーツでいいのか。


「あと、今日も朝から大量のアポが――」


「こちら、正式な召喚状でございます」


 レヴィアタン氏が虚空から手紙を取り出す。


「魔王様のサインも、もちろん入ってございます。魔王様の臣たるあなた様が、敬愛する魔王様からの召喚を拒否するなど、あり得ない話だと思いますが」


従魔テイム】された者は、主に対して多かれ少なかれ心酔する――

 従魔が主の招待を喜ばないわけがないってことか。


 これがレヴィアタン氏の命令、とかなら『魔法決闘』をふっかけることもできたけど、『魔王の従魔であるはずの魔族――だと思われている私――に対する、魔王からの命令』に逆らうのは悪手も悪手だな。

 最悪、『お前本当に魔族か?』ってところに飛び火しかねないし、デボラさんたちを従魔化させたことまでバレかねない。


「ご下命、賜りましてございます」


 なので、恭しく頭を下げた。


「いつ、お伺いさせて頂けばよろしいでしょうか?」


「今からでも。この通り車もご用意しております」


「では、恐れながら10分だけお時間を頂きたく。引き継ぎをして参りますので」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 元この店の店長で『アリソン・コンサルティング』社で私の補佐的立場にいるピエールさんに事情を説明し、今日のアポの方々へご連絡頂くよう頼んだ。

 そして、デボラさん、サロメさん、クロエちゃん、フォーメさん、ベルゼネさんを集めて事情を説明し、一度アフレガルド王国ロンダキルア辺境伯領城塞都市のじたくへ【瞬間移動】でご案内。パパッとパパンに紹介し、『いざとなったらここに逃げてくること』と言ってから魔王国王都の店に戻って来た。


 いやぁバタバタだね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「あの……魔王様はなぜ、私なんかにお会い下さるのでしょうか?」


 まったく揺れない超快適な魔導車の中で、居心地悪くそう質問する。


「あなた様のご活躍は魔王様のお耳にも届いてございます。一度会ってみたい、と」


 レヴィアタン氏が自ら運転しながら、そう答える。


「へ、へぇ……」


 鬼が出るか蛇が出るか。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ――そして、今。

 私は王都中央で最も小高くなっている場所にそびえ立つ魔王城の、謁見の間でひざまずいている。


 私の左右にはこの国の重鎮であろう面々が並び立ち、私のことを注視している。


「面を上げてください」


 私をここまで連れて来た四天王筆頭レヴィアタン氏は魔王の執事兼宰相も兼ねているとかで、王座に着く魔王のそばに恭しくはべりながら、私にそう告げた。


「ははっ」


 許しが出たので顔を上げる。


 そして、私は見た。

 魔王の、顔を。






 まだ5歳にもなっていないであろう、

 甘々キュンキュンなショタ美少年のご尊顔を!!






「!? !? !?」


 しばらく、息をするのを、忘れた。






*************************************************************

追記回数:26,043回  通算年数:2,999年  レベル:5,100


次回、アリス、ショタに目覚める。

アリス「この子を従魔化させて私好みに育ててみるとか、どうだろう? ……ごくり」

フェッテン様「趣味が悪いぞアリス……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る