116(2,998歳)「異世界にインターネットを現出させよう! まずはネットワーク層、てめぇだ」
ま、余裕だったよ。
ものの1週間で魔王国中の商人ギルド本部・支部がIT化し、耳の早い領地貴族や経営者たちからの引き合いが後を絶たなくなった。
今日も今日とて商人ギルド本部――王都の商人ギルド――のギルマスさんと一緒に、諸領の商人ギルド支部を回り、IT化を進めている。
そんな折、商人ギルマスさんがこう言った。
「しかし……せっかく書類の処理を『パソコン』化しても、データの受け渡しをいちいち『USBメモリ』と【瞬間移動】に頼っているのでは、商人ギルド本部と各支部との情報の鮮度が半日~数日遅れになります。もっとこう、リアルタイムにデータ連携する方法はないものでしょうか」
おおおっ、商人ギルマスさんセンスあるね!?
「実はもう少しでできるようになるって言ったら、どうします?」
「えっ!?」
「パソコンとパソコンを、『ネットワーク』でつなぐんですよ」
「なっ、なっ、なっ……そんなことが!?」
「もう少しでできるはず。ってことで、ちょっと席外しますね――【瞬間移動】!」
◇ ◆ ◇ ◆
「ディータ! 帰ったよ!」
懐かしのアフレガルド王国ロンダキルア辺境伯領城塞都市の
自席に座っていたディータがガタッと立ち上がり、
「おねぇ――んんんっ閣下!」
「あはは、恥ずかしがらなくてもいいよぉ」
「いえ……それで、いよいよネットワーク社会を現出させる時が来た、と?」
「そうなの。どこまで進んでる?」
「ひとまずルータの試作機は作りましたが、テストはまだですね」
「マジかよディータテンサイ! 砂糖! 蒸留酒!」
情報処理技術者必修! アプセトネデブ!
社内LANにせよインターネットにせよ、ネットワークは7層に分けて定義される。これをOSI参照モデルという。
上――よりユーザに近い層――から順に、
第7層:アプリケーション層……具体的な通信サービスを定義する層。HTTPとかメールとかファイル転送とか。
第6層:プレゼンテーション層……データの表現方法を定義する層。例えば文字コードにはASCIIコードを使おう、とか。
第5層:セッション層……同一PC内で複数のプログラムが立ち上がっている時に、通信が混じらないようにする仕組みだね。例えばメーラーとWebブラウザを同時に立ち上げてて、送信したメールがブラウザに表示されたら困るもの。
第4層:トランスポート層……ネットワークの端から端までの通信管理。通信エラーが起きたらどのくらいの周期で再送する、とか。TCP/IP参照モデルのTCPに相当。
第3層:ネットワーク層……ルータちゃんの職場! 物理的にLANケーブルでつながっている環境の中で、特定の端末から特定の端末へのルーティングを行う。TCP/IP参照モデルのIPに相当。
第2層データリンク層……同一LAN環境内でとあるパソコンが所定の別端末へ発した『01010100100110100……』という機械語を電気信号の強弱に変換し、所定の別端末がそれを受け取って正しく元の情報に復元できればデータリンクが成立していると言える。
第1層:物理層……その名の通り物理的にLANケーブルがつながっていて、とあるパソコンから発せられる電気信号を他のパソコンが『なんか電気信号来たな。内容はよく分からんけど』と感じ取れれば、物理層をクリアしてると言える。
そしてディータは、たったひとりで物理層とデータリンク層をクリアし、ネットワーク層の要であるルータの試作機まで作り上げてしまった!!
ディータSUGEEEEEEEEE!!
あ、ちなみにデータリンク層までは1週間前の時点で開発済。だってこれができないと、パソコンとプリンタをUSBケーブルでつないで印刷なんてできないもの。
「じゃ、じゃあ魔の森別荘で続きやろうよぉ……じゅるり」
「顔が怖いです閣下。じゅるりって何ですかじゅるりって。ハード面はからっきだったのではなかったのですか?」
「そうだけどさ、この世界にインターネットを蘇らせることができるなんて、心躍るじゃん?」
「ちなみにこちら、ご所望のイーサネットLANケーブルです」
「さっすがディータ! 要望通りノーパソの極薄化にあらかじめ対応した薄型差込口!」
「はいはいさすディータさすディータ」
ってことで、ふたりで【
◇ ◆ ◇ ◆
「じゃあ送信先をIPアドレス『123.223.222.1』に設定して、送信!」
「はい。『123.223.222.1』での受信を確認しました。一方、『123.223.222.2』の方には届いていません」
「――ヨシ!」
何回かルータを改修しつつ、ネットワーク層クリアじゃあ!!
◇ ◆ ◇ ◆
「TCP/IPっていうと……まずコネクションの確立。す、スリーウェイハンドシェイク……?」
「3段階で通信を送り合って接続を確立させる方法ですね。1段階目、まずは送信側から受信側へ接続要求を送信。2段階目、接続要求を受け入れた受信側が、受信側へ『接続可能』と回答。そして最後の3段階目、送信側から受信側へ、『接続開始』を伝えるフラグを送信」
物凄い速さでコーディングしながらディータが答える。
「ダメだ、ちんぷんかんぷんです。ディータ大先生にお任せしてしまってもいいですか?」
「いいですよ、お姉様。その代わりお腹すいたのでドラゴン焼肉食べさせてください」
「【アイテムボックス】! ほいよ」
バチバチカタカタバチバチカタカタッターン!
ディータはコーディングの手を止めない。
「作業止めたくないので、食べさせてください」
「おっ? おっ? おっ? ディータったら甘えん坊め!」
言いつつウキウキ気分でドラゴンステーキを切り分け、ディータの口に運ぶ。フォークで。【テレキネシス】を使うなんて野暮なことはしない。
そんなこんなでディータとイチャイチャしつつ――いやイチャイチャでもないが――開発を進める。
◇ ◆ ◇ ◆
ディータたったひとりでトランスポート層を突破するのに、丸1年かかった。
で、耐えきれなくなった私がフェッテン様とチビを拉致って来るのを提案、受け入れられたのでディータの手を取ると、
「僕は引き続きやってますよ」
「いやいやいやいやひとりっきりで研究開発なんて気がおかしく――」
……いや。
ディータは三千年【鑑定】し続けた時も、蓄音機とスピーカーを開発した時も、パソコンを開発した時も、プログラミング言語を開発した時も、ゲームの筐体や巨大モニターやLANケーブルや物理層やら何やらを開発した時も、ずっとずっとひとりだった。
悪いことしちゃった……よな、絶対。
机に向かっているディータを背後からぎゅ~ってすると、ディータがにやりと笑って、
「浮気ですかお姉様?」
「ち、ちちちちち違うわ! ……その、いつもありがとう」
「僕自身の評価を上げるためですよ。お気になさらず」
「あはは。ま、ディータならそう答えるよね」
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追記回数:26,042回 通算年数:2,999年 レベル:5,100
次回、天才万能エンジニア・ディータが異世界に
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