94(2,960歳)「四天王最弱さんと一緒に養殖する」

「へぇ、あの飛空艇やら装甲車やらバイクやらの動力は魔力なんですね」


「ああ」


 新魔法【1日が10000年にテンサウザンドなる部屋・ルーム】に豆腐ハウスを作り、四天王最弱さんことアデス・ド・ラ・アスモデウスさん――間諜の女スピオーネもそうだったけど、『ド・ラ』持ちってことは何気にお貴族さんなんだね。まぁ軍人で四天王なんだから当然か――とお喋り。

 ちなみにこの場には、ディータも一緒にいる。アデスさんは私の従魔になったので、絶対に私へ攻撃はしてこないって何度も言ったんだけど、同席するって聞かなくて。


「動力は全部魔力なんですか? 水車とか蒸気とかは?」


「ない。あらゆる機械の動力は、すべからく魔力だ」


「えぇ……でも魔力が少ない人にとっては暮らしにくくないです? 車乗るにも魔力、仕事で機械動かすにも魔力なんでしょう?」


「我よりも魔力の少ない者など、成人魔族にはそうそう存在せん」


「え? それはどういう……」


「成人の際に」


「際に?」


「屑魔石に加工される」


「ヒィッ!! 修羅の国かよォ! 強くなくては生きていけないの!? 優しさだけでは生きる資格はないの!?」


「我もそうなるはずだったが、剣の腕を磨いたことで、こうして生きながらえている」


「はぇ~~~~……」


 一芸入試的な?

 言うてもアデスさんもMP1万超えじゃん。人族基準でいえばレベル100の賢者なんですけど!

 ……ま、まぁ、アデスさんが(魔)力を求める理由はよーく分かった。魔族にとっては生存理由とかアイデンティティとか矜持に関わることなんだね。


 MP養殖の基本は、ただひたすらMPを消費すること。

 なのでアデスさんには、ノティアさんを鬼養殖したのと同じ方法、私からの無限【魔力譲渡マナ・トランスファー】を受けながらの【鑑定】地獄を経験してもらっている。

【鑑定】結果はウィンドウ表示してもらい、私が目を通す。見せてもらってるのはここ100年くらいの魔王国についての一般常識や軍事機密等々。

 少なくとも、この人が知っている範囲では情報が出てきた。


「幸いなことではありませんか?」


 一緒になってウィンドウを見ていたディータが発言する。


「次に魔族が攻めてきたとしても、閣下の【吸魔マナ・ドレイン】ならば、兵器の動力を無力化できるということでしょう」


「いや……最低限の【魔力防護結界】は張られている」


 アデスさんの反論にディータが、


「お忘れですか? 閣下の【アイテムボックス】があなたの軍勢を丸ごと収納したことを」


「うぬぬぬ……」


「ディータ! イジメないの!」


「失礼」


 ディータってば、自分がどうやっても引き出せなかった直近の魔王国領の情報をアデスさんが引き出せることに、対抗心燃やしてるな?

 私のこととなるとすぐムキになっちゃうんだから……可愛いやつめ。


 ちなみに私たちの会話は今、アフレガルド王国語と魔王国語で行っている。私たちが王国語、アデスさんが魔王国語。

 これで私たちの魔王国語スキルが伸びてきたら、私たちも魔王国語で喋るようにするつもり。


「……それで、魔王国には空から星を降らせる魔法はありますか?」


「!? どこでそれを!?」


 驚くアデスさんに、


「3日後、降ってきます」


「なるほど――…四天王の3人があの秘術を行使するわけか。我々もろともとは、魔王様も容赦がない」


 アデスさんには【ふっかつのじゅもん】のことを明かしている。従魔だから絶対安全だし、3日後のことを聞き出すのがそもそもの目的だったので。

 魔王のことを『魔王様』呼びこそしているものの、私の従魔として、女神様陣営に立って戦う覚悟はできつつある模様。


「やっぱり魔王国からの攻撃でしたか」


「魔王国が保持する、最大最強の秘術・時空魔法【流星メテオ】だ。降らせる星の数も制御できる上、魔力を現地調達し、それによって殲滅前に相手を無力化させることができる」


「ひえぇ……」


 ってことは、あのガリガリ減っていったMPは隕石召喚の燃料に使われたのか。


「あれは本来4人の高位魔法使いの同時詠唱によって成立する魔法。それが使える4人の魔法使いが四天王に選ばれる」


「え? でもさっき、『四天王の3人が』って」


「ああ。当代の四天王は非常に優れている……というより、その3人があまりに優秀で、3人だけでその秘術を成立させることができるがために、四天王の枠がひとり空いたのだ。それで、国内随一の武力を誇っていた我がねじ込まれた。アイドルグループにもひとりいるだろう? そういう面白枠が」


 自嘲気なアデスさん。


「あ、あはは……」


 言葉の端々に現れる、魔王国の発展ぶりよ。

 アイドルグループがいるってことは、その活動を伝播させる電波か、少なくとも新聞雑誌は存在しているわけで。


「でも魔力吸われるんじゃでっかい【物理防護結界】張っても維持できないし、そもそも王国全土なんて範囲が広すぎる……」


「いや、魔力を吸うのは闇魔法【吸魔マナ・ドレイン】の範囲が大きいバージョンなだけだ。この国の聖女の使う【光魔法】なら抗えるのではないか?」


「ほほぅ」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ははぁ~こうしてお前さんと、味方同士という立場で会うことになるたぁね!」


 というわけでホーリィさんをレベリング部屋に連れて来た。


「お知り合いで?」


「敵同士としてはね。アタイの大切な仲間が、こいつに何人殺されたと――」


「ちょちょちょ! そういうのなーし! なしでお願いします!」


「……悪かったよ。ま、そんなわけでアンタの強さは良く知ってる。これからよろしくね」


「ああ」


 握手するホーリィさんとアデスさん。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「なるほどねぇ。確かに闇魔法【吸魔マナ・ドレイン】は弱体化デバフ魔法に分類されるから、聖女固有スキルの【極大聖域】なら打ち消せるさね」


「え? 私そんな魔法教えてもらってませんけど」


「大昔に言わなかったっけ? アンタなら、【魔法防護結界】で範囲指定してから【フルエリア・なんとか】ってやれば再現できるだろうとかなんとか。で、アンタ【聖域】は使えるだろう? それにこれは聖女固有スキルさね」


「【おもいだす】――あぁ!」


 1巻○話参照ってか!

 っていうか【聖域】! 時空と光の複合魔法で、本来は聖級にもかかわらず、4歳の頃、私が村の畑を呪いから守るために使ったやつだ。

 まったく同じ名前の魔法が実在してたから良かったけど、あの時使ったのは、実は【時空魔法】LV10カンストと称号【期間限定時空神】による【時空魔法創造】で作ったオリジナル魔法なんだよね。詠唱も適当だったし。

 パパンとママンが深くは突っ込まないでくれたから良かったけど、あの頃の私はわきが甘かったなぁ……。


「じゃあ、とりまアンタとアタイでどこまでやれるか試してみるかい? チーム・アリスにも【聖域】持ちはいるだろうから、アンタとアタイで王国の東西をそれぞれカバーし、他の【聖域】持ちで穴をふさぐ感じで」


「おぉぉ! いいですね! それでいきましょう! じゃあ3日後の夜に」


「あいよ」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 チーム・アリス――【ふっかつのじゅもん】のことを知る、全員レベル600超えの超人集団――への説明は、ホーリィさんがやってくれることになった。


「あ、ちなみにアデスさんもチーム・アリス入りですからね。この養殖が明けたら皆さんに紹介しますので」


「あ、ああ……」


「大丈夫。あれは戦争で仕方なくやってたことだし、魔王の【従魔テイム】による洗脳のことも話せば、受け入れてもらえますって」


「ああ」


 私は魔王国語で喋ってる。ステータスを確認したら『ルキフェル王国語LV3』になってたよ。

 言語習得や魔法修得はしこたま早いのに、どうして【片手剣術】だけはいつまで経ってもLV6止まりなのか……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 そんなこんなで魔王国のことをディータと一緒に勉強しつつ10年ほど養殖した。まぁ【1日が10000年にテンサウザンドなる部屋・ルーム】内での話なので、外部時間ではほんの一瞬のことだけれど。


「成果発表ぉ~~~~ッ!!」


 ある日――っていっても豆腐ハウスの外はずっと昼だけど――もう頃合いだろうと思った私が宣言する。


「「「ぱちぱちぱちー」」」


 この数十年ですっかり私のノリに染まったアデスさんが、ノリ良く口と手で拍手してくれる。


「ってことでアデスさん、ステータスを見せてください!」


「ああ。【ステータス・オープン】!」




**************************************************

【名前】 アデス・ド・ラ・アスモデウス

【年齢】 139歳

【職業】 魔王国四天王

【称号】 四天王最弱 剣神

【契約】 アリス・フォン・ロンダキルアの従魔


【LV】 500

【HP】 30,613/70,613

【MP】 132,816/132,817


【力】   10,413

【魔法力】 13,281

【体力】  7,153

【精神力】 5,341

【素早さ】 19,114


【戦闘系スキル】

  片手剣術LV52(成長限界突破) 体術LV9 

  闘気LV38(成長限界突破) 威圧LV8 隠密LV3


【魔法系スキル】

  魔力感知LV10 魔力操作LV24(成長限界突破)

  土魔法LV1 水魔法LV1 火魔法LV1 風魔法LV1

  光魔法LV1 闇魔法LV1 時空魔法LV11

  鑑定LV8


【耐性系スキル】

  威圧耐性LV8 苦痛耐性LV3 精神耐性LV6

  睡眠耐性LV5 空腹耐性LV6


【生活系スキル】

  ルキフェル王国語LV5 アフレガルド王国語LV5

  算術LV4 礼儀作法LV3 交渉LV1 建築LV1 野外生活LV4

  料理LV2 野外料理LV2 食い溜めLV3

**************************************************




「おぉぉ……おぉぉ……」


 改めて自分のMPと魔法力を確認し、滂沱の涙を流すアデスさん。


 ――ヨシ!(指差呼称)


 MP10万超えといえば、女神様世界常識講座によれば『魔法を極めた魔族やハイエルフ』並み。つまり魔族の中でもかなり上位のはずだ。


「ありがとうございます……」


 アデスさんのごっつい手に、私の手がすっぽり収まる。

 感極まった感じのアデスさん。

 まぁ魔力が足りないってだけで成人を迎えられない世界で、魔力以外の才能で何とか生き残ってきた人だもの。苦労してきたんだろうねぇ……。


「ありがとう、ございます……」


「良かったですね!」






*************************************************************

追記回数:25,665回  通算年数:2,970年  レベル:5,100


次回、アリス、フェッテン様を吸いつつ隕石と戦う。

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