93(2,960歳)「怪獣を懐柔」
その日、王国は海の底に沈んだ…………と、思う。
いや、たぶん王国の人たちはみんなMP切れで意識がない状態だろうから、苦しみはないだろうけど……事実私も、自分の死因が分からなかったくらいだし。
でも、無数の隕石で王国中が滅茶苦茶になる様を見るのは精神衛生上よろしくなかったので、早々に【ロード】した。
◇ ◆ ◇ ◆
「ってことになりまして……各都や街、村への凱旋は、少なくともその3日後の夜を乗り越えてからになります」
「「「「「な、ななな……」」」」」
【魔王軍ごとアイテムボックス】して魔物が撤退していった翌朝に【ロード】し、【ふっかつのじゅもん】のことを知っているメンバー――陛下、フェッテン様、宰相様、パパンとママンとディータとバルトルトさんと3バカトリオにパーティーメンバーとアラクネさん、精鋭従士253名――をブルーバード経由で【
まぁそりゃ、『ななな』るわな。私もなったもの。
「どうしたものかの……」
目頭をマッサージする陛下。
「まぁ、魔力がゼロになるという現象からするに、魔王国からの攻撃の可能性が高いじゃろうな。
「……本当に」
「とりあえずは情報収集をすべきじゃろう。そなたの【アイテムボックス】の中に、何万もの捕虜が入ったままなのじゃろう?」
「……う、それはまぁそうなんですが」
そう、前世で【アイテムボックス】に収納した元辺境伯は赤ちゃん期に戻った時、【アイテムボックス】から消えてたけど、魔族の軍勢を【アイテムボックス】して以降の時間の中で【ロード】する分には、魔族たちは【アイテムボックス】内から消えなかったんだよね。
これはすでに検証済のことなんだけど、例えば○月1日に1枠【セーブ】して、○月2日に生きてる魔物を【アイテムボックス】へ収納し、また別の枠で【セーブ】する。1日経って○月3日にもさらに別の枠で【セーブ】。
こうして3つの【セーブ】データを作っておくと、○月1日時点の【アイテムボックス】にはその魔物は存在しておらず、2日と3日の【アイテムボックス】内にはちゃんと存在してるんだよ。何度行き来してもそう。
なんというか、フラグ管理がちゃんとされてんだね。
「甘ったれなそなたのことじゃ。拷問やだ怖いとか言うつもりじゃろう?」
「んなっ!?」
陛下の嘲笑に、思わずカチンときてしまう。
そりゃ私は、自分の甘ちゃんっぷりは自覚してるけどさぁ!
「なんなら儂らでやってやっても良いぞ?」
「ななな……やってやろうじゃねえかよこの野郎!」
キレる私と、
「ちょちょちょっ、アリスお前、陛下に向かってなんてこと」
たしなめるパパン。
◇ ◆ ◇ ◆
「【
◇ ◆ ◇ ◆
「【
◇ ◆ ◇ ◆
ってことで魔の森の適当なところに用意した【
いきなり四天王最弱を相手にすることにする。や、だって絶対あの軍のトップでしょ? 【アイテムボックス】の目録からのぉ【鑑定】をした限り、四天王はあの巨人ただひとりだったもの。
あと一応、魔王も入ってなかった。
「では、【アイテムボックス】内で手足を切断させて頂きまして、【思考加速】1000倍!」
からのぉ【闘気】全開! 【未来視】オン!
【アイテムボックス】!
目の前にででんっと手足を失った巨人が現れ、
【エクストラ・ヒール】! で傷口をふさぎ、
【ダイヤモンドボール】! で首から下を分厚いダイヤモンドでガッチガチに固める。
それにしてもこの魔族、改めてでかい。脚がそのままなら、3メートルはあるんじゃないかしら。大怪獣か!
んで、この巨体から繰り出される、あの目に見えない剣筋よ。
これで四天王最弱ってマ? あの間諜――ベルゼネ・ド・ラ・ベルゼビュートより確実に強いっしょ。
お、魔族が驚愕の表情で眼下――私を見る。まだ1秒も経ってないんだけど、状況は分かったようだ。
念のためこいつの顔の周りにも【物理防護結界】を張り、呼吸と会話ができるように、頭頂部にメッシュ状の穴をあける。
こいつだったら、歯とかツバとかでも攻撃してきそうだもの。
【飛翔】で目線を合わせ、【思考加速】1000倍のまま数秒見つめあう。
まるで鬼のような険しい顔、角、ゴリゴリのぶっとい首を持つ魔族は、真っ赤に輝く瞳で私をにらみつけている。比喩ではなく、実際に光ってる。どういう原理だろう……。
よし、【セーブ】っと。
会話のために【思考加速】と【未来視】をオフり、
「対話するつもり、あります?」
「……ない」
「なぜ?」
「……」
「ねぇどうして?」
「…………」
「魔王国のこととか、魔王の弱点とか、教えてくれると嬉しいな。教えてくれたらご飯食べさせてあげますよ?」
「………………」
「このまま何も喋らなかったら、餓死どころか
下半身も、1ミリの隙間もなくダイヤで覆ってるからね。
「……………………」
徐々に瞳の光が失われていき、黒い瞳が顔を表した。なるほど、本来の色は黒なのか。
「ほら、動けないんでしょう? ここはちょっとでも私の機嫌を取って、生き延びるのが上策だと思いますけど」
「……お前が人族だからだ」
「ん? あぁ、私と対話してくれない理由ですか。なんで人族だとダメなんですか?」
「人族は無価値だ。駆逐せねばならない」
駆逐て! 駆逐艦か! 第六駆か! 恥ずかしながら初期艦は電ちゃんだったよ! 幼女――少女?――のクセに髪を結い上げてるとか大人の女性と少女の狭間感あってたまんないでしょ!?
仕事の一環でのソシャゲ調査のつもりで始めたらどハマりしたよ……。
あ、とりま話を目の前の魔族さんに戻そう。
「どうして無価値なんです?」
「魔王様がそうお定めになさっておられるからだ」
うおっ、再び真っ赤に輝きだした瞳!
なんだ? なんかの魔法? うーん……。
◇ ◆ ◇ ◆
とりま四天王最弱は収納し直し、他の魔族――できるだけレベル帯をバラけさせて抽出した数百名と同じように対話してみる。
さすがに手足は切り落とさないでおいた。ダイヤモンドでグルグル巻きにはしたけど。
皆一様な反応を返した。
魔族『人族殺さなきゃ』
私『なんで?』
魔族『魔王様がそう決めてるから』
何人かの弱そうな魔族は命乞いしたりご飯くれって反応したけど、『人族に害を成さないって約束してくれるならご飯あげるよ』って言ったら、『は? 人族は殺さなきゃダメだろう何言ってんの』と返ってきた。
皆、瞳を真っ赤に輝かせながら。
うーん……『人族殺さなきゃ』っていう強迫観念というか、洗脳っぽい感じがする。
ってわけで、再び四天王最弱さんを目の前にどん!
「ふっふっふっ……あなたが魔王の従魔じゃなくなったら、どうなるかな?」
「なっ……!? 魔王様の【無制限
「【
手の中に生まれたほんのり白く光る首輪を、【テレキネシス】で四天王最弱の首に手早く巻く。首輪は一瞬だけぱっと輝いたあと、光を失った。
……成功、かな?
「な、ななな……」
ビビってる四天王最弱さん。
「ねぇアデスさん、あなたのステータスを見せてもらえますか?」
以前【鑑定】で知った、この魔族の名前を呼ぶ。まぁ己の従魔なら【
「……ははっ! 【ステータス・オープン】ってなな!?」
命じられ、その通りにしてしまったことに驚いた様子のアデスさん。
果たして、ステータスの【契約】欄は『アリス・フォン・ロンダキルアの従魔』になり、魔王の従魔という記述は消えていた。
「ねぇアデスさん、まだ『人間殺さなきゃ』って思います?」
「……いや」
「でしょうね」
だって目が赤く光ってないもの。
ふふふん、鍛えに鍛えた【
「その強迫観念は、魔王からの影響のようです。まぁすでに強制的に【
私の目的は魔王討伐ですが、魔王国の民を殺して回ろうとか、奴隷にしてこき使おうとか、そういう意志はありません。現に魔王国へ攻め入ってきたあなたの軍勢は全部、私の【アイテムボックス】の中に生きたまま入ってます。魔王討伐ないし拘束が叶い、講和が結ばれた後に、全員解放してあげましょう」
言いながらダイヤを【アイテムボックス】へ収納し、無詠唱の【パーフェクト・ヒール】でアデスさんの手足を再生させてあげる。
「――…」
無言で片膝ついて、
「我が軍で働くと誓ってもらえるなら、私のできる範囲で、いろんなものを差し上げましょう。差し当たり、何か欲しいものはあります? ご飯? お風呂? 家?」
「……が欲しい」
「え?」
「力が欲しい!」
「んんん? あなた十分強いじゃない。この国であなたより剣に優れた人、たぶんいませんよ?」
「違うのだ。魔族は魔力至上主義。いかに剣と膂力に優れても、魔力が低ければ蔑まれるのが魔王国なのだ。確かに、私は強い。だが、魔力を伴わない武力は嘲笑の的になるだけだ」
あぁ確かにこの人、【闘気】と【魔力操作】は成長限界突破してるくせに、MPと魔法力はどちゃくそ低かった。
しっかし……なんか拗らせた種族だなぁ魔族。
まぁ魔法神が全ての元凶なんだろうけど。魔法神死すべし慈悲はない。
「力が……欲しいか……」
「え? だから今、欲しいと」
「――くれてやる!」
「あ、あぁ、ありがたい……?」
というわけで、レベリング開始!!
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追記回数:25,665回 通算年数:2,960年 レベル:5,100
次回、アリス「強くなくては生きていけない。優しくなければ生きていく資格がない」
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