91(2,960歳)「VS 四天王最弱リベンジマッチ」

「仕上がりましたぁ~」


 例の巨人魔族が現れる直前のポイントへ【ロード】する。


「――労をかけるな……って、え?」


 セリフの途中だった陛下のキョトン顔。


「だから、仕上がりましたよ! 見てください! 【無制限アイテムボックス】と【時空魔法】レベル99カンスト!!」


 ウィンドウステータスを見せる。


「……そなた、人のセリフの途中で【セーブ】しないでほしいのじゃが」


「すみません……こう、つい前のめりでいっちゃうんですよね」


「ほほぉ~……レベル99なんぞという意味不明な文字を見る日が来るとは!」


「アリス、私にも見せてくれ! うわっ、マジか!」


 フェッテン様ドン引き!


「えへへ……ってことで、例の魔族はあっちの方向から私めがけてすっ飛んで来ますので、フェッテン様はいつものように私をどんっと突き飛ばしてください」


「いや、『いつものように』というが、その記憶は私にはないんだぞ?」


「え? あれ? そうでしたっけ? 前世の記憶があるんじゃ……」


「あー……そういえば言ってなかったか。記憶があるのは前世のみなんだ。アリスと私の今世でアリスが【ロード】で消した時間の記憶はないんだよ」


「へー……そういうもんですか」


「ああ」


「まぁとにかく、なぜか過去2回ともフェッテン様が私より先に察知して、射線上に割って入ってくれたんですよね」


「そりゃ【闘気】と【片手剣術】がカンストだから、気配察知能力がパナイんだよ」


「私だって【闘気】はカンストなのに……」


「これだけ長く養殖してるのに未だ【片手剣術】レベル6っていうのが、私には逆に不思議だよ」


「むむむ……」


「さて、そろそろ始めようかの」


 陛下のご発言で、私たちのイチャラブトークは終了。


「はい! では【1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】を解除しますよ。3、2、1、今!」


【思考加速】1000倍。【闘気】全開。【未来視】オン。

 念のため、私の前面に【物理防護結界】をもう1枚。


 果たして数秒後、ヤツはすっ飛んで来た!


 打合せ通りにフェッテン様に突き飛ばしてもらい、ディータ、ノティアさん、ホーリィさん以下結界魔法が得意なメンバー全員が魔族とフェッテン様の間に結界を張り、その結界が、魔族の大上段の一閃で次々と破砕していく中、私は冷静に魔族を見定め、魔力の限りを注ぎ込み、






【アイテムボックス】!!






 果たして――


「やった!!」


 魔族の姿が消えた!! 確認すると、確かに【アイテムボックス】内に収納されている!!


「やりました!! やりましたよ!!」


「やったなアリス!!」


 何気に肩口をざっくり斬られてたフェッテン様が抱き着いてこようとして、


「ひっ!? 【パーフェクト・ヒール】! 回復が先でしょフェッテン様!」


「なぁに、あのくらいの傷。そなたの命を守れたと思えば安い安い」


 死な安! 死な安!


 かくして、長く苦しい戦いは終わった……具体的に数十年間くらいの。


「ってことで陛下、ちょっとやりたいことがございまして……」


「なんじゃ?」


「【極大落雷】で魔族たちを殺す前に戻って、綺麗さっぱり全軍一気に収納してしまいたいのです」


「そなたは本っっっっっっっっっっ当に甘いやつよな! こちらを殺そうとする敵にまで情けをかけるのか?」


「捕虜は多い方がいいじゃないですか。それに、今まで魔物はさんざん屠ってきましたけど、やっぱり人を殺すのには抵抗があって……私が2回彼らを殺した事実は消えなくても、結果として殺さずに済むならその方が精神衛生上良いんですよ」


「ふん……まぁ、好きにするが良い。――じゃが!!」


「はい?」


「フェッテンとそなたの濃厚なキスの記録を上書きするのは許さんぞ? 戻るならそれ以降にせよ」


「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、私はみたび砦上空の小規模【1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】内で魔族の軍勢を観察してる。

1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】を解除して、3度目となる恥ずかしい演説をこなす。


「全軍戦いはそのままに聞けぇ!! ついに魔族の軍勢が現れた!! だが恐れることはない!! 私は諸君らがどれほど強いか知っている!! そして諸君らもまた、私がどれほど強いか知っている!! 上空の警戒を厳にしつつ、魔物への対処を継続せよ!!」


 も、もういい加減恥ずかしいよ!


「「「「「うぉぉぉぉおおおおお!! アリス様万歳!!」」」」」


 そんで、ウケないでよみんな!


 そしていつの間にか、私の周りには253名の精鋭従士たちと、陛下以下超精鋭14名。

 彼らを【1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】内にご案内して、ここまでの旅路を説明する。


 2度死んだフェッテン様。1度死んだこの場の皆様。まったく歯が立たなかった私。

 みんなの顔色は悪い。


「でも大丈夫です! 先ほどレベル99の【アイテムボックス】でその巨人を収納することに成功しましたから!」


 からの、『スキルレベル52ぃ!? 成長限界突破ぁ!?』をこなし、皆様にはご安心頂いた。


「というわけで、【1日が1000年にワンサウザンドなる部屋・ルーム】を解除し次第、私が魔族の全軍を収納します」


「あ、あははは……そなたと始めて――前世で――出会ったあの日、オークの首を消し飛ばす【首狩りアイテムボックス】に驚いていたのが、ウソのようだな」


 引きつり笑いのフェッテン様。ええ、私もそう思いますよ。


「では解除します。3、2、1、今!」


 魔族の軍勢を入念に【探査】し、結界範囲を定め、


「【物理防護結界】!」


 極大結界に包まれる魔族の軍勢と飛空艇2隻。


「刮目せよ!! 成長限界突破すらカンストした、私の【アイテムボックス】レベル99を!!




【フルエリアぁ・アンリミテッドぅ・ア~イ~テ~ムぅ~ボックス】!!」




 果たして、結界内は誰もいない何もない、綺麗な更地となった!!


「ぃよっしゃあ!! 勝ったッ! 第3部完!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 軍勢が消えるや否や、魔物たちは一斉に魔の森の方へと逃げ帰っていった。

 まぁ私だって遠距離『視覚共有』ができるんだから、魔王にだってできるんだろう。


 やぁしかし良かった! 魔物の集団暴走スタンピードが永遠に終わらなかったらどうしようとか思ってたからね!

 当面は『アフレガルド王国対魔物警戒網』は維持しつつも、厳戒態勢は解いて、まずは交易の自由を再開しますか。で、数日様子を見て問題なさそうだったら山・森・海へ入るのも許可しよう。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 3日ほど平和な日が続いた。

 私は城塞都市、辺境伯領都、王都、各領都、街・村の順でフェッテン様やパパン、パーティーメンバーと一緒に凱旋し、人々の安心感醸成に努めた。


 ついでに、集まった人々に塩を無料配布しまくった。

 こうして、王国から塩の相場が『消滅』した。『暴落』ではなく『消滅』。これで塩ギルド員たちも、後ろ髪を引かれることなく私の新産業の工房・店舗に行けるってなもんだ。


 もちろん陛下にはご許可頂いてるよ?

 というか6~7年前、私が領民ほぼ全員をレベル100にした時点で、辺境伯領では塩の相場は大暴落してた。だって誰でも魔物や海水から塩を作り出せるだけの魔力と技量を持ってたし、辺境伯領内の塩ギルドは私が解体したもの。

 領民にとって、塩は水と同じくらい簡単に手に入るものになってたんだよね。


 いやぁ、この世界に生れ落ちて早数千年。薄ーい塩味のスープを飲まされてたあの頃からは隔世の感があるね!

 これでようやく、この世界の人々が塩不足による体調不良や食欲減退からくる栄養失調に悩まされることなく、逆に塩分過多に悩まされる日々が来るわけだ!


 ダメじゃん!

 いやまぁでも文明の発展ってそういうものだし……。

 一応、塩を配った時に『塩の摂り過ぎは体に良くない』って演説して回ったよ。みんな一様に『……なんで?』って顔してたけど、【栄養学の母】とかいう称号持ちの私の言うことだから、無下にはされまいて。


 昼はそんな感じの広報活動。

 んで夜には、


「フェッテン様ぁ~~~~……あ゛あ゛あ゛あ゛~……」


 王城の『アリス部屋』に今朝洗ったばかりのチビを連れてきて、フェッテン様とチビの同時吸いをキメさせてもらった。チビのフカフカ脇腹を枕に、フェッテン様を抱きしめる。

 同衾? 同衾ではない。チビはチビであって寝具ではないから。

 フェッテン様は普段、私が吸うのを嫌がるんだけど、今回ばかりは長い長い戦いに勝利したご褒美として、3日連続で許してくれた。


「よくがんばったな。よくがんばった……」


 フェッテン様に柔らかめに抱きしめてもらいながら、頭を撫でてもらう。


「……ん? なんだか懐かしいな。なぜだろう?」


 フェッテン様の声。


「ああ! これは12年前の!」


「あ、あはは……あの時は、まごうことなき同衾でしたね……」


「今だから言えるが……アリス、愛に飢えて毎日が不安な子供に対して、ありったけの善意と愛情とスキンシップを1週間連続で与え続けるのは、良くないぞ」


「どうしてですか?」


「惚れ込むに決まってるだろう!」


 そうなの? うーん……逆の立場になって考えてみよう。

 顔も滅多に見せてくれないパパンとママン。よそよそしい乳母さん。使用人たちも遠巻きに見ているだけで、優しさや触れ合いのない日々。パパンの第2のお嫁さんから毎日のようにされる、一歩間違えれば命を落としかねないイジメやイタズラ。日に日に悪くなってゆく、原因不明の病……うわきっつ!


 んで? 13歳のある日、顔は隠してるけどめっちゃいい匂いのするイケ声のお兄さんが、第2のお嫁さんが仕込んだ毒蜘蛛から助けてくれて、超安全な環境でいきなりレベル100にしてくれて、あっという間に病を治してくれて、毎晩添い寝してくれて、怖い夢を見たら『大丈夫、大丈夫』って背中をトントンしてくれる――


「惚れるわ!!」


「だろう? もはや洗脳だぞあれは。私が前世のことを思い出さなかったら、どこかで正体を明かして私を心酔させるつもりだったのか?」


「そそそそんなことはしないですよ! どころか、フェッテン様が湯治様の王子に来なくって、結果として私がフェッテン様と出会えなくなって、フェ、フェッテン様が、わ、わ、私じゃない誰かを選んだと、し、ても……うわぁぁぁぁあああん、フェッデンざばぁ~~~~ッ!!」


「すまん! 悪かったよ! 大丈夫だ、大丈夫。私は何があろうとも、そなたのことを愛しているから」


 泣きつかれて、フェッテン様に背中をトントンしてもらっているうちに、心地良さの中で眠りについた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ……おぎゃあっ、おぎゃあっ……


 聞きなれた声。

 生まれたての、私の、声。


 え? え? え?

 どどどどうして!?!?!?


 し、死んでる……。






*************************************************************

追記回数:25,656回  通算年数:2,960年  レベル:5,100


次回、アリス、己の死因を探る。

能天気アリス「フェッテン様が尊すぎて尊死、とか?」

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