72(1,246歳)「身バレ ~愛ゆえに~」

 そして5年の年月が過ぎた。

 ま、基本的には前世と同じ。

 同じ日時に同じ相手に同じことを喋りつつ、内心では常時『次にお前は○○と言う!(ばぁあああん!)』状態なのがちょっと滑稽だったけどね。


 で、女神様の仰った通り、従魔もチビとアラクネさん始め、全て同じ子たちと出会えたよ! 良かった……本当に。

 チビに関しては、わざわざゴブリン上位種になぶられてから助けるのも可哀そうだったのでゴブリンを屠りながら姿を見せたんだけど、ドラゴン肉と私の実力を見せたことで懐柔に成功した。なんつったって長年の付き合いだもの。チビの性格は把握しきっている。


 前世と違う点といえば、アインスとツヴァイにそれぞれ見張りストーキングをさせてたことと、神級時空魔法【エイジング】で強制成長させた体でフェッテン様を助けて回ったことと、前世の城塞都市での越冬期に餓死・凍死した人たちへそれとなく最低限の施しをしたくらいか。

 たまたま家の前にオーク肉の塊や薪束が置いてあったくらいだ。誰も私の存在には気づいてない。ダイジョブダイジョブ……。


 フェッテン様に関しても、顔は隠してるからダイジョブダイジョブ……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 と、思ってたのにぃ……。


「――アイリス!?」


 陛下との謁見の時、顔を上げた途端、身バレした。


「えぇぇええええええええ!?」


 あっ、しまった! こんな派手な驚き方、白状したも同然。

 でもなんで!? 顔は隠してたし年齢も全然違う! 声? いやしかし……。


「アイリス! いや、! 会いたかった!」


 とっさに【ロード】で逃げようとした私の手を握る、フェッテン様。


「今度こそ、そなたを守り抜いてみせる!!」


 剣ダコのいっぱいついた、たくましい手。

 懐かしい、いっぱいいっぱい握りあった――


「ふぇ、ふぇ、フェッテンざばぁぁあ~~~~ッ!!」


 泣き出してしまった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「……でも、なんでですか?」


 ポカーン状態な陛下、宰相様、パパンとママンは放置しつつ、とりまフェッテン様から事情聴取。まぁいざとなれば今朝に【ロード】可能だし。


「5年前に魔の森で、怖い夢を見てそなたに抱きしめてもらったことがあったろう?」


「は、はい」


 ショタ・フェッテン様相手だし不安そうだったので、思わずど、ど、同衾どうきんしちゃったんだよね……陛下には聞かれたくないなぁ。


「あの時見た夢こそ、13年前に死にゆくそなたを抱きしめた夢だったんだ」


「ってことは――」


「あぁ。おぼろげではあるが、私に前世の記憶がある!」


 な、ななな、なんてこと……。


「でも、なんで私が『アイリス』に化けてたって分かったんですか? 顔隠してたのに……」


「雰囲気と声は似ていたし、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】が使えるのなんて、そなたくらいなものだろう? いや、あの部屋は100年よりもっともっと圧縮されていたな。ん……そなた、もしかして死に戻るたびにステータスを引き継いでる……?」


「わわわ、あわわわわわ……」


 フェッテン様鋭い!


「ちなみに私の前世はそなたの何回目なんだ?」


「1回目です。……まぁ厳密に言うとちょっと違いますけど、5歳まで成長してフェッテン様にお会いしたのは、1回目の人生です」


「良かった……私が、そなたにとって初めての婚約者ということだな?」


「え、えへへ……そうなりますね」


「改めて、本当に……本当に久しぶりだな、アリス。1ヵ月振りと、13年振りだ!」


『アイリス』としては1ヵ月前にもお会いしてるからね。


「そしてアリス、前世では守り切れず、本当にすまなかった……」


「いやぁアレは仕方ありませんよ。魔族が用意した猛毒の武器で、内通者が背中からブスリですよ? こちらこそ、ひどいトラウマ植えつけちゃってごめんなさい……」


「内通者? あの日、あの場にいた者というと……」


「……はい。今から、その話もしなければなりません。でもその前に――」


 ポカーン状態から復帰してこない陛下、宰相様、パパンとママンを見渡し、


「皆さんにご説明をしなければならないんですけど、まだ戻ってきそうにないので、ちょっと女神様に状況を確認してきます」


「ああ。私の方は説明を始めておくよ」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 勝手知ったる城塞都市の教会へ【瞬間移動】。ここの人たちは、礼拝堂中空にいきなり私が現れても、そして何も言わずにゼニス様像の前で祈りだしても、別に驚かないし何も言わない。『そういう生き物』として受け入れられているから。


 まぁあの場でお祈りしても女神様は出て来てくれると思うけど、ゼニス様像の前の方がお祈りしやすい気がするんだよね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「はいはーい。見てましたけど、なんだか凄いことになってますね」


 いつもの不思議空間で、いくつものウィンドウを開き、何やら調べ物をしている様子の女神様。


「そうなんですよ! まさかフェッテン様が記憶を引き継いでいるなんて!」


「【ふっかつのじゅもん】を【鑑定】して調べてるところなんですけど……ちょっと時間かかりそうです」


「待ってます」


 調査には丸1日かかった。まぁあくまでこの不思議空間内での時間経過なので、外部時間は動かないしお腹も空かないんだけど。


「な、な、な、なん……」


 そして、いくつものウィンドウとにらめっこしていた女神様が、驚愕の表情のまま、理由を教えてくれた。


「あ、アリスちゃんのことを強く想う1~2名の人にのみ、おぼろげながら前世の記憶を残す機能が実装されてます……」


「ぅぇええええ!? そんな機能があったんですか?」


「いえ、私はそんな機能付けた覚えはないです……けど、あらぁ~」


 にまぁ……っと笑う女神様。いじわる気な笑顔も可愛い。


「『期間限定時空神の強い願いにより実装された』ですって」


「私かぁ~~~~~~~ッ!」


 期間限定時空神わたしだった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 略式謁見室に戻ってくると、ようやく皆さんが再起動し始めていた。


 全てゲロりましたよ。私が転生者であること以外は、全て。


【ふっかつのじゅもん】で何度でもやり直せること。

 それを利用して赤ちゃん期にMPを鬼養殖したこと。

 セーブ枠は10枠あって、いつでも赤ちゃん期や昨日とか1年前に戻れて、やり直せること。


 1周目の人生のあらましや魔王復活のこと。

 前世でロンダキルア辺境伯に謀殺された下りでは、パパンが悲痛な顔をしていた。まぁ、そりゃそうだわな。


「こちら、私を殺した『蟲毒の短刀』です」


 テーブルの上にごとりと置いたナイフに、皆の視線が集まる。鑑定結果を教えてあげたら、みんな顔を青くしていたよ。


「ちなみに、【毒耐性】をまったく持っていなかった私が、いきなりレベル10になりました」


「「「「「な、ななな……」」」」」


 そして、2周目、アイリスとツヴァイを使って辺境伯とフェッテン様をストーキングしてたこと。


「げっ……」


 フェッテン様、頬を引きつらせていらっしゃる。


「ご、ごめんなさいぃ……今日からはもう止めます。アインスちゃん」


 声をかけると、フェッテン様のすぐそばを【浮遊】していたアインスが【光学迷彩】と【隠密】を解いて姿を現した。


「「「「「な、ななな……」」」」」


 フェッテン様も含めてビビる皆様。


「あ、でもフェッテン様、その、別にフェッテン様の私生活を覗き見たりはしておりませんので! アインスちゃんがフェッテン様の危険を察知した時は覗かせて頂きましたけど……」


「あ、そうなのか? じゃあこれからもよろしくな、アインス!」


「おぉぉ……」


 さすがはフェッテン様、あっさりとしてらっしゃる。


「承知致しました、殿下」


 アインスちゃんが起伏の乏しい声で答え、再度姿を消す。


「今の子に感情はあるのか?」


 聞いてくるフェッテン様に、


「いえ、知能はあっても感情はありません。そういう魔法です」


「ふむ」


 続いて辺境伯のストーキングで得た情報について。

 魔王国四天王のひとりらしき魔族と内通していること。

 その魔族から栄養学の知識を得、フェッテン様を脚気にしようとしたこと。

 

「ふむ……じゃが、あやつは儂の臣としての【契約】に縛られているはずじゃが」


「はい、それが……その魔族に【従魔テイム】されることにより、【契約】を上書きできるそうなのです」


「なんということじゃ……」


 そして、その魔族に言われるがまま、城塞都市の弱体化や内務閥と軍務閥の不和醸成に勤めていること。


「ただまぁ……あの魔族、1歳の頃に試しに戦ってみたんですが、千回やっても勝てませんでした。辺境伯があの魔族に逆らうのは無理でしょう。そういう意味では、情状酌量の余地はあるかと」


 パパンの顔色が余りも悪かったので、そう言ってフォローを入れた。


「なるほどのぅ……というか、そなたでも勝てんのか?」


「あの時は魔力・魔法力・【時空魔法】回り以外のステータスをレベル1相当に下げてましたので、今なら勝てるかもしれません」


「ふむ……ではその魔族を殺害し、ロンダキルア辺境伯の身の安全を確保したのちに、きゃつの罪を断じることとするかの」


 とりあえず辺境伯が見殺しにはされないと分かり、パパンの表情は明るくなった。あんな人でも、やっぱり親なんだね……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ひとしきり報告が終わったあと、


「陛下、少しアリスと話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 とパパン。


「よいよい。話したいことはたくさんあるじゃろう」


 前世通りに優しい陛下。


「アリス、父さんたちに勇者であることを打ち明けた時に、どうしてこのことも話さなかったんだ?」


「だ、だって、中身がおばあさんだとか思われたくなくて……」


「お、おば……だったら【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】内で鍛えたあとに言えば良かったじゃないか。数百年も数千年もそう変わらんだろう」


「それは、その……私の一存でこの世界を好きにやり直せるなんて知られたら、怖がられたり気味悪がられないかな、と」


「……でも、前世のお前は、最後の最後まで、1週間も寝ずに戦い続けたんだろう?」


「…………はい」


「王国のために」


「……はい」


「ただのひとりの犠牲者も出さずに」


「はい」


「どこに怖がったり気味悪がる要素があるんだ?」


「ぅ……ぅぇえええん!! おどうざばぁぁああ~~~~ッ!!」


 今日は泣きっぱなしだな……。






********************************************************************

追記回数:15,841回  通算年数:1,246年  レベル:600(2,127)


次回、間諜の女スピオーネへのリベンジマッチ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る