66(1,241歳)「168時間戦えますか?」
『ピロピロピロッ!!』
4日後の昼下がり、
この子は……あー、予想していた通りロンダキルア辺境伯領・宿場町北の森担当の子やないかい!
「しゅつげぇ~~~~きッ!!」
砦の広場に【瞬間移動】して力の限り叫ぶと、ものの数十秒で完全武装のパパン、ママン、ディータ、バルトルトさん、3バカトリオ、パーティーメンバー、アラクネさん、108名の従士が現れた。アラクネさんは王国語が喋れるので精鋭チーム扱い。
可愛い弟ディータ9歳も戦力に数えている。ディータのレベルは確か、400手前とか言ってたっけか。
「ロンダキルア辺境伯領・宿場町北の森です! ロンダキルア辺境伯様が自分で対処すると言っていたので、防御のみ行うこと! では私が【瞬間移動】で森上空へ引っ張ります!」
「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」
「3、2、1、今!」
◇ ◆ ◇ ◆
ひどく統率のとれた
だって、普段ならこっちから攻撃しないと敵対しないような温厚な草食系魔物までもが、群れを成して近くの宿場町へ向かって一直線に猛ダッシュしてたんだよ!?
明らかに戦略的な意図を感じた。
まぁ、それでもたかだかF~Bランクの魔物数百体に対して、こっちはあまりにも過剰戦力だったよね。
とりま、従士さんのひとりが【物理防護結界】と【魔法防護結界】で宿場町全体を取り囲み、もうひとりの従士さんが【物理防護結界】と【魔法防護結界】で魔物相手に網を張りつつ、もうふたりが周辺街道に人がいないか【探査】して回った。
これにて安全確保は完了。
「で、一番陰鬱なお仕事、あの辺境伯様へのご連絡ですけど……お父様、一緒に来ません?」
「と、父さんは宿場町で住民を安心させてくるよ」
といって【瞬間移動】で消えるパパン。
「あー……逃げないでくださいよぉ」
ママンによしよしされ、気合を入れ直した私は辺境伯邸の門へ【瞬間移動】。
◇ ◆ ◇ ◆
「なんなのだ貴様は連日!」
「宿場町で
それ以上細かくは説明しない。する義理がない。せいぜい肝を冷やせばいい。
「なっ……!? あ、貴様、宿場町に勝手に従魔を住まわせていたのか!?」
はぁ? 気にするとこそっち?
「町じゃなくて北の森にですけど」
「同じことではないか!」
「で、どうするんです? 現在進行形で
……まぁ嘘だけど。
「き、き、貴様に引き抜かれた従士たちは!?」
「そりゃ当然、城塞都市や、私の従魔を置くことに了承してくださった各領の見張りに出払ってます」
これも嘘だけど。
「ぼ、冒険者ギルドに緊急依頼を――」
「宿場町にギルド支部はありません。ここから宿場町は2日、城塞都市から宿場町でも1日の距離があります」
「宿場町の自警団に――」
「
「――…」
「ヒント。私、大人数を連れて【瞬間移動】できます」
「だ、だからなんだというのだ!?」
「あるじゃないですか、戦力。ここ、庭の内外、城壁の内外を守っている――【探査】!――782名の屈強な従士さんたちが」
「儂らを守る戦力が減るではないか!」
「――ッ!!」
ばちぃぃぃいいいん!!
思わず、手が出てしまった。
頬を叩かれ、椅子ごとひっくり返る辺境伯。そりゃ手加減はしたよ。じゃなきゃコイツの頭部を破裂させてた。
「――【瞬間移動】」
◇ ◆ ◇ ◆
宿場町上空に戻ると、パパンが戻ってきてた。
「その顔は……やっぱダメだったか?」
「…………とりあえず、この魔物たちを消しましょうか。【アイテムボックス】」
◇ ◆ ◇ ◆
入念に【探査】して、人前に出てこれるような成体の魔物が1体も残っていないことを確認した上で、町長さんに『もう大丈夫』と告げて砦に戻ってきた。
ちなみに、幼体まで狩り尽くしちゃうと冒険者の仕事がなくなっちゃうので、それはやらない。
というか、どうも戦いに耐えれない幼体はあえて暴走させず、むしろ森の奥に避難させていたっぽいんだよね……どこまでも戦略的で的確な
◇ ◆ ◇ ◆
「アリス、さすがに全員動員しなくても良くないか?」
砦に戻ると、パパンにそれとなく咎められた。
実際、働いていたのは従士数名だけだったし。
「ですよねー。最初だからと気合入れ過ぎちゃいました。じゃあ10人前後で12チーム作りましょう。チーム編成はバランスを考えると――」
「それだとこのチームの【探査】力が心もとなくないか?」
「こうなら――」
「こいつとこいつを入れ替えて――」
「アリスちゃん……」
パパンと一緒に熱中していると、ママンが声をかけてきた。
――って、あっ!
「とりあえずこの場は解散させた方がいいんじゃない?」
116人を放置しっぱなしだった……。
「ご、ごめんなさいぃ……とりあえず次来たらこうこうこのメンツで出撃するとして、皆さんは解散してください」
「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」
ちなみに、フリーダムなアラクネさんだけはさっさと解散してたよ。
◇ ◆ ◇ ◆
チーム編成とローテーションを決めたあと、フェッテン様の部屋の隣、『アリス部屋』に【瞬間移動】して扉をコンコン。
フェッテン様が出てきて、ちょっとだけイチャイチャする……っても手を握ったり髪に触れあったりする程度だけど。さすがにまだ12歳の体だし未婚だからね……。
はぁ……癒されてゆく。
あっ、髪に顔をうずめて吸おうとしたら逃げられた。ちょっとくらい吸わせてくれてもいいじゃんよー。
その後、陛下に謁見し、最初の
「ロンダキルア辺境伯は、王国の敵です」
私ははっきりと、そう言った。
◇ ◆ ◇ ◆
『ピロピロピロッ!!』
その日の深夜、
この子はアイドルバンド男爵領の森を見張ってる子だな!?
砦の従士108名の居住スペースへ【瞬間移動】し、設置している鐘をカーンと強く1回鳴らす。1回につき1チーム出動ってわけ。
数分で、完全武装した従士9名が現れた。これに私を加えたのが『Aチーム』だ。
大魔王でもぶん殴ってみせらぁ。
でも、飛行機だけは勘弁な!
「ドルバン男爵領の森です! 私の【瞬間移動】で行きますよ!」
「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」
「3、2、1、今!」
◇ ◆ ◇ ◆
ま、
Sランクの魔物ですら瞬殺できる私たちに、苦戦する要素なんざない。
10名でも過剰戦力かも。明日練り直そうかな。
「じゃあ帰りま――」
『ピロピロピロッ!!』
「まじか」
『ピロピロピロッ!!』
「ええっ」
『ピロピロピロッ!!』
「うそ……3ヵ所同時!? あわ、あわわ……」
「アリス様、失礼します!」
従士のひとりが【瞬間移動】で私たちを【
「まずは落ち着きましょう」
検討時間無限大のこの部屋に連れて来てくれた女従士のアメリアさん24歳に軽く抱きしめられて背中をポンポンされる。
「大丈夫、アリス様と我々なら、誰ひとり犠牲を出すことなく、きっと切り抜けられますから」
「あ、ありがとうございます……おかげで落ち着きました」
なんか包容力あるなぁ……私の方が数十倍年上のはずなのに。
「3ヵ所のうち、どれが一番危険そうでしたか?」
この場合の『危険』というのは、私たちが危ない目に遭う方ではなく、近くに村や街はないか? という意味。
私は【アイテムボックス】から地図を取り出す。陛下から賜った、めちゃくちゃ詳細な地図――軍事機密のかたまりだ。ちなみに同じ地図を尖兵119名は全員下賜されている。
「ここ、この山です。麓に農村があります」
「ではアリス様は今からそこへ向かってください。他の2ヵ所はどこですか?」
「ここと、ここです」
「承知しました。私は砦に戻り、ロンダキルア閣下にこのことをお伝えし、2チームを出して頂いたのち、アリス様に合流しますね」
ロンダキルア閣下とはパパンのこと。私も閣下呼びだとロンダキルア閣下になってややこしいので、『アリス様』呼びしてもらっている。
「はい。ありがとうございます、アメリアさん。あなたがいてくれて良かった」
アメリアさんは優しく微笑んで、
「光栄です、とても。――【瞬間移動】!」
「さて、じゃあ私たちも行きますか!」
「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」
◇ ◆ ◇ ◆
そして地獄が始まった。
常時複数個所で
そして、空が明けてきた頃。
『ピロピロピロッ!!』
「――ついに、か」
魔の森方面のブルーバードからのお呼び出し。
ついについについに、魔の森で
『チビ!』
『わふっ!』
砦のチビと『意思疎通』。
『フェンリル隊は魔の森に入って! 怪我した子は速やかに撤退! 殉職は許さないよ!』
『わふっ!』
現在【
なので戦闘用従魔はフェンリル1種類のみ。デスキラービーちゃんたちはあくまで蜂蜜要員でレベル200止まりなので非戦闘員扱い。
現在発生中の
私は城塞都市の教会に【瞬間移動】して鐘を滅多打ちする。
意味は『戦闘員は直ちに出動し、壁の上で魔物を迎撃。非戦闘員は家の地下ないし最も安全な場所へ避難せよ』。
『ピロピロピロッ!』
うへぁ……事ここにきて、北の山脈から
『ピロピロピロッ!』
『ピロピロピロッ!』
『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』
◇ ◆ ◇ ◆
【瞬間移動】で国中を飛び回り、119名の精鋭を【
1チーム1~2人編成――もはやチームじゃないな――で組み直し、【おもいだす】で各ブルーバードの監視場所を思い出しつつ割り振った。手が空いてるのは3チームしか残らなかったよ。
こういうとき、半日たっても1秒にしかならないこの部屋はホント便利。
「じゃ、私たちは魔の森防衛としゃれ込みますか」
残った3チーム――いや、3名。
そう、いつものメンバー、私、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんだ。
◇ ◆ ◇ ◆
魔の森からは、フェンリル戦闘部隊が討ち漏らした魔物があふれ出てきたところだった。まだまだ森入口の魔物だけなので、ゴブリンやオークの上位種程度だ。けど量が尋常じゃない。津波……そう、魔物の津波だ。
いちいち首を狩るのも面倒なので、【平原ごとアイテムボックス】で魔物をどんどん消していく。
とその時、
「アリス! 北の空!」
ホーリィさんの声。空を見上げると、
「え? うぎゃあ
こっちにまで来たのかよ! 【探査】したら42体いる!!
ヤバいヤバいヤバい! 壁の上には低レベルな軍人さんたちがいっぱいいるんだ。くそっ、こんなことになるなら軍人さんたちも避難させるべきだったか!?
目の前からは津波のような魔物の群れ、北の空からは壁めがけて飛んでくる
「ちょっ、どうしよう、一度
その時、【探査】から
「えっ!?」
空を見上げると、
「フェッテン様!!」
フェッテン様が【飛翔】しながら、得意の剣術で
続いてフェッテン様が私にウインク!
ズキュゥゥゥウウウウウウウウウン!!
ほ、惚れちゃいそう……あ、もう惚れてたわ。
とはいえ状況は
「皆さん、10秒間耐えてください!」
「あいよ!」
「「はい!」」
『ブルーバードちゃんたちも! 10秒間だけ警報中止!』
【
ってことで、【
そして【アイテムボックス】内の、『【
いやぁ、コツコツ作っててよかったわ。じゃなきゃMP足らなくなってた。
再び砦に【瞬間移動】し、軍人さん数千人の位置を【探査】からのぉ【瞬間移動】!!
◇ ◆ ◇ ◆
「「「「「「「「「「な、ななな……」」」」」」」」」」
突如【
「【フルエリア・リラクゼーション】! 諸君ら傾注!!」
【浮遊】しつつ、【物理防護結界】をメガホンにして力の限り声を張り上げる。
「勇者アリスです! これは私の魔法によるものなので心配ありません! 時間がないので、手早く鍛えますよぉっ!!」
◇ ◆ ◇ ◆
外部時間で10秒、内部時間で5日弱。
あまたのゲロを乗り越えて、レベル200の軍人4,732名。遠距離攻撃重視で育てたよ。
内、【瞬間移動】を会得した3,125名は精鋭部隊とともに王国全土へ派遣。
【瞬間移動】を会得できなかった組は城壁の上から魔の森の魔物退治だ。
◇ ◆ ◇ ◆
1週間が経過した。
『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』
昼夜を問わず、鳴り続ける警報。
戦いは、未だ終わりを見せない……。
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次回、第1章
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