67(1,241歳)「私が初めて殺されるまでの話」

 1週間が経過した。1週間、昼夜を問わず戦い続けた。


 まるでゲリラ戦術のように、王国中の至るところで散発的に発生する魔物の集団暴走スタンピード

 私は一睡もせず、ひたすらブルーバードからの警報を受けつけ、チームを組織し、送り出し続けた。


 あと軍人さんたちをたくさん運搬した。誰もが私のように【睡眠耐性】を持ってるわけじゃないからね。気絶寸前の軍人さんは順次【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】に連れてって寝かせた。


 場当たり的に対処せずに、魔物の集団暴走スタンピードの発生個所を根こそぎ狩るべきだった? でもそんなことしてるうちに次の襲撃が来て、どこかの街の子供や、どこかの村の女性が危機に陥る。

 私は神ではない。ないけれど、ブルーバード越しに見える、死に瀕する人たちを見殺しにできるほど肝も据わっちゃいない。


 魔の森方面からは、討ち漏らした飛行系魔物が壁を越えて王国に入り、これまた魔物の集団暴走スタンピードに拍車をかける。


 わたしも、せめて合間を縫って1秒(【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】内での半日)でも睡眠を取るべきだったのかもしれない。

 でも、なまじカンストしている【睡眠耐性】を頼りに、ズルズルとここまで来てしまった。


 今日も今日とて、私は砦の中央広場の特設指令室(という名のテーブルとイスと地図があるだけ)に座り、出動準備中のチームに向かって指揮を執っている。

 各チームは出動が終わればここに順次戻って来て、体力の限界までここで待機または順次出撃、限界が来たら【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】で眠る。


 眠れないのは私だけ。【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】内だと時間間隔差がひどすぎてブルーバードとの意思疎通が取れないから。


『ピロピロピロッ!』


「座標AK470、脅威度C!」


 私はブルーバードの視界越しに敵を視認し、待機中のメンバーたちに向かって座標と脅威度を告げる。


「チーム1501出撃可能です!」


「2412も出撃可能です!」


 待機中のチームの中から、脅威度に適したチームが名乗りを上げる。


「1501行って!」


「「「はい!」」」


「【瞬間移動】!」


『ピロピロピロッ!』


「座標SU270、脅威度A!」


 S○-27って某国の戦闘機かよ。エー○・コンバットはハマったよなぁ……懐かしい。


「チーム108出られます!」


「足りない! 100番台ないし10番台で空きは!?」


「097、います!」


「よし合同で行って!」


 1000番台は追加でレベル200まで養殖した軍人さんのうち、【瞬間移動】持ちで構成されたチーム。

 100番台は当初の精鋭従士108名と1000番台からの補佐数名のチーム。

 あと10番台はパパン、ママン、ディータ、バルトルトさん、3バカトリオ、パーティーメンバー、アラクネさんだ。


『ピロピロピロッ!』



    ◇  ◆  ◇  ◆



【睡眠耐性】LV10カンストですら眠気と忙しさとプレッシャーで意識が朦朧としている中、いけ好かないあの人がやって来た。


「アリス殿!」


 殿ぉ? 目の前には先日、私が猛烈ビンタした相手、ロンダキルア辺境伯と精鋭らしきガチムチの従士さん数十名。


 このクソ忙しい時に、なんか『謝罪がしたい』とかなんとか行って砦に上がり込んできた。いやマジで今忙しいんですけど。

 とかなんとか言ってる間にも、


『ピロピロピロッ!』


「座標MG144、脅威度A!」


「父さんが行けるぞ!」


「頼みます! って、あ、逃げ――」


 すぐに消えるパパン。たぶん、っつーか絶対逃げただろパパン! まぁ脅威度Aだから妥当だけどさぁ!

 くっそ~……。娘に親の対応押しつけるなよなぁ……私の精神年齢がパパンのそれの数倍になったころから、パパンに遠慮がなくなってきてる気がするよ。

 まぁ基本的には優しくて頼りになるパパンだからいいんだけどさぁ。あぁ、余裕がないせいでイライラする。チビかフェッテン様のどちらかが吸いたい。


「それで、何の御用ですか?」


「いや、先ぶれにも言った通り、謝罪に来たのだ。なんでも、あのあと宿場町の魔物を退治してくれて、町には死者も負傷者も出なかったとのこと! それに領都近郊で発生した魔物の集団暴走スタンピードまで解決してくれたというではないか!」


『ピロピロピロッ!』


 ぅおっ!?


「座標MA164、脅威度C!」


「チーム2513行けます!」


「お願い!」


「い、忙しそうだな……」


「ええ、ご覧の通りに。本当に忙しいので、話が終わったなら帰ってもらえます?」


「せめてこれだけは言わせてくれ! 本当に、本っ当にすまなかった!! 私が間違っていたのだ。アリス殿はまさしく勇者であり、人族の希望だった!」


「……はぁ」


 いいからさっさと帰ってよ。

 あんたに見られてたら【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】に行って眠ることもできない。あの部屋の秘密は、あんたにだけは絶対に知られるわけにいかないから。


「それで、何か私にできることはないだろうか!? 見たところあなたには、普通の兵士を【瞬間移動】が使え、単騎で魔物の集団暴走スタンピードを解決せしめる猛者に鍛え上げる秘術を持っているようだ。どうだろう、我が従士の中でも精鋭中の精鋭を揃えてきた。こやつらにもその秘術をかけて、戦力に加えてみては? 見たところ人手不足のようにお見受けするが」


 あー……そっちが本命か。

 まぁ1週間もあったんだ。ウワサが辺境伯の耳に届いていてもおかしくはないか。【瞬間移動】持ちの軍人さんによる交易は続けているわけだからね。


「あいにく人手は足りておりまして――」


『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』『ピロピロピロッ!』


 ま、マジかー……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 説得力ゼロ。

 一気に待機チームゼロになってしまった。


 クソっ、意識が朦朧とする。寝たい。チビのお腹に顔をうずめて爆睡したい。

 この戦いはいつまで続くんだ? さらに1週間とか、1ヵ月とか続かないだろうな?


 ……考えるな。まずは目の前の問題、辺境伯への説明及び辺境伯を追い払うこと。


「あー……これはですね?」


 振り向いて辺境伯に説明しようとしたとき、ふと、鼻腔をくすぐる甘ったるい匂い。そして襲いかかる、耐え難い眠気!


「ぅ……?」


 思わず数瞬、意識を失う。【探査】と【闘気】が停止する。


 ――ちくり


「――え?」


 脇腹に違和感。と同時、【思考加速】100倍と【闘気】全開!


 強制覚醒魔法【アウェイクニング】を自分に重ねがけし、目を見開いてみれば、壮絶な形相の辺境伯と、その手に握られた短剣。短剣は私の脇腹に1ミリほどの傷を負わせている。


 そして、辺境伯ではなく、私の方を取り押さえようと動きつつある辺境伯家従士ら。








 辺境伯――…あぁ、そういう。








 あんたやっぱり、思ってた通り王国の敵だったわけだ。

 私がひとりきりになるところを見計らって、ブスリからのぉ『勇者の首を手土産に亡命!』とかそういうやつかな?


 でも分からないな……あんた陛下から辺境伯に叙された時に、陛下と【契約】したんじゃないの? 勇者殺害は『反逆』認定されない? いやいや……相手も魔法神の加護を受けた魔王だから、何か裏技でもあるのかしら。


 それにしても、こりゃ確かにこれ以上にないベストタイミングだよね。1週間働き続け、意識も気力も朦朧としたところでの『つうこんの いちげき』!

 でも辺境伯改め裏切り者さん、レベル2000超えの防御力をナメちゃいけない。某野菜の国の戦士だって、銃弾を手で受け止め――…うっ!?









 傷口から急激に広がる痛み、悪寒、吐き気。









 何だこれは、【苦痛耐性】LV10でも耐え難いこれはいったい何なんだ!?


 喉をせりあがってくるのは吐しゃ物だけではない、鉄の味。


【思考加速】100倍にもかかわらず、急激にかすんでいく視界。







     ……毒?


      毒だ、猛毒。







 ――【パーフェクト・ヒール】!



 ダメだ、効かない!



 ――【パーフェクト・ヒール】!



 最上位治癒魔法だぞ!? なんで効かない!?



 ――【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】、【パーフェクト・ヒール】!!



 くそっ、くそっ、くそったれ!

 治らない、治らない治らない治らない!!




 こんなところで死ぬわけには、

 大事な、大事な思い出がたくさんあるんだ、



 パパンとママンにたくさんたくさん愛してもらった、



 生まれて初めて弟ができた、



 おりチームと何百年も一緒に過ごした、



 チビやアラクネさんや沢山の従魔と出会えた、








 …――フェッテン様に出逢って、生まれて初めて恋をした。








 ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんと一緒にいっぱい養殖して冒険した。



 どれも大事な、大事な思い出なんだ……それを!!





 裏切り者の表情が、

      じょじょに、笑み、

           へと変わって、いく。



 殺してやる、 殺してやるぞ次は、

      絶対に殺してやるぞ裏切り者!



 痛い痛い痛い!

     苦しい苦しい!



 今にも、 意識を、

   失いそう、 だけど。




 だけどこれだけは、

      これ、 だけは、




 ――――やり遂げなければ!!




 裏切り者どもを、






【アイテムボックス】!!





















 裏切り者どもを収納し、倒れる。








    視界はもう、真っ暗だ。









 ……………………寒い。

        とても、  寒い。




















「――アリスッ!?」






















 何も見えない。







  けど、声がした――気がする。

   世界で一番大好きな、フェッテン様の声。








 抱き上げ……られてる?






    はは、恋愛ドラマじゃなし、









     そんなに都合よく、






   フェッテン様が来るわけが――











「――リスッ! アリス――」























   フェッテン様――…




        できるなら、





     次の人生でも、






       どうか、



















      私を見つけて――…




























************************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:1,241年  レベル:2,127


第1章タイトル回収完了。

ここまでの長い旅路にお付き合い頂き、誠にありがとうございました!m(_ _)m

次回、新章「私が領主になって無双する話」突入です!

どうか引き続き、お付き合いくださいませ!


また、[♡応援する]ボタンと★評価ボタンも是非押してくださいませ!!(>_<)/

本当に、どうかよろしくお願い致します!!m(_ _)m

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