58(653歳)「Enter The ○ungeon!」

 今日も今日とてEnter The ○ungeon!

 この世界、魔法はあるけど銃はないんだよねぇ。


 じたくの自室で目覚め、顔を洗って同室のチビを吸い(チビが私を、可哀そうな生き物を見るような目で見てくる……)、チビに乗って大食堂へ向かい、パパンやママンや筋肉モリモリマッチョマンたちと一緒に最近塩事情が良くなってきたメシを食い、ダンジョン街『ペンドラゴン』へ【瞬間移動】。


 ちなみにチビは連れて行かない。

 ただでさえ薄暗くて魔物の多いダンジョン内で、敵と間違えられて攻撃されたり、怯えられては面倒だからね!


 朝メシがあれだけじゃ足りないので、適当にドラゴン肉をパクつきながらダンジョン入り口前でしばし待つと、やがてホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんがそれぞれ【瞬間移動】でやって来た。


 お三方ともそれぞれ王都に住み家があるからね。

 ホーリィさんは王城に部屋を持ってるらしいし。毎日城を行ったり来たりしてたら怪しまれないか? って思ったこともあったけど、そもそもホーリィさんは【瞬間移動】持ちだった。


「じゃ並びましょう」


「あいよ」


「「はーい」」


「昨日はすみませんでした。私が途中で目的を変えなければ、昨日中に最奥まで行けたかもしれなかったのに」


「いいってことさね。アタイ的には人命救助は大歓迎さ」


「あの家族、アリスちゃんにすっごく感謝してたわよ」


「人助けするお姉様、素敵です!」


 基本的に、皆さん私をパーティーリーダーとして扱ってくれる。【勇者】だし、レベルと精神年齢が一番高いからかな? あとレベリングのかなめである【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】が使えるからってのもあるか。

 私が非常識なことをしようとすると、止めてもくれるし。


「受付済ませたら昨日のところまで【瞬間移動】して、一気に駆け抜けましょう」


「あいよ」


「「はーい」」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、基本的に私が先頭に立って、常時【探査】を張りながら、近づいてきた魔物を【首狩りアイテムボックス】しながら進んでいく。

 新しい階層に入ったら階層全部を【探査】でマッピングしちゃうから、行き止まりに引っかかるなんてこともない。あと他の冒険者のために宝箱は残しておく。

 各階層を守るエリアボスも【首狩りアイテムボックス】で一発だ。


 このダンジョンは30階層からなっていて、それぞれ10階層ずつ上層、中層、下層と言われている。

 Aランク冒険者パーティーが何度も踏破しているので、地図や魔物の情報はかなり詳細に出揃っており、ここの冒険者ギルドで攻略本が買えるそうなんだけど……まぁ全マップ【探査】からの遠隔【鑑定】ができる私に限っちゃカンケーないが。


 昨日は8階層目であのバカ冒険者パーティーと、エサになりかけた少年に遭遇したんだよね。


 小一時間で中層半ばへ到達。中層まではいわゆる『迷宮』って感じで広さもそれほどではなく、Cランク冒険者でも潜ることができるそうだ。


「15階層突入!」


「「おー!」」


 ノリがいいノティアさんとリスちゃん。

 やれやれ……って肩をすくめるやれやれ系主人公のホーリィさん。


「では全マップ【探査】! お、5人構成のパーティー発見。パーティー以外の魔物を【鑑定】! 地竜アースドラゴンより強い個体、ナシ!」


 ――ヨシ!(指差呼称しさこしょう


「相変わらず、他の人が聞いたら仰天するような敵の分類方法よね……」


 ノティアさんが引きつり笑いする。


「でも今の私たちなら、全員素手で地竜アースドラゴンの首をねじ切れるでしょう?」


「そうなのよね……」


 それにしても、パーティーのひとりの体格が、なーんか見覚えあるんだよなぁ。


「とりま挨拶に行きましょう」


 挨拶は大事。古事記にもそう書かれている。


「じゃ『【瞬間移動】移動』で行きますよー」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「こんにちはー! 冒険者パーティーでーす! 敵じゃありませーん」


 5人構成のパーティーはオーガ上位種4体との戦闘中だった。

 こういう乱戦中、不用意に近づくと『すわ敵の増援か!?』って混乱状態のまま攻撃される恐れがあるからね。


「助けは要りますかー? 肉も素材も要りませーん」


 この確認も大事。勝手に戦闘に加わって、倒したから素材よこせ、とかいうケンカの元になるから。


 必死の形相でオーガ上位種と斬り結んでいたリーダーっぽい剣士がチラリとこちらを見て――具体的には私たちの中で一番体格の良いリスちゃんを見て、


「――頼む!」


「【首狩りアイテムボックス】!」


 ……どさどさどさどさっ


「「「「「な、ななな……」」」」」


 首を失ったオーガたちが倒れた。


「【アイテムボックス】!」


 続いて、各死体の上にそれぞれの首を配置する。首も素材になるからね。


「ななな……って、非常識なこの感じ……あああっ! やっぱりアリス様!!」


 僧侶ヒーラーっぽい服装の女の子が、私の顔を見て叫んだ。


「キミは……あぁ! 城塞都市の治療院で修行してたニーナちゃん!」


 道理で見知った体格なわけだよ。

 患者の治療のたびに【探査】してて、近くにいるニーナちゃんの体格まで一緒に把握しちゃってたもんだから、【おもいだす】スキルも相まってスリーサイズまで把握して……んんん? ちょっと育ってる? まぁお年頃だものねぇ。


 私の前世の体格は貧相だったけど、この体はどうなのかしら。

 ママンを見る限り巨乳爆乳は無理だろうけど、パパンの体格の良さを鑑みるとそこそこ期待できるんじゃないかしら?


「アリス様って……ニーナがいつも話してる、あの? 【魔法教本の母】の!?」


 リーダーっぽい剣士さんが驚いている。

 っていうか私、また知らない間に子供が増えてたのか。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「いやぁアリス様のおかげで、我々のようなCランクパーティーも上級治癒魔法使いを招き入れることができるようになって、大助かりですよ!」


 剣士さん――やっぱりパーティーリーダーだった――がペコペコしてくる。


 上級治癒魔法【エクストラ・ヒール】。

 部位欠損こそ治せないものの、もし腕が千切れても、手元にその腕があるならつなげることができるほどの、世間一般的には『治癒魔法の最上位』。……聖級魔法は宮廷魔法使いしか学べないからね。


 そう、ニーナちゃんはあれからついに、上級治癒魔法の会得に成功したのだ!


「おかげさまで、我々もこうして中層でも危なげなく進むことができます」


「ありゃ、もしかして余計な手出しでした?」


「あっ、いえいえそういう意図ではなく……もし先ほどお助け頂かなければ、ニーナの魔力回復のためにここで1泊することになっていたでしょうから」


 なるほど。そして1泊増えればその分食料その他の消費も増えて、ダンジョンに潜れる日数が減る。


「いやぁしかしニーナちゃん、大活躍じゃないの」


「えへへへ……アリス様にそう言って頂けると、素直に嬉しいです!」


 デレデレのニーナちゃん。いやぁモテる女はつらいのぅ。


「でもアリス様のことだから、きっともう、物凄い魔法を使えるようになってるんでしょう?」


「ふっふっふっ……実は聖級魔法の【パーフェクト・ヒール】を覚えましたよ!」


 聖女様ホーリィさんのことはナイショなので、死者蘇生魔法ザオ○クのことは言わない。


「聖級!? あっ……そ、そこにおられるお方……その紋章はまさか……」


 ニーナちゃんがノティアさんが着ている宮廷魔法使いのローブを見てガクガク震える。


「こちら、宮廷筆頭魔法使いのノティアさん」


「よろしくね、未来の偉大な治癒魔法使いさん」


 ノティアさんがニーナちゃんにウインクする。サービスいいねぇ。


「ふぁ~~~~~~ッ!?」


 ニーナちゃんが鼻血を吹いた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ところでアリス様」


 他のパーティーメンバーにニーナちゃんの介助を任せつつ、リーダーさんが話しかけてきた。


「アリス様は大容量の【アイテムボックス】をお使いになると、ニーナから聞いております。我々ではこのオーガは運べませんので、魔石だけ取り出したら、あとは献上しようと思うのですが」


 献上、とか仰々しいなオイ。

 まぁでもせっかくだしもらおっか。オーガ肉はあんまり美味しくないんだけど……ん? オーガ肉は美味しくないからあまり量を食べないから実質野菜?


「オーガ肉はオーガニック……いやいやいやいや」


「ど、どうされました?」


「あー気にしないでいいよ。この子、たまに頭がおかしくなるんだ。ほっといたらすぐ直るから」


 ホーリィさんがひでぇこと言ってる。


「【探査】――【アイテムボックス】! こちら、オーガたちの魔石です。あ、さっきオーガたちの首を狩ったのと同じ要領で抜き出しました。どうぞ」


 ビビるリーダーさんに魔石を押し付けつつオーガを収納し、


「じゃあ私たちは先に行きますね」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 一緒に行きたそうだったけど、私たちの『【瞬間移動】移動』について来れるわけがないのでご遠慮頂いた。


 引き続き進んでいき、下層入口、21階に到達。


「ひぇええ~、聞いちゃいましたが、実際に見るとびっくりしますね!」


 目の前に広がるのは大平原!

 ダンジョンの中なのにだよ!? なんか太陽っぽいのもあるし。


 下層からは急に広くなり、魔物も強くなって難易度が爆上がりするのだとか。


「わわわお姉様、なんか来ますよ!?」


 4人の中で一番視力のいいリスちゃんが空を指さした。


「【探査】、【鑑定】――ひぇっ、飛竜ワイバーンの群れです! 数7!」


 下層パネェな!?



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ……まぁ、危なげなく狩って勝ったよ。


 私は定番の【首狩りアイテムボックス】遠距離版。

 ノティアさんはアロー系魔法で脳天貫通。

 リスちゃんは飛竜ワイバーンの頭上に【瞬間移動】からのぉ【闘気】の足場で立体起動しつつ首斬り落とし。

 ホーリィさんなんて、飛竜ワイバーンの頭上に【瞬間移動】して、無手で首を握りつぶしてた。


 せ、聖女様だよね……?






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追記回数:4,649回  通算年数:653年  レベル:666


次回、約束された勝利の剣!

第1章最終回まで、あと 9 話。

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