59(653歳)「エクスカリバァー!(ただしビームは出ない)」
「というわけでやって来ました最下層エリアボスの間!」
30階最奥、目の前には大きな扉。この奥がボス部屋ってわけだ。
一応、ここまで来るのに半日かかった。下層はどこも広いんだよねぇ……。
「一応、気を引き締めつつ各自ダブル【防護結界】展開! では
「あいよ」
「「おー!」」
扉を開くと、数百メートル四方の大きな部屋の奥に鎮座するのは全長100メートルほどの漆黒のドラゴン。
「【探査】! 敵はあいつだけですね――【鑑定】!」
*************************************
『
Sランクの魔物。
ドラゴンブレスには強力な精神汚染の効果がある。
個体LV64
*************************************
「ブレスに注意! 精神汚染効果あり!」
「「「了解!」」」
ととと、さっそく
「まず私が行きます! 仕留めきれなかったらあとよろしく! 【アイテムボックス】!」
ブレスを収納しつつ、
虚空からスラリと抜いた片手剣に【闘気】をまとわせつつ脳天へ――
「――アリス!」
ホーリィさんの声。いかん油断しすぎたか【思考加速】100倍!
【探査】すると、ちょうど私の背後から、
【瞬間移動】で無理やり体を振り向かせ、【テレキネシス】で強引に腕を動かして尻尾を斬り飛ばす。
もう一度【瞬間移動】で振り向けば、リスちゃんが剣で
◇ ◆ ◇ ◆
「バカたれ! 油断しすぎだよ!」
「ごめんなさいぃ……」
ホーリィさんに説教される。
「この奥に勇者様の愛剣が?」
「そうさね」
ホーリィさんがうなずく。
「でっかい岩に剣を突き刺して、『約束された勝利の剣』! とかなんとか叫んでたよ」
うん? 勇者様ってドラ○エ前半世代だと思ってたけどFa○eもかじってるの?
扉の向こうも大きな部屋で、原っぱっぽい地面の上に大きな岩があり、そこにほんのり輝く剣が突き刺さっていた。
「誰から挑戦します?」
「あたしはパス。腕力には自信ないし」
言うてもレベル500の腕力やないですかノティアさん。
「アタイもいいよ」
「オレ! オレやりたいです!」
言いつつリスちゃんが岩に飛び乗り、剣の柄を掴む。
お相撲さんの四股のように足を広げて【闘気】全開!
「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……っ!」
10秒ほど粘るも、剣は抜けなかった。
「はぁっはぁっ……お姉様、あれ無理っすよ」
「じゃ次、私~」
岩に飛び乗り、剣の柄を掴むものの、身長が足りなくて踏ん張りムーブができない。仕方がないので【テレキネシス】で自分の両足の裏を持ち上げる。
ずももももももももももも……
岩ごと引っこ抜いてしまった。
「「「あー……」」」
【探査】したら、岩は5~7メートルくらいの楕円形をしていた。
「これ無理ですね。全然抜けませんよ」
剣を岩ごと振り回し、ガンガン地面に叩きつけるも、剣はまったく抜ける気配がない。
「もうこのまま武器にしちゃいます? 全長7メートルの斬馬刀! なんちゃって」
「「「いやいやいやいや」」」
「【アイテムボックス】で引っこ抜きな」
ホーリィさんからのご提案。
「そうですね。【アイテムボックス】!」
岩を収納すると、なんとも美しい、ほんのり白く輝く刀身があらわになった。
「綺麗ですねぇ……」
剣が好きなリスちゃんのウットリ顔。
「ですねぇ……」
私もたぶんウットリ顔になってる。
「……ん? あれ? なんか私、急に剣術が分かってきたような気がします。この剣の振り方が分かるっていうか、身のこなし方が急に頭に浮かんできたっていうか」
「あぁ、その剣の効果さね。ステータスの【片手剣術】スキルを見てみな」
言われて見てみると、そこには『片手剣術LV9(+3)』の文字が!!
「ふぁ~~~~~~ッ!? 装備ボーナス付き!? これで私も宮本○蔵! リスちゃん、今なら私、リスちゃんと剣だけで渡り合えるかも!」
「ほほぉう……? 今からいっちょやります?」
ワンコのように鼻梁にシワを寄せ、犬歯を見せて微笑むリスちゃん。
いかん、戦闘民族の血を刺激してしまった。
「あーでもごめん、この剣でなきゃダメだから……真剣でリスちゃんと戦うのは嫌かなぁ。だってリスちゃん相手だと手加減する余裕ないもの」
「うれしいこと言ってくれますね」
「あっ、でも私がこの剣抜いちゃったら、冒険者さんたちがこの街から離れちゃって、ダンジョン内で魔物が増殖しちゃう……?」
「「「――――あっ」」」
◇ ◆ ◇ ◆
「陛下ぁ……ご、ご相談が」
フェッテン殿下の部屋の隣に特設された『アリス部屋』に4人して【瞬間移動】し、ノックするとフェッテン殿下が出てきて、すぐに陛下に取り次いでくれた。
秒で謁見できるのは【勇者】の特権。
「なんじゃ4人揃って?」
いつもの略式謁見室にて。
陛下側は陛下、フェッテン殿下、宰相様の3名。
「『ペンドラゴン』の聖剣、抜いちゃいました……」
「「「おぉぉ……」」」
「さすがはアリス! 娶るぞ! 娶るからな!?」
「は、はいぃ。お気持ちはありがたくお受け取り致しますので」
『お披露目会』の時に、婚約は成立してるって話だ。
「で、見せてもらうことはできるかの?」
「あ、はい。鞘はなくて、抜き身ですのでご注意ください。【アイテムボックス】!」
ごとりとテーブルの上に聖剣を置く。
「か、輝いておる……これが勇者様が振るったという聖剣か! ちょっと触ってみてもよいかの!?」
「は、はい。というか勇者様――初代国王様の持ち物ってことは、陛下や殿下の持ち物でもあるのでは?」
「まぁ少なくとも、魔王討伐が成るまでの間はそなたの持ち物でよいぞ、アリス」
「ありがたいことです」
「して、この剣の名はなんというのじゃ?」
「名、ですか? そういえば調べてませんでしたね……【鑑定】!」
**************************
『聖剣エクスカリバー』
勇者が愛用した片手剣。
装備ボーナス:【片手剣術】LV +3
**************************
「『カリバーン』ちゃうんかーい!!」
「ぬぉっ!? どうしたのじゃ!?」
「あっ、これは失礼を……」
思わず叫んでしまった。
確かアーサー王が抜いたという、石に刺さってた剣が『カリバーン』で、それを妖精だったかなんだったかが鍛え直したのが『exカリバー(ン)』だったと思うんだけど……。
なんかモヤるけど、強そうな名前だからいっか。
「エクスカリバーというそうです」
「ほほぅ……なんとも美しい響きじゃのぅ。してアリス、相談とはなんじゃ?」
「あっそうでした……その、聖剣抜いちゃったので、冒険者たちが『ペンドラゴン』のダンジョンから離れたりしませんでしょうか? もしかして私、街の衰退や
「あぁ、なるほど。そもそも『ペンドラゴン』行きを勧めたのは儂じゃし、気にすることもないがのぅ。今後も国からダンジョン内の魔物討伐依頼を出し続ければよいだけの話じゃ」
「よかったぁ……」
「相変わらずそなた、妙なところで小心者よな……あっ!」
陛下がニヤリと微笑んだ。
「良いことを思いついた。剣がなければ、剣を作ってしまえば良いのじゃ!」
◇ ◆ ◇ ◆
目の前には、
「おぉぉ……『出してみよ』とは言うたが、見事な一振りができたの」
「我ながら驚いています。まぁエクスカリバーを【探査】して、それをもとに【物理防護結界】で鋳型を作ったので、造形が立派なのは当然かもしれませんが……」
プラチナなので硬さは青銅にも劣る。が、金額的な価値は相当なものだろう。
命がけでダンジョン最奥にたどり着き、死ぬ思いをしてボスの竜種を倒した冒険者パーティーが、遊んで暮らせるくらいには。
「同じものをあと10本ほど出せるかの? 宮廷魔法使いの【瞬間移動】持ちをダンジョン最奥まで連れて行き、エクスカリバーがあった部屋にこの剣を置かせることにしよう。誰かがダンジョンを踏破して剣を手に入れれば、次の剣を補充するというわけじゃ」
というわけで追加で10本作った。
◇ ◆ ◇ ◆
「……というわけじゃ」
「な、ななな……」
略式謁見室でことの顛末を話す陛下と、ビビる冒険者ギルド『ペンドラゴン』支部ギルドマスター。
あのあと、【瞬間移動】で連れて来たんだよね。
「そして、これがエクスカリバーの代わりの剣じゃ」
「なんと美しい……」
◇ ◆ ◇ ◆
ってな感じで、私たち4人の初の冒険は幕を下ろした。
爆速昇進の時のゴブリン退治が初の冒険じゃなかったのかって?
あれは5分で終わっちゃったから……。
王都に戻り、『ダンジョン内の魔物討伐』任務完了を受付嬢さんに告げ、証拠として
私たちの冒険はまだまだ続く……。
俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ!
*********************************************************
追記回数:4,649回 通算年数:653年 レベル:666
次回、今まで影の薄かった弟・ディータきゅん登場!
第1章最終回まで、あと 8 話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます