53(414歳)「聖女様といっしょ。からの女神様といっしょ」

 というわけで、パパンとママンと一緒にみたび略式謁見室にやって来た。


 今日はなんと、陛下までもが下座側のソファーに座っていた。

 メンツは陛下、フェッテン殿下、ノティアさん、リスちゃん、パパン、ママンと私。


 陛下からは、『聖女様はとても気さくな方だから、挨拶は適当でよいぞ』とのご指示が。


 ……がちゃ


 言われつつも礼を取らないわけにはいかないので、私たち一家は急いで立ち上がる。ノティアさんとリスちゃんも立つ模様。


「座んな。堅っ苦しい挨拶なんざごめんなんでね」


 宰相様に案内されて入ってきた聖女様は、20台後半~30手前って感じのグラマラスなチャンネーさんだった! 僧侶っぽいローブの上からでも分かるほど、胸がデカい。

 聖女様は上座側のソファにどかっと座り、


「見知った顔は――…あぁ坊や、また一段と歳を取ったねぇ」


 坊やだからさ!


「10年ですからなぁ」


 答えたのは陛下。って陛下を坊や呼び!?

 あぁ……10年ごとに会ってるとすれば、そうなる、のか?


「隣のガキんちょは?」


「第二王子のフェッテンです」


「あぁ! あん時の赤ん坊! んじゃ第一王子は?」


「あやつは……聖女様のお顔を拝見して、泣き出してしまいましたからな。本日お見せしても、ご気分を害されるかと思いまして」


「気にしやしないけどねぇ。……で、そっちの見知らぬ人たちは?」


「勇者です」


 私を示しながら、陛下。


「!?」


 ぎょっとする聖女様。


「そして、勇者の両親と、この国の武力と魔力を預かる者各1名……このふたりは勇者の護衛兼お目付け役ですな。勇者は先日冒険者登録を済ませたばかりで、【瞬間移動】ポイントを作るための旅を希望しています。もしよければ、聖女殿もご一緒して頂ければと」


「いつまで?」


「最後まで」


「ってことは……」


「はい。7年後に魔王が復活するとのお告げを、勇者が1歳の時に受けたとのことです」


「……………………ふぅ、よし。小さな勇者様、アンタ名前は?」


「は、はい!」


 慌ててカーテシー。陛下が下に付くくらいなので、最敬礼バージョンだ。


「アリス・フォン・ロンダキルアと申します」


「ロンダキルア……ああ! あのノロマの末裔かい! あいつは図体だけはデカかったからねぇ、盾職タンクとしてさんざお世話になったさね!」


「は、はぁ……」


 よく分かんないけど、初代ロンダキルアさんは勇者様のパーティーメンバーとして果敢に戦ったっぽい。

 隣のパパンから、嬉しそうな気配を感じる。常時軽くまとった【闘気】が、そういう情報を伝えてくるんだよね。


「あのっ、私のお父様とお母様も、とっても強いんですよ!」


 思わず、わざわざそんなことを言ってしまった。


「ほぅ……? アンタ、アリスちゃんの父親かい? レベルは?」


「さ、300です」


 ビビりながら答えるパパンと、


「!? !? !?」


 マジビビりする聖女様。


「いや、これは失礼した。ぞんざいな態度だったのを謝るよ」


 居住まいを正す聖女様。


「い、いえ……伝説の聖女様にそんなことを仰って頂くなど、恐れ多いことです」


 恐縮しきりなパパン。


「奥さんの方は?」


「200です」


「ははっ、大したもんだ! 肝心の勇者様、アンタのレベルは?」


「ろ、600です」


「!?」


 再びマジビビりの聖女様。


「……ちょっと、アリスちゃんとふたりだけで話させてもらえないかい?」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ってことで、謁見室にふたりきり。


「しっかし……当代の勇者様は随分可愛らしいじゃないのさ」


「は、はぁ……」


「さっそくだけど、ゼニス様から魔王封印じゃなく、『討伐』を命じられたって?」


「は、はい……がんばろうと思います」


「そのレベルは、どうやって鍛えたんだい? あんだけ鍛えてた勇者だって500ちょいだったってのに」


「は、はい。実は……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】ねぇ……お前さん、空間魔法のレベルは?」


「じゅ、10です」


「…………………………なるほど」


 聖女様、天井を仰ぎ、


「女神様、ついに『あの手』を使ったってわけだ」


 お、おおぉ……もしかしてわけ知り?


「……あ、あの、【時空魔法】的な話は、できればその……」


「あぁ、黙っておくよ」


「ありがとうございます……」


「悪いけど、ステータスを全て隠さず見せてもらえるね?」


「はいぃ……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「なんていうか……【勇者】の皮かぶった【賢者】だねぇアンタ!」


 全部見せたし話したよ。私が転生者であるところから、【ふっかつのじゅもん】でMP養殖したところまで全部。聖女様は、先代勇者様が転生者であることもご存じだったよ。

 絶対に他言しないでくれって頼んだら、『女神様と先代勇者の名に誓って言わないよ!』って言ってくれたので安心した。

 やっぱりパパンとママン……特にお腹を痛めたママンには、言いたくないんだよ……。


「で、この人生は何度目なんだい?」


「い、一応、一度目のつもりです。ただ、生まれてすぐにロードを繰返しまくって魔力を育てたので、何千回目かは正直覚えてません……」


【おもいだす】スキルを使って精査すれば出てくるだろうけど、意味ある情報とは思わないので。


「で、10歳で洗礼を受けるまでは、【瞬間移動】ポイント作りをしながら冒険者稼業ってわけか。まずはその【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】に入ってみたいね!

 アタイもレベルは300しかないんだ。それで当時、死ぬ思いをして――というか仲間の大半が死んで、それでやっと魔王を封印できたんだ。少なくとも先代勇者と同等の500までは上げておきたい。あと、お前さんにみっちり神級【光魔法】を教え込みたいさね」


「お、お手やわらかにぃ……」


「アンタが魔王討伐の悲願を果たしてくれれば、アタイだって普通の人族の生活に戻れるんだ。気張ってくれなよ!?」


 そ、そうだよね……周りの人が10年ずつ年を取っていく世界は、つらいよね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 もっかいフルメンバーに戻り、今後のことのこまごまとした相談をしばし。

 聖女様は『凄腕冒険者』として私たちと一緒に旅することになった……『お披露目会』が終わってからだけど。


 どうも今までの10年ごとの1年間も、陛下が冒険者ギルドに働きかけて裏入手した『凄腕Bランク冒険者カード』を手に、各地を見て回っていたんだそうだ。

 Bランクなのは、Aだと目立ちすぎるため。Bでも十分に凄腕なのだ。


「じゃあまずはゼニス様にお会いしに行くよ! 筆頭魔法使いと近衛騎士団長はここで待っといておくれ」


 謁見? 会議? が終わり、さて解散っとなったところで、聖女様が私の襟首を掴んでそう言った。


「えっ?」


「ん? ゼニス様にお会いしたことはあるんだろう?」


「(ごにょごにょ……転生時の)一度きりですが」


「ん? んんん? 教会で祈れば、いつでもお会いできるだろう?」


「??????」


 というわけで、聖女様に担がれて、王都の教会に連れていかれた――【瞬間移動】で。

 さすがは先代勇者様パーティーメンバー! 【瞬間移動】はデフォなのね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「あら、※※※ちゃん久しぶり! どう? 魔王倒せそう?」


 実に数百5年ぶりの全知全能神ゼニス様が、目の前にいた。

 教会の祭壇で聖女様のマネして祈ったら、意識が遠くなって……懐かしの、見渡す限り白一色の不思議空間が広がっていて、そんで女神様がいた。


「隣のあなたは……あぁ、ホーリィちゃんですね!?」


 ホーリィ? あ、聖女様のお名前か。


「はい。10年振りとなります。女神様にまたこうしてお会いできて、光栄の限りでございます」


 聖女様が女神様の前で頭を垂れる。


「魔王封印後も、あなた自身の幸せを捨ててまで人族の領域を見守ってくれているあなたには、感謝しかありません。本当にありがとう」


 女神様の女神様っぽい笑み。数百年振りに見るけど、眩しいわぁ……。


「ホーリィちゃんに魔王復活の時期を教えてあげられなくて、本当にごめんなさいね。魔法神の動きを監視してて、本当につい最近分かったことだったから……」


「そ、そんな、恐れ多いことでございます……」


「※※※ちゃん……じゃなかったアリスちゃんには先代勇者ちゃんの『リセットボタン』発言から得た構想を余すところなく注ぎ込んだ最強魔法【ふっかつのじゅもん】を与えてるから、いつかは必ず勝つわ。今、ここにいるホーリィちゃんが魔王討伐の場に立てるかどうかは分からないけれど、勝利を信じてアリスちゃんを支えてあげてくださいね」


「ははっ!」


「さて、アリスちゃん」


「はいっ」


 私が前世の名前で呼ばれるのを嫌がるのを察知してか、女神様が今世の名で呼んでくる。


「まずは私からの謝罪ですよね。【ふっかつのじゅもん・セーブ】で死んじゃうことを隠してた件については、本当にごめんなさい。死を恐れてセーブしてくれなかったらマズイと思ってね……」


「いえ……事情とお立場を考えれば、当然のことだと思います」


 実際、死ぬと分かっていてたら躊躇ちゅうちょしてたかもしれなかった。

 2回目からは、吹っ切れてロードしまくったけどね! 生き返ると分かれば、そこまで怖いもんでもない。あの頃はまだまだゲーム感覚だったってこともあるけど。


「それにしても、理屈を理解するや否や魔力を1億まで上げるとは驚きましたよ!! 確かに魔力消費の重たい魔法を連発するのが、一番効率の良い魔力の上げ方ですものねぇ。自分の命を犠牲にそれを何回も行えるとは、さすがはゲーム脳の効率厨! あなたを選んで大正解でした」


「あ、あはは……」


「ところで、なんで【ふっかつのじゅもん】がレベル1のままなんですか?」


「………………………………はい?」


 呆然とする。女神様が何を言っているのか分からなかった。


「え、え、え……? 何千回とロードしても、まったく上がりませんでしたよ?」


「あー、セーブとロードは連動していて、ロードだけ繰り返してもレベルは上がりません。セーブの方もあと数千回やってもらえれば、レベル10になりますよ。そしたらセーブ枠が10枠まで増えます。言ったじゃないですか、11だって!」


 スキル【おもいだす】発動!

 あー言ってたわ確かに! 1巻1話参照ってか!


「なんてこと……」


「まぁ次ロードした時にセーブしまくって枠を増やせばいい話ですよ」


 うー……女神様は神なだけあって、このへんがドライというか淡泊なんだよね。


「でも、女神様に頂いた今世は幸せなことが多くて、大切な思い出がたくさんあるのです」


「【おもいだす】の中に記録されているでしょう? そのための【おもいだす】なのですから」


「でも、私は覚えていても相手は覚えていません……」


 パパンとママンの愛情、可愛い可愛いディータの笑顔、軍人さんたちと一緒に汗を流した日々、おりチームと鍛えた数百年、チビを始めとした従魔たちとの思い出、一緒に商売した人たちとの苦労話、フェッテン殿下にプロポーズされたこと……。

 ノティアさんとリスちゃんとはまだ日が浅いからいいや……我ながらドライだな!


「【おもいだす】に従って、アリスちゃんが同じ日時に同じ場所で同じように振舞えば、同じ反応が返ってきますから大丈夫ですよ。あなたの従魔とも、同じ個体と出会えることでしょう」


 こ、個体って……。

 その言葉、信じますからね!? 特にチビとアラクネさんとはなんとしてでも再会したい。いやまぁこの周回が必ずしも死ぬとはまだ決まってないんだけど。


「あっ、でも【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】の中で数百年鍛える必要がなくなっちゃう」


 ステータスは引き継ぐから……。

 随分と野性味の強い数百年だったけど、あれはあれで大切な思い出なんだ。


「じゃあ次回ロード時にはレベル1相当のステータスに戻しましょうか?」


「えぇぇえええっ!? そんなことできるんですか!?」


「ステータスを一方的に与えるのはいろいろ制約があるんですけど、奪う分には簡単にできます。次回ロード時に今みたいに祈祷してもらえれば私が出てきますので、事情を説明してください」


 あ、そうか……ロードするってことは、女神様にこの会話の記憶はないのか。


「そしたら私が一時的にあなたのステータスを奪い、10歳で『職業』に就いた時のレベルアップ時に、そのステータスも返すことにしましょう。そうすれば違和感ないでしょう?」


「て、テンサイですか!」


「私は砂糖にもお酒にもなりませんよ?」


「あ、あはは……ちなみにそれ、【ふっかつのじゅもん】で養殖した魔力その他のステータスだけは奪わない、とかできますか?」


「はいはいできますから」


「やったぁ!」


「これで安心ですか?」


「はい! 安心して死ねます!」


「それは良かった。まぁ、そこにいるホーリィちゃんのためにも、できるだけその命で魔王を討伐できるよう、引き続き努力してくださいね」


 聖女様の方を見てみると、私と女神様のあんまりな会話内容に、引きつり笑いしてた。






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追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600


次回、ついにアリスが死者蘇生魔法ザオ○クを覚えます。

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