54(414歳)「聖女様から神魔法を教えてもらう」

「じゃ、ホーリィちゃんとアリスちゃん、またねー」


 手を振る女神様の姿がすぅっと薄くなり、気がつくと教会に戻っていた。


「女神様はお優しいお方だ。定期的にこうしてお話を伺うといいよ」


「はい! 分かりました!」


 そして聖女様に再び襟首を掴まれ(私ゃネコか!)、気が付くと略式謁見室。聖女様の無詠唱【瞬間移動】も見事なもんだね。


 居残っていたノティアさんとリスちゃんが私たちに気づく。

 そしてなぜかいる、フェッテン殿下。


「じゃあさっそく、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】に入るよ!」


 聖女様の宣言。


「えっ、今からですか!?」


「善は急げ、だよ! アタイら3人は最低レベル500まで上げること! アリスは聖級魔法は使えるかい?」


「はい。【アイテムボックス】――この聖級魔法教本に乗ってるやつは全部」


「よし。じゃあアンタの目標はアタイの使える神級【光魔法】を全部覚えることさね!」


「はい!」


「あと、アタイのことは『ホーリィさん』と呼びな! 一緒に冒険者としてやってく以上、うっかり人前で『聖女』呼びされるわけにゃいかないんでね」


 確かに。普段から『聖女様』呼びしてると、うっかりそう呼んでしまうかもしれない。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、とりま十数年ほど養殖した。ホーリィさんとの謁見がお昼前だったから、その日の夕方くらいまで。

 魔の森別荘へご案内し、フェッテン殿下、ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんの部屋を増設し、フェッテン殿下、ノティアさん、リスちゃんにはレベリング部屋でゲロを吐いてもらった。

 ……ていうか殿下、なんでいるの?


 まず、100までは超簡単に上がる。伝説の魔獣を1~2体も屠ればよい。

 次に200までは、この方法を丸一日もやれば上がる。でもそれ以降となると、魔物の領域に飛び出して、積極的に狩りまくらなきゃ上がらない。どうも101、201、301という節目から、要求される経験値が爆上がりしているように思う……あくまで感覚だけど。


 そして、ホーリィさんはレベル300。

 つまりホーリィさんは、伝説の魔獣を狩って回れるほどに強い。


 あと天才美少女だと思ってたノティアさん、実は結構なお歳だった。

 私が、プライドを叩き折っちゃったノティアさんのフォローをしようと思い、


『ほら、こんな感じで何百年も時間をかければ、誰だってこの域に達しますから』


 と言ったところ、キョトンとしたノティアさんが、


『あの……アリスちゃん、私はハーフエルフで78歳よ?』


『78!?』


『……あまり大声で年齢を叫ばないで……恥ずかしいわ』


『で、でも耳が』


『ハーフだもの』


 という会話が。

 ま、まぁ70年そこらでその領域に達してること自体、私からしたら十分天才なんだけれども。


 で、魔の森に繰り出して狩りをするフェッテン殿下とノティアさんとリスちゃんを見守るかたわらで(だからなんでいるの殿下!?)、私はホーリィさんから神級【光魔法】を習った。


 まず、神級特有の治癒魔法は特になかった。治癒魔法というと以下の通り。


【ヒール】……初級治癒魔法。ちょっとした怪我なら綺麗に治るが、深い傷やひどい火傷などは痛みが多少楽になるだけ。私の実験では、感染初期で数の少ない細菌やウイルスなら除去可能。


【ハイ・ヒール】……中級治癒魔法。これを使える回復職はベテラン扱い。効果は【ヒール】と【エクストラ・ヒール】のまさに中間。


【エクストラ・ヒール】……上級治癒魔法。どんな傷も綺麗に治る、世間一般では最上位治癒魔法と言われている魔法だが、使える人はほとんどいない。部位欠損の再生こそしないが、千切れた腕や足が手元にあるならくっつけることも可能。首ちょんぱされても、数秒以内なら蘇生できる。末期の白死病けっかくも治る。黒死病ペストとガンは患者に遭遇したことがないから、治せるかどうかは分からない。


【パーフェクト・ヒール】……聖級治癒魔法。失われた部位も治る。魔物で実験したけど(ごめんね)、首ちょんぱからの【パーフェクト・ヒール】で、首から下が生えてきて、元気に逃げていったよ。しかも【探査】したところ、失う前の体より健康そうだった。病気の方は、今のところ【エクストラ・ヒール】で治らない病人と遭ったことがないから分からない。


 たぶん、【パーフェクト・ヒール】にできないのは死者蘇生のみ。

 で、ノティアさん曰く死者蘇生の魔法はないとのことだったけど……。


『できるよ、死者蘇生』


『なんですと!?』


 ホーリィさんの説明によると。


 脳が消滅または脳死した瞬間に体から魂がはがれ、ゆっくりと天に昇っていく。だから死んだ直後に【魔法防護結界】で頭上多めに囲ってやれば、魂は結界内に留まるのだそうだ。で、その魂を操作する魔法が神級レベル。

 なので、人死にの可能性がある激戦では、あらかじめ自分たちを1つの大きな【魔法防護結界】で囲っておき、戦闘後に蘇生させるということもしていたんだそうな。

 ただ、魔力の消費がハンパないので、命の取捨選択が発生したらしいけど……うぅ、聞いてるだけで胃が痛くなる。


 ってことで特訓した。

 魂を見るために自分の目にかける魔法【霊視】を覚えるのに数週間。

 魂に触れるための魔法【霊手】を覚えるのに数ヵ月。

 魔物相手に練習しながら(ごめんね)、出てきた魂を治癒後の魔物に押し戻すことができるようになった。


 おぉぉ……ついに私もザ○リク使いか! って感動したもんだよ。


 ちなみにこの方法を使えば、誰かの魂を別の誰かに移し替えることも可能。

 例えば年老いた自分の魂を、若い誰かを殺害してから乗り移らせるなんてことも。うへぇ……マッドだねぇ。


 フェッテン殿下とノティアさんとリスちゃんの狩りを見守りつつ、さらなる神魔法を教えてもらった。

 フェッテン殿下とノティアさんとリスちゃんはというと、もうこの頃にはすっかり出来上がっていて、ケタケタ笑いながら伝説の魔獣を屠り散らしてた。

 うんうん、この状態を超えると無になって、そのあとまた元気になる。躁鬱を繰り返すんだね……怖い怖い。


 ちなみに皆様の生活能力はというと、


 1位……ノティアさん。【アイテムボックス】からテントを引っ張り出し、魔法を使ってまるで魔法のように(魔法か)料理と野宿の準備をする。お嬢様っぽいのに意外です、って言ったところ、『だからハーフとはいえエルフだもの』と言われた。


 2位……ホーリィさん。自炊も野宿もサクサクできた。作る料理は野性味が強いし、作る寝床も雑いが、本人的にはストレスなく過ごせる模様。高いレベルの【空腹耐性】と【睡眠耐性】もお持ちのよう。さすが勇者様と長いこと旅しただけはある。


 3位……殿下。料理の腕は今一つだけど、何を出されても文句を言わず食う。野宿の準備は非常にテキパキとしてて、雑な寝床でもすぐ寝つき、ちょっとでも魔物の気配がすれば、【闘気】レーダーで気づく。『山で狩猟できる女が付き合う最低条件』発言は伊達ではなかった! 同衾どうきんを許すわけにはいかなかったので、女性陣4人といつも少し離れた場所で寝ていたこともあり、【土魔法】で私と同レベルの豆腐ハウスを作れるようになっちゃったよ。


 4位……リスちゃん。料理も野宿の準備もダメ。だけどどんな粗末な食事と雑な寝床でも文句を言わず、ストレスも感じていない模様。野生動物か!


 で、神魔法講座だけど。まずは、相手を殺害せずに魂を引っこ抜く方法――幽体離脱だ。

 自分自身を幽体離脱させることもできるらしいけど、戻ってこれる保証がなくてあまりにも危険だからやるな、と言われた。ちぇっ、憑依とか興味あるのに。


 この技を覚えるためにはまず、『部分的幽体離脱』を覚える必要がある。自分の手から霊体だけを抜き出すんだって。霊体が抜けた腕は感覚がなくなり、だらんと垂れさがる。この状態を長期間続けると壊死するから要注意とのこと……いちいち怖いな!

 で、霊体の手で相手の丹田辺りに手を突っ込み、引っこ抜けば、お前の魂ゲットだぜ! ってなる。

 魔物相手にできるようになったよ。不思議なもので、魂を失った魔物の魔石は真っ白(MPゼロ)だった。で、引っこ抜いた魂を魔石にねじ込んだら、魔石のMPが回復した。


 ん? 魂イコールMPなの? MPゼロになったら気絶したり、最悪死に至るし。


 その疑問をホーリィさんに聞いたところ、『まぁ似たようなもんさね。というかこれ以上はアタイも知らないんだよ』と言われた。

 この世界の真理というか、仕様に触れている気がする……。


 で、ホーリィさんから教えてもらった最高の奥義が……


 なんと、魂を作る!

 タマシイはつくれる!(某社CM風)


 方法は2種類。


 1つは魔力を充填した魔石を核とした人形とかに魂作成魔法【生命創造】をかける。でもこれだと、簡単な命令を聞くだけのボットというかAIにしかならない。まぁ十分に物凄い奇跡なんだけど。


 もう1つは、1つ目の方法を取りつつ、【生命創造】の詠唱に『己の魂の一部を捧げる』って内容を盛り込むこと。すると自分のMPがごっそり減る代わりに、自分を一回り幼くした感じの人格が出来上がる。

 教育次第で優秀な人間になるそうな。ホムンクルスかよ……。


 まさに神の魔法だね!


 で、ホーリィさんが使える主な神級【光魔法】は以上だった。他となると、結局は聖級魔法の範囲や威力をデカくしただけのものらしく、『墓地ごとエクソシズム』とか『街ごとパーフェクト・ヒール』とか、そういうのだ。


『アンタなら、【魔法防護結界】で範囲指定してから【フルエリア・なんとか】ってやれば再現できるだろう?』


 と言われた。確かに再現できるわ。

 あと、降霊術的なのは少なくともホーリィさんには使えないとのこと。女神様の特権かな。


 とかなんとかやってるうちに空が赤くなってきて、外時間が夕方に近づいていることを知った。


 というわけで、第1回魔の森籠りは終了。

 フェッテン殿下とノティアさんとリスちゃんはちょうど鬱期に入っていたが、私の『帰るよー』という言葉に、眼の光を取り戻したのだった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「いやぁ~~~ッ! シャバの空気は美味しいねぇ!」


 養殖場から出てきての、ホーリィさんの第一声。あれ? ホーリィさんってもしかして転生者?


「あの、ホーリィさんってどこ出身でしょうか……?」


「そりゃあこの世界さね、国は滅んじまったけど。今の言葉は勇者の受け売りさ。あいつはよく、変な言い回しを口走っていたからねぇ」


「あ、ナルホド……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 翌日からも養殖養殖!

 そしてなぜかついて来るフェッテン殿下……。


 そしてそれは、養殖4日目、内部時間で数百年目に突入したある日のメシ時のこと。


「アリス、あんた食器はいつも鉄とか岩製だけどさ、銀製とか作らないのかい?」


 ホーリィさんが聞いてきた。

 ノーティさんが、


「いやいや聖級【土魔法】でも鉄までしか作れないのに、銀なんて無理でしょ」


 と反論するが、


「でもアリスの【時空魔法】と【光魔法】はレベル10だよ? もしかしていけるんじゃないかい?」


 なんとも雑な考察だけどホーリィさんらしい。

 とりま試してみましょうか。


「うーん、どうでしょうね……強き大地に育まれしはがねよ、我が前に姿を現せ――【アイアン・ボール】」


 まずはおなじみの鉄生成魔法から。手の中に、ゴロンと鉄球が生み出される。


「強き大地に育まれし銀よ、我が前に姿を現せ――【シルバー・ボール】」


 しーん……


 文言を変えてみるが、何も出ず。

 うーんもういっちょ!


「強き大地に育まれし白銀しろがねよ、我が前に姿を現せ――【シルバー・ボール】」


 ……ゴロン


「「「「「出たぁぁああああああ!!」」」」」


 女4人プラス男1人で大興奮!


「つ、強き大地に育まれし黄金よ、我が前に姿を現せ――【ゴールド・ボール】」


 ……ゴロン


「「「「「うわぁぁああああ!?」」」」」


「つつつ、強き大地に育まれし白金よ、我が前に姿を現せ――【プラチナ・ボール】」


 ……ゴロン


「「「「「ぎゃぁぁああああ!?」」」」」


「ステータス・オープン! ――ひえっ」


 数万ほどMPが減ってた。そして【魔法系スキル】欄には【土魔法】LV9の文字ががが!


「な、ななな、なんてこと……アリスちゃん、これ、絶対に陛下に報告した方がいいわよ」


「さすがお姉様ですね!」


 さ、さすおね……。


「ますますもって娶りたい!」


 そして定番の娶りたいギャグ。ギャグ……?


 ちなみにノティアさんも挑戦したけれど、銅は出たけど銀以降は無理だった。

 それでも【土魔法】LV9になったらしい。

 いやーでも良かった。もしノティアさんが銀以降も作れたら、そのあまりの魔力消費量から、私の尋常ならざるMP量がバレるところだった……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、『お披露目会』前々日の夕方まで養殖した。

 その間私はフェッテン殿下に口説かれ続け、のらりくらりとかわし続けた。


 ホーリィさんは伝説の魔獣をモリモリ狩りまくってレベル500台後半まで成長。フェッテン殿下とノティアさんとリスちゃんも、500の大台に乗った。


 ちなみに私の方はというと、まずレベルの方は50ほど上がった。さすがに上がりにくくなってきたよ……。

 そして肝心の霊魂系魔法の仕上がりはというと、人形に簡易魂をぶち込んで【テレキネシス】を覚えさせ、テクテク歩かせるくらいのことはラクラクできるようになった。自分の魂を削っての本格的魂の方は、私には重すぎる気がしてひとりも作らなかった。

 命の面倒を最後まで見るって覚悟がいるのよね……チビたちだけでも結構なプレッシャーを感じているというのに。


 そして私は陛下に謁見申し出の手紙を出した……フェッテン殿下経由で。

 歩く金銀財宝製造機になってしまったことを報告するために……。






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追記回数:4,649回  通算年数:653年  レベル:666


次回、フェッテン殿下に対する態度をはっきりさせないアリスがピンチに!?

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