52(414歳)「ひゃっ、百年前の聖女様がご存命!?」
「他には、他にはないかアリス!?」
「そぅですねぇ……あ、じゃあ農業系で――【アイテムボックス】!――この花、除虫菊っていうんですけど、煮詰めた液体ないし粉末を畑に撒けば虫除けになります。【アイテムボックス】!――こんな風に固めたものに火をつけると、蚊取り線香と言って蚊除けにもなります。
蚊といえば……蚊が病を運ぶことはご存じですか? あ、ご存じ。じゃあこの蚊帳という防虫シートは? あ、ご存じですか。
じゃあ――【アイテムボックス】!――こちら『千歯扱き』と言いまして、歯の間に米や小麦の稲を入れて引っ張ると……あ、これも知ってる? なるほど先代勇者様がお広めになったと。
じゃあこっちは? ――【アイテムボックス】!――こちら『
「他には!? そなたのことじゃ、まだあるじゃろう!」
「んー……あ! 井戸水を汲むのに、はね釣瓶が便利です! これはテコの原理を利用した――
あと――【アイテムボックス】!――この手押しポンプを設置すれば、女性や子供でも簡単かつ安全に水汲みできるようになりますよ! 井戸に落ちて死亡っていうのは悲しいことですし、井戸が汚染される恐れもありますしね」
「他は!」
「うぅ……あ、じゃあ内政系で、算盤! 王都にも算盤はあるかと存じますが、――【アイテムボックス】!――この日本……げふんげふん私の考案した算盤は、分かりやすいし速度も出るのでオススメです。
計算といえば、九九がオススメですね! え、最近軍で流行ってる? あー、王都に戻っておられる軍人さんが広めたのかな。
あとは……あぁ、複式簿記はオススメですね! 書き方は――
キャッシュフローという考え方がありまして、いくら手元に現金があっても、キャッシュフローが回らないと不渡りを――
損益計算書と貸借対照表! 貴族家や商会なんかにP/LとB/Sの作成・提出を義務づけることができれば、財務が大幅に改善し――
あぁそうだ、忘れちゃいけない銀行! 為替って言いまして、現金を持ち歩かなくて済むようになり、交易促進効果が――
預けられたお金は融資に回すことで経済規模が一気に拡大――」
「もっとじゃ!」
「えーとえーと……あ、あった! 大事なやつがありました!
【アイテムボックス】! ――これ、ゴムで作った長靴です。ゴムの木は本来、熱い地域にしか存在しないんですが、魔の森にはここらの気候でも生息できるラテックス・トゥレントがおり――
この辺りは水田が多いかと存じますが、水田の中には寄生虫が潜んでおり、農家の方々が足から寄生虫に侵され、病気になる恐れがあります。しかしこのゴム長を履くことにより――」
「他!」
「つけペン! 差し上げます。陛下、今日はこのくらいでご勘弁を……」
「いーやまだじゃ! 他にはないのか!?」
「もうないです! もーうさすがにないです!」
「なんの、もうひと声じゃ!」
「うーんうーん……あ! 洗濯板! 【アイテムボックス】!――これを使えば洗濯が楽に――」
「それはあるぞ」
あるのかよォ!
言われてみれば、砦の洗濯場で見たことあったような……?
◇ ◆ ◇ ◆
「いやぁ勉強になったぞアリス! これらの重要な知識の対価として、そなたは何を望む? 爵位か? 爵位じゃな? 王妃の座でも良いぞ?」
「ぶ、無難に金銭でお願いします……」
ドン引きする私とギルドマスターズ。
「あと、本日お披露目した知識による利益を独占するつもりはございませんし、品質が守られるなら模造品の製造に文句を言うつもりもございませんので、すぐにも全国のギルドに開示して頂ければと存じます」
「うむ、よく言ってくれた!」
「またこれは、私が上奏するのも差し出がましいことかもしれませんが……」
「気にするな、言うてみよ」
「ありがとうございます。
本日のことが産業化すると、既存の産業を駆逐してしまう恐れがございます。ですので新産業にはそういう『割を食ってしまうであろう方々』を、積極的に起用して頂ければと願います」
「うむ! そうなるように注意深く進めると約束しよう! ――では宰相」
陛下が宰相様に何か告げ、宰相様がすっと部屋を出て、数分もしないうちに戻ってきた。
テーブルにどどんっと積まれたのは、大白金貨100枚(100億ゼニス)と、大白金貨900枚との交換手形、合計1,000億ゼニス!!
「「「「!? !? !?」」」」
息もできずに驚嘆する私とギルドマスターズ。
「足らんか?」
「……い、いえいえいえいえいえ滅相もない!! じゃなくて多すぎます!!」
大企業の売上高か!!
「まぁこの金額には息子を2度救ってもらった分と、一昨日の話の分も含んでおるからな。
衛生改善による病人の低減、それによる医療費削減と人口増加、生産性向上。
蒸留酒は一大産業になるじゃろうし、『温度差によって物質を分離する』という事象や目に見えない『さいきん』の存在は、錬金ギルドと医療ギルドに広めれば一気に技術を進歩させる可能性を秘めておる。
軸受けもそうじゃ。水車が改善されれば、今までは保全しきれず諦めていた遠い地に水車を設置できるようになり、開拓が進む。開墾された土地はコンクリートで補強され、畑は除虫菊に守られる。実った稲は『とうみ』で簡単に選別できる。
何より喜ばしいのが、この『ごむなが』とかいう靴じゃ! 農夫たちが足からかかる病については、昔から頭を悩ませておった。教会や冒険者ギルドに依頼し、回復魔法使いを巡回させてはおるが、回復魔法使いは数に限りがあるからのぅ。
本日得られた知識を形にするため、数々の産業を立ち上げることになるじゃろう。そしてそれら産業は『ぎんこう』の『ゆうし』によって急激に拡大し、『ふくしきぼき』によって健全に管理される。
1,000億ゼニスでも釣りがくるな! なんなら追加で爵位もやろう」
「爵位はいいですって!」
「はっはっはっ! ちなみにアリス、そのラテックス・トゥレントとやらは、並みの兵士や冒険者でも狩ることはできるのか?」
確かに、ゴム長を量産するにあたって、そこは重要だわな。
「ラテックス・トゥレント自体は、並みの生体トゥレントと同じくらい――Cランク相当の強さですので、ベテラン1個小隊やベテラン冒険者パーティなら危なげなく狩れるでしょう。ただ遭遇可能になるのが魔の森を南東へ1日ほど歩いた地点からになり、そこまで潜るとオーガ・リーダーやマーダーグリスリー、デススパイダーなどB~Aランクの魔物がわらわらいますので、安定した狩りのためには【飛翔】持ちか【瞬間移動】持ちが必要でしょう」
「ふむ……そなたは今、ラテックス・トゥレントの死体を持っておるか?」
「はい、大小さまざまですが1万体ほど」
「いちまん!? ……う、うむ。では買い取らせてもらっても良いか?」
「もちろんです」
「では宰相、追加で1億ゼニスじゃ」
「――ははっ!」
……あはは、なんかもうお金の感覚が『おかしくなる』を通り過ぎて、『なくなって』きたよ……。
「そなたのおかげで人口が急増するのは間違いない。すまんがアリス、王都の城壁取り壊しと拡張を頼めるか?」
あーそういえば、最初の謁見の時に、砦の壁を補修したり、農村の柵を壁に置換した話もしたなぁ。
私という存在を知らなければ意味不明の陛下のご発言に、医療ギルマスと建築ギルマスは唖然としてる。冒険者ギルマスは、『まぁこいつならできるわな』って顔してる。
「――ははっ! 畏まりました」
「急に城壁が消えては民が驚くからな。王都増築計画をこれから練るので、詳細は後日また改めてということにしよう」
お金は、大白金貨100枚を使い切ってから、商人ギルドで次の100枚を受け取るようにと指示された。私のタンス預金が多すぎると、王都の経済に影響を与えかねないから。あとできるだけ散財するようにも言われた。
◇ ◆ ◇ ◆
「アリス、待ちなさい」
会議も終わり、ギルドマスターズが去ったところで、陛下から声をかけられた。
「はい」
「そなた、聖級と神級の魔法を覚えたがっておったな?」
「――は、はい!! 是非に!!」
「はっはっはっ! そういう顔をすると、肉体年齢相応に5歳児に見える」
「あ、あはは……お恥ずかしい」
「で、じゃ。この国には100年前、勇者様と共に戦った【聖女】様が眠っており、明日、目覚めるのじゃ。国家最高機密じゃから、むやみには他言するなよ? 他言を許すのはそなたの親と、パーティーメンバーになるパーヤネン女準男爵、フェンリス騎士爵、あとはそなたが絶対に信頼がおけると考える者か、【契約】で縛った相手のみじゃ」
「――――は、はぁっ!?」
100年前の聖女様って、いきなり何言いだすの陛下!?
だけど、宰相様とフェッテン殿下に驚いた様子はない。
「勇者様と共に戦った賢者殿が残した秘術でな。10年間、時が止まる部屋があるのじゃ……なんとなく、そなたの時空魔法に似とるのぅ。
聖女様は10年の間、時の止まった部屋で眠り、起きて1年間、
そなたの旅には、聖女様も同行なさることになるじゃろう。聖女様は【聖女】だけに光魔法の聖級はもちろん、神級も扱える。旅の間に教わるがよい。
魔王復活が7年後ということを考えれば、聖女様の長い眠りは今回が最後になるじゃろうな」
というわけで、明日もまた王城へ来ることになった。
毎日来てるな!
◇ ◆ ◇ ◆
宿に帰り、パパンとママンと一緒にパパンとママンの寝室に【瞬間移動】して、聖女様復活のことを伝えたら、仰天された。そりゃそうだろう。
あと陛下から1,001億ゼニス貰ってしまった話をすると、パパンはフリーズし、ママンは気絶した。
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追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
次回、女神ゼニス様御光臨!
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