48(414歳)「デビュタント! ただし冒険者として」
「では行ってきます、お父様お母様」
「王都のギルマスをビビらせてやれ!」
「気をつけてね」
「はーい」
滞在している王都の宿を出る。
5歳児たちの『お披露目会』は1週間後なので、その日までは表向き王都に滞在しつつ、各自【瞬間移動】で軍人さんたちの様子やディータの様子、私は店舗や工房の様子の確認(とチビ吸い)をしに行く毎日となる。
そして今日は冒険者ギルドへの登録に行くのだ!
聞けばノティアさんもリスちゃんも、すでに冒険者ギルドへは登録済とのこと。
昨日、馬車で通った中央通り上空に【瞬間移動】し、人がいないところへ着地。
「きゃあっ、空から人が!?」
「だ、大丈夫かいアンタ!?」
気づいた人たちにビビられた。
……しまったぁ。つい城塞都市の時と同じノリでやっちゃった。
城塞都市だと、これと同じことをやっても『あぁアリスお嬢様か』で済むんだよね。
「お、お騒がせしてすみません! この通り【飛翔】の魔法が使えるもので!」
ふわふわ浮いて見せると、ほっとした人々がそれぞれの行き先に戻っていく。
私は私で、中央広場に面した大きな建物――冒険者ギルドのドアを開く。
――からんからん
ドアベルが鳴り、冒険者さんやギルド職員さんたちが一斉にこちらを見る。
「ひぅっ……」
【リラクゼーション】!
いかんいかん。いい加減、大勢の他人の目にも慣れないとね。
時刻は朝8時。
受付ラッシュの朝6時をズラして来たんだけど、メッチャ行列ができてた。
うへぁ、城塞都市ならもう列なんてない時間帯なんだけど……これが王都補正か。
まぁしゃーない。王都の冒険者レベルを観察しつつ並ぶとしよう。
「新人登録なら空いてる昼間にやれってんだ!」
最後尾で並んでいると、さらにその後ろから来た冒険者に肩を掴まれ、横にどかされそうになる。
振り向くと、
「あぁん? てめぇみたいなガキがやれるほど、冒険者稼業は甘っちょろくねぇんだ! 帰って母ちゃんの乳でも吸ってな!」
なんだよそのテンプレゼリフ!
んー……まぁ、気持ちは分かる。
通勤ラッシュの電車に修学旅行の団体さんなんかが乗り込んできた日にゃ、前世の私も心穏やかではいられなかったものだ。通勤時ってのは心に余裕がないものだものねぇ。
とはいえ、いたいけな数百5歳児を無理矢理どかそうとするのは感心しないなぁ……。
「痛いですので放してください。お気持ちは分かりますが、順番は守らないとダメでしょう?」
「て、てめっ、大人なめてんじゃねーぞ!!」
冒険者さんが殴りかかってきた。
【思考加速】発動――100倍に。
あー……対応を間違ったな。
諭すように言ったのが逆にまずかったか。『小娘にバカにされては引き下がれない』的な方向に思考がいっちゃったっぽい。
でも、ゲームの中ですら大人しく行列を作って外人をビビらせるという日本人の、順番はちゃんと守りましょう気質をなめるなよ?
ご多分に漏れず、私も横入りは大嫌いなんだ。
【闘気】をまとうまでもない。半身をそらして冒険者さんの太い腕を掴み、人のいない方向へ一本背負い。
怪我をさせないように、床に【ウィンドクッション】を敷いてあげた。
――【思考加速】解除。
「糖分が足りてないからイライラするのです。これでも食べて落ち着いてください」
「な、ななな――もがっ!?」
ビビッてる冒険者さんの口に、【アイテムボックス】内に大量備蓄しているドーナツを突っ込む。
「もがもが……う、美味い!!」
「「「「「「あ、【アイテムボックス】持ちっ!?」」」」」」
うおっ、【アイテムボックス】を使える人が少ないこと、忘れてた。上級【時空魔法】だからねぇ。
「――お前ら、何を騒いでる!」
声の方を見ると、ギルド職員っぽい服を着てるけど、やたらとガチムチな人が駆け寄ってくるところだった。
◇ ◆ ◇ ◆
「なんと! あのジークフリートの娘か!!」
案内されたのはギルドマスターの部屋。ガチムチ職員はギルドマスターだった。
「父のことをご存じなのですか?」
「冒険者や冒険者ギルド関係者で、竜殺しの英雄のことを知らねぇやつなんざいねぇよ。あいつが王都で冒険者たちの縄張りを荒らし回っていた頃は、さんざん頭を悩まされたもんだ」
「は、はぁ……」
「大ベテランのAランクパーティーが命がけで狩るようなAランクやSランクの魔物を、お遊び感覚でポンポン狩りまくって、相場を大暴落させやがってよぉ。
そりゃ溜まってた高難度依頼はすっかり解消されたし、肉や素材でギルドや都はずいぶん潤ったが、心が折れて引退しちまうやつや、逆恨みしてジークフリートたちとことを構えようなんて考える連中があとを絶たなくてよ。フォローする身にもなれってんだ」
「そ、それは……父らしいですね」
「だろう? それで、今日は冒険者登録に来たんだったな。さっきの立ち合いのことは聞いているし、ジークフリートの娘ってんだから将来には期待するが、さすがに早すぎやしねぇか?」
「これでも一応、父に一太刀浴びせることができており、許可をもらっています」
「――はぁっ!? あのジークフリートに一太刀浴びせたぁ!? あっはっはっ、そりゃあ面白い。じゃあ登録テストは俺が直々に見てやろう」
◇ ◆ ◇ ◆
「冒険者のランクはG~Sまである。これから行うテストによって、初期ランクが決まる。正確には、各ランクの依頼を各1回こなすだけでランクアップが申請可能なランクが決まる。
例えばお前さんがDランク相当だと俺が判断した場合、お前さんはG~Eランクの依頼を各1回成功させるだけで、Dランクまで上がることができるようになる。まぁドブさらいや荷物運びも経験の内ってこったな」
訓練場への道すがら、ギルマスさんが説明してくれる。
「テスト……ステータスは見ないのですか?」
「ステータスウィンドウは高位の【時空魔法】使いなら欺瞞できちまうだろう? だからステータスではなく、主要なスキルのレベルをテストで確認させてもらうってわけだ。
……まぁ逆に、欺瞞できるだけの実力があれば問題ねぇんじゃねえか? って意見もあるが、今はテストする方向で全国の冒険者ギルドは一致している」
「なるほど」
かく言う私も陛下たち相手に欺瞞した。
MPと魔法力が高すぎるのを隠す方向で、だけど。
◇ ◆ ◇ ◆
訓練場にて。
「じゃあまずは【威圧耐性】チェックからだ。ゴブリンにひと睨みされただけで固まっちまうようじゃあ、魔物討伐任務なんて任せられっこねぇからな」
「【威圧耐性】には自信がありますよ!」
「ほう……では」
ギンッって感じのギルマスさんのひと睨み。ドラゴンの咆哮にも動じなくなった今の私にとっちゃ、そよ風だね。
「ほう! 嬢ちゃん、気に入った! 本気でいってもいいか?」
「どうぞどうぞ」
「じゃ遠慮なく――ゥガァァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
――ビリビリビリビリッ!!
ギルマスさんの雄叫び! すげぇな、【威圧】LV6くらいあるんじゃない!? このレベルになると、魔力が乗って空気が震えるんだよね! 小動物相手なら、これだけで絶命させることができるだろう。
でも、ぬるいぬるい!
リスちゃんの【威圧】は、ここからさらに突風が吹く。
私の【威圧】はそんなリスちゃんを気絶させる。
パパンの【威圧】は、レベル600の私ですら冷や汗をかく!
「……すげぇな嬢ちゃん! いったい、どんな鍛え方したらそうなるんだよ!?」
「父に本気の殺気を当ててもらって鍛えましたので」
あと
「マジか! 命が惜しくねぇのかよ!」
「初戦闘の時、オークにビビって動けなくなったことがあって……本当に死ぬよりも、死ぬ思いをした方がマシだと」
「大した根性だぜ」
◇ ◆ ◇ ◆
「次は戦闘スキルだ。得物は何だ?」
「片手剣と小盾です」
「ジークフリートと同じスタイルってわけだ。ほらよっ」
ぽーんと放り投げられた模擬剣と小盾を、危なげなくキャッチする。
軽く回転している剣の柄を掴むわけだから、それだけでも実力の証明にはなるんだろう……ギルマスさんがにやりと笑う。
「魔法なしで打ち込んでみな」
「【闘気】はありですか?」
「――はぁっ!? その歳で【闘気】持ちだと!?」
まぁ【闘気】は武術系スキルLV6か【魔力操作】LV6から派生するスキル。LV4で一人前、LV5で一流、LV6が達人であることを考えれば、ここにいる見た目5歳の女の子(私)は達人ってことになる。
「……ちょ、ちょっと待て! この防具を身につけろ!」
ギルマスさん、びっくり仰天からの復帰が早いね! さすがは王都ギルマスの職についている人だ。子供用の革鎧、革兜、小手を渡されたので装備する。ギルマスさんも同じく革製の防具を着込む。
「俺も【闘気】を使うからな。よし、来い!」
ギルマスさん、当然のように【闘気】持ち!
「よろしくお願いします! ――行きます!」
魔法はなしって話だから、【思考加速】は使わない。
【闘気】をまとい、訓練場をぐるりを回り込むように走り、ギルマスさんの背後を取る。打ちかかろうと剣を振り上げ、振り下ろした時にはもう、ギルマスさんはそこにはいなかった。
どこへ? ――なんとギルマスさん、正面に向かって猛ダッシュ! 意味が分からないながらも私は追従。え、ギルマスさん、その先は壁しか――って、壁を駆け上がった!?
「えっ、ちょっ!?」
壁にまで行き当たってしまった私は必死に振り返り、盾を構えるや否や上から衝撃! くそっ、【思考加速】なしじゃ全然判断が追いつかない!
盾に叩きつけられたギルマスの剣を、【闘気】全開で跳ね返す!
宙に浮いたギルマスへ追撃しようと足に力を込め――
「そこまで!!」
ギルマスの声。ギルマスは危なげなく着地した。
――あ、白熱しすぎて、さん付けするの忘れてたわ。
「いや、見事だ!!」
それはこっちのセリフだよ!! こちとらLV600越えだってのに、いくら私が魔法を封印してるからって、どうして渡り合えるんだ!? ギルマスさんマジつえぇ!!
「戦いの腕だけでいえば、文句なしのSランクだ。ジークフリートの時にも感じたが……末恐ろしいってのはこのことだな!」
「い、いえ……ギルマスさん、父と近衛騎士団長さんの次くらいにはお強いのでは?」
「はは、お前よりは弱ぇよ」
そうかな? 【
◇ ◆ ◇ ◆
「次は魔法だ。何か使える魔法はあるか?」
「全属性使えますよ!」
「マジかよ!」
ギルマスさん大爆笑。
私のハチャメチャっぷりに慣れてきたらしい。やっぱ順応力高いわぁ。それだけ優秀な冒険者だったってことなんだろうね。
「じゃあ、あの的に向けて得意な魔法を打ってくれ」
ギルマスさんが指さしたのは、訓練場の端っこにちょこんと立っている的。そして私たちが立っているのはその正反対の壁際。的まで100メートルはあるんじゃないの!?
ギルマスさん、私の実力を予想の上で、遊んでやがるな?
じゃあちょっとだけ意趣返ししてやろう。
「では――」
目の前に、4属性のニードル魔法を100発ずつ並べ、猛回転させて射出!
――ずどどどどどどど!!
的は跡形もなく消滅した。
「おまっ、訓練場を破壊するなよ――って、ありゃ?」
ギルマスさんは首をかしげる。そりゃそうだ、あれだけの数の魔法が撃ち込まれて、的の背後にあった壁は無傷なのだから。
「【魔法防護結界】を張りましたから。あとこれはサービスです」
……ずももももっ
的があった場所に、同じような的を土魔法で作った。もちろん、100メートル離れたままでだ。
「ははっ、マジモンの、バケモンだぜ!!」
そんな、ポケ○ン、ゲットだぜ! みたいなノリで言われましても。
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追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
次回、異世界衛生事情にメスを入れます。
アリス「手洗いうがいだけじゃ足りねぇんだよ!」
ここまでお読みくださり、本当にありがとうございます。
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