49(414歳)「異世界衛生事情」

「ま、フツーに考えてSランクが妥当だな!」


 ギルマスルームに戻ってからの第一声。


「そんだけ実力がありゃあ、未成年であることなんて理由にならん」


「あ、あははは……」


「順番が逆になっちまったが、各ランクの内容について説明させてもらおう。


 Gランク……未成年の最低スタートランクだ。受けられるのは荷運びやドブさらいといった雑用と、平野や山林の浅い所での採取や野生動物の狩猟依頼のみだ。


 Fランク……成人の最低スタートランクだ。討伐依頼に関しては、角ウサギやスモールキャタピラーのようなFランクの魔物しか受けられない。


 Eランク……魔物討伐依頼を1件以上こなせばなれる。ゴブリン等のEランクモンスターの討伐依頼まで受けられる。


 Dランク……実力を示すか一定件数以上の依頼をこなせばなれる。オーク等のDランクモンスターの討伐依頼まで受けられる。


 Cランク……護衛や盗賊討伐依頼で盗賊・犯罪者の討伐または捕縛を1件以上成功させればなれる、一人前と見なされるランクだ。オーガをはじめとしたCランクモンスターの討伐依頼まで受けられる反面、緊急時なんかの強制依頼を受ける義務を負う。Cになれば、大概のダンジョンに潜る許可が得られる」


 盗賊よりも強いとされる、鬼が倒せてはじめて一人前。

 ファンタジー世界は逞しいねぇ!


「Bランク……一流だな。これ以上のやつらは、Sランクの依頼も含めどんな依頼でも自由に受けられる。このクラスで入れないダンジョンは、今のところ存在しない。己の裁量を見極めるに足る実力者ってわけだ。Bランク冒険者は冒険者全体の100人に1人に満たない。


 Aランク……まぁ、単なる名誉みたいなもんだ。王都を拠点にしてるやつで10名いる。国全体で……何人だったっけか、まぁ数十人だ。


 Sランク……生きる伝説だ。国で5人しかいない」


 あー……それ多分、パパン、ママン、バルトルトさん、ノティアさん、リスちゃんだ。


「で、確認だが。魔物の討伐経験はあるのか?」


「ありますよ!」


「じゃあ盗賊討伐経験はどうだ?」


「捕縛なら。旅の道中で捕まえたのを、昨日王城へ引き渡しました」


 全裸で。あ、盗賊たちの服は牢屋の管理人さん? に渡してきた。

 装備の方はネコババさせてもらった……というか捕えたり殺害した犯罪者の所有物は全部もらっていい制度になってるから、別に問題ない。


「王城!? ……ま、まぁジークフリートは国王陛下と懇意だから、そういうこともあるのか……」


「信じてくださるんですか?」


「それだけ強けりゃな! ところでお前さん、道中で倒した魔物を持ってたりしないのか? さっきの騒動で、お前さんが【アイテムボックス】持ちなのは聞いてんだ」


「はい、実は結構な量、入ってます」


 減ってもすぐ補充しちゃうから……相変わらず100万体ほど入ってる。


「おおっ、そうか! よし、今から解体場へ行くぞ!



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ここに全部出してくれ」


「この建物では入りきりませんよ」


「マジかよ、すげぇな! じゃあ、ここの床が埋まるだけ出してくれ」


「はい! ではでは、よっとぉ――地竜アースドラゴン1体、ベヒーモス2体、フェンリル3体、ケルベロス4体、オルトロス3体、ヒュドラ2体、グリフォン4体、スレイプニル6体、ズラトロク4体、サンダーバード7体、バジリスク5体、マンティコア3体、サイクロプス2体、テュポーン3体、オーガ・エンペラー6体、オーガ・キング7体、オーガ・ジェネラル11体、オーク・エンペラー6体、オーク・キング7体、オーク・ジェネラル14体」


「「「「うわぁあああああ!!」」」」


「「「「ぎゃぁあああああ!?」」」」


「「「「ぶくぶくぶくぶく……」」」」


 あはは! いつか見た風景。1年ほど前に城塞都市で見たのと同じ光景だ。


 反応は3種類だった。逃げ出すか、尻餅ついて失禁するか、泡吹いて気絶するか、だ。


 ギルマスさんはって? 大爆笑してたよ。


 で、お詫びとして解体係のあんちゃんたちを魔法で洗浄して回ったよ。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「いやぁ驚いた! 城塞都市にたびたび伝説の魔獣が納品されてる話は聞いちゃいたがよ、あんな数の伝説級が床に広がるとは夢にも思わなかったぜ」


「王都の相場、下がっちゃいますかね?」


「お? んー……いや、どれも普通の冒険者が狩れる魔物とは次元が違うから、他の冒険者の仕事とは競合しねぇから安心しな。これが並みのオークばっかだったりしたら影響はデカかっただろうがな。

 まぁ強いて言うなら肉の相場に若干、本当に若干の影響があるってくらいだ。王都は城塞都市の何十倍もデカいからな」


 ……おや。もしかして私が城塞都市に伝説の魔獣100体を納入した時、代金の一部を冒険者に還元したことをご存じ?


「査定に時間がかかるから、代金の受け取りは明日以降で頼む」


「はい!」


「じゃ、冒険者登録を済まちまおうか」


 ギルマスさんが机の引出しから羊皮紙を取り出して書き込み始める。


「ランクはS、武術もS、魔法もSっと。ははっ、自分で書いておきながら、バカみてぇな登録書だな。――ここに名前と年齢を書いてくれ。字は書けるな?」


「はい」


「教養も十分とはね。――あとはここに血を一滴。針はこれを使いな」


「これ、消毒してます?」


「消毒? 毒なんてついてねぇぞ」


「いえ、そうではなく……この世界にはばい菌――目に見えないほど小さな病魔がいたる所に漂っているんです。この部屋にも、このテーブルの上にも」


「……はぁ? 急に何を――」


 そう、この世界……『手洗いうがい』こそ大流行しているものの、細菌とかウイルスとかは知られていない。

 腐った物や死体や病人には病魔がまとわりついている、とされている。

 まぁ【光魔法】に分類される治癒魔法をかければそういった病魔(細菌、ウイルス)が消え去って病気が治る世界だから、そういう認識になっても仕方ないと思うけど。


 ちなみに人の死体は火葬が通例。

 浄化の意味と、アンデット化を防ぐため。ファンタジーだねぇ。


「ほら、ゴブリンやオークなんかが、矢じりに糞便を塗りたくったりしてるでしょう? で、そういう矢に射られたところをすぐに洗浄しないで放っておくと、体が熱くなったり、全身痛くなったり、痙攣したりして、最悪死に至るでしょう? それは糞便が病魔の巣窟で、病魔が体内に入り込んでしまうからです。糞便ほどではなくても、怪我をしたところを不潔なままにしていると、同じく病魔に侵される場合がありますので要注意です。

 あ、この知識は【鑑定】で知りました。ここだけの話、私の【鑑定】はレベル8です」


 地球でも大昔から人類に恐れられていた病気、破傷風。

 糞は世界で一番手に入りやすい毒。日本でも戦国武将たちが糞を投げ合ったもんだよ。

 ちなみにチンギスハンは、ペストで死んだ人の死体をカタパルトで敵城内に投げ込んだとか。で、ヨーロッパ人の半分をペストで殺したとかなんとか……こ、怖すぎる。


 なお、破傷風は【光魔法】LV6の【エクストラ・ヒール】以上でないと治らない。そしてそのレベルの治癒魔法が使える魔法使いはとても少ない。


 上級魔法といいつつLV6といえば達人レベル。


「――――……」


 だんだんとマジの顔になっていくギルマスさん。【鑑定】で知ったってのは嘘だけど、まぁ嘘も方便ってことで。


「で、その病魔ですが、熱に弱いのです。なので――【アースボール】でコップを作って、【ホット・ウォーターボール】で熱湯を流し込み、針を拝借。こんな風に熱湯の中に沈めると――はい【鑑定】!」



 ************

 「針」

 消毒された針。

 ************



「これで病魔に侵される心配はありません。――いてっ」


 血を所定の位置に垂らすと、申請書がぱぁっと輝いた。【取引契約】系の魔法が【付与エンチャント】されてるんだろうな。

 サインだけじゃなくて血液も必要なのは、何か魔法的な生体認証とかがあるのかな?


「【ヒール】! あ、ちなみに人や動物の血の中にも、他人の体内に入ると病を引き起こす病魔が潜んでいます。なので、同じ針を消毒せずに使い回すのは非常に危険です」


 注射針の使い回しで院内感染なんて笑えない。


 針を入念に熱湯にくぐらせ、【鑑定】してからギルマスに返す。

 熱湯とコップは【アイテムボックス】へ。こういう使い方ばかりしてるから、【アイテムボックス】内が要るものと要らないものでカオスなことになってるんだよね……。スライムを大量に【従魔テイム】してゴミ処理チートとか、どうかしら。


「――――……」


「あれ、ギルマスさん?」


「おっおっおっ……」


 アスキーアート((^ω^≡^ω^))かな?


「……おっ、お前さんは今日、王国民が苛まれ続けてきた問題の1つを解決したのかもしれん。確かにその通りだ。大した怪我じゃないはずなのに、病魔に侵され、冒険者を引退したり、死んじまうやつは、毎年かなりの数に及ぶ。

 こ、このことは早急に国王陛下と医療ギルド本部に伝えねぇとな。お前さんの名前と、お前さんが【鑑定】レベル8持ちなのは報告させてもらう。悪いが了承してくれ。どのみち、Aランク冒険者が出てきた時にゃあ国に報告しなきゃなんねぇルールなんだよ。Sランクともなりゃあ、今日中にも報告を上げなきゃならん」


「いいですよ! あと陛下は私のこと、ご存じです」


「は、はは……顔見知りってか」


 ギルマスさんが引きつり笑いしてた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ほらよ嬢ちゃん、Sランクパス付きのGランク冒険者ギルドカードだ! なくさないよう、しっかりと【アイテムボックス】に入れておくこったな」


 ギルマスさんから受け取ったカードには、『G(S)』の文字。

 なるほど、これで私はG~Cランクの依頼を1件以上達成すれば、Sランクになれるわけだ。Bランク冒険者はSランク依頼まで無制限で受けられるからね。


「ありがとうございました!」


 私はギルマス部屋を辞する。


 よーし、今日はGランクの雑用依頼を1件こなしてみよう!






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追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600


次回、アリスが時代を1000年進めます!

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