47(414歳)「勇者王爆誕!?」

「さっそくもう1局じゃあ!」


 魔の森別荘の『レベリング部屋』にて。

『対戦! 対戦!』と大興奮な陛下のために、フェッテン殿下、ノティアさん、リスちゃんのパワーレベリングを見守りつつ、オセロ大会を継続する運びとなった。


「わ、分かりましたから、先に部屋の説明を終わらさせてください! 皆様の身の安全に関わることですので……あ、僭越ながら陛下、陛下も先にレベリングを済ませてしまわれた方が良いのでは?」


「言うても儂は80はあるからのぅ。宰相も確か70後半じゃったか?」


「!?」


 ベテラン以上英雄未満だこの人たち!


「いや……別に誇れる話ではない。儂らくらいに金も権力も持っとると、上位ランク冒険者に高ランクの魔物を生け捕りさせて、今まさにフェッテンらがさせてもらったような安全なレベリングができるというわけじゃ」


「あ、なるほど……」


 パワーレベリングは、何も私だけがやってるわけではないんだね。

 でもまぁ70以上もあればそこまで心配する必要もないか。


「では皆様、部屋の説明で一番重要なことですが、私がそばにいない時にこの部屋を使う際、万が一にも隙間から攻撃を受けた場合は、そこの棚に置いてあるポーションを速やかに飲んでください。レベル6の回復魔法【エクストラ・ヒール】を込めていますので、即死でなければ治ります。ただ、死んでしまってはどうにもなりませんので、本当に、くれぐれも気を抜かないようにお願いしますね!」


「即死級の怪我でも、数秒以内なら蘇生できるわよ?」


 とここで、宮廷筆頭魔法使いノティアさんから衝撃の事実!


「――えっ!?」


「聖級【光魔法】の【パーフェクト・ヒール】なら、例え心臓が貫かれようが、頭部と胴体が切り離されようが、数秒以内に魔法をかければ治るわ」


「ななななんと……数秒を過ぎれば?」


「時間が空けば空くほど、記憶の喪失や知能の低下が著しくなるわね」


「あぁ……じゃあ頭部が損傷したり消滅した場合は?」


「うん。そこが問題で……たとえ頭部が消滅したとしても、【パーフェクト・ヒール】なら綺麗に治すことができるけど、魂が戻ってこず、廃人になるわ」


 ――脳死、だな。やっぱり脳だけは魔法でもどうにもならないのか。


「この情報は、過去に罪人を使って検証された確かなものよ。神級なら天界から魂を呼び寄せることもできる、と伝承にはあるけれど……少なくとも人族で使えたという記録はないわ」


 何度も処刑されることになった罪人さんはちょっと可哀そうだけど……。

 それにしても、魂すらどうこうできるって、さすがは神級――あっ、女神様が私を転生させたのってまさしくそういうことじゃん!


「終わったかの?」


 私とノティアさんの会話を律儀に待ってくれてた陛下からのお声。


「「あっこれは失礼を……」」


 私とノティアさんがハモった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「それにしてもここは便利じゃな」


 ぱちんと駒を打ちながら、陛下。

 私と陛下はレベリング部屋の片隅に出した椅子に座り、テーブルを挟んで相対している。


 背後ではフェッテン殿下、ノティアさん、リスちゃんがパパンとママンの指導の下、ゲロまみれになっている。

 宰相様はあいかわらず陛下の後ろに控えてる。


「儂も政務で時間が足らぬ時などに使わせてもらって良いか? 一刻を争う事態ですら、無限に検討する時間が得られるのじゃ。是非に使いたい」


「一応魔の森のど真ん中ですので、誠に失礼ながら『自己責任で』ということになってしまいますが……? 例えば私が死んだ場合などに結界が解ける恐れがございます」


「もちろんじゃ。レベリングもするし、利用時には護衛もつける。……というか、そなたが死ぬ時は人族が亡ぶ時じゃ。気にしても仕方あるまい」


「……か、かしこまりました。王城にもここへの扉をご用意いたしましょう」


 ホント、覚悟キマってるよなぁ……。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ぐ、ぐぬぬ……パスです」


「あっはっはっ! 段々と儂の勝ちが増えてきたのぅ? それにしてもこの『どーなっつ』という菓子は美味いのぅ」


「自信作でございますれば」


 オセロをしながら、陛下が皿に盛られたドーナツをもりもり食ってる。

 陛下は『勇者一家に毒を盛られるかどうかなど、心配してもしかたなかろう』って達観してたけど、一国の主が、出されたものを無警戒に食べられるわけがない。宰相様が【鑑定】LV5持ちだったので、毒入りでないことを確認してもらった。


 パパンはパワーレベリングのサポートを継続中。

 3人がゲロをはく回数が減ってきたので、ママンはサポート役を辞め、代わりに陛下にお茶やお菓子を出したりしてる。


 それにしても陛下、強いのなんの!

 1戦目こそ私が難なく勝ったが、2戦目にして四隅を取ることの重要性にご自身でお気づきになり、私の辛勝。3戦目からは私がやたらとパスに追い込まれ、そこからは敗北の連続。自信なくすわぁ……。


「ふぅ、ふぅ……【リラクゼーション】。ところで陛下」


 くそ、悔しすぎて声が震える。


「なんじゃ?」


「魔剣とか聖剣ってありませんでしょうか? ドラゴンや魔王にも突き刺さりそうな……」


 思えば私の口調もかなり砕けてきているが、陛下は怒る様子もない。いい人なんだね。


「ふむ。ここから北に馬車で5日の位置に、ダンジョンを中心に栄えるダンジョン街『ペンドラゴン』がある。その最奥には、勇者様が晩年に、愛剣を突き刺した巨大な岩がある。言い伝えとかではなく、実際にな。今もAランク冒険者の多くが最奥に到達し、剣に挑んでおるが、抜くことができた者はついぞおらんようじゃ。

 ダンジョンは適度に荒らさねば魔物の集団暴走スタンピードを起こすからのぅ……。勇者様がわざわざダンジョンの最奥に愛剣を遺したのは、単に戯れというわけではなく、冒険者たちに魔物を狩らせるためだろうと儂は考えておるが」


 いやぁ……たぶん、単なる戯れだと思うよ?

 あとその剣の名前は絶対『カリバーン』だね。


「ダンジョンは、それ自体が生きた巨大な魔物の一種。定期的に再生し、万能薬エリクサーやマジックバッグのような貴重なアイテムが配置されるから、挑む冒険者は多い。

 今の時期は、冬ごもりから目覚めた魔物があふれ出やすい。そなたも冒険者登録ののちに、挑んでもらえるとありがたいの」


「はい!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「いやぁ楽しかった! こんなに楽しんだのは生まれて初めてかもしれん!」


「私はあまり楽しくありませんでした……」


 たっぷり3時間も付き合わされたよ……。


「あっはっはっ! 今日はこれで帰るとしよう。

 ――最後にアリス、いや、勇者アリスよ。魔王討伐か封印を果たした暁には、そなたに王の座を渡そう」


「へ、陛下!?」


 慌てる宰相様。


 ……へ? 陛下、今なんつった??


「は……へ?」


「そもそもこの王国は100年ほど前、魔王を封印した勇者様が、生き残った人族をまとめ上げて成した国じゃ。【勇者】の称号を持ち、功績を成した強者が相手ならば、国を渡すことに何の不思議もない」


「……い、ぃぃぃぃいえいえいえいえいえ私はまだ、5歳の子供ですよ!? 魔王を倒したとしても十代半ばです」


「数百5歳、の間違いじゃろう?」


「……い、いえいえ、ただただ無心に魔物狩りと鍛錬に明け暮れた数百年です。ほとんど野生動物のような日々です。人生経験には数えられませんよ」


「砂糖作り、蜂蜜作り、酒作り、様々な道具作りと、ずいぶん楽しげではないか」


「うっ……」


「ふむ……だが確かに、そなたは冷静さや老練さを感じさせる反面、精神的に随分と若々しく見える」


「ピチピチの5歳児ですから」


「『ピチピチ』とはなんじゃ?」


「若さを表わす形容詞です」


「面妖な……100年前の勇者様も、余人の聞き慣れぬ言葉を口走ることがあった、と記録にあるが……」


「女神様からの入れ知恵ですね」


「神々の叡智というものは計り知れんのぅ……」


「それで、これは持論なのですが、精神年齢というのは肉体年齢に影響を受けるのだと思います。私の中には5歳時らしい幼さや無邪気さと、数百年分の鍛錬の経験が同居しているのです」


「なるほどな――…あっ、違う、そういう話ではないのじゃ! 王になる気はないのか!?」


 ……あぁっ、陛下、思い出しちゃった。


「王様になるのはちょっと……」


 コミュ障こじらせてプロジェクトリーダーになれなかったタマだよ? 王様なんてやれるわけないじゃん! 心壊れるわ!


「王が嫌なら貴族はどうじゃ? フェッテンを2度救ってくれた功績と城塞都市発展の功績、様々な発明や魔法教本を安価に購入できるようにした功績だけでも、今すぐ男爵にしてやれるぞ。Sランク冒険者となって武名を轟かせたあとならば伯爵も堅い。魔王討伐の暁となれば、侯爵でも構わん。

 できることならあの臆病者のロンダキルア辺境伯から爵位を取り上げて、そなたに領地経営と国境の防備を任せたいのじゃがな!」


 うわぁ陛下、フェッテン殿下と同じこと言ってるよ……。


「……やはり、荷が重いです。普通に結婚したいです……」


「そっ、そそそっ、そなたほどの強者がどこぞの貴族家に嫁ぎでもしたら、国がひっくり返るわ!」


 私のなけなしの乙女な願いに対し、陛下マジおこ。

 まぁ確かに、私がどこかの家に嫁いだとしたら、王国の軍事力を、たぶん私単体で凌駕しちゃう。たとえ私や嫁ぎ先にその気がなくても、周りが、反意だなんだと騒ぎ立てるだろう……。


「そなたが王にも貴族にもなるつもりがないのなら、フェッテンと結婚することじゃ! 幸い、フェッテンはそなたのことをいたく気に入っているようだし……そなたも、まんざらではないのじゃろう?」


「~~~~~~~~~~~~ッ!!」


 自分でも分かるほど、顔が真っ赤になる。


「あっはっはっ! まぁまだ10年先の話じゃ……あとジークフリート、そなただから許すが、儂、王じゃからな?」


 壁際の方を見ると、途中から話を聞いていたらしいパパンが、めっちゃ苦々しい顔をしてた。

 反対に、ママンはキラキラした顔をしてた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、魔の森別荘から王城へ戻ってきた。


 ノティアさんからは、陛下の許可のもと聖級の魔法教本(もちろん超極秘情報)を受け取った。『神級の【契約】を一発で成功させるアリスちゃんなら、たぶんあたしが教えなくても、この本を読むだけでマスターできるわよ』とのこと。


 それで今日はお開き……という時に、


「――あっ!」


 思い出した。


「むぉっ、なんじゃ!?」


 ビビる陛下に、


「こ、これは失礼を……道中、貴族家を襲っていた盗賊団4つ、計114人が生きたまま【アイテムボックス】に入ったままなのを忘れておりました」


「「「――あぁ!」」」


 フェッテン殿下、パパン、ママンも素で忘れていたらしい。


「あっはっはっ! 盗賊100人以上が生きたまま【アイテムボックス】に!」


 爆笑の陛下。


「フェンリス騎士爵、帰りにアリスたちを牢屋へ案内してやれ」


「ははっ!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 牢屋で盗賊団を引き渡してから、宿に戻った。


 気づいたら全裸でいきなり牢屋の中にいた盗賊の人たち、目を白黒させてたよ。






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追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600


次回、アリスが冒険者デビュー!

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