46(414歳)「王子様はゲロまみれになっても素敵……」
「アリス、もう1局じゃ!!」
陛下がオセロにどハマりしている。
将棋と違い、1局1局がお手軽でスピーディーに終わるところが気に入ったらしい。
「もう1局、もう1局じゃ!!」
「陛下、さすがにもう、次の予定に差し障りが……」
宰相様の
「そうじゃ! ならば【
それは確かに。
「部屋に入ってすぐのところは、私の【物理防護結界】と【魔法防護結界】を魔力の限り重ねがけしており、
「よし、ではいくぞ!」
◇ ◆ ◇ ◆
「こちら居住区。各自の私室と居間、食堂、キッチン、洗面所とお風呂場です。水やお湯は自前で用意する都合上、ここの利用者はみな、真っ先に【水魔法】と【火魔法】が得意になります。
あ、ノティアさんとリスちゃんの私室を増設しなければなりませんね。あとでやりましょうか」
「なかなか住み心地がよさそうではないか! しかし水も火も魔法前提とは、なんともたくましい環境じゃのぅ」
「あはは……では外に出ましょう。
こちら、畑です。この空間は時間が止まっているに等しいので、作物の育成は全て、水と肥料を撒いてからの作物強制育成魔法【グロウ】頼みになります。最低でも【グロウ】持ちがひとりはいないと食料不足に陥りますのでご注意ください。まぁそのへんの魔物を狩って食べていれば、死にはしませんけれども……」
「上級魔法で魔力消費も重い【グロウ】が前提の生活とはのぅ……」
「続いてこちら、解体場とトイレです。狩った魔物はここで解体し、可食部や素材以外は細切れにして乾燥させ、トイレ内の糞尿と合わせて【グロウ】の亜種魔法【発酵】で肥料にします。自分で作った肥料は【アイテムボックス】に保管し、都度使用する感じですね。
あ、糞尿は早い者勝ちのルールになってます。まぁなければないでそこらへんから魔物の糞尿や腐葉土を拾ってきますね」
「糞尿を奪い合いとは、なんともまぁ……」
「続いてこちら、酒蔵です……が、勝手に中をいじるとトニさん――父の元パーティーメンバーで、この空間で200年ほど私を護衛してくれたレベル200越えの従士さん――が怒るので、この建物には近づかないのが吉です。テンサイ酒なら城塞都市でいくらでも売っておりますし、ライゼンタール男爵様が一定量王都にも流通させているかと存じます」
「そうじゃ、テンサイ酒! なんでも物凄く強いテンサイ酒が城塞都市に出回ってるとウワザじゃないか! 魔法教本にはなぜか作り方が乗っておらんのじゃ!」
うぉっ、陛下が物凄く食いついてきた!
魔法教本まで確認済とは本気だな!
「陛下、今は――」
あはは、そんで宰相さんに諫められとる。
「続いてその横、デスキラービー・クイーンのハッチさんが蜂蜜を納品しに来る建物です。ハッチさんは【瞬間移動】と【アイテムボックス】が使えますので、建物内に直接来ます。建物を分けたのは、いくら私の従魔でも、居住区内に全長2メートルの蜂が現れたらビビると思いましたので……」
私たち一家以外の全員が、『だろうな』って顔になる。
「で、これらの施設は全て、私の【物理防護結界】と【魔法防護結界】で守られております。空気が澱まないように、【風魔法】を【
あ、換気扇っていうのはこんなやつですね」
【アースボール】で即席換気扇を作り、指先から風を送ってクルクルと回して見せる。
「「「「「ほぉ~……」」」」」
「続いて畑の向こう、レベリング部屋へご案内しましょう。この扉の先は、絶対に安全とは言えない領域になりますので、気を引き締めてください。
こちら、レベリング部屋です。あの先に見える扉の先は完全に魔物の領域となります。そしてここ100メートル四方ほどの空間は、【物理防護結界】と【魔法防護結界】に守られつつ、ここにあるような隙間から外を攻撃できる要塞となっております。
また、そこの扉から少数の魔物を招き入れて、安全に戦ったりもしますね」
「なんとも至れり尽くせりじゃのぅ!」
「ちなみに、今までに紹介した結界で包まれている領域は、気を落ち着かせる魔法【リラクゼーション】をかなり強めに【
「……そ、それはそうじゃろうな」
「肉体が加齢せず、【リラクゼーション】を常用していることもあり、私にせよ父や母や護衛の従士たちにせよ、何百年も生きてる実感がないんですね……逆に、年齢についてはあまり深く考えないよう推奨しています」
「確かに、その方が良いじゃろうな……」
「ではさっそく、魔物を呼び寄せてみましょう! こんなふうに、結界の外側に【アイテムボックス】! で肉を出して【テレキネシス】で浮かせつつ塩と
結界の隙間からメッチャいい匂いがしてくるが、こっちに匂いが入ってきちゃ意味がないので、【風魔法】で押し返す。
「おっ、ちょうど2体やってきましたね!」
幼体~成体の間くらいの小柄なベヒーモス2体が、結界に猛突進をかましてくた!
ズドンっという音にノティアさんが『ひっ』と声を上げるが、
「ご安心を。このように、魔物の突進でも防護結界はびくともしません。ただ、ブレスや魔法のような遠距離攻撃を使う魔物には十分にご注意を。
それでは魔物たちの4本足を【アイテムボックス】! ささ、ノティアさんとリスちゃん、とどめをどうぞ。武器はそこの棚に、リーチの長いやつを揃えてあります」
「じゃ、じゃあこのロングソードで――オラァッ!」
「【アースアロー】!」
足を失ってもがいていた2体の小型ベヒーモスは、ともに脳天を貫かれて動かなくなる。
「さすがはおふたり! まだ小型でしたが、Sランクの魔物であるベヒーモスを一撃で仕留めるとは! ところで気分はどうですか? はい、この桶をどうぞ」
土魔法で作った桶をふたりに手渡す。ふたりの顔は真っ青だった。
「「ぅおえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!」」
ゲロ吐いてのたうち回り、泡を吹いて気絶した2人。
うん、いつか見た光景!
「ど、どうしたのじゃ!?」
陛下が慌てるが、私たち一家が『だよねー……』とか『やれやれ……』とか『あー……』って感じの顔をしているのを見て困惑しているご様子。
「レベルアップ酔いです、陛下。デイム・フェンリスのレベルは存じ上げませんが、デイム・パーヤネンはレベルが90手前ということでしたので、一気に数十は上がったでしょう」
経験値というものは、魔物にダメージを入れただけでも入手できるが、とどめを刺した方がぐんと多く入る。
「な、ななな……いや確かに、ベヒーモスの討伐に成功した等という話は聞いたことがない。100年前の、勇者様の伝説以外では……。いや、それよりもじゃ。そんな伝説級の魔物がしょっちゅう現れるのか、この森は!?」
「ここは森のかなり深い部分にありますから……調査したところ、森の中心ほど魔物が強く、逆に森の入口付近ではゴブリンやオークが出るくらいです。とはいっても上位種ですが。陛下、ちょっと失礼致します」
私とママンはおふたりの介抱を始める。
「「【ハイ・ヒール】、【ホットウォーターシャワー】、【ドライ】、強めの【リラクゼーション】!」」
「「――はっ!? な、ななな……」」
「……とまぁ、最初こそレベルアップ酔いが辛いですが、【苦痛耐性】も鍛えられますし、もりもりレベルが上がりますよ。ノティアさんもリスちゃんも、よければここで200くらいまで上げてみませんか? 何日ここにいても、向こうでは1分にもなりません」
「は、ははは……本当に至れり尽くせりじゃな。他の近衛騎士や宮廷魔法使い、軍人たちにもこの部屋を使わせてもらって良いか? ――いや、ベヒーモスのような魔物がゴロゴロいて、それを魔王は無限に使役できるという話じゃ。何としても使わせてもらわねばならん」
「【契約】で口止めさせて頂けるのでしたら、いくらでも。ただ、陽の光は外の時間の位置と同じなので、普通は日中に入るのを推奨しております。逆に夜に入って夜戦に慣れるというのもありかもしれませんが、これは私たち一家の域まで達したあとでないとオススメしません」
「まぁそうじゃろうなぁ……」
「アリス!」
今まで陛下の後ろで空気になっていたフェッテン殿下が、ずずいと私の前に出てきた。
「私もレベリングがしたい! もう一度ベヒーモスか何かを呼び寄せてくれないか!?」
「え、で、殿下もですか!? でもさっきのおふたりみたいになりますよ……?」
「なっ……アリスちゃん、レベルアップ酔いになるの分かってて黙ってたの!?」
「鬼畜なお姉様も素敵……」
もうメチャクチャだ。特にリスちゃんはもう、付ける薬もない。
「え、えぇとじゃあ魔物を呼び寄せますが……本当に、本当に気を付けてくださいね!?」
「私を誰だと思っているのだ! 病が全快した、『武神の申し子』フェッテンだぞ!?」
おぉ……なんかパパンの幼少期と同じようなふたつ名をお持ちの様だ。
はしゃぐ息子さんに苦笑している陛下。
「じゃあ呼び寄せますね――」
◇ ◆ ◇ ◆
……まぁもちろん、フェッテン殿下もゲロまみれになったよ。
【リラクゼーション】しつつ魔法で洗浄する私に対する、『私もそなたが泡を吹くところを見てしまったから、これでおあいこだな!』というフェッテン殿下の言葉に、危うくまたも泡を吹くところだった。
どこまでイケメンムーブかませば気が済むねんこのイケメンリアル王子様は!?
尊すぎて直視できない……。
まぁ厳密には、魔王復活のことを聞いたフェッテン殿下が泡吹いたところをすでに見ているのだけれど……細かいことは気にしない!
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追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
次回、勇者王爆誕!?
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