45(414歳)「公式チート魔法公開! あとオセロで陛下とバトる」

 結局、私のパーティーメンバーは近衛騎士団長の『リスちゃん』になった。


 私が普通に『フェンリスさん』と呼んだら、物凄く悲しそうな顔をしたフェンリスさんが『どうかちゃん付けで。あと愛称で読んでほしいです』と懇願してきて、『リスちゃん』呼びが決定された。

 エリザベスさんをベスちゃん呼びするようなもんか。


 ……それにしても、獣族は強者に対して甘えたがる傾向があるらしい。

 今までパパン以外に自分より強い者がいなかったリスちゃんの、甘えたい欲求の開放っぷりよ。

 しっぽ振って私の後ろについて来るんだもんね。


 ――閑話休題。


 いきなり宮廷筆頭魔法使いと近衛騎士団長が抜けて大丈夫なのか陛下に聞いたけど、『もとより勇者が死ねばこの国は終わる。そなたの護衛と強化が国家最優先じゃ』と嬉しいながらも覚悟ガンギマリのご発言に戸惑う私。

 からの『えぇええええっ!? 勇者様!?』とビビるリスちゃん。


 あ、この会話は、筋肉モリモリマッチョマン5名にはご退出頂いたあとのもの。


 で、未だにフリーズしている宮廷筆頭魔法使いノティアさんの元に戻ってきた。


 お約束の『はぁっ!? レベル600ぅ!?』をリスちゃんがやったことで、ノティアさんが再起動した!

 自分より慌ててる人を見ると、かえって落ち着くっていうやつかな。


 で、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】のことをノティアさんとリスちゃんに打ち明け、お約束の『『な、ななな……』』も済ませたあとのこと。


「できれば近衛騎士と宮廷魔法使いの全員にも部屋を使わせてもらいたいのぅ」


 と陛下が仰った。


「お気持ちは痛いほど分かるのですが……。魔の森で亜空間化させている場所は、位置さえ知っていれば誰でも立ち入ることができるのです」


 そう、魔の森別荘はダブル【防護結界】と鍵付きのドアで封じてるけど、その周辺半径数十キロメートルの空間は、誰でも入れる。でないと領域内の魔物が枯渇しちゃうから。

 でもそうなると、問題が出てくる。


「もし信用のおけない相手にこのことがバレて、【飛翔】や【瞬間移動】持ちの人が領域に入って勝手にレベリングをしてしまうと、まずいことになります」


 高レベル犯罪者予備軍の完成だ。

 そりゃ地竜アースドラゴンやらフェンリルやらの『Sランク越え』を狩るのは無理だろうけど、あの領域内にもAランクの魔物は潜んでいる。

 慎重にやればレベリングは可能だと思う。


「領域の境目には私の従魔ブルーバードを配置させ、万が一にも魔族なんかが迷い込まないように警戒網を敷いてはおりますが、信用のおけない王国民にこのことが知られると面倒なことに……。魔族相手なら捕縛・殺害すればいいですが、王国民相手にそんなことはできませんので……。部屋の話を打ち明けたのは、この場におられる方々の人格を信じてのこと……ん? 人格?」


「あぁお姉様! そんな冷たい目で見ないでください!」


 尻尾をぶんぶん振るリスちゃんと、模擬戦のことを知らず、ドン引きするノティアさん。


「ふむ。要は部屋のことを他言しないようにできれば良いわけじゃろう?」


「は、はい」


 まさか陛下、近衛騎士と宮廷魔法使い全員を私の奴隷にしようなんて考えてないよね? 【隷属契約】魔法なら確かに可能だろうけどさ。


「実はあるのじゃ。【隷属契約】でもなく、期間限定の『取引』でのみ有効な【取引契約】でもない、相手に永続的に強制力を発揮させることができる神級魔法が」


 神級!?


 陛下がノティアさんの方を見る。ノティアさんが『ははっ』と頭を下げ、


「アリス様は――」


「ちょちょちょノティアさん、『様』付けはやめてください! 同じパーティーメンバーになるんですから」


「そっちのワンコは『お姉様』呼びしてるけど?」


「あぁん? やんのかゴラァ!?」


「リスちゃん、めっ! ステイ!」


「はいお姉様! でへへ」


 いかんな、精神年齢では私の方が上だと知って、甘えん坊具合が悪化してる。


「この子はちょっと変わってますから気にしないでください」


「んー……じゃあアリスちゃん!」


「はいっ」


「アリスちゃんは、商人たちが使っている【取引契約】魔法は使える?」


「商人ギルドで作ってもらった契約書を使ったことならありますが、自分で魔法を使ったことはありません」


「うん。じゃあ効果は知ってる?」


「はい。商業の神様に誓うことで、契約内容を破るような行為ができなくなる魔法だと。破ろうとすると頭痛や吐き気を催すのだと」


 最悪死に至るらしい。

 上級魔法のクセしてマジもんの公式チート魔法。ドラ○エ6でまほうつかいが熟練度1でメ○ミを覚えるくらいのバランスブレイカー。

 私がこの世界の開発者ならせめて聖級に設定するところだ。しかしながら上級であるおかげで、この世界の商取引は極めてクリーンなのだ。


「それの上位版みたいなもので、陛下が誰かを叙する時や、貴族家当主が陪臣を任命する時に使う【契約】っていう神級魔法があるの」


「ああっ!」


 パパンが急に声を上げる。


「これですね!」


 パパンが【アイテムボックス】から取り出したのは、『』とかいう印鑑。貴族家を証明する大切なもので、失くしたら爵位を剥奪されるほどのヤバいやつ。


「仰る通りですわ、サー・ロンダキルア」


 ノティアさんが微笑む。


「その璽で強制できるのは2つのみ。

 1つ、『国家に反逆しない』。

 2つ、『1つ目に反しない限り、主人に反逆しない』」


 つまりパパンの部下になった人間は、国家反逆をしようとすると頭痛・吐き気ののちに死に至る。

 そして普段はパパンに反逆できないが、パパンが国家反逆を犯そうとしている時に限っては、パパンに反逆したり密告したりできる。


「その璽は神級魔法【契約】が【付与エンチャント】されたもの。神級だからね……今、王国には使える人はいないのだけれど、王家の宝具に、璽へ【契約】魔法を【付与エンチャント】できるものがあるの。

 そして、オリジナルの【契約】ならば、なんでも好きなことを強制できる。例えば『【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】のことを他言するな』とかね! 詠唱は私が知っているから教えられる。アリスちゃんなら、きっと使いこなせると思うわ」


「【契約】魔法は、勇者様がこの国を興す時に全知全能神ゼニス様から授かったという神の御業――この国の根幹じゃな。この魔法があるからこそ、儂は魔王国だけに集中することができる」


 陛下が捕捉する。

 同じことをノティアさんが言うと不敬になりかねないから、あえて言ったのかな?


 それにしても、国家反逆や内紛の心配がいらないってのは本当に素晴らしいな!

 女神様マジ女神!


「じゃあまずは【取引契約】魔法から練習してみましょう。魔物の素材を売るもよし、アリスちゃんのオリジナル商品とか魔法とか技術をお金と交換で教えてくれるのもありね」


「――あっ、それなら」


 今こそビバ・牛の時だよ女神様!!


「【アースウォール】! を【アイテムボックス】で削って削って盤の出来上がり! 続いて【アースボール】で64個の駒を作って片面は炙って黒くしよう……完成!」


「な、なんじゃこれは!?」


「私がかねてより温めておりました遊戯具、『オセロ』にございます!!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ルールを陛下にお伝えし、まずは初回プレイ。


「これは……ショウギに似ておるのぅ」


 将棋はあるのかよ!!


「はい! 将棋よりも簡単なので一般受けすると思いますし、安価で売り出せば、平民の知育にもなるでしょう」


「確かに。ショウギは囲いや戦法の定石が多く、労働階級が仕事の合間に覚えるには難しすぎるからのぅ」


「初心者はとりあえず美濃囲いしとけってよく言われますけど」


「なんじゃアリス、そなたショウギもイケる口か?」


「いえ、駒の動かし方を知ってるくらいです。昔母方のおじい……げふんげふん!!」


 危ない危ない危ない!!


「今はこのオセロを打ちましょう!」


「ほほう、シンプルなクセに奥が深い! あっ、そこに打たれては……あぁ! ――って、打つところがない!? なななっ、この儂が『ぱす』じゃと!? なんという屈辱!」


「あ! 申し訳――」


「冗談じゃ冗談じゃ! 手加減などするでないぞ!?」


「は、はいぃ!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「いやぁ負けた負けた!」


 陛下は楽しそうだった。


「して、この『おせろ』をどうするのじゃ?」


「流行らせたいと思います」


「工房でも立ち上げるのか? それともそなたが自分で作るのか……まぁそなたの魔法なら可能じゃろうが」


「うーん……城塞都市の工房や店舗ももはや10を超えて、管理しきれなくなってきてるので……どなたかにアイデアを売って、量産して頂ければ」


「よし宰相! ライゼンタール男爵を呼べ! 今すぐじゃ」


「ははっ」


 言うや否や宰相様が【瞬間移動】!

 なんと宰相様、【瞬間移動】持ちだった。いつも陛下のそばでサポートしつつ、有事の際には陛下を連れて避難か……メッチャ優秀やな!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ものの数分で宰相様と私の共犯者・ライゼンタール男爵様が現れた。


「ヘンデル・フォン・ライゼンタール、陛下の召喚に応じ、まかりこしましてございます」


 最上級の礼を取る男爵様に対し、


「よいよい。顔を上げよ」


「ははっ」


「この娘――アリスの話を聞いてやってはくれんか?」


「ははっ」


 と、ここで初めて男爵様が私の方を見る。

【瞬間移動】で現れた時から私のことには気づいていた様子だけど、まさか陛下を無視して私に話しかけるわけにもいかないものね。


「これはこれはアリスさん。また新たな商売のネタでも?」


「その通りです! ということでまずは一局!」


「あ! アリス、もう1台作れるか? 男爵とアリスが打っている間、儂は宰相と勝負じゃ!」


「分かりました! 【アースウォール】からのぉ……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「それにしてもこの『紙』は本当に綺麗で書きやすいですなぁ。その『つけペン』は初めて見ましたが、お売りになるつもりはありませんかな?」


「男爵様が量産してくださるなら、アイデアを売りますよ」


 いっぱしの商人で商人ギルド会員でもあるライゼンタール男爵様に指導してもらいながら、契約書を書き記す。

 契約の主旨は、『製造販売は全てライゼンタール男爵様が行い、その純利益のうち2割をアリスがもらう』というもの。

 丸投げだし、私が有利なくらいの好条件。


「じゃあ今度はあたしの出番ね。じゃあその契約書に手をかざして――」


 今度はノティアさんによる魔法の指導が始まる。


「はいっ」


「『商業神エルメスよ』」


「商業神エルメスよ――」


「『御身に誓い奉る』」


「――御身に誓い奉る」


「『ここにしたためられし事柄を』」


「ここにしたためられし事柄を――」


「『命に代えても遵守することを』」


「――命に代えても遵守することを」


「「【取引契約】!」」


 怖い詠唱だよね。事実、破ったら死ぬんだもの。

 まぁだからこそ契約書の内容には、『命の危機に瀕した時』や『脅されて殺されそうな時』はその限りではない、とか、そういう事態に陥った場合の補填は、とかを事細かに記載するのが通例なんだそうだ。


 ぱぁっと契約書が光り輝き、私は晴れて【取引契約】使いとなった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 ウキウキ顔のライゼンタール男爵様にはご退席頂き、続いて本題の【契約】。


 目の前には、『【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】のことは他言してはならない。他言せざるを得ない事態に陥った場合は、直ちにアリスに相談すること』という内容の契約書。

 従魔ブルーバードを増やして、部屋の利用者のそばに常駐させるようにしよう。これで、例え命の危機に陥ったとしても逃げられる。


「『麗しき全知全能神ゼニスよ』」


「麗しき全知全能神ゼニスよ――」


 女神様、さりげなく容姿自慢してんじゃないよ!

 確かに超絶美少女だったけど。


「『御身に誓い奉る』」


「――御身に誓い奉る」


「『ここにしたためられし事柄を』」


「ここにしたためられし事柄を――」


「『命に代えても遵守することを』」


「――命に代えても遵守することを」


「「【契約】!」」


 契約書がぱぁっと輝き、


「ぅおっ!?」


 突如襲いかかってきた目まいに、尻餅をついてしまった。


「アリスちゃん!?」


 ママンが駆け寄ってくるが、


「だ、大丈夫です。いきなり大量の魔力が減ると、こんな感じになるんですね……ちょっとステータスを見ますから」


「本当に大丈夫なのね?」


「はい」


 ママンに近づかれてはウィンドウを開けない。ママンもそのことは分かっているので、元いた場所に戻っていく。


 ステータスを確認すると、


「マジか……」


 MPが十数万ほど減っていた。【魔力操作】がカンストして燃費が改善してからというもの、【瞬間移動】を連発しても1万も減らなくなってたのに……。

 まぁ【ふっかつのじゅもん・ロード】で1回につき100万消費してたもんなぁ……。神代の魔法だ、それくらい消費するか。


 そして【魔法系スキル】欄には【光魔法】LV10の文字が!


「陛下、成功したようです。【光魔法】のレベルが10になりました」


「はっはっはっ! さすがはアリスじゃな! ではここにいる全員分の契約書は作れるか? 魔力回復ポーションが必要なら持って来させるが」


「ええええっ!? 陛下や殿下相手にそんなことできませんよ……」


「念には念を入れた方が良いからな。儂も部屋の中でレベリングせねばならんなぁ!」


 楽しそうだなぁ陛下。






*********************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600


次回、殿下たちを養殖する。

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