44(414歳)「VS 近衛騎士団長系ワンコ」

「あの……陛下、私はここで待機していてもよろしいでしょうか?」


 近衛騎士団の詰め所に入ろうかというところで、パパンが変なことを言いだした。


「ダメに決まっておるじゃろう。そなたの目で、娘に相応しいパーティーメンバーを見定めねば」


 陛下にバッサリ切って捨てられる。


「アナタ、私なら大丈夫ですよ」


 ママンがにっこり微笑んで腕まくりをして見せる。


「あー……そういえばそなた、近衛騎士団長と因縁があったな」


「因縁と言いますか、なんと言いましょうか……」


 ????


 私が置いてけぼりの会話の中、


 ……どどどどどどどどどッ!!


 詰所の奥の方から何者かが猛ダッシュして来る!


「ジークフリート様ぁ~~~~~~ッ!!」


 鎧姿のケモミミ美女! 犬系? オオカミ系? 年齢はハタチ前後か……って、デカい! パパンも背が高いが、同じくらいに高い! しかもゴリゴリに鍛えてて細マッチョ! 【探査】したらシックスパックがバキバキに割れてたよ。


「ジークフリート様ッ!!」


 犬耳巨大美女は、その勢いのままパパンに抱きつこうとする!?


 ――びたーん!!


「ぎゃんっ!?」


 が、ママンがパパンの前に展開した【物理防護結界】に阻まれ、ひっくり返った。


「な、ななな……」


 あまりの展開に、私は理解が追いつかないが、


「「あー……」」


 陛下と殿下はご理解されているご様子。

 そして、


「お久しぶりですわね、フェンリス様」


 結界を解除したママンが、【威圧】を乗せた声でケモミミ美女――フェンリスさん?――に話しかけた。


「あぁん? てめぇやんのかゴラ!? スッゾゴラァ!?」


 飛び起きたフェンリスさんが某忍者モノのヤクザスラングみたいなこと言いながらママンに掴みかかろうとするが、ママンはレベル200の膂力でフェンリスさんの手を掴み返し、ママンとフェンリスさんがぐぐぐぐっと腕を押し合う。


「はんっ! ちったぁ鍛えて来たみてぇじゃねえか」


「人の旦那様に手を出そうとする醜い駄犬に負けるつもりはございませんよ?」


 あー……そういう。パパン、モテそうだもんなぁ……。

 ってかママンの啖呵パネェな! 駄犬だってよ!


「ジークフリート様ぁ、会いに来てくださったってことは、ついにオレを娶ってくださるんですよね!? あ、陛下と殿下! もしや陛下公認!?」


 フェンリスさんが犬尻尾をぶんぶん振りながらパパンににじり寄る。 


「ジークフリート様の、奥方様への愛はよぉ~っく存じ上げておりますので! 側室で結構ですので!」


「違う」


 パパンの冷酷な一言!!


「はぅっ!!」


 フェンリスさん、その場に崩れ落ちゃったよ……。


 っていうかフェンリスさん、なんでパパンが来たって分かったんだろう?

 ……あっ!


 もしかして:匂い?



    ◇  ◆  ◇  ◆



 近衛騎士団の詰め所に入ると、訓練場らしきスペースに5名の近衛騎士さんが立っていた。

 どの方も筋肉モリモリマッチョマンのへんた……げふんげふん、鍛え上げた歴戦の戦士って感じの方々。


「宰相様よりご指示頂いた通り、近衛騎士団の中で私も認める5名のみこの場に残しました」


 落ち着きを取り戻したフェンリスさんが説明する。

 さすがに一人称が『オレ』から『私』になった。


 なんでも、この犬耳巨大美女が近衛騎士団長さんなんだとか!

 で、『自分より強い者』が大好きなフェンリスさんが、パパンが初めて王城に来てフェンリスさんをコテンパンにノして以降、ずっと求婚し続けているそうな。


 どういう経緯でパパンがフェンリスさんをノしたのか気になる気になる木……。


「アリス、好きなのを選べ」


「ぶふぉっ」


 陛下の物凄いご発言。キャバクラのご指名ですらそんな言い方しないだろう……いや、行ったことはないんだけどさ。

 そして私がこの場でご指名した人が、私のお目付け役兼パーティーメンバーになるわけか。


「ちなみにこの中で一番お強い方ってどなたなんですか?」


「あぁん?」


 フェンリスさんが四つん這いになって、私にゼロ距離でガン垂れてきた! 若干の【威圧】が乗ってる。幼児相手に容赦ないな!


「そりゃオレさ。決まってんだろう?」


「うーん……」


 でもイキってる割には、そんなに強そうじゃないんだよねぇ……事実、養殖する前のパパンに負けたんでしょ?


 ……みたいな失礼な思考が顔に出てしまっていたらしい。

 フェンリスさんが顔を真っ赤にして、


「な、な、な……やんのかゴラァ!? つーかてめぇ誰だよ!?」


「あ、申し遅れました。私――」


 ママンが私の肩を抱き、


「私のむ・す・め、です。私と旦那様の、愛の結晶」


 おぉぅママン、煽る煽る!

 ママンにもこんな一面があったんだねぇ……。


「~~~~~~~~~~ッ!!」


 フェンリスさんの、声にならない絶叫。


「あっはっはっ! 場も暖まったところで、フェンリス騎士爵とアリスの模擬戦でも始めようではないか!」


 めっちゃ楽しんでる陛下からのご提案。

 あれか、相手を倒して仲間にする系イベントか。分かりやすくていいね!


「フェンリス騎士爵が負ければ、フェンリス騎士爵はアリスの配下に下る。フェンリス騎士爵もそれで良いな?」


「望むところです!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、今度は近衛騎士団詰所の訓練場にて。ちなみに地面は土。

 私とフェンリスさんは50メートルくらいの距離で対峙する。

 2人のちょうど中間地点に、審判役のパパンが立っている。

 

 私たち2人が持っているのは模擬剣なんだけど、フェンリスさんのヤツは片刃でそりがあるんだよね!

 日本刀か! 先代勇者様が広めたのかもしれない。


「オレぁ手加減ができねぇ。模擬っつっても戦いである以上は【闘気】を使わせてもらうから気ぃつけな!」


「じゃあ私も使いますね!」


 フェンリスさんの目が細められる。


「ほぅ……?」


「あと魔法も使わせてもらいますので」


「望むところだ! 行くぜ!?」


 フェンリスさん、体を反らせて大きく息を吸い込み、


「ワオォォオオオオオオオオオオオンッ!!」


 とてつもない【威圧】!

 パパンといい勝負してんじゃないの!?

 このレベルになると魔力を帯びて、空気を震わすどころか突風が吹くんだよね!


 事実、私の体が浮いた。

 吹き飛ばされる!


 フェンリスさんが剣を口に咥え、四つん這いになったところまでは視認できた。けど次の瞬間、フェンリスさんの姿が消えた!


 ――いかん、【思考加速】100倍! 【闘気】全開! からの【探査】!


 定番の背後かと思いきや、背後のしかも上空にいた!

 振り向きつつ見上げると目が合う。


 けどフェンリスさん、自ら足場を放棄するとは悪手じゃない?

 私は得意の岩製弾丸魔法『ロナ○ド・レイガン』を数百発展開してフェンリスさんに撃ち込む!


「ワオォォオオオオオンッ!!」


 フェンリスさんは即座に剣を掴んで【威圧】で弾丸の大半を吹き飛ばし(ってマジかよ!)、勢いをつけ、飛び込んできた!


【物理防護結界】を足場にした!? いや、詠唱は一切なかったし、放出・具現化系の魔法が苦手な獣族である近衛騎士団長さんが上級空間魔法を操れるとは思えない。

 ――あ、【闘気】だ! この人【闘気】を足元に思いっきり集めて足場にしたのか! マジかよそんなことできるのかよすげぇな!?


 なんて悠長に考えてるヒマがあるのかと言われれば、ある。【思考加速】100倍中だからね。


 とにかく対処だ。

 私は中段の構えだった剣の柄を振り上げ、フェンリスさんの振り下ろしをいなすようなポーズを見せつつ、剣と剣がかち合う寸前で【瞬間移動】! タイミングを外されて姿勢を崩したフェンリスさんの背後へ現れる。

 からのぉフェンリスさんの足場を泥に変化させ、腰まで埋まるや否やの【ドライ】で硬化!


 剣を手放し、両腕の力で地面から抜け出そうとするフェンリスさんの目の前に【瞬間移動】し、フェンリスさんの顔を両手で掴み、


「ガァァアアアアアゴォォォオオオオオオオオッ!!」


 ゼロ距離【威圧】!

 達人レベルの【威圧】を見よ!


「ぎゃんっ!?」


 フェンリスさんは白目を剥いて気絶した。


 ママンが手を叩いて爆笑してたのが印象的だった。

 ママンのキャラ変わりすぎィ!



    ◇  ◆  ◇  ◆



 あとはまぁ、デイム・パーヤネンさんの時と同じ流れだ。

 地面の硬化を解いてダイコンよろしくフェンリスさんを引き抜き、土を【アイテムボックス】へ収納。

 お漏らしして涙目になってたフェンリスさんに温水シャワーと【リラクゼーション】を提供した。


 そして、今。

 なぜか、フェンリスさんが私の前にひざまずいている。ズボン姿だから跪くこと自体は礼儀作法上おかしくはないが、なぜに跪く?

 あれか? また弟子にしてくれとかそういう……?


「結婚してください!!」


「えぇぇええええええええええ!?」


「オレぁオレより強いやつが好きです! あんたはオレより強い! だから結婚してください!」


 見境なしかよ!


「いや……私、女だし」


「なっ!? 女なんですかっ!?」


「がーん……」


 言いつつも思い返せば、5歳児(といいつつ数え年だから実質4歳児)なんて服装と髪型以外で性別なんてほとんど分かんないか。

 今は旅装でズボンはいてるし、髪は肩口までの長さのを紐でまとめてるし。

 いやぁ、ホントはもっと短くしたいんだけど、ママンに泣きつかれてるんだよね。

『長いと動きにくいじゃん。ただでさえ狩りとかよくするのに』派な私と、『淑女たる者、髪は長く美しく。鬱陶しいなら結上げれば良いだけのこと』派なママンの、長く苦しい抗争の歴史が、実は裏で存在しているのだ。


 そしてこの世界、上流階級には男性でも髪の長い人って結構いる。


「お、お、女でもいいです!」


「いいわけあるかーい!」


 視界の端では、ママンが腹を抱えて爆笑してた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



【リラクゼーション】多めに対応して、フェンリスさんもようやく自分が何を口走っていたのか理解したようだ。


「失礼しました……あの、せめて、せめてお姉様と呼ばせてください!!」


「私5歳なんですけど……」


「獣族は力で上下関係を決めるんです。だから、オレはあなたの妹分になります」


 あー、『妹』じゃなくて『妹分』ね。それなら分かる。


「んー……私のお願いを1つ聞いてこれたら、『お姉様』呼びでも構いませんよ?」


「なんですか!?」


「この服を着てください!」


【アイテムボックス】から取り出したるは、仕立屋のテイラーさんママンのパパンから『僭越ながら、控えめに言って頭がおかしい』と酷評されたミニスカポリス衣装!!


「なんすかこの頭のおかしい衣装!?」


「はぁ~……」


 後ろではママンがため息。


「さ、さすがにこんな破廉恥ハレンチな服は……」


「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから! ちょっと着たら脱いでもいいから!」


「わ、分かりました……」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、私が【土魔法】で作った簡易着替え室でお着替えしてもらった。


「こ、こ、これは恥ずかしい……」


 言うても本場日本のコスプレのようなエグいミニスカじゃなくて、膝丈なんだけどなー。


「あ……でもこの丈、凄く動きやすいっすね!? 走る時に裾を持ち上げて手がふさがることもない!」


「お、おおおおっ! 分かります? 分かってくれますか!? やった、ついに理解者が!」


 そして、ミニスカポリス姿で素振りを始めるフェンリスさん。

 手に持ってるのが拳銃ではなくて剣なのが惜しいところだけど、いいやあの剣は剣ではなく警棒! もう実績解除ってことにしちゃおう。


 万感の思いを込めて、


「これがホントの、『犬のおまわりさん』!!」


「「「????」」」


「申し訳ありません陛下。娘は【鑑定】で古代文明の様々な知識を得ているらしく、時々奇行に走るクセがあるのです……」


 パパンが背後でなんか言ってるけど、聞こえない聞こえない。


 やったー! 異世界でやりたかったネタの1つを達成した!

 実績『犬のおまわりさん』解除!


 むふー、成し遂げたぜ!!






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追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600


次回、ついにビバ・牛リバーシ登場!?

そしてアリスが神級魔法を覚えます。

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