43(414歳)「VS 宮廷筆頭魔法使い」

 宮廷筆頭魔法使いは、気の強そうな美少女だった。

 そして、筆頭魔法使い様の研究部屋は汚かった……散らかってるという意味で。本とか杖とか魔道具とか魔石とかが床中に転がっていた。


「相変わらず散らかっておるのぅ……」


「へ、陛下!?」


 人払いは済ませても、陛下がいらっしゃるとは知らなかったらしい。

 ローブ姿――スカート姿の筆頭魔法使い様がカーテシー(頭を下げるバージョン)で礼を取る。


「よいよい。顔を上げよ」


「ははっ。陛下と殿下が御自らお越しになるとは、いったいどのような御用向きで……? あら、それに後ろにいらっしゃるのは竜殺しのサー・ロンダキルア」


「パーヤネン女準男爵よ」


「ぶふぉっ」


「ぬおっ、どうしたのじゃアリス?」


「い、いえ……失礼致しました」


『頭パーやねん』って……いや元日本人的にはびっくりするけど、たしか北欧では普通の名前だったはず。

 中世ヨーロッパ風のこの世界では普通だ普通。


「ごほん。パーヤネン女準男爵よ、この娘に聖級魔法の稽古をつけてやってほしいのじゃ。そなたが使えるものを全部じゃ。全ての業務を止めて、最優先で」


「なっ……こ、こんな子供に!? 陛下のご命令とあればもちろん対応はさせて頂きますが、しかし全ての業務を止めてというのは……」


「大丈夫じゃ、数日もあれば覚えるじゃろう」


 まぁ【魔力操作】LV10カンストの私なら、数日あればマスターできると思う。【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】込みなら確実に。


 だけどデイム・パーヤネン様(敬称重複)は部屋のことを知らないわけで。

 たぶん、筆頭魔法使いとしてのプライドを刺激されたのだろう。


私でも聖級を1つ習得するのに1ヵ月はかかったのです。……念のため、能力を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「相変わらずそなたは気が強いのぅ。では軽く模擬戦を行うとしよう。アリスも良いな?」


「はいっ」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 王城内にいくつかあるらしい模擬戦場にて。ちなみに地面は土。

 私とデイム・パーヤネンは50メートルくらいの距離で対峙する。

 2人のちょうど中間地点に、審判役のパパンが立っている。


 あ、もちろん旅装に着替えたよ?

 王城でお借りしてるドレスのまま立ち回るわけにはいかない。

 

「――始めっ!」


 パパンが言うと同時、デイム・パーヤネンが軽く腕を振った。

 次の瞬間、デイム・パーヤネンの前に数えきれない量のアースニードル、アイスニードル、ファイアニードル、ウィンドニードルが現れる!


 レジストさせ難いように、4属性をまちまちに配置している……無詠唱かつ一瞬でこれだけのことができるのは、さすが筆頭魔法使いだと思う。

1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】で鍛える前の私ならできなかっただろう……私が何百年もかかってこの境地に到達したことを思うと、この美少女の才能は計り知れない。


 私が平然としているのを見て取ったのか、紛れ込んでいた1本のウォーターニードルが私に向けて飛んできた!

 あれなら当たっても怪我はしないだろう――子供相手に手加減してくれているというわけだ。


 だけど、その時にはもう、私の仕込みは終わっていた。


「――きゃっ!?」


 足元の土が急に泥沼になり、デイム・パーヤネンがすっこぶ。

 肩までずっぽり沼の中に入った次の瞬間、今度は泥ががっちがちに固まる――もちろん私の魔法だ。


【闘気】をまとった私は1秒かからず距離を詰め、虚空(【アイテムボックス】)から引き抜いた片手剣の刃をデイム・パーヤネンの首に添えた。

 この、虚空からの抜剣がカッコ良くて好きなんだよ!

 厨二っぽくていいじゃない!?


「――そこまで!!」


 間髪入れずにパパンの静止。


 やや遅れて、制御を失った4属性ニードルたちがゴロゴロと地面に転がる。


「な、ななな……」


 言葉にならないデイムを、土を柔らかくしてずぼっと引っこ抜く。鍛え上げたステータス【力】や【体術】スキルは、小柄な少女1人くらい軽々と持ち上げられるよ。


「ほほう! いやはや本当に強いなアリスよ!」


 陛下が嬉しそうに笑っている。

 それを見て、デイムの顔がみるみる赤くなる。陛下の前で恥をかかされたとでも思ってるのかな? 陛下も『気が強い』って言ってたし……。


「……ま、待ちなさい!」


 ほらきた!


「あたしは後衛専門。自分で言うのもなんだけど……武術の心得はないわ。でも、遠距離からの魔法合戦なら誰にも負けたことがないのよ!?」


「じゃあ、もう一戦やります?」


「もちろんよ!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「では――始めっ!」


 第2ラウンド開始!


 デイムの前に、私の視界を埋め尽くす数の4属性ニードルが現れる。相変わらず惚れ惚れする魔力制御だ。


【探査】――ふむ、各属性100本ずつね。

 私も真似をし、同じ数・同じ質・同じ配置の4属性ニードルを並べてみる。


「ええっ!? ――い、いくわよ!」


 デイムが唖然とした表情になったが、すぐに気を取り直してニードルの一部を放ってきた!


 私は同じ属性のニードルを、同じ速度でデイムのニードルにぶつける。

 全く同じ大きさ・威力のニードルたちは相殺。私とデイムのちょうど中間地点に、アースとアイスの破片が降り積もる。


「ま、まさか――」


 言いながら、デイムが第2波を放ってくる。

 同じくレジストする。


「そ、そんなことって――い、いえ、やってみれば分かるわ! キミ、残り全部いくわよ! いいわね!?」


「どうぞー!」


 そして、先の2回とは比べ物にならない速度で、わずかにタイミングをずらしつつ、残り全部が飛んできた!

 もちろん私は、同じ属性のニードルで全てぴったりレジストする。


 私とデイムの中間地点に土と氷の山ができた。


「……負けたわ」


 言って、デイムはその場に座り込んでしまった。

 魔力切れ? ではなさそう。

 私がプライドを叩き折っちゃったからかな……申し訳ない。


 デイムの元へ小走りで進み、道中、アースとアイスの山を【アイテムボックス】へ。


「立てますか?」


 手を貸そうにも身長が足りないので、【浮遊】してからデイムの手を取った。


「本当、息をするように魔法を使うのね……ねぇ小さな賢者様、いくつか聞いてもいいかしら?」


「どうぞ」


「キミの4属性魔法のレベルはいくつ?」


「6です」


「たったの6であの制御力!? ――いえ、陛下は、キミに聖級魔法を教えるようにと仰った。聖級魔法を学ぶ機会がなかったから、ぴったり上級の6ってわけね。

 6であの制御なら、キミの【魔力操作】は――神級に至っているはず」


「レベル10です」


「はは、10、か……なるほどね。あと、私の4属性ニードル魔法の数、大きさ、威力、速度を全て正確に模倣できたのはなぜ?」


「【探査】したからです」


「【探査】。なるほど……キミの【探査】も、きっと神級ね」


「あはは……」


【空間魔法】がLV9以上であることにも気づかれたらしい。

 本当、優秀だなこの人。いや、この国で最も優秀な魔法使いだったか。


「そういえば、さっき土だらけにしちゃったままでしたね」


 泥沼から引っ張り上げる時に乾かしておいたが、土だらけなのは違いない。


「ちょっと失礼しますね……【探査】で土を特定してからのぉ――【アイテムボックス】!」


 鍛え上げた私の【アイテムボックス】は、デイムの衣服と肌から、土だけを収納する。泥でこすった汚れも綺麗さっぱりだ。


 模擬戦の最中は無詠唱でやっていたけど、味方に魔法の発動を知らせる時や、こちらに悪意がないことを示す時には、私はこうして省略詠唱するようにしている。


「汗もかいたでしょう。私もさっぱりしたいですし――【アースウォール】で目隠しフェンスを作って、【ホットウォーターシャワー】からの【ドライ】からの、フェンスを【アイテムボックス】へ! はい、終わりましたよ」


 屋外行動時にしょっちゅうやってる一連の魔法。

 ここに石鹸とシャンプーがあれば完璧なんだけど……シャンプー&リンス魔法とかないかしら。


 デイムはというと、親方の技を盗もうとする職人のような目で、私の一挙手一投足を観察している。


「ねぇ小さな賢者様、名前を教えてくれない?」


「あ、そういえば名乗ってませんでした! アリス・フォン・ロンダキルアと申します」


「アリスちゃん……いえ」


 デイムが深く体を沈め、頭を下げる最敬礼のカーテシー。


「――アリス様、私を弟子にしてください!!」


「えぇぇぇええええええええええっ!?」


 私が弟子になるって話じゃなかったの!?

 慌てて陛下を見ると、楽しそうに笑ってらっしゃった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「……なるほど、賢者様ではなく勇者様でしたか。あっ、申し遅れました。私はノティア・フォン・パーヤネンと申します。どうぞ気軽にノティアとお呼びくだ――えっ、護衛兼お目付け役を探している!? やります! やらせてください! 陛下、なにとぞ私にその任を!!」


「ふむ。部下への引き継ぎにはどのくらいかかる?」


「明日中に終わらせてみせます!!」


「勇ましいのぅ。よかろう。では明後日からそなたはアリスの護衛兼お目付け役兼パーティーメンバー兼家庭教師じゃ」


「ありがたき幸せ!!」


「ジークフリートもそれで良いな?」


「はい。デイム・パーヤネンであれば、安心して娘を任せられます。ただ……デイム、失礼ですがレベルを教えては頂けませんか?」


「――――89です」


 おおっ、ほぼ英雄や達人レベルだった。若いのにすげぇな!


「低すぎますね……せめて200は超えて頂かないと安心できません」


「今安心できるって――はぁっ!? に、200!?」


「アリス、これからパーティーメンバーになるんじゃ。レベルを教えてやってくれんか?」


「はいっ! 私のレベルは600です!」


「――はっ!? はぁぁぁぁああああっ!?」


「あっはっはっ! 例の『部屋』の話は、近衛騎士団で誰か見繕ってからまとめてすることにしよう。では行くぞ。宰相、先に行って人払いを済ませてくれ」


「――ははっ」


 再び、御自ら案内してくれる陛下。

 ついて行く私たち。


 あとには、呆然としたまま再起動しないデイム改めノティアさんが残った。






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追記回数:4,649回  通算年数:414年  レベル:600


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次回、アリスに妹ができる?

あとアリスの母ママンの意外な一面が!

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