26(401歳)「視界ジャックってめっちゃ酔う……」

 翌朝、まずは【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】に入り、チビをパワーレベリング。


 細い隙間の入った結界に守られたレベリング部屋で適当な地竜アースドラゴンの手足を【アイテムボックス】で切断し、【アースボール】で口を塞ぎ、【テレキネシス】で部屋の中へご招待。

 チビはレベル30超えといえども、体は私の片腕で抱えられるほどに小さい。

 ジタバタ暴れる地竜アースドラゴン相手に部屋中を駆け回り、風をまとわせた前足の爪でガシガシ攻撃し続け小一時間。

 ついに地竜アースドラゴンを屠り、レベルアップ酔いでのたうち回る。


 まぁ、見慣れた光景だ。


「強めの【リラゼクション】! ゲロは【アイテムボックス】へ収納!」


 しっかしチビ、強いな!

 竜鱗って鉄製の武器じゃ傷ひとつつけられないくらい硬いのに、風をまとわせた爪で勝っちゃったよ。


「!? !? !?」


 急激なレベルアップに混乱するチビへ『大丈夫だよ、安心して』という意思を送ると、チビはほどなくして落ち着いた。

 ステータスを見せてもらうと、レベル100を超えていた。


 そんなわけで、とりまレベル200になるまでレベリング継続。


 その後、上位までの【風魔法】と初級の治癒魔法を覚えさせた。

 既に初級の【風魔法】はマスターしてたので素養はある。中級から順に実演してみせたら難なく模倣した。


 小一時間ほどで【魔力操作】がLV6になり、【闘気】を習得。


【闘気】はあっという間に使いこなし、LV4に。 

 野生の力というか、親兄弟が使ってたのかもね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 来たる魔王軍侵攻に備え、魔の森に警備網を敷きたい。

 そのために従魔を増やす必要があるんだけど、その前に、まずは【従魔テイム】魔法の技である『視覚共有』と『遠隔での意思疎通』をマスターしたい。


「というわけでチビ、キミの視覚を借りさせてね」


「わふっ!」


1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】の領域から出て、訓練開始。

 なお、部屋の中での『視覚共有』はやめておいた。共有中にチビが領域外に出てしまった時に、体感時間の差がどんな不具合をもたらすか分からなかったため。


「では『視覚共有』オン! お、おおぉ……」


 いきなり視界が切り替わる!

 地面すれすれの視界。私のそばに立つチビの視界だ。

 視界がぎゅんと動き、私の顔が映し出される。チビが私の方を見てるからね。


 うわーこりゃ慣れなきゃ酔うな……。


「じゃ私は上空で待機してるから、まずはじっとしてて」


「わふっ!」


 私は【飛翔】で上空高くへ。ここらへんはグリフォンもサンダーバードも出てこないから、視界が無い状態でも安全だ。念のため【物理防護結界】と【魔法防護結界】は展開しておく。


『じゃあチビ、ゆっくり歩いてみて』


 これは【従魔テイム】魔法の一環である従魔との『意思疎通』機能。時空魔法の【念話テレパシー】に近い。


 チビが歩き出した。

 おぉ……視界が前進する。


『よ、よし……じゃあチビ、軽く駆け回ってみて』


『わふっ!』


 言うや否やの全力疾走! 木々を使った立体起動までこなされる。


「う、うっぷ……【リラクゼーション】!」


 はぁはぁ……。


『前方100メートル先にワータイガー1。狩ってみて』


『わふっ!』


 了解! ってニュアンスは強く感じるものの、頭に響くのはあくまで犬語だ。


 そして視界がいきなりブレた。

 私の動体視力では理解できないほどの猛ダッシュ!


 いかん、【思考加速】を100倍でオン!


 チビは100メートルの距離を数秒で走破し、ワータイガー――Aランクのトラ系魔物――の首元に潜り込み、風と【闘気】を載せた爪で一閃!

 喉を切り裂くなんてもんじゃない。虎の頭部がどっかへ飛んでった。


「チビすごい! いい子いい子!」


【瞬間移動】でチビのそばに移動し、チビの頭をモフモフする。


「わふわふっ!」


 チビったら褒められてめっちゃ喜んでる。かわえぇのぅ……。


 そんな感じでチビに魔物を狩らせることしばし。

 お昼時になり、魔法の訓練がてら軽食にすることにした。


【アイテムボックス】からチビに狩ってもらった獲物を取り出し、【テレキネシス】で浮かせて血抜きし、【ウィンドカッター】でスパスパ解体して見せる。


「やってみな」


「わふっ!」


 チビは即座に模倣。

【浮遊】で獲物を浮かせて血抜きし、【ウィンドカッター】で解体を始めた。ちょっと制御が甘くて内臓の中身をぶちまけたりもしたけれど、おおむね上手。初回であることを思えば私より器用だ。


 で、何体か解体の練習をさせ、好きに肉を食べさせた。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「さてお次は『視界共有』しながらの私も移動、レベル1!」


「わふっ!」


『視界共有』は片目だけすることが可能。

 右目は私の視界、左目はチビの両目の視界って感じに設定できる。


 片目だけってところがなんか魔眼っぽくない!?

 くっくっくっ、今宵は左目が疼く……みたいな!?


 試しに左目だけ『視界共有』をしてみると、『こいつは何をしているんだ?』って感じのチビの顔と、左目を手で覆い、指の隙間からチビを見て、にちゃあっと笑う中二病わたしの姿が。


 ……あらやだ。


「……ごほん。では歩くよ! チビは【闘気】を薄く周囲に広げて索敵! 獲物を見つけたら報告せよ!」


「わふっ!」


 想像できるだろうか、左右で異なる視界というものを。

 酔う酔わない以前の問題だ。

 まず、脳が混乱する。頭がおかしくなりそうになる。


「?????? 【リラクゼーション】【リラクゼーション】【リラクゼーション】……」


【思考加速】5倍くらいでしばらく歩いていると、なんとなくコツが掴めてきた。


『わふっ!』


 チビが近くのオーガ上位種4体に気づいた。もちろん私は【探査】済。

 相手に気取られないよう『意思疎通』で話しかけてくるあたり、賢いね!


『チビは一撃離脱でできる限り倒して。残りは私がやるから』


『わふっ!』


 チビが吶喊とっかん

 チビの視界ではオーガ1体の首がチビの斬撃によって跳ね飛び、残り3体へ【ウィンドカッター】が襲いかかる。1体は首にヒットして即死したが、残り2体は胴や四肢に当たって致命傷には至らない。


 チビの離脱と同時に私が入り、


「【首狩りアイテムボックス】!」


 残り2体を始末した。


 視界は、チビのターンはチビの視界に集中し、私のターンには私の視界に集中することでなんとか対処できた。【思考加速】数倍が必須だけどね!


「よしよし、偉いぞチビ!」


 チビが戻ってきたので頭を撫で撫で。

 チビは尻尾ぶんぶん。


「では、続きまして『視界共有』しながらの私も移動、レベル2!」


 両目をチビの視界に切り替える。

 私はと言えば、常時【探査】で位置と姿勢を把握。自分を俯瞰してるような奇妙な感覚だが慣れていこう。

 これができれば、左右で別の従魔の視界を見つつ、行動可能になる。


「よーし歩くよー」


「わふっ!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 こっちの方が簡単だった!

 酔うことも混乱することもなく、難なく魔物を狩ることができた。


 そりゃそうか。

 LV10の【時空魔法】で、死ぬほど使い込んだ【探査】様なのだから。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 さて、時刻は夕方手前。

 暗くなりだしたらあっという間に夜になるからね! もうそろそろ帰ろうかな。


 ――なぁんて考えつつ歩いてると、穏やかな川に出た。魔の森の中には、北の大山脈から流れ込む川がいくつもある。


 そして、川のほとりにフェンリルのつがいが!

 フェンリルたちはこちらに襲いかかることもなく、じっとチビを見ている。


 チビはというと、


「きゅ~ん!」


 聞いたことのない甘い声でひと鳴きし、全身全力で尻尾を振ってフェンリルの番のもとへ猛ダッシュ!


「あー……」


 もしかして:ご両親?



    ◇  ◆  ◇  ◆



 会話はなかった。言葉が通じないからね。

 でも、チビの両親は私のお尻の匂いをスンスンと嗅いで、満足そうな表情をし、森の奥へと帰っていった……チビを残して。


 チビは当たり前のような表情で私のそばにピタリとついている。両親の元に帰りたそうな素振りは見せなかった。

 それが【従魔テイム】魔法の強制力の所為せいなら申し訳ないんだけど、チビの感情は伝わって来ても、考えまでは分からない……。


「なーんて『いい話』で終わらせるわけないでしょう! 【探査】! お父さんとお母さんも仲間にするよ、チビ!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで、チビの両親と兄弟姉妹7頭、計9頭をチビの説得とドラゴン肉で懐柔し、【従魔テイム】させてもらった!


【瞬間移動】で【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】に移動し、結界に守られたレベリング部屋で地竜アースドラゴン狩り。

 そして繰り返される、レベリング酔いの地獄絵図。


 チビの家族全員がレベル200になり、【闘気】を覚えたところでお開きとし、肉を振舞ってからじたくに戻ってきた。


「あ、アリスぅ……いくらなんでもフェンリル10頭はないんじゃないか?」


 完全武装で砦の門の前に立ちふさがるパパンからの苦言。大急ぎでかき集めたのか、ちぐはぐな武装の軍人さんたち十数名も控えている。


 フェンリルの群れが城壁と森の間に突如出現し、すわ襲撃かと砦は大混乱だったそうな。

 私としては、いきなり砦内に【瞬間移動】しなかっただけ配慮したつもりだったんだけど……。


「お父様、おうちで飼ってもいいですか? チビ以外は街には出さないようにしますから」


「当たり前だ! フェンリルの群れが街に出たら、大混乱になるわ! まぁ砦の運営の邪魔にならないようにするんなら、飼うこともやぶさかじゃないが……エサはどうするんだ?」


「自給自足です! 全員【飛翔】が使え、フェンリルお父さんとフェンリルお母さんが【アイテムボックス】と【瞬間移動】を使えますので、適当に魔の森で狩りをしてもらいます。肉以外の素材はお父様に差し上げますよ」


 ……まぁ正確には、パワーレベリングでMPと魔法力が爆上がりした上で、私の指導の下、【アイテムボックス】と【瞬間移動】が使えるようになったんだけど。

『あー……』って感じのパパンの表情。私が言葉にしなかった部分も察したな。


 あ、【飛翔】は末っ子のチビ以外、全員最初から使えたよ。

 さすがは伝説の魔獣。


 というわけで、庭の一角に私が立てた豆腐ハウスがチビ一家の住み家となり、私とフェンリルお父さんとの調整の結果、チビは基本的に私付きとなり、他9頭は狩りチームと練兵チームに分かれてローテーションすることになった。


 メチャクチャ強くて素早い四足獣相手に模擬戦ができるとあって、パパンとバルトルトさんは大喜びだったよ。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 数日後、庭でドラゴン肉祭りを開催しているフェンリル一家を目にした軍人さんたちが、『俺たちよりいいもん食ってる……』とウワサするようになった。


 さらに数日後、城塞都市中に『砦には、その姿を見た者は全員食い殺されるという伝説の魔獣が住んでいる』というウワサが広まった。

 いやいやいや、見た者が食い殺されるんじゃ、今頃軍人さんたち全員いなくなってますからー。






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追記回数:4,649回  通算年数:401年  レベル:600


ここまでお読み頂きありがとうございます!

次回は主人公アリスではなく主人公の父パパンの昔話と、主人公の父パパンから見た主人公アリスのお話です。

どうぞ引き続きお付き合いください!m(_ _)m

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