25(401歳)「テイマーデビュー!」
「今日は魔の森に行ってきます!」
にぎやかな朝食のあと、私はパパンとママンに宣言する。
「おう。わざわざ宣言するってことは、『扉』の外か?」
「はい! 【
「あー……『扉』の中でも散々言ってたもんなぁ。蜂を捕まえて蜜を作らせるとか、蜘蛛を捕まえて布を作らせるとか」
「はい! 『感覚共有』を使っての偵察部隊なんかも面白そうです」
「気をつけて行くんだぞー。夕方6時までには戻ってくるように!」
「はい!」
◇ ◆ ◇ ◆
「というわけで、やって来ました魔の森深部!」
空気中の魔力濃度がとんでもなく濃く、多少なり【闘気】が使えないと呼吸もままならない。
森の浅いところはそんなでもないんだけど、深部はマジやばい。
「さ~て記念すべき最初の【
ちなみに、【
理由は2つ。
1つ、部屋の中は50年間以上ずっと昼か夜なので、中の魔物が精神に異常をきたしてそうだから。
まぁあの亜空間は自由に通り抜け可能なので、亜空間に数十年留まり続ける魔物がいるとは限らないけれど。
2つ、一度でも【
特にワンコ系! フェンリルは非常に良い経験値資源だけど、1頭でも【
「――お?」
数キロメートル先に、弱ったフェンリルの子供と、それを取り囲むゴブリン上位種発見! フェンリルちゃん、君に決めた!
「【瞬間移動】! からのぉ【首狩りアイテムボックス】!」
視界の先、フェンリルの子供を殺そうとしていたホブゴブリン・リーダー1体とホブゴブリン5体の首が消滅する。
呆然とした様子の子供フェンリルが私に気づき、威嚇し始める。牙を剥き、『黙れ小僧!』ってモ○みたいなこと言いだしそうな
「【探査】」
あっ、あぁ……右後ろ脚がほとんど取れかかってる。
すぐに治してあげたいけど、それで逃げられたり襲いかかられては意味がない。
相手を無理やり隷属させる奴隷契約魔法【隷属契約】と異なり、【
初対面のワンコと仲良くなる方法その1。
ワンコに正面から挑んではならない。横方向から視界に入り、そろりそろりと近づくべし。
その2。
ワンコの目を見てはならない。ワンコの世界では、アイコンタクトはガン飛ばしに等しい。
私はゆっくりとフェンリルちゃんの側面に回り、1歩ずつゆっくり、手の届かないギリギリの距離まで近づいて、
「こんにちは。わたくし、こういう者でございます」
握りこぶしを、相手の鼻の届くところまでそっと差し出す。
その3。
絶っっっっっっっ対にいきなり頭を撫でてはならない。見知らぬ相手が手のひらを見せて視界を遮るような動作をすると、ワンコはバリバリに警戒する。
その4。
手の甲を見せるようにして、相手に匂いを嗅いでもらう。これが犬界隈における自己紹介だ。
フェンリルの子供は訝しそうにしながらも、『黙れ小僧!』モードは解除してくれた。
「触らせてもらってもいいかな?」
その5。
初対面のワンコで触れて良い部位は首・肩・胸。
ゆっくりゆっくりと手を伸ばし、首に触れさせてもらった。
「よしよし。君の足を治させてもらいたいんだけど、いいかな?」
「くぅ~ん……」
「許可をもらったということで……【エクストラ・ヒール】からのぉ血糊を【アイテムボックス】で除去」
その6。
大声で話しかけてはならない。いつものノリで魔法名のあとにビックリマークをつけたりはしない。
あと、お風呂が大嫌いなワンコ相手に、いきなり【ホットウォーターシャワー】を引っかけたりなんて論外だ。
血糊がなくなり、真っ白な毛並みが顔を出す。
「!?」
アラ可愛い。フェンリルちゃん、驚いたような顔をして目を見開き、バッと立ち上がった。が、逃げたり、飛びかかってくる気配はない。
「スンスンスンスン……」
匂いを嗅ぎながら私の周りを1周したあと、
「フンフンフンフンっ!」
尻の匂いを嗅いでくる。尻の匂いを嗅ぎ合うのは、犬界隈での名刺交換。顔や名前ではなく匂いで相手を覚える動物だからね。
……って、おいおい、私ゃ犬じゃないよ?
ではでは、懐柔作戦第2段。
懐から取り出すような仕草をしつつ、【アイテムボックス】から
焼いた肉はともかく、塩を振った肉なんて与えたら塩分過多で体を壊す。ワンコは人間と違って汗とともに不要な塩分を排出することができないからね。
「【アースボール】でお皿を作って……キミ、お腹空いてない?」
ドラゴン肉をそっと差し出す。
フェンリルちゃんは『こいつは何を企んでいるんだ?』みたいな顔で私を見て、周囲を見て、バッと肉にかぶりついて私から距離を取った。
と同時、口の中に広がる極上の旨味に耐えきれなかったのだろう……ガツガツとむさぼりつき始めた。
どやさ! ドラゴンステーキは魔の森で味わえる極上肉。生だって絶対に美味いだろう……私は食べたことないけどさ。
「くぅ~ん」
おっ、フェンリルちゃん、肉を食い終わってしまい、私の前にお座りしちゃったよ。尻尾もゆ~らゆ~らと左右に振れている。
「いいでしょう、お替りです」
ドラゴン生肉をもう1枚皿に乗せる。
「ハフッハフッ」
フェンリルちゃん、今度はその場で食いだした。
…………落ちたな(確信)。
あっという間に食べ終わったフェンリルちゃんの頭にゆっくり触れる。
ふぉぉぉおおおおっ、モフモフだぁ。実家のワンコを思い出すなぁ……数百と30年ぶりのぬくもり。
「ねぇキミ、私と一緒に来ないかな? そしたら毎日ドラゴン肉を食べさせてあげるし、自分で
「わふっ!」
――ヨシ!(指差呼称)
「では【
唱えると、ほんのり白く光る首輪が手の上に生成された。
これを相手の首にかけると契約成立となる。
「じゃあ、かけさせてもらうね」
そっと首輪を巻くと、首輪は一瞬だけぱっと輝いたあと、光を失った。
「ペロペロ」
私の手を舐めてくるフェンリルちゃん。
うむ、かわえぇのうかわえぇのう……。
犬、飼いたかったんだよね。
本当は前世の実家よろしく柴ワンコがいいんだけど、中世ヨーロッパ風のこの世界には多分、柴犬はいない。
いや、東方に行けばワンチャンか?
そう、『ワンちゃん』だけに――…。
「っと、アホなこと考えてないで、【ステータス・オープン】!」
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【名前】 アリス・フォン・ロンダキルア
【年齢】 4歳
【職業】 無職 アフレガル王国ロンダキルア辺境伯領・従士長の長女
【称号】 勇者 能天気 不屈 脱糞交渉人 期間限定時空神 亜神
魔の森の悪夢
【契約】 全知全能神ゼニスの使徒 フェンリルの子供の主人
【LV】 600
【HP】 49,816/49,816
【MP】 116,432,117/116,433,816
【力】 5,014
【魔法力】 12,532,176
【体力】 4,967
【精神力】 4,993
【素早さ】 5,814
【勇者固有スキル】
無制限瞬間移動LV10 無制限アイテムボックスLV10
極大落雷LV10 おもいだすLV4
ふっかつのじゅもん・セーブLV1 ふっかつのじゅもん・ロードLV1
【戦闘系スキル】
片手剣術LV6 槍術LV3 盾術LV4 体術LV5
闘気LV10 威圧LV7 隠密LV4
【魔法系スキル】
魔力感知LV10 魔力操作LV10
土魔法LV6 水魔法LV6 火魔法LV6 風魔法LV6
光魔法LV6 闇魔法LV6 時空魔法LV10
鑑定LV8
【耐性系スキル】
威圧耐性LV8 苦痛耐性LV10 精神耐性LV3
睡眠耐性LV10 空腹耐性LV1
【生活系スキル】
アフレガル王国語LV5 算術LV6 礼儀作法LV2 交渉LV2
整腸LV4 建築LV6 野外生活LV6 料理LV4 野外料理LV4
食い溜めLV1
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あはは、地味に【交渉】スキルが上がってら。LV4くらいになってれば、あの塩商人相手にも、もちょっと上手く立ち回れたのかしら。
で、肝心の【契約】欄には【フェンリルの子供の主人】の文字が!
あ! 名前を決めないと!
「今日から君の名前は『チビ』だよ。いいかな?」
前世の実家の柴ワンコと同じ名前。正確にはアフレガルド王国語の『チビ』、『チビっ子』に相当する言葉だけど。
もう数百年も前のことなのに、未だに前世のことは忘れられないんだよね……まぁ、【おもいだす】スキルの
「わふっ!」
もう1回ステータスを確認すると、【契約】欄の文字は【チビの主人】に変わってた。
そして、【
「ねぇチビ、ステータスを見せてもらえるかな?」
「わふっ!」
そして表示される、チビのステータス・ウィンドウ。
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【名前】 チビ
【年齢】 1歳
【職業】 フェンリルのオス
【称号】 勇者の従魔
【契約】 アリス・フォン・ロンダキルアの従魔
【LV】 31
【HP】 2,917/2,917
【MP】 12/391
【力】 392
【魔法力】 38
【体力】 290
【精神力】 21
【素早さ】 451
【戦闘系スキル】
体術LV2
【魔法系スキル】
魔力感知LV4 魔力操作LV2
風魔法LV2
【耐性系スキル】
威圧耐性LV1 苦痛耐性LV1 空腹耐性LV2
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1歳といいつつ、数え年だからサイズ的に生後数ヵ月だろう。
しっかし生後数ヵ月でレベルが並みの冒険者・兵士越えとは恐れ入る。しかもそれでゴブリン相手に殺されそうになってたってんだから……魔の森マジパネェ!
で、肝心の【契約】欄には【アリス・フォン・ロンダキルアの従魔】の文字が!
やっぱり、【契約】欄にはそういう情報が載るらしい。で、LV8の【鑑定】持ちである私でも、パパンの【契約】は見破れなかった……これはこの世界の重要な仕組みの1つっぽい。しっかり覚えておこう。【おもいだす】さん、頼んだよ!
その日はチビを抱っこして
首にかけられた【
「フェフェフェフェンリルって、え? 【
「嬢ちゃん……そりゃフェンリルの子供ですかい?」
「まぁ、お嬢ならな……」
ってな感じ。
『ひとり歩き』を賭したパパンとの死闘は、もう軍人さんほぼ全員にウワサが行き渡ってるらしく、私の実力は知れ渡っているようだった。
あはは……でも、バケモノ見るような目はやめてよね。
これでも一応、傷つくんだから。
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追記回数:4,649回 通算年数:401年 レベル:600
次回、アリスが邪眼に目覚めます。
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