14(401歳)「お金を手に入れたらやりたかったこと」
さて、お金を手に入れたらやりたかったことがある。
2億ゼニス相当もの金貨と銀貨を【アイテムボックス】に収め、ホクホク顔の私は城塞都市一番のアウトドアショップに入る。
テントとかシャベルとか炊飯セットとか……野営道具を売ってるお店だね。この街は軍人と冒険者が多く、魔の森や周辺の山なんかで野営する人が多いから、需要が高いんだ。
「すみません、テント欲しいんですけど」
「お嬢ちゃん、親御さんはどこに――って、英雄様のお子さんじゃないですか!」
「この店のテント、全部ください!」
「はい? 全部っていったい何を――」
「お金はあります!」
【アイテムボックス】から小金貨入り革袋を取り出し、店員さんへずずいと見せつける。
「な、ななな……」
テントを次々と【アイテムボックス】へ放り込む私の姿を見て、店員さんは腰を抜かしてた。
◇ ◆ ◇ ◆
「焼きたてのパン、ありますか?」
「あるけど、焼きたては高いよ?」
「あるだけください!」
「はぁ?」
「お金はあります!」
◇ ◆ ◇ ◆
「この店のベッドと布団と枕、全部ください!」
「へ? 何を仰って――」
「お金はあります!」
◇ ◆ ◇ ◆
「果実ジュースください」
「らっしゃいお嬢ちゃん! 葡萄ジュースが安いよ! っていうか葡萄しかないんだけどね、あっはっは!」
「樽ごとください」
「あぁん? 嬢ちゃん、大人をからかうもんじゃ――」
「お金はあります!」
◇ ◆ ◇ ◆
「この店のお古の服、全部ください! あと下着も全部ください!」
「あら、あなた英雄さんとこの――って今なんて言いました!?」
「お金はあります!」
◇ ◆ ◇ ◆
「この店の農具、全部ください!」
◇ ◆ ◇ ◆
「片手剣と革盾と革鎧と革兜と籠手、100セットください! あ、成人男性用でサイズはまんべんなくお願いします」
◇ ◆ ◇ ◆
「ありったけの種籾と、全種類の種をください!」
◇ ◆ ◇ ◆
大人買いのあとは、【瞬間移動】で砦に戻り、キッチンでお料理タイム。
パンに切れ込みを入れて、たっぷり塩味とハーブを効かせたアツアツオーク肉を挟み込めば、なんちゃってホットドッグの完成!
さて、仕込みは完了。
大金を得たらやりたかったことのひとつ、『浮浪児狩り』へレッツゴー!
◇ ◆ ◇ ◆
前々から気になっていた、橋の下に広がるボロボロの風除け以上掘っ立て小屋未満。
「た~のも~う!!」
私の声に、川に入って魚を探していたらしい数人の浮浪児が胡乱げな視線を向けてくる。
そして、
「なんだテメェ、いい服着やがって……ってぇ、英雄様んとこのガキじゃねえか!」
すぐに、小屋の中から浮浪児グループのリーダーっぽいのが出てきた。十代前半くらいかな?
「いくら英雄様の子供だからって、俺たちに手ぇ出そうってんならタダじゃおかねぇぞ!!」
精一杯の啖呵を切る浮浪児リーダーくん。うんうん、辛かったんだねぇ……。
私は容赦なく手を出す――【アイテムボックス】へ。取り出したホットドッグモドキを、リーダーくんの口へずぼっと。
「もが!? ……う、美味い!!」
「はーい、この子と同じモノ食べたい人! 1列に並んでくださーい! 甘ぁーい葡萄ジュースもあるよ!」
そして、阿鼻叫喚の行列合戦が始まった。
◇ ◆ ◇ ◆
「【メガ・ヒール】! 汚れ、ノミ、シラミ、病原菌を【アイテムボックス】! からのぉ【ホットウォーターシャワー】! からのぉ【ドライ】! はいじゃこれホットサンドと葡萄ジュースね。はーい次の人――」
浮浪児十数人を治癒・即席入浴させて、塩味たっぷりのなんちゃってホットサンドとジュースで一息つかせ。
「じゃあみんな、私について来てくださーい! 心配はありません、行き先は孤児院ですから」
恐る恐るな浮浪児たちを引き連れ、城塞都市中央広場の教会兼孤児院へ。
「た~のも~う!!」
◇ ◆ ◇ ◆
「あ、あのですね……いくら英雄様のお子様の願いといえど、世の中にはできることとできないことが――」
私を教会兼孤児院兼治療院の客間に招き入れながらも、『浮浪児十数人を引き取ってもらいたい』という私のムチャ振りに目を白黒させるシスター長さん。
どんどんどん!
小金貨10枚(100万ゼニス)の束を3つ、テーブルの上に積む。
10万ドルポンッとくれたぜ……じゃなかった。300万円ポンッとくれてやったぜ!
「いくらあれば足りますか?」
「な、ななな……」
どんどんどん!
さらに3つ追加。
「いくらあれば足りますか?」
……あ、シスター長さんが気絶した。
◇ ◆ ◇ ◆
「ああっ女神さまっ」
「どこの国の長寿漫画か! あと拝まないでください!」
深々と
「えーと……お金だけじゃ困りますよね? これ、私お手製の時間停止機能つき大容量マジックバッグ。差し上げます。で、その中に……子供服と解体済みオーク肉と魔の森産野菜と塩を、とりま山ほど【アイテムボックス】で移し替え!」
「な、ななな……ああっ女神さまっ」
「それはもういいですって! それで私、治癒魔法が得意なんですけど、治療院にお伺させて頂いてもいいですか?」
「――なんと! 孤児たちのみならず、患者たちにまでお慈悲をくださるのですか!? ささ、こちらです!」
◇ ◆ ◇ ◆
「ぃたたたた……」
「うぅ……」
治療院の一室。比較的軽傷だが動けない怪我人が寝ている部屋に入る。
この治療院には治癒魔法が使える方が神父さん、シスター長さん、シスターさん2名の計4名いるが、1日に使える魔力には限りがあるので、軽傷者は後回しにされやすいらしい。
「じゃ行きますよ~。【エリア・エクストラ・ヒール】!」
上級治癒魔法を部屋ごとかける。
失われた部位までは戻らないけど、たとえ手足が千切れても、その手足が手元にあるなら元通りにしてしまうほどの、上級に相応しい非常に強力な治癒魔法だ。
「い、痛くない!?」
「なんてこったい、傷がふさがっちまった!」
「うお、俺なんて腰の痛みまで消えちまったぞ!?」
口々に驚きの声を上げる元怪我人さんたち。
「き、奇跡ですわ……ああっ女神さまっ」
「天丼ネタか!」
4回目はないよ!?
◇ ◆ ◇ ◆
「ごほっごほっ……」
「ひゅー……ひゅー……」
続いて病人部屋。
明らかに症状の違う人を同じ部屋に寝かせるのはマズイ気がするけど……まぁ個室なんて用意できるほどのスペースもないし、細菌とかウイルスなんて存在も知られてない世界だ……仕方ないか。
「ではもっかい、【エリア・エクストラ・ヒール】!」
治癒魔法は怪我のみならず病気まで治す!
さすがは魔法だね! さすまほ!
パパンたちから教えてもらった内容によれば、魔法で治せないのは栄養失調と出血多量だけのようだ。
いくら治癒魔法をかけても、腹が減りすぎれば死ぬし、出血しすぎても死ぬ。
「あれ? 胸が苦しくない……」
「
「……え、な、治ったの……?」
「次行きますよー」
シスター長さんが女神様云々言い出す前に、私はさっさと退散する。
◇ ◆ ◇ ◆
「痛い、痛いよぉ……」
「シスター長! ちょうどいいところに! 先ほど運び込まれた方の意識が――」
最後に怪我の重症者部屋。
「【エリア・エクストラ・ヒール】!」
「え? 傷がふさがって……」
「痛くない……」
「え? え? 今のはいったい!? シスター長、こちらの方、お腹の中まで引き裂かれていたんですよ!? それが……傷ひとつなくなり、呼吸も安定して……」
困惑するシスターさんが駆け寄ってきた。
「こちらの方が上級の範囲治癒魔法を使ってくださったのよ。もう安心です」
「な、ななな……」
……ミスったな、最初にここに来るべきだった。
というか、もっと早くから定期的にここへ来るべきだった。
「……すみませんでした」
思わず謝罪の言葉が出る。
「そんな、あなた様がどうして謝るのですか!?」
慌てるシスター長さん。
「いえ……ここまで大変な現場だとは知らなくて」
私なら助けられるのに、とは言わなかった。傲慢な口振りのような気がしたから。
「定期的に、ここへ顔を出させて頂くようにしますね。あと、重傷者が出たときには砦に連絡をくださいませんか? 駆けつけますので」
「ああっ女神さまっ」
あー……やっちゃった4回目やっちゃった!
◇ ◆ ◇ ◆
その後、浮浪児ネットワークに詳しい元浮浪児リーダーくんを従えて城塞都市と城壁外のスラム街のあらゆる場所を練り歩き、浮浪児を集めに集めて約百人。
全員を教会兼孤児院に叩き込み、追加で3,000万ゼニス積んできた。
足りなくなった寝床については、教会の庭に買ったばかりのテントを並べ、ベッドや布団を放り込んできた。
急に増えた孤児の世話については、年少組の世話を年長組が見ればいい……もとより彼らは、そうやって生き延びてきたのだから。
そして、増築云々についてはシスター長さんに、『私に考えがあるので、しばらくはテント暮らしでガマンさせといてください』と言っておいた。ま、路上生活からすれば十分天国だろう。
むふーっ、作戦第1段階完了!
これで街の治安や雰囲気も良くなるだろう。
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追記回数:4,649回 通算年数:401年 レベル:600
次回、ベヒーモスといえば牛派? 象派? サイ派?
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