12(401歳)「VS ドラゴン、VS グリフォン、VS パパン」

 さて、快適空間と化した魔の森紹介の続きだ。


 居住区と左右の酒蔵、解体場兼トイレ、正面の畑は常に私の【物理防護結界】&【魔法防護結界】で守られており、一酸化炭素中毒にならないよう、結界の壁に換気扇モドキを取りつけて吸気し、結界上空を煙突状にして排気する仕組みとなっている。

 換気扇モドキの動力は【付与エンチャント】された私の【風魔法】だ。


 畑の突き当りまで進むとダブル【防護結界】の終端があり、私が魔力の限りを尽くして作った【土魔法】製の頑強なドアがある。


 このドアを開くと、その先にはこれまたダブル【防護結界】に守られた100メートル四方ほどの空間と、空間の終端に同じく【土魔法】製のドア。

 そのドアの向こうは、【防護結界】のない、完全に魔物たちのテリトリーだ。


 つまりこの100メートル四方の空間は、森から少数の魔物を招き入れて安全に狩るための狩場。

 ダブル【防護結界】には随所に細い切れ込みを入れていて、結界内から魔物を挑発し、寄ってきた魔物を結界の隙間から魔法や弓や槍なんかで安全に仕留めることができる親切設計。


 魔改造された魔の森の姿を見よ!

 どやぁ! むふー。


 ちなみに今も、結界の周囲にはオオカミ系の魔物の集団がうろついていて、結界をがりがり引っ掻いたりしてる。

 たまにブレス攻撃のできる地竜アースドラゴンや、魔法を放ってくる幽鬼王レイス・キングなんかがいて隙間から狙ってくるので、慢心は厳禁だ。


地竜アースドラゴンいないなぁ……ドラゴンステーキが食べたいんだけど」


「とりあえずこいつらを片付けようぜ」


「ですね」


 私は【探査】でオオカミの数・位置を把握し、【アイテムボックス】でオオカミたちの足を奪う――物理的に。


 ちなみに、今やったような生物の一部だけを【アイテムボックス】で切り取るのは、私のおり組の面々はついぞ習得できなかった。

 いや、正確に言うと、『精神力(魔法防御力)の低い生物または無生物』で『そんなに硬くないもの』なら切り取ることは可能になった。なので、たとえば樹木を【アイテムボックス】で薪にしたり、魔物の死体から塩を精製したり、ということはできる。


【首狩りアイテムボックス】は、私のチート級魔法力がなければ成立しないようだね。


 さて、あとは手分けして【テレキネシス】で魔物を結界のそばまで引き寄せ、それぞれの得物で隙間からとどめを刺し、各々の【アイテムボックス】へ。

 狩った獲物は狩った人自身の報酬となるが、肉だけはみんなで平等に分け合うルールだ。


「オオカミの肉はちょっと……」


「そうか? そりゃ豚系や牛系、鳥系には劣るが、十分うめぇと思うがなぁ」


「うーん……」


 元日本人の感覚なんだろうか。

 前世の実家で飼ってた柴ワンコの思い出の影響か?


「ま、さっさと行きましょう」


「おうよ」


 ドア付近に魔物がいないことを【探査】で確認し、ドアを開く。2人ともが外に出たあと、ドアを閉めて鍵をかける。この鍵は全員が1つずつ持っている。


 なお、ドアのあるあたりを中心に半径数十キロメートルの空間が、現在【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】の中に含まれて亜空間化している。

1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】の中と外の境目には、別に壁や障害物があるわけではなく、誰でも自由に出入りできる。なので、私たちがここで魔物を乱獲しても、外からお替りがいくらでもやってくるってわけだ。


「ではさっそく――広範囲【探査】!」


 修行の結果、私の【探査】は最大10キロメートル四方において敵性・中立・友好な生物を3D形式で把握できるようになった。小さい昆虫や植物まで対象に入れると、数キロメートルしか分からなくなるけど。


「おっ、地竜アースドラゴン単体を発見。2時方向3.4キロ先」


「おう、こっちでも確認した」


「ジルさん、自分で【瞬間移動】できますか?」


「もちろんだぜ!」


「ではいきますよ……3、2、1、今!」


 2人して地竜アースドラゴンのいる森の上空へ【瞬間移動】し、そのまま【飛翔】。

 地面に【瞬間移動】した場合、いきなり魔物に襲われるかもしれないし、最悪木や岩や魔物の内側に【瞬間移動】してしまい、怪我や圧死の恐れがあるからね。まぁ私もジルさんも【闘気】をまとってるし防御力もバカ高いから、オリハルコン製の岩でもなけりゃ死にゃしないけど、念のためね。


 眼下にはお食事中の地竜アースドラゴン


「じゃ、行ってきます」


「おう」


 私はそのまま自由落下し、【アイテムボックス】から抜刀した片手剣で地竜アースドラゴンの脳天をぶっ刺す。

 獲物は一瞬で絶命。そのまま【アイテムボックス】へ収納。


 普通の剣だと硬い竜鱗りゅうりんに阻まれて刃が折れるんだけど、剣に【闘気】をまとわせればこの通り。

 こうなってくると『もはや手刀でもいいのでは?』って思うんだけど、手刀だと【体術】扱いになって、【片手剣術】スキルが伸びないんだよねぇ。


「見事なもんだ」


 背後に来ていたジルさんからお褒めの言葉。

 ……おや? 私に取られないとか、【隠密】の腕を上げたねジルさん?


「次はどこへ行く?」


「【探査】! 5時方向2.8キロ先にフェンリル8……は無視して」


「フェンリル肉うめぇのに……」


 犬系を食べるのはイヤなんだってば!


「1時方向5.1キロ先にグリフォン4。行きますよ……3、2、1、今!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 私たちが居を構えているここは、恐らく魔の森のほぼ最深部。


 魔の森探索を始めた当初、森の外縁から中へ向けて徐々に【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】を伸ばしていった。オークやオーガのキングやエンペラーなんかでも経験値にならなくはないんだけど、もっと大きな経験値を求めて、より強い魔物が出る方向へ進んで行ったわけだ。


 今でこそ地竜アースドラゴンを倒したくらいじゃレベルアップすらしなくなったけど、初めて地竜アースドラゴンを倒した時はやばかった!


 中に籠って数年たった頃……私がレベル60くらいの時に始めて遭遇したんだけど、パパン・ママン・バルトルトさんが実に危なげなく4つ足と目を潰し、私にとどめを譲ってくれたんだよね。

 とどめを刺すや否や、一気に50以上もレベルアップ! と同時にとんでもない『レベルアップ酔い』に襲われ、そこら中ゲロまみれになった。


 3バカトリオも、パパン・ママン・バルトルトさんでさえ、おおむね同じ目に遭った。


 パパンはこの部屋に入る前はレベル90代だったけど、あれは北の大山脈から流れてきたはぐれ風竜ウィンドドラゴンをパパン・ママン・バルトルトさん3人の総力を挙げて倒し、割と3人平等に経験値が入った結果なのだとか。


 そして得たのが【竜殺し】の称号と騎士爵位。


『ホントは3人が力を合わせた結果なのに、パーティーリーダーだった父さんだけが変に有名になっちまってなぁ……』と、パパンはママンやバルトルトさんへ視線を向けて苦笑していた。

 ママンやバルトルトさんも苦笑していたが、悪感情はまったくなさそうな苦笑だった。今も昔も仲良しさんなんだね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「じゅーだいはっぴょぉ~~~!!」


「「「なんだなんだ?」」」


 ドラゴンステーキで舌鼓を打ったあと、私は3バカトリオへ報告する。


「本日、ついにレベルが600になりました!」


「「「おぉぉぉぉおおおおおお!!」」」


「そこで、森籠りは今をもっていったん終了とし、お父様に挑もうと思います」


「ついにっすか!」


「うっうっ、長かった……」


「何百年たったかなんて、もう忘れちまったぜ」


 というわけで、4人揃って扉の外へ出ることにした。

 トニさんはしっかりとテンサイと酒樽を【アイテムボックス】に仕舞ってたね。


 ちなみに、今の私のステータスはこんな感じ。



**************************************************

【名前】 アリス・フォン・ロンダキルア

【年齢】 4歳

【職業】 無職 アフレガル王国ロンダキルア辺境伯領・従士長の長女

【称号】 勇者 能天気 不屈 脱糞交渉人 期間限定時空神 亜神

     魔の森の悪夢

【契約】 全知全能神ゼニスの使徒


【LV】 600

【HP】 49,802/49,816

【MP】 116,422,472/116,433,815


【力】   5,014

【魔法力】 12,532,175

【体力】  4,967

【精神力】 4,993

【素早さ】 5,814


【勇者固有スキル】

  無制限瞬間移動LV10 無制限アイテムボックスLV10

  極大落雷LV10 おもいだすLV4

  ふっかつのじゅもん・セーブLV1 ふっかつのじゅもん・ロードLV1


【戦闘系スキル】

  片手剣術LV6 槍術LV3 盾術LV4 体術LV5

  闘気LV10 威圧LV8 隠密LV4


【魔法系スキル】

  魔力感知LV10 魔力操作LV10

  土魔法LV6 水魔法LV6 火魔法LV6 風魔法LV6

  光魔法LV6 闇魔法LV6 時空魔法LV10

  鑑定LV8


【耐性系スキル】

  威圧耐性LV8 苦痛耐性LV10 精神耐性LV3

  睡眠耐性LV10 空腹耐性LV1


【生活系スキル】

  アフレガル王国語LV5 算術LV6 礼儀作法LV2 交渉LV1

  整腸LV4 建築LV6 野外生活LV6 料理LV4 野外料理LV4

  食い溜めLV1

**************************************************



 いやぁ養殖したね!

 おり組のみなさんはある程度レベルが上がってからは、とどめのほとんどを私に譲ってくれたため、私だけレベルが抜きん出てる。


 それにしても、3バカトリオより長く修行しても主力武器がLV6止まりとは……私の武術の才能、なさすぎィ!!



    ◇  ◆  ◇  ◆



「お父様ー! 仕上がりましたぁ~!」


 外時間は昼下がり。

 パパンは訓練場で練兵中だった。


「なにぃ! もうなのか!?」


 もう、と言いつつ数百年たってるし、そのうち半分はパパンも一緒だったじゃないの。


 まぁ、精神年齢が肉体年齢に引きずられるものなのか、それとも精神安定魔法【リラクゼーション】使い過ぎによる副作用なのか、私たちみんな、精神的に全然老けてないんだよね。

 私としては、『精神年齢は肉体年齢に合致する』説を推したい。

 じゃなきゃ(数百年と)先日、オークの集落殲滅作戦の時に、ママンに背中をトントンされて泣きじゃくるという醜態をさらしたのが説明つかないわけで。


 そういうこともあってか、パパンもママンも、私のことを相変わらず『4歳の幼い娘』と見ているふしがある。


「というわけでお父様、手合わせ願います!」


 たくさんの軍人さんたちの目がある中で、私は高らかに宣言する。

 これは事前にパパンたちと詰めておいた台本の通りだ。


 レベル600のことは伏せるにせよ、私が剣も魔法もめちゃくちゃ強いことに関しては、フルオープンでいくことにしている。

 そうじゃなきゃ私が身動きしにくいし、10歳で【勇者】と判明してからは私自身がこの軍を率いなきゃならないんだからね。


 台本はこんな感じ。

 私は数々の魔法を駆使しながら魔の森で地獄の特訓をしており、魔法と同じくその類まれな武術の才能に目覚め、めきめきと剣術その他のスキルを伸ばしつつある、と。


 軍人さんたちに発破をかける意図もあり、親ばかパパンが軍人さんたちにそう吹聴しておく手はずになっており、軍人さんたちの恐れを含んだ視線から、手はず通りにことが進んでいることが伺える。


 ……本当は才能なさすぎて、数百年たっても【片手剣術】LV6止まりだけどね!

 まぁLV6といえば達人級なので、十分にすごいんだけども。


 あと、今まで大したことなかった3バカトリオが急に強くなった件については、パパンの特訓でコツを掴んだ――とか、私とともに死線をくぐって才能に目覚めた――とか言いつつ、小出し小出しに実力を見せていくつもりだそうな。


 パパンとママンとバルトルトさんはって?

 この3人は元から人族屈指の強さだから何の問題もない。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「ではお父様、さっそく一本勝負!! 私がお父様に一太刀でもあびせることができれば、ひとり歩きの許可をもらいますからね!!」


 この日のために用意しておいた奥の手で、パパンをねじ伏せる!


「ふっふっふ……10年早いぞ!」


 決まり文句を言いつつも、パパンは『10年? 数百年? なんかもうわけが分からんな』とかなんとかつぶやいてる。

 ちょっとちょっと! 軍人さんたちに聞こえちゃうよ、パパン!


 軍人さんから模擬剣と小盾を受け取り、私とパパンは広場の中央で相対あいたいする。


「それでは――――……始めっ!」


 模擬戦を仕切ってくれるバルトルトさんの掛け声と同時、


 ――ヒュンッ!!

 

 風切り音とともにパパンの姿が消えた!


 ――【探査】! ってもう背後かよ速すぎィ!?


【瞬間移動】で無理やり体を振り向かせる。

 目の前に迫っていたパパンのシールドバッシュを盾で受け止めるも、体が軽々と吹っ飛ばされる。ベヒーモスですら吹っ飛ばせるほどの威力がこもった、本気のシールドバッシュだ。


 ――ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


 アースニードルをマシンガンのように数百発打ちつつ、【瞬間移動】で距離を取る。頭部以外は容赦なく狙ったというのに、パパンは無傷。ありゃ【闘気】で弾かれたな。

 追撃に来るパパンに向け、こちらも剣を振り上げ、


 ――キキキキキキキキキキキンッ!!


 常人では目で追うこともできない速度の剣戟!

 それを可能にしているのが私の奥の手。


 オリジナル時空間魔法【思考加速】と【未来視】だ。


 私は【思考加速】によって時間感覚が100倍に引き延ばされた世界でじっくりとパパンの動きをとらえ、【未来視】によってパパンの1秒先――つまり【思考加速】下での百秒先――を見据えながら、パパンの剣を正確にさばく。


 もちろん、パパンにそんな魔法はないし、レベルも私の半分しかない。

 正直、バケモノだと思う。

 

 これだけ有利にも関わらず、防御が間に合わずに体に入る剣撃が増えてきた。魔力を身にまとい、防御力や身体能力を上げる【闘気】を全開にしているのにまだ痛い。

 当然だ、パパンは模擬剣で岩を断ち切る。


 ――ガキンッ!


 力を振り絞っての打ち込み、からの火花が飛び散るつば迫り合い。


「……ま、負げまぜんよぉぉおおお!」


「それはどうかな――って、ぉお!?」


 パパンの両足が地面に沈み込む。

 私が【土魔法】と【水魔法】によって泥に変えたからだ。


 続けて【瞬間移動】でパパンの背後へ移動。

 パパンは早くも泥から片足を抜いていたが、もう片方の足が埋まったままの地面を魔力の限り硬化させ、動けないパパンの背中へ向けて剣を突き出す!


「――――――――嬢ちゃんの勝ち!!」


 バルトルトさんの声。

 と同時に、私はその場でぶっ倒れた。


「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」


 軍人さんたちは大盛り上がり。


『一太刀でも当てれば勝利』という条件だから勝てた。

 正直、最後の一撃は必死に腕を伸ばしてちょこんと当てただけで、真剣だったとしても大した傷にはならなかっただろう。


 ――あ、忘れないうちにパパンの足の土を柔らかくして、と。


「はぁっはぁっはぁっはぁっ……」


 私は仰向けになり、パパンの顔を見る。

 パパン、呆然。

 ありゃりゃ……まだまだ当分は負けるつもりはなかったのに、って顔してるよ。


 私は渾身のどや顔を見せつけ、


「ひとり歩きの許可、頂けますね?」


「――……………………………………~~~~~~~~~ッッッッ!!」


 パパン、悶絶の末に、


「―――――――――――許可する!! ただし外泊だけは絶対に許可しない!」


「分かりました!」


 苦節数百と4年。

 こうして私は、ついにひとり歩きの許可を手に入れた。






*********************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:401年  レベル:600


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次回、アリスが伝説の魔獣の素材を大放出し、城塞都市の相場をぶっ壊します。

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