9(4歳)「美少女勇者はゲロイン」

 草木やトゥレントも寝静まる丑三つアワー

 使用人さんたち全員が帰宅し、パパンとママンが寝室にいることを【探査】で確認し、外歩きの格好に着替える。


 両親からひとり歩きの許可が出ていない現状、私の行動範囲は砦の敷地内だけに留まる。オーク退治はボーナスステージだった。


 今のステータスはこんな感じ。



****************************************************

【名前】 アリス・フォン・ロンダキルア

【年齢】 4歳

【職業】 無職 アフレガル王国ロンダキルア辺境伯領・従士長の長女

【称号】 勇者 能天気 不屈 脱糞交渉人 期間限定時空神 亜神

【賞罰】 全知全能神ゼニスの使徒


【LV】 32

【HP】 1,581/1,581

【MP】 116,414,472/116,414,473


【力】   296

【魔法力】 12,524,625

【体力】  268

【精神力】 279

【素早さ】 304


【勇者固有スキル】

  無制限瞬間移動LV2 無制限アイテムボックスLV4

  極大落雷LV2 おもいだすLV1

  ふっかつのじゅもん・セーブLV1 ふっかつのじゅもん・ロードLV1


【戦闘系スキル】

  闘気LV1


【魔法系スキル】

  魔力感知LV8 魔力操作LV6

  土魔法LV6 水魔法LV6 火魔法LV6 風魔法LV6

  光魔法LV6 闇魔法LV6 時空魔法LV10

  鑑定LV8


【耐性系スキル】

  苦痛耐性LV10 睡眠耐性LV10


【生活系スキル】

  アフレガル王国語LV5 算術LV5

  礼儀作法LV2 交渉LV1 整腸LV1

****************************************************



 30といえば並みの冒険者・兵士レベル。


 オークの集落で、パパンとママンが念のためとどめを刺して回っていたけど、どうやら【極大落雷】魔法だけでジェネラル以外の全オークを屠っていたらしい。

 オークを100体も屠れば、そりゃあ並みの冒険者は超えるか!


 HPがLV30の平均である2,000より低いのは、まったく怪我なしでここまで来たからだろう。まぁちょっとした怪我くらいはしたことあったけど。

 というか、逆にレベルアップだけでここまでなるんだ。すごいなレベルアップ!

 実際、あれだけ魔法の訓練をしても増えなかったMPと魔法力が、レベルアップで結構増えた。


 ちなみに戦闘系スキル欄にある【闘気】なんだけど、これは女神様イチ押しの公式チートスキル!

【闘気】は魔力をオーラのように身にまとって防御力や攻撃力、身体能力を上昇させる、なんというか気功のような技だ。極めれば波○拳――無属性の魔力衝撃波――も出せる。攻撃職、防御職、魔法職の誰もが憧れるスキルで、パパンも使える。いかにも脳筋なパパンのMPと魔法力が高いのは、【闘気】でMPを消費するからだろう。


 パパンは【闘気】LV9持ち。

 Lv8以上は宮本○蔵なわけで、実際すごい。

 パパンが庭で鍛錬しているところを見たことがあるが、パパンの片手剣の振り下ろしは目で追えない。上段で振りかぶる姿勢だったと思ったら、次の瞬間、振り下ろした姿勢になっていて、『ビッ!』と風を切る音がする。『ぶおん』とか『ブン!』とかではなく、『ビッ!』。


 走るのもそうだ。【闘気】をまとったパパンのダッシュはスタートとゴールの間の姿が、んーなんとなく残像だったら見えるかなぁ……? くらいに速い。さらには軽くジャンプしただけでも2階建ての屋根より高く飛び、音もなく着地する。


 人族最強は誰だ? と聞かれたら、私は迷わずパパンを推す。


 ちなみに【闘気】の入手方法は2通りある。

 1つ目は何かの武術スキルを極めること。達人レベルであるLV6になると、【闘気】スキルが発現する。

 2つ目は魔力の操作を極めること。何かしらの魔法を覚えると、【魔力操作】スキルが発現する。ファイヤーボールで文字を描いたり、ファイヤーボールとウォーターボールの複合で自在な温度のお湯を作ったり……そういう技巧派魔法の訓練を積むことで【魔力操作】が上がっていき、LV6になると【闘気】スキルが発現する。


 私は【魔力操作】経由で【闘気】を得た。伸ばしていけば、パパンほどではないにせよ、身体能力・攻撃力・防御力の向上が望めるだろう。


 4歳児としては破格の強さだ。たぶん人族の4歳児最強なんじゃないかな?

 ――だけど、足りない。

 並みの冒険者や兵士が魔王と戦えるかってんだ。


 そりゃいざとなったら死に戻ればいいし、一応奥の手も考えてはいるんだけど、もっともっとレベルアップしなければならないことに変わりはない。


 と、言うわけで。


 パパンとママンを裏切る形になって心苦しいんだけど、今夜から砦の裏手の森――魔の森でレベリング開始だ!

 家の裏手の森が魔の森って、すげぇな! まぁ裏手といっても砦~森までの間には結構な距離の平原が横たわっているのだけれど。

 私には【睡眠耐性】LV10がある。明け方に戻って来て、小一時間も眠れば十分。

 汗は魔法で服ごと温かいシャワー、からの水分除去で綺麗さっぱりだ。


 魔の森にはいったことがないから、まずは屋敷の裏手に【瞬間――…




 …………ガチャ




「――えっ!?」


 ドア開き、パパンが入って来た! なっ、ななななんで!?


「――アリス、こんな時間にどこへ行くつもりだ?」


「な、ななななんっ、なんっ!?」


「父さんの質問に答えなさい」


 ひえっ……パパン激おこ。これはマジの顔だ。

 私が答えあぐねていると、続いてママンもやってきた。


 気が動転する、驚きすぎて上手く言葉が出てこない、何か喋らねば、でもどうやって誤魔化す!? いや誤魔化すのが正解なのか!?


 ……遠からず魔王復活のことは伝えなければならない。でも話すとして何から話す? 転生のこと、勇者のこと、魔王復活のこと、女神様からもらったチート能力の数々のこと、


 そして……【ふっかつのじゅもん】のこと……。


 自分たちの娘が己の命を粗末に扱っているなんて、絶対にいい気持ちはしないだろうし……それに何より、一度切りしかないはずの自分たちの人生が、私のループによって、私の干渉によっていかようにもねじ変えられるという事実。

 いやもちろん、大切なパパンとママンを不幸にさせるつもりはないのだけれど……。


 答えあぐねていると、パパンがため息をついた。


「……仕方ない。まずは先に、お前の質問に答えてやろう。

 俺が【闘気】を使えるのは知っているな? これは極めると、お前が得意な【探査】に似たことができるようになる。気配を読むというか、自分の周りにいる人間や魔物の存在、行動がある程度把握できるようになる。例えば幼い我が子が夜な夜な起き出して着替えるような、不自然な行動を、な。

 ちなみに母さんも、低レベルながら【闘気】が使える。オーク討伐の時、【隠密】した俺の姿を母さんは捉えていただろう?」


 な、なるほど……。

『ヤ○チャの気が消えた!?』とか、『チャ○の霊圧が消えた……!?』みたいなやつってわけだ。


「その歳で……あまりにも多過ぎる魔力量、操る魔法の数々……魔物の首を切り取る【アイテムボックス】なんて聞いたことがない。それに、常識外れの距離を移動できる【瞬間移動】と、あの威力の雷魔法は――」


 パパンが言葉に詰まる。言いたくない言葉を、絞り出すように、


「100年前に魔王を封印した……」


 さらに一呼吸。それから、



「――――――――――――【勇者】の力と、同じ、ものだ」



 ママンが、何かをこらえるようにぎゅっと口元を結ぶ。


「明らかにレベルアップを求めていたお前の言動……近いうちに無断で魔の森にでも行きかねないと思い、見張っていたんだ」


 パパンの目が、真っすぐに私を見据える。


「……アリス、正直に答えてくれ。


 ――――――――――お前は、何者だ?」




「………………………………………はい。私は、【勇者】です」



    ◇  ◆  ◇  ◆



「女神様のお告げ、勇者、魔王復活、か……。ちなみに、お前が雷魔法を使う時に叫んだ『ギガデ○ン』な、あれは100年前の勇者もよく唱えていたと伝説にある」


 ドラ○エは100年前には存在しなかったじゃない! 的な話は、まぁ時の流れが違うんだろうってことで納得することにしよう。

 しかしまさか冗談のつもりで口走った言葉から身バレするとは!

 ナンテコッタ・パンナコッタ!


 ほぼ全部ゲロったが、どうしても譲れないところは隠すかごまかした。


 まず、転生者であることとは隠した。だって私もさ、もし誰かと結婚して、子供を授かったとして、その中身が成人越えの誰かさんだったら、やっぱり嫌だと思うだろうし……いや前世は喪女だったけど――って誰が喪女か!! はぁはぁ……。


 そして、【ふっかつのじゅもん】のこと。やっぱり言えるわけがない。

 それに伴い、称号の【期間限定時空神】と【亜神】も隠すことにした。

 私の【時空魔法】がカンストしているのは、勇者特典の【無制限アイテムボックス】を使いまくって鍛えたことにする。あと【苦痛耐性】LV10と【睡眠耐性】LV10は隠すしかない。【ふっかつのじゅもん】で鍛えたMPと魔力も、隠すしかないよなぁ。


 女神様と会っていろいろ教えてもらったことについては、『赤ちゃんの頃に女神様が夢に出てきて、言葉と知識と魔王復活の時期と勇者の使命のことを教えてもらった』ということにした。

 明らかに赤ちゃんの頃から魔法の教本を読みこなしていたことについて、『女神様に言葉を教えてもらった』ということで無理くり辻褄を合わせた。

 致命傷で済んだぜ! って感じだ。


「8年後に魔王復活、か。国王陛下にすぐにもお伝えせねばならんが、どのようにしてお伝えしたものか……。

 それにしても、人族最前線であるこの俺の子として生まれるとは、これも女神様の思し召しなのかもしれんな!」


 瞳にうっすら涙を浮かべているものの、パパンは私が勇者なのを前向きに受け止めようとしてくれているようだ。

 ママンはというと、……あぁっ、泣いちゃってる。娘を戦場に送り込みたくないって顔してる……。


「では、ステータスを見せてもらえるか? とはいえ、お前も年頃の娘だ……ん? いや、まだ全然年頃じゃないよな。ははっ……お前は早熟すぎて、どうにも歳が分からなくなる。――とにかく、見せたくない部分は隠蔽してもらって構わない」


「はい――【ステータス・オープン】!」



    ◇  ◆  ◇  ◆



 あらかじめ整理しておいた通り、死に戻り関連の称号、ステータス、スキル以外は全て開示した。とはいえMPと魔法力は非表示だ。

 MPと魔法力については突っ込まれたが、『実は私自身、上げすぎて測定不能なのです……あはは』といったら、パパンもママンも『あー……』って感じの顔をして納得してくれた。


 ひとしきり驚き終えたあと、パパンが言った。


「ところでこの称号【脱糞交渉人】ってのは何だ?」


「あっそれは――」


「ああっ!」


 ママンがぽんっと手を打った。


「ほらアナタ、この子ったら昔から、どうしても欲しいものがあるとなると、泣くわ喚くわ引っ張るわ、仕舞にはものすごい量のウンチをもらして、砦中大騒ぎだったじゃないですか! この子、交渉の為にウンチを溜め込んでるのかって本気で疑ってたのですけれど……今、【整腸】スキルをみて確信しました!」


「ああっ、そういえば! しかしひっどい称号だな! はははははっ!」


「……あ、あははは……」


「……フフッ、ウフフフフッ!」


 3人で笑い合ったおかげか、少し気が楽になった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「……というわけで、レベルアップのために魔の森へ入る許可と、【瞬間移動】できる場所を増やすための、ひとり歩きの許可を頂きたいのです」


「……だ、ダメだダメだダメだ!! ――いや、事情は分かる。父さんも人族最前線を預かる身だ、レベルアップの必要性は十分すぎるほどによく分かる。だから父さんと一緒でなら、魔の森に入るのは許可しよう。だがひとり歩きはダメだ!」


 頑として首を横に振るパパン。


「この世界は危険でいっぱいなんだ。お前の敵は魔物と魔族だけではない。人族の中にだってお前を誘拐しようとしたり、騙そうとする輩がたくさんいる。笑顔で近づいてくる人族がみな味方、なんてことはないんだ!

 そりゃお前の魔力と魔法の数々と、魔の森での実戦訓練が合わされば、何十人もの盗賊団にだって負けはしないだろう。だがそれは、真正面から襲い掛かってこられた時だけだ。

 奇襲、騙し打ち、謀略、謀殺……知恵のある人間ってのは魔物よりもよっぽどたちが悪いんだ。たった4歳の子供がひとりで歩いて渡れるわけがない!」


「ですが……私には時間がありません」


 あと8年。たった8年だ。

 そりゃ最前線はここだが、魔物は王国の各所の森や山に潜んでいるはずだ。実際、あの村の山にはオークの集落があった。それらが魔王の固有スキルである無制限テイム能力で暴れさせられたら?

 12歳が来るまでに、王国中を【瞬間移動】できるようにしておき、どこで何が起こっても、私に連絡が届き次第、駆けつけられる体制を整えておく必要がある。そのための旅をし、国王陛下や各領主に信用してもらうに足る功績を積まねばならない。

 ……という趣旨の私のまくし立てに、パパンが渋面一色。


「うううううう……ならば、俺が一緒に――」


「アナタ、さすがにそれは無理でしょう。それこそ8年後に向け、兵を鍛え、砦と壁を補修しなければなりません。一連のことをお義父様に報告すれば、ますます忙しくなるでしょう」


「――あ、砦や壁の修理が必要なら、私が手伝いましょうか?」


「お、村で見せた土魔法や結界魔法か! いいな、是非頼む――じゃなくてだな!!」


 ノリ突っ込みのあと、だいぶ悩んだパパンが出した答えとは!


「魔の森へひとりで入るのは、模擬戦で俺に一太刀でも浴びせられてからだ!」


 ……む、まぁそのくらいは仕方ない。宮本○蔵レベルのパパンに一太刀浴びせるのは骨が折れそうだけど、それすらできない状態で魔王討伐なんて、夢のまた夢。鍛えるとしよう。


「そしてひとり歩きは……一太刀浴びせた後でなら、【飛翔】で空を飛ぶ場合のみ許可する! 街や村に入る時や魔物と遭遇した時には、護衛兼お目付け役として、俺の右腕でもある副従士長をつける! また、外泊は一切許可しない!」


 妥当かな。まだ4歳という身の上。街や村では大人の同行者がいた方が有利だろう。幸い私には【無制限瞬間移動】があるから、魔物と遭遇した後でも副従士長さんを回収できる。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「あとは――聖級と神級の魔法を覚えたいのですが、どうすればよいでしょうか?」


「神級など神々でしか使えんだろう! ――ん? いやお前の【空間魔法】レベルは10だったか。え? え? アリス、お前もしかして神なのか?」


 フルフルフルフル!! 必死に首を振って否定する。

 まぁ、【亜神】って称号は持ってるけど……。


「聖級なら、宮廷の筆頭魔法使い殿が使えるはずだ。実力は確かだぞ。神級は……もしあるとしても、王室の禁書庫だろうな。まぁどのみちお前は勇者だ。国王陛下も全力でご支援くださるだろう」


 と、ここまで話したところで、今日はお開きとなった。






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追記回数:4,649回  通算年数:4年  レベル:32


次回、アリスの奥の手公開!

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