8(4歳)「作物に、の、呪いが!?」
翌日。
予定を空けてくれたパパンとともに、再び村へ来た。もちろんママンも一緒。
パパンとママンってなんか『爵位を継げない貴族の子弟が冒険者として名をはせ、強く美しい冒険者の娘を見初め、幾多の冒険と苦難を乗り越えて結ばれた』的な、貴族にも平民にも憧れられるようなテンプレ的ラブコメの波動を感じるんだよねぇ……。
パパンは準貴族とはいえ貴族家当主なのに、側室もお妾さんもいないし。
まぁステータスウィンドウ然り【鑑定】然り、他人のプライバシーを探るのはご法度なのだ、そっとしておこう。
で、今日の仕事はようやくの本題である、【鑑定】スキル活用による不作問題の解決だ。
さっそく小麦畑に案内され、
「小麦を【鑑定】!」
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「小麦」
非常に状態の悪い小麦。
養分不足かつ呪われている。
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ふむ、養分不足――――って、の、呪い!?
「――お、おおおお父様! の、呪い!」
「ん?」
「これ、呪われてます!!」
「ああ、呪いか……」
――あれ? パパン、随分と落ち着いた様子。
「アリスよ、この地が魔王国領に隣接していることは知っているな?」
「はい」
「魔王が封印されている今、本格的な侵攻はない。……だが、『攻撃』がまったくないわけじゃないんだ」
「それって――」
「もう何十年にも渡って、この土地は魔王国領から呪いの攻撃を受けている。人間や家畜にはほとんど害はない。だが呪いへの抵抗力がない作物は、かなりの影響を受けているんだ……」
小麦を【鑑定】してみると、魔法防御力にあたるステータス【精神力】がゼロだった。なるほどねぇ……。
でもさ、
「呪い攻撃があるなら、結界を張ればいいじゃない!」
「――はっ!? アリス、お前いったい何を……」
「こう見えても、空間魔法だけじゃなく、光魔法も得意なのです。
見ててくださいよぉ――」
畑に向かって両手をかざす。白い光が畑を取り囲み、
「美人でお美しい全知全能神ゼニス様と尊く賢い時空神クロノス様、この畑を邪悪なる呪いからお守りください――【聖域】!」
無詠唱だと両親を驚かせすぎると思い、なんちゃって詠唱して魔法を行使した。
「ほら見てくださいお父様! 作物から呪いが消えまし……って、あれ?」
パパンとママンは、白目を剥いて泡を吹いて倒れていた。
ただひとり、状況の分からない村長さんはあたふたしていた。
◇ ◆ ◇ ◆
村長さん宅に運ばれたパパンとママンは小一時間ほどして目を覚ました。村長さんが出した豆茶でほっと一息つき、改めて【聖域】を施された畑へ行く。
「やっぱり私たちの娘は神童――いえ神? 女神様の
「結界魔法には驚かされたが、大丈夫だ落ち着け、気を落ち着かせて……あ、あ、アリスよ、その結界は、あと何回くらい使うことはできる?」
「何回でもできますよ」
「何回でも……そ、そうか。じゃあ、どのくらいの範囲まで?」
「どのくらいでも」
「どのくらいでも!? じゃ、じゃあ、この村や畑全体を包み込むことは……?」
「むむむ――はいっ!」
ぱあぁっと光が広がる。
「できました!」
びたーん!! パパンとママン、泡を吹いての気絶、第2段。
……あ、今度の再起動は早かった。
「あ、あ、あ、アリス……この結界はいつまで効果が続くか分かるか?」
「【鑑定】! ええと、あと99年と364日と23時間58分だそうです!」
びたーん!!
◇ ◆ ◇ ◆
「村長さん、鑑定したところ、『養分不足』と出るのですが」
「ええっ!? いえいえ、肥料はちゃんと与えておりますよ」
「うーん……じゃあ連作障害は?」
「レンサクショウガイ?」
「小麦ばっかり育ててたら、収穫量が徐々に減っていくやつです」
「ああ! それは確かにそのとおりでございます。農地を2つに分け、1年ごとに畑を代えております。休耕地には山羊を放牧しておりますな。昔から続けられている方法ですが、これがなぜか、一番上手くいくのです」
「二圃式農業。――村長さん、腐葉土は入れてます?」
「フヨウドとは何ですかな?」
「森の土です。腐った落ち葉や虫の死骸、動物の糞尿なんかがぐちゃぐちゃに混ざりあった土」
「あぁ、森の恵みですか。はい、畑を耕す際に混ぜ込んでおりますよ」
「ミミズも?」
「はい。あれは土を柔らかくしてくれますから」
「ふむ……肥料は何を使っています?」
「堆肥――藁やおがくずと糞尿を混ぜて、定期的に混ぜ返しながら数か月置き、臭いのなくなったものを使っております。他にも残飯や油の搾りかすなどを乾燥させ、細かく砕いたものなども」
「お、おおぉ……」
結構しっかりしてるじゃん! でもそれだけだと、肥料3大要素の窒素・カリウム・リン酸のうちカリウムちゃんが不足気味になるんだよねぇ……焼き畑してるならともかく。
私は周りを見渡し、目についた雑草や落ち葉を片っ端から【アイテムボックス】へ。
「ひ、ひえぇぇぇえええ!!」
急に辺り一面から雑草と落ち葉が消え去り、ビビる村長さん。
「――あ、雑草と落ち葉、もらってもいいですか? あ、はい、ありがとうございます。事後相談になってしまってごめんなさい。
ではでは……【物理防護結界】で鍋を作り、雑草やらを投入。プチ【ファイアウォール】で焼いて、風と水の混合魔法【アイスウィンド】で冷まして出来上がり!」
「な、ななな……はっ!? そ、それは灰ですか?」
「はい!」
灰だけにね!
「雑草や木くずなんかを灰にしたものを他の肥料と一緒に撒くと、効果てきめんですよ! あとは――」
何もない空間からオークを1体ずるりと引出し、腕一本だけを残して【アイテムボックス】へ収納。
腕の構造を【探査】し、【アイテムボックス】で骨だけを取り出し、肉は収納。
……あ、ちょっと肉がついてる。まだまだ要鍛錬だな。しかし何でもできるな【アイテムボックス】!
うふふ、私の魔法でどんな相手も骨抜き(物理)に――。
怖っ! 自分で言っといて怖いわっ!
……と、とにかく今は、肥料作りを続けよう。
「【物理防護結界】からのぉ――【ウインドカッター】で粉砕しつつ――【ドライ】でからっからに乾燥!
こんな感じで、動物や魚の骨や、食べられない部位の乾燥粉末なんかもオススメです」
ここは海からは遠いが、川魚を食べる機会はあるだろう。
「ははぁ~……」
魔法にビビるものの、だいぶビビり耐性がついてきた村長さん。
【ビビり耐性】LV1ゲット?
「おまっ、なんでそんなに詳しいんだ?」
「【鑑定】さんに教えてもらいました!」
……まぁ嘘なんだけど。でも【鑑定】LV8はほぼグー○ル先生だから、同じように調べることはできるだろう。
「ちょっと実演してみたいんですけど……自由に使ってよい畑少々と、何か手頃なタネはありませんか?」
◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、やってきました自由に使ってよい畑の一角! オークに食い散らされてしまった場所だね。
「【アイテムボックス】!」
畑の1メートル四方の土がごっそり消えて、
「【物理防護結界】で大きな器を作ってー、畑の土を結界内に移してー、灰と肥料を投入! 時空魔法【テレキネシス】でシェイクしてー、【アイテムボックス】へ収納、そして再びの【アイテムボックス】!」
肥料を混ぜられた土が、元の場所に戻った。
「ひ、ひぇぇぇえええ! 神の御業じゃぁ~!」
村長さんそれ2回目。
ビビり耐性ついても、ちょっと規模が大きくなるとダメかー。
◇ ◆ ◇ ◆
灰・肥料入りの土と、そのままの土へ、それぞれ種を植えた。
何の種か聞いたら、豆の種だった。あぁ、ジャ○クと豆の木!
「では両方へ、土と水の混合魔法【グロウ】!」
上級魔法【グロウ】はMP消費がかなり重いものの、気候や土壌をかなり無視して植物を急成長させることができる便利魔法だ。
MPを1億持つ私に限っていえば、農業無双も可能だろう。
……ん? これ農
ずずずずずずずず……
地面から1本ずつ、豆の木が生えてきた。
でも生えてくる速度が全然違う。
「【グロウ】停止!」
灰・肥料の方が、木の高さも豆の大きさも2倍近く大きかった。
「――と、このように、成長に違いが出るのです」
「「「「…………」」」」
「……さ、さ、作物が一瞬のうちに……」
「アリス、あなたこれ、難易度の高いことで有名な土の上級魔法じゃ……?」
あー……そっちかぁ~! 成長の差の方に驚いてほしかったなぁ!
「か、神の御業じゃぁ~!」
それはもういいよ!!
今日はここまでかなー……豆とかクローバーとか輪栽式農業の話は、また今度にしよう。
◇ ◆ ◇ ◆
何度目かの村長さん宅にて。
「村の壁や見張り台の設置、オーク退治に呪いの解呪、おまけに効果の高い肥料まで教えて頂き……」
そこまで言ってから、村長さんの顔色が悪くなり、
「……お代はいかほどでしょうか? 何年、いえ何十年かかるか分かりませんが、必ずお支払いいたします!!」
「対価はいらん」
「――なっ!?」
「いや、小麦の増産の目途が立てば、現在、木材や賦役でまかなっている分の税は小麦でしっかり支払ってもらうことになるだろう。だがそれ以上の対価はいらん。そもそも領民の安全と生活を守るのは領主と、その従士長である俺の仕事なんだからな」
ん~っ、かっこいいねぇ、パパン!
◇ ◆ ◇ ◆
【瞬間移動】で家へ帰ってきた。
「昨日といい今日といい、お手柄だったな、アリス。父さんはもう、一生分驚いたぞ!」
「これで畑がいっぱい実れば、おいしいご飯がたくさん食べられるようになりますね!」
「なるほど、それが目的だったのか」
「えへへ」
「明日から村々を巡ろうと思う。頼めるか?」
「もちろんです!」
「魔力は大丈夫なんだろうな……無理はしていないか?」
「大丈夫ですよ!」
「そうか、大丈夫、か……」
パパンの乾いた笑み。
「父さんも幼い頃は神童だとか武神の申し子だとか言われて、もてはやされたもんだが……『末恐ろしい』って言葉は、お前のためにあるんだろうなぁ、アリス」
「あ、あははは……」
◇ ◆ ◇ ◆
それから数日、残りの農村と、軍人さんたちが耕している城塞都市の畑、さらには城壁の外でスラムの人たちが耕している畑で、おおむね同じようなことを繰り返した。
オーク肉は村と街、スラムに均等に配られ、大層よろこばれた。
ただ、私たちが食べる用のが1体しか残らなかったのは不満だったけど。
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追記回数:4,649回 通算年数:4年 レベル:32
次回、「身バレ」。
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