7(4歳)「オークの集落殲滅大作戦」

 狩り残しのないように、というパパンの方針に従い、山を徘徊すること数時間。【探査】して、生体反応からちょっと距離を置いたところへ【瞬間移動】し、オークと確認、屠って収納、を10回ほど繰り返したところで、はぐれというか斥候? 狩り? のオークは殲滅した。


 私も道中、数匹ほど狩らせてもらった。

 試しに【アイテムボックス】でオークの首だけ収納してみたところ、オークが気づいたみたいに数秒暴れたのち、成功した。

 やはり精神力の違いか。ただしその1回だけでMPが1万ほど減っていた。思いっきりレジストされたってことなんだろう。これは【アイテムボックス】も要鍛錬ですな……。


 赤ちゃん期MP養殖を1億で止めてしまったことを早くも後悔しはじめている。

 いや、とにかく今はオークの殲滅だ!


「【探査】――残るは集落だけです。では行きますね……【瞬間移動】」


 集落の風下100メートルほど手前に、瞬間移動。


「……数は分かるか?」


「普通のが82、5メートル以上の大きいやつが1です」


「5メートル以上……ジェネラルだな。ということは、『普通の』の中にリーダーが数体いるだろう」


「お父様、私にいい考えがあります」


 私はびしっと人差し指を立てる。


「まずオークの集落全体を【物理防護結界】と【魔法防護結界】で覆います」


「お、おまっ、結界魔法まで……いや、『【空間魔法】は一番得意』なんだったな」


 私の言い訳を先取りしてくるパパン。慣れてきたんだね。


「そして、雷魔法を結界の中へ打ち込んで、オークたちをしびれさせます」


「雷魔法だと!?」


「み、水魔法と風魔法はどちらも得意なので……」


「得意得意って、お前なぁ……」


「そ、その後、雷で発生するであろう火災を鎮火し、突入。これならしびれて弱っているところを叩けますし、取り逃がしたオークが村を襲う心配もありません」


「ふむ……その結界が砕かれたり、雷魔法が結界を破る恐れは?」


「頑丈さには自信があります。雷魔法も、自由に中断できます」


「【隠密】や弓で徐々に減らすにしても、いずれは気づかれるしな……」


 パパンとママンがうなずきあう。


「いいだろう。やってみなさい」


「では……【探査】! オークを囲う範囲は……こう、こう、こうだね。では【物理防護結界】!」


 ドーム状の【物理防護結界】で集落を囲う。ドームはほんのり白く輝いている。

【物理防護結界】は、剣とか矢とかをA○フィールドというかバリアで弾く魔法。空気も通さないので、焚火と一緒に使ったら窒息で死ねるので要注意。

 そして逆に、物理的に相手を閉じ込めることもできる。ただし幽霊系とか肉体を持たない系には利かない。


「からのぉ、【魔法防護結界】!」


【魔法防護結界】は魔力と、魔力でできた物質・事象――要は魔法だ――をバリアで弾く魔法。こっちは幽霊系を閉じ込めることも可能。


「からのぉ――」


 目の前の結界にずぼっと指を突っ込み、


「食らえ必殺のギガデ○ン!!」


 落雷、という字面。ただし魔法は尻――げふんげふん指から出る。

 私の指先から放たれた【極大落雷】魔法は結界内で無数の稲妻となって暴れ回り、結界内は一瞬にして火の海になる。

 さすがは勇者固有スキル……えげつない威力だぁ。結界の効果で音は聞こえないけど、まぁ、阿鼻叫喚だろうねぇ……。


「「!? !? !?」」


 横を見ると、パパンとママンが感嘆符と疑問符を連発していた。

 たっぷり10秒間レンジでチンしてから、結界を解く。


「お父様、私は上空から鎮火した後に合流します!」


「――――……はっ!? お、オークは弓を使う。十分な高度を取るんだぞ!」


「はい!」


【飛翔】し、上空から大雨を降らせる水魔法【スコール】!

 10秒ほど降らせ、【探査】で炎の反応がないことを確認。パパンとママンの元へ合流する。


 集落は地獄絵図だった。見渡す限りにオークの丸焼きが転がっていて、パパンとママンがオークのとどめを刺して回っていた。ママンの手には短剣が。首を掻き切る動作が、いやに板についてるね……。


 ……なんか、屠殺場の豚でも見ているような気分……。

 いやいや気を抜くな! 2足歩行の生命反応を【探査】!


 100近くあった反応が、消えている。

 残りの反応は、私の周囲に私も含めて4つ。


「4つ!? ……あっ、お母様! そいつから離れ――」


「ブヒィイッ!!」


 死んだふりをしていた5メートルの巨体、オークジェネラルがママンの足首を掴んで立ち上がる!


「――お母様ッ!!」


 思わず絶叫する。気が動転してしまって、体が上手く動かない。


「ブヒブ――」


 次の瞬間、オークジェネラルの首がなくなった。


 オークジェネラルの手から落ちるママンは、パパンに抱きとめられた。


「気をつけろ、マリア。怪我はないか?」


「ごめんなさい……掴まれたところが少し痛む以外は大丈夫です」


 ――ぱ、パパンがオークジェネラルの首をはねたんだ。その、宮本○蔵レベルの【片手剣術】スキルにものを言わせて。


 体から力が抜け、私はその場にくずれ落ちてしまう。


「アリス、すまんがもう1回【探査】してくれ。オークの反応はないか?」


「あ、う、……た、【探査】……は、はい。反応はありません……」


「よし。よく頑張ったな、アリス」


「……アリスちゃん!」


 降ろされたママンに抱きしめられ、私は年甲斐もなく号泣してしまった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 私が【探査】を怠ったばかりに、ママンを危険にさらしてしまった……泣きすぎて上手く言葉にならないものの、そういう趣旨で謝ったところ、『いいのよ、大丈夫。心配させちゃってごめんね』と、背中をぽんぽんされながらママンにあやされた。

 どうも幼児退行してるような気がする。身体に精神が引きずられてるのかも。


 ようやく落ち着いて、ママンが足をオークに掴まれたことを思い出した。


「お母様、足は――っ!?」


「腫れてきているけれど、お父さんに肩を借りれば歩けるわ。ほーら、そんな顔しないの。冒険者だった頃は、こんなの日常茶飯事だったんだから。明日、街の神父さんに治癒魔法をかけてもらえば、すぐに治るわよ!」


「ち、治癒魔法が使えます! 使っていいですか!?」


「治癒も!? あなた、いったいどこまで……魔力は大丈夫なのね?」


「はい」


「本当に、無理はしていないのね? なら、お願いするわ」


「【ハイ・ヒール】!」


 まだ混乱が抜けきらない私は、思わず中級の治癒魔法を使ってしまう。


「ハイ・ヒールですって……? ベテランの回復職でも覚えるのに苦労する魔法を……ほ、本当に痛くない」


 立ち上がり、ぴょんぴょん飛び跳ねるママン。……あぁっ、無理しないで……。


 ……ハイヒール・モ○コ!

 よ、よし、ようやく調子が戻ってきた。


「そういえば私たち、びしょ濡れでした……乾かしますね、【ドライ】!」


 私の指元に集まった水分を、その場に捨てる。


「服と肌表面の水分だけを器用に【ドライ】、か……もう驚くのにも飽きてきたな。それでな、アリス。このオークども、あとどれくらい収納できる?」


「全部収納できますよ!」


「はぁあっ!? いったいどれだけのバカ容量……ま、まぁ、オークは素材や食料にと優秀なんだ。お前が収納できるというなら、収納してもらうとしよう。お前も肉たっぷりのご飯、食べたいだろう?」


「はいっ、食べたいです!!」


 本心だ。

 二足歩行生物を食すことに若干の抵抗はあるものの、ファンタジーものでオークといえば豚肉の代用! きっと美味しいに違いない……というか、実際に食卓に何度も出てきたことがある。味はまさに豚肉だった。


「じゃあ、大変だがオークを回収して回ろうか」


「いえ、オークの死体を【探査】……からの【アイテムボックス】!」


 目の前の死体の山が消える。


「集落のオークを全て収納しました!」


「は、ははは……そうか、全て収納した、か。それでアリス、お前の【アイテムボックス】だが、収納しているものは時間とともに劣化するのか?」


「しませんよ?」


「やっぱり――今日はもう、驚き疲れた……」


 天を仰ぎ見るパパンなのであった。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「山のオークだがな、集落を築いていたが、殲滅してきた。もう大丈夫だ。だが、今後も山狩りは行うように。それが無理な事態に陥ったなら、速やかに報告しろ」


「――は、はぁっ!? せ、せせせ、せんめつ……!?」


 パパンの言葉に目を剥く村長さん。


「アリス、ジェネラルを出してくれ」


「はい!」


 どん!


「これが証拠のオークジェネラルだ」


「な、ななな――」


「この村に獲物を解体する施設はあったか?」


「――はっ!? い、いえ、ございません……が、村で一番解体が上手が者がおりまして、そちらへご案内致しましょうか?」


「頼む。アリス、ジェネラルを仕舞ってくれ」


「はい!」


 しゅん!


 足が震えている村長さんの案内で、解体が得意な狩人さん宅へ向かう。


「アリス、オークの通常種を20体出してくれるか? 綺麗なやつと焼かれたやつを均等に」


「はい!」


 どん! どどどどどどどどどどどどどどどどどどどん!


「「――はぁあああっ!?」」


 狩人さん宅の庭に出てきたオークの山を見て、叫んだままフリーズした村長さんと狩人さん。


「これは村で食ってくれ。素材も、街で売るなりして村の運営に充ててくれればいい」


「な、ななな……はっ!?」


 村長さんが絞り出すような声で、


「……そ、それで、これ以外のオークは……?」


「ほかの村や兵士たちも腹をすかせているので、な」


「――し、失礼しました!! 今の発言は、どうかお忘れください!」


 すぐに謝る村長さん。村長さんは強欲そうな人には見えない。

 村人たちの手前、ダメ元で聞いただけなんだろうね。



    ◇  ◆  ◇  ◆



「これで一件落着だな!」


 パパンがすがすがしい顔で言った。正確には、アフレガルド王国語の『一件落着』に相当する言い回しだけれども。


「お父様、まだですよ!」


「ん? 村を頑丈な壁で囲い、オークの集落をつぶして、村の安全を確保したじゃないか」


「ここに来た理由は、【鑑定】を使って不作の原因を調べるためですよ!」


「――――あっ!」


 素で忘れていたようだった。


「しかしもう夕刻だぞ。今から馬を飛ばしても、家に着くのがおそくになってしまう…………まさか、いや、アリスならあるいは…………」


 恐る恐るという様子で、パパンが私に聞いてくる。


「お前まさか、ここから」


「帰れますよ! お馬さんも一緒に」


「なんてことだ……しかしそれなら、なぜ行きは馬に乗ったんだ?」


「一度は来ないと、場所が分からないからです。地図を見た時に一度やってみようとしたんですけど、上手くイメージができず、【瞬間移動】魔法が成功しなくて」


「なるほどな……とはいえ今日はもう晩い。今日のところはこれで帰ろう」


「はい!」


 こうして、私の初戦闘を飾った日は幕を閉じた。






*****************************************************

追記回数:4,649回  通算年数:4年  レベル:32


オークジェネラル以外の【極大落雷レンチン】により、一気にレベル32へ!

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます!!

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次回、勇者はチート魔法【りんさいしきのうぎょう】を唱えられるのか!?

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