第6話

ごきげんよう、セシリア・シークハルトです。突然ですが訃報です。王妃陛下であるレクス・シュヴァリエ様が薨去こうきょいたしました。両親は王妃様の葬儀に参列し、私は屋敷で留守番をしていました


【セシリア・シークハルト】

「はあ~、暇だわ。」


屋敷にいてもやることがないが、かと言って留守番を放り出すわけにもいかない。多分、どこの屋敷でも同じだろう


【セシリア・シークハルト】

「この世界にスマホやパソコンがあったらな。」


自分が住んでいた日本が懐かしく思えた。するとノックの音がした


【セバスチャン】

「お嬢様、旦那様がお帰りになられました。」


【セシリア・シークハルト】

「分かったわ。」


私はすぐさま両親の元へ向かった


【セシリア・シークハルト】

「お帰りなさいませ、父上、母上。」


【シークハルト公爵】

「ただいま、セシリア。」


【シークハルト公爵夫人】

「留守番ご苦労様。」


【セシリア・シークハルト】

「それで葬儀の方はでしたか。」


【シークハルト公爵】

「まあ、ぼちぼちだな。」


父の話では葬儀の方は厳かに行われ、王族、貴族等が参列した


【シークハルト公爵】

「陛下は王妃様の死をあまり悲しんでおられなかった。むしろ上機嫌でおられた。家臣の立場からして、それはどうなのかとは思ったが・・・・」


【セシリア・シークハルト】

「ノエル王太子殿下はいかがでしたか?」


【シークハルト公爵】

「参列していなかった。」


【セシリア・シークハルト】

「はい?」


【シークハルト公爵】

「王妃様の死がよほど答えたのか、部屋にこもりきりだそうだ。」


【セシリア・シークハルト】

「そうなのですか。」


【シークハルト公爵】

「ノエル王太子殿下にとっては最大の庇護者であったからな。」


ノエル王太子殿下の最大の庇護者である王妃様の死で、王宮内のバランスが徐々に崩れていくのである。そのころダグラス公爵家は・・・・


【ダグラス公爵】

「キッベイ殿、此度は大儀であった。」


【キッベイ】

「いいえ、これも国を救うためにございます。」


【ダグラス公爵】

「キッベイ殿、怪しまれなかったか?」


【キッベイ】

「もちろんです。王妃様は持病の偏頭痛に悩まされておりましたので、薬に少し細工を施しました。」


【ダグラス公爵】

「そうか。それで秘密は守れるか?」


【キッベイ】

「心配御無用です。実は私は不治の病に侵されております。せめて死ぬ前に国のために捧げたいと思っておりました。だから此度の件で私はダグラス公爵にとても感謝しております。」


【ダグラス公爵】

「そうだったのか、キッベイ殿、貴方は国を救った救世主だ。陛下にかわって御礼を申し上げます。」


ダグラス公爵はキッベイの前で平身低頭した


【キッベイ】

「ダグラス公爵、私ごときに頭を下げるなどと。」


【ダグラス公爵】

「これで国も娘も救われます。本当に感謝しております!ありがとうございます。」


【キッベイ】

「ダグラス公爵。」


その後、侍医のキッベイは不治の病によってこの世を去った。侍医のキッベイの葬儀にはダグラス公爵が弔辞ちょうじを涙ながらに読み上げていました。その後、驚くべき出来事がありました。何とノエル王太子殿下とジュリア公爵令嬢の婚約が白紙になったのである。理由はノエル王太子殿下が突然、ジュリアと別れたいと言い出したそうで、国王陛下はダグラス公爵に申したところ、ダグラス公爵はあっさりと婚約解消を受け入れたそうです


【セシリア・シークハルト】

「これは先が見えないわね。」


もはや乙女ゲームの振り出しに戻ったのかどうかすら分からないほど迷走しているのである。そんなある日、私宛にまたダグラス公爵邸から招待状が届いた


【シークハルト公爵】

「これで2回目だ、どうするセシリア?」


【セシリア・シークハルト】

「とりあえず行ってみます。」


私はダグラス公爵家の2度目の招待を受け、ダグラス公爵家へと向かった


【セシリア・シークハルト】

「今度は何のようかしら?」


ジュリア・ダグラスはノエル王太子殿下と別れた後に私を呼ぶなんて・・・・


【セシリア・シークハルト】

「とりあえず会ってみるしかないわね。」


そうこうしている内にダグラス公爵家に到着した。そこへダグラス家の執事が出迎えた


【ダグラス家の執事】

「セシリア様、お久しぶりでございます。当家はセシリア様がお越しになられるのをお待ち申しておりました。」


【セシリア・シークハルト】

「歓迎痛み入ります。」


【ダグラス家の執事】

「ありがとうございます。では、こちらへ。」


ダグラス家の執事に案内され、ダグラス邸に入った。再びメイドたちが御辞儀されつつ、執事に着いていき、庭先へと出た。そこにジュリア・ダグラスが待っていた


【ジュリア・ダグラス】

「お久しぶりですわ、セシリア様。」


【セシリア・シークハルト】

「お久しぶりです、ジュリア様。」


【ジュリア・ダグラス】

「さあ、お掛けになって、立っていてはお茶会ができませんでしょ。」


【セシリア・シークハルト】

「そうですね、では失礼いたします。」


私は椅子に座るのと同時にジュリアも椅子に座った。そこへメイドが紅茶の入ったティーポット、ティーカップ、ティーコージー、砂時計、そして生クリームがたっぷり入ったティラミスが運ばれた。前回と同じだ


【ジュリア・ダグラス】

「聞いておりますわよね。私とノエル王太子殿下の婚約の解消を・・・・」


【セシリア・シークハルト】

「お気の毒に。」


【ジュリア・ダグラス】

「慰めの言葉はいりません。むしろ肩の荷が下りたような気分です。」


【セシリア・シークハルト】

「それは、どういうことですか?」


【ジュリア・ダグラス】

「はい、私が父に頼んで殿下との婚約を白紙にしてもらったので・・・・」


【セシリア・シークハルト】

「婚約を白紙?」


【ジュリア・ダグラス】

「ええ、私と殿下との間に愛はありません、おまけに殿下は他の御令嬢ばかり目を向けてばかりで私には一向に振り向きもしませんでした。」


【セシリア・シークハルト】

「そうだったのですか。」


【ジュリア・ダグラス】

「それに王妃教育は過酷そのもので、よく王妃様に叱られました。私も正直、婚約を解消したいと何度も思っておりました!」


【セシリア・シークハルト】

「それはお気の毒に。」


危なかった、もし受けていたら、私が王妃様の嫁いびりに遭うところだった


【ジュリア・ダグラス】

「でも王妃様がお亡くなりになったおかげで、ようやく自由を手にすることができました!」


【セシリア・シークハルト】

「そうなのですか、良かったですね。」


【ジュリア・ダグラス】

「ええ、さて前置きはこの辺にして本題に入りたいと思います。」


【セシリア・シークハルト】

「本題ですか?」


【ジュリア・ダグラス】

「シークハルト公爵家は殿下との婚約を辞退したこと、占い師の件について改めてお尋ねしたくて、招待いたしました。」


【セシリア・シークハルト】

「えっと、前にもお伝えしたのですが。」


【ジュリア・ダグラス】

「嘘の証言ならとうに見抜いております。さあ、お話になって。」


見抜かれていたのか、やはり一筋縄ではいかないな、でも既に婚約が解消になったのなら、話してもいいか


【セシリア・シークハルト】

「分かりました。正直にお話しします。占い師を招いたのはノエル王太子殿下との婚約について占っておりました。」


【ジュリア・ダグラス】

「続けて。」


【セシリア・シークハルト】

「占い師に占ってもらった結果、大凶と出たのです。」


【ジュリア・ダグラス】

「へえ~。」


【セシリア・シークハルト】

「このままではマズイと思い、婚約を辞退したのです。」


【ジュリア・ダグラス】

「そうですか、失敗しましたわ、我が家も占い師に占ってもらえば良かったですわ。」


【セシリア・シークハルト】

「申し訳ありません。偽りを申してしまって。」


【ジュリア・ダグラス】

「いいのですよ、初対面の人間に腹を割って話すなど、ありえませんから。さて、お話は終わりですわ、今日は良い天気日和です。これからは友人としてお付き合いいただけますか?」


【セシリア・シークハルト】

「ええ、いいですよ。」


【ジュリア・ダグラス】

「では私のことをジュリアとお呼びください。」


【セシリア・シークハルト】

「では私のこともセシリアとお呼びください。」


【ジュリア・ダグラス】

「今後とも、よろしくお願いします、セシリア。」


【セシリア・シークハルト】

「こちらこそ、よろしくお願いします、ジュリア。」


前回と違い、和やかな御茶会になりました


【ジュリア・ダグラス】

「そういえば、セシリアの初舞台、とても良かったですわ。」


【セシリア・シークハルト】

「そうですか、もし良かったら、また劇を見に行きませんか?」


【ジュリア・ダグラス】

「ええ、是非とも。」


【セシリア・シークハルト】

「ありがとうございます。」


これを機にセシリアとジュリアは親しい友人の間柄になり、交流を深めていくのである。一方、国王は・・・・


【ミカエル・シュヴァリエ】

「ふふふ、ざまぁみろ。あの女がいなくなってくれて、ようやく私の時代になった。あの親子はまさしく疫病神、消えて当然の存在だったからな。」


王妃と王妃の父である宰相がいなくなってくれたことで、国王はやっと我が世の春が訪れた心地であった。王妃の葬儀の後に側妃たちと祝い酒をあおる行為をし、家臣たちは国王への不満と不信感を募らせていった。一方、ノエル王太子はというと・・・・


【ノエル・シュヴァリエ】

「母上が死んだのは辛いが、煩わしい存在がいなくなって嬉しくもある。」


ノエルは母親が死んだことは悲しみつつも、死んでくれたことを喜んでもいた


【ノエル・シュナイザー】

「これで私の縛るものはなくなった、父上は母上の言いなりだから私の命令を聞いてくれるに違いない。待っていてくれ、愛しの君。」


ノエルはまだ会えぬ愛しの君への想いを膨らませていくのである




















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