第8話妖精フィネス
八、 妖精フィネス
暫くして、ヨハネスが消えた、という報告が、ブルーノの元へもたらされた。
分かっていた事ではあったが、消えた後の事が気になった。ヨハネスの希望する通りになったのだろうか?それとも、希望とはいかなかったのか?いくら考えても答えは出ないが、ヨハネスの嘆き悲しむ顔ではなく、喜びに満ち溢れ、微笑む顔がそこにはあった。
ヴィーの針が0になるまでには、まだ少しの時間が必要らしい。いずれ消えてしまうこの場所を覚えておけるものならばと、寸暇を惜しんで訓練場へと足を向けていた。以前から鬼の教官として評判の高かった者が、いつの間にか仏の教官と呼び方が変わってしまった者がいた。彼にも来たのだろうか、そう思い話し掛けてみようと思った。
以前の険しい顔つきでは無く、慈愛に満ちた、優しい笑顔でブルーノを迎えた。その顔を見た瞬間、この男にも来たのだろうと容易に想像が付いた。
ブルーノとチャーリーは、挨拶を通してお互いにその時期が来たのを確信していた。
「チャーリー訓練官、貴方にもきたのですね?」
「という事はブルーノ様にもですね」
「私はヨハネスに話を聞きましたが、アルトネリコの泉に行き、妖精のフィネスに逢う事で全てが分かると、そこまでしか教えてくれませんでした。他に何かご存じの事があれば、是非とも教えていただきたいのですが」
「私の知っている事も同じような事ではありますが、私の聞いた事をお話しいたしましょう」
「ヴィーの針が0になった後、いつの間にかアルトネリコの泉に来ているという事でした。そして、妖精フィネスから願いがあるかと訊かれるそうです。その願いを伝えると、その道をさししめされ、そこの向かっていくと、その願いが叶うという事だそうです」
「願いが叶う 泉 」
「勿論、私も行った事はありませんから、それが本当の事なのかどうかはわかりませんが、そう聞いております」
「そうですか、良くわかりました。ありがとう、その日まで頑張ってください」
「貴方様も」
アルトネリコの泉、妖精フィネス、そして願いが叶う、まるでおとぎ話の世界だとはと思いながらも、もし本当に願いが叶うとしたら、何を願う?父母、兄弟、そして妻や子供達もとうの昔にいない。何を願えばいいとゆうのか?消えてゆく者全てが喜びに満ちた顔をしていたが、今の自分には他の者のように喜びに満ち溢れるような顔にしてくれる願いがない。
今迄は、ヴィーの針が0になった後の事を待ち遠しく思い、喜びに満ち溢れていたが、今は憂いに全てを覆い隠されていた。
いくら考えても、答えは出て来る事はなかった。今の状態のまま、アルトネリコの泉に行き、妖精フィネスに逢った時、何を願えばいいのか?答えの分からぬまま、その時を待っていた。
そして、チャーリーが消えた事が報告された。
チャーリーの望みが叶ったのならどんなに良い事かと思っていた所に、チャーリーからの手紙がもたらされた。
(私はお先に消える事になりそうです。この頃、貴方が塞ぎこんでいると耳に入りました。以前お会いした時に、願いの話を致しましたが、その時の貴方の顔が何か悲しそうな顔に見えたので、余計な事かとは思いましたが、お手紙をお出し致しました。
私が聞いていた話ですと、妖精フィネスにする願いはどんな事でも必ず叶うと言っていました。ですから、過去のどんな場所でも、どんな時代でも、亡くなられた方がご存命だった時、元に戻って会うことも出来ると言っていました。貴方が無理だろうと思われた願いも必ず叶うと、貴方に申し上げておこうと思いました。私も、妖精フィネスに逢い無理と思われた願いを話してみようと思います。願いが叶わぬならば、もう一度この訓練場に戻ってくるでしょう。もし、私が戻ってこないのであれば、無理と思われた願いが、無理ではなく、叶ったと思ってください。余計な事かとは思いましたが、ペンを執りました)
手紙を読んだ後、チャーリーが戻っていないかと気にはなったが、確認する事はしなかった。そして、憂いに覆われていたブルーノの顔は、光り輝くように変わっていた。
もう考えるのはやめよう、もし、私の願いが叶わぬのなら、本当に消えてしまっても構わないと、そう思っていた。
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